オッス、俺様『黄金旅程』。
見ての通りのライダーのサーヴァントだ、馬だからな。
流石、俺様。英霊になれるほどの『格』があるってことだな、おい!
俺様は此間、大動脈が破裂して死んだけどな!
そんで偉大な親父や親父の恋人の葦毛のいい男がいる天国に行けると思ったら、俺様が(暫定)世界一になった地に来ちまったぜ!
しかも、今の俺様の鞍上は天才でも熊でもなく、目の上のたん瘤であった『大王様』の元ネタ様と来たもんだ!
というわけで、またしばらくの間、駆け抜けるぜ!
◆ ◆ ◆
「『黄金旅程』……?」
「おっと、今『善戦マン』だとか『主な勝ち鞍:阿寒湖特別』だとか
……『シルバーコレクター』だとか『ブロコレ部部長』だとか思ったんじゃねぇよな、おい?」
⇒「阿寒湖ってあの北海道の?」
「色々と異名がありますね」
「それ以外に阿寒湖があってたまるかよ、おい!」
日本の英霊。
いや、日本国籍の英霊と言うのが正しいであろうか?
この『黄金旅程』を名乗るこのライダー、百歩譲ろうが譲らまいが『馬』である。
今人参食ってるし。
「にしても、随分と大層な名前してるけど、有名なの?」
「知らんのか? 俺様は日本最強馬にも世界最強が手綱を握る世界王者にも勝ったことがある!!」
「す、すごいの……それ?」
「は? すげぇに決まってんだろ? なぁ嬢ちゃん?」
「いや、私に振られても正直困る」
この黄金旅程。決して嘘は言っていない。
本人(人? まあ本人と記しておく)がそう言っているのだからそうなのであろう。
立花は普通の未成年である。
なので、こういうことには疎い。
しかし、それでも分かることがあった。
このお馬さん『とにかく「自分が一番エライ」ということを主張している』。
それくらいはよく分かる。
「ふーん、で、そこの自称大王サマは?」
「おっ、オレかい? まあ……ここハワイじゃねぇしな。
大王を名乗るのも何か烏滸がましいか、カメハメハでいい、よろしくな!」
「……暑苦しい!!」
「はは、そうか! わりーな!」
堅苦しさがない。
ないが……ないのだが。
なんだろうか、この滲み出ている『余裕』は。
ルーラーのカメハメハ。
大王の風格というものであろうか?
どこか快男児のようにも思える爽やかさがある。
とにかく底知れぬ何かがある。
「おっと、オレのことを疑ってるな?」
「まあ……というか、どうしてわかったの?」
「そういう面構えしてるからな。
……なんなら試してみるかい? オレは強いから負けねぇけど」
カメハメハはドデカい槍をどっしり構える。
一瞬で雰囲気が一変し、臨戦態勢に入った。
切り替えがとんでもなく早い。
「……アンタのその槍、雷神でも憑いてるの?」
「オレの国の四大神の一柱だからな加護は受けている。
まさかとは思うが、『カネヒキリ様』を知らんのか?」
「知ってるぞ、俺様の親父の息子の一人の富士輝石の息子で大震撼と同期の……」
「いや、多分ソイツじゃねぇわ……」
「え、ちげーのかよ、おい」
「そう……な ん だ か ム カ つ い て き た」
「なんでだよ!」
「アタシの超大嫌いな奴の仲間の親父が雷神だから、それだけよ」
「随分と遠回しな恨みだな、おい!」
何かが燃えあがったようにも見えた。
それは何物ものを焼き尽くす黒炎にも見えた。
「……ムカつく理由として何も間違っちゃねぇな、ま、いいぜ」
(やっぱり緩いなあ、このカメハメハさん……)
「ライダー、お前さんはそっち側についてもいいぞ。
ちょうどいいくらいのハンデ戦程度にはなるだろうよ」
「あっ? 俺様は当然そっちの嬢ちゃんたちの方につくに決まってんだろ、おい!
つーか、戦わんよ、俺様は」
「ひっでぇな」
「んじゃあ、ちょいと失礼するぜ」
そして、藤丸たちに歩み寄る『黄金旅程』。
一瞬、二足歩行したようにも見えたが、多分気のせいであろう。
「作戦タイム!」
「いいぜ! オレは寛大だからな!」
二人と一頭集まる。
「……アンタ、肉でも食いそうね」
「はっ、調教師のおっちゃんにも同じこと言われたぜ」
「で、阿寒湖」
「あ? 誰が阿寒湖だ、噛み殺すぞ、おい」
「あァっ? 馬刺しにしてやろうか?」
「こら、さっちんも煽らない!」
「つか、さっきからさっちんって何よ!?」
「ああ、それ碓井さんがね……」
「あの影薄野郎か……! カルデアに帰ったら蹴り飛ばす……!」
「あ、蹴るだけでいいんだ……」
「だって、ガチでやったらアタシの霊基とカルデアが持たないでしょ……あいつに不意打ちで一発入ればそれで重畳よ」
「確かに」
「で、アンタ戦力になんの?」
「俺様はある程度のカリスマと騎乗スキルがある奴を乗せないと能力が半分以下になるぞ、おい!」
「はぁ~~~? 何それ!?」
「俺様、こうみえても馬だしな、基本走ることしかできねぇな」
「さっきの戦闘は?」
「アイツが乗ってたからな。
それと俺様が『世紀末覇王』に勝った時のことが由来じゃねぇかな?」
(世紀末覇王……なんともまた大層な名前が……)
「まあ、なんだかんだで俺様が戦うには手綱を握る鞍上がいないとな」
「戦えるとしたらどれくらい?」
「聖剣『デュランダル』を持ったあの全裸セイバーとためを張る程度には戦力は上がる」
「ローランいたの!?」
「いたが……少し前にアーチャーだがアサシンだがガンナーだがよくわからん奴との戦いで討たれた。
最後に魅せた大外からの一撃は見事だったが、ほんの紙一重の差だった。
せめて、ゼッケンの一枚でも着ていれば……あの野郎……何も着てなかったから……ヒヒン……」
無茶苦茶なこと言っているが、悲しそうではある。
ちなみに作戦は一切立たなかった。
「そろそろ、始めっか?」
「ええ……つーわけでタイマンよ」
「おい! 俺様を忘れんじゃねぇぞ! おい!!!」
「アンタ戦えないでしょうが! 下がれ馬鹿!」
「馬鹿とはなんだ! 確かに俺様は馬だけどよ!
だが、下がる!」
「下がるんかい! いや、別にいい構わないが」
『黄金旅程』は素直に下がり、立花の近くに移動する。
そして、背中に乗ろうとする立花を振り落とす。
しかし、滝夜叉姫とカメハメハはとっくに臨戦態勢。
滝夜叉姫の黒炎が燃える。
そして、居合抜きのようなフォームで構える。
「いや、あれ紅閻魔の構えじゃん……」
「アタシは盗賊だって言ったでしょ、盗品の刀や他人の技。
別に使っても構いやしないでしょ、マスター?」
「さっちゃんがそれで戦いたいならいいんじゃないの?」
「助かる」
地面を思いっきり蹴り加速。
砂塵と黒煙が混じったようなものが舞い上がる。
「随分と固い剣だな」
「剣じゃなくて刀ね。
……鬼の身体をぶった切るにはこれくらいの強度がないとね」
「なるほどな、いい刀だ」
剣戟を往なす。
超人的な槍裁き。
藤丸はランサーとしてカメハメハは知っている。
とはいえ、あのカメハメハは女の子だ。
こっちは成人男性。というよりもそこそこのおっさんだ。
しかもハワイで有名なあの像のような小太りではない。
そこそこにすっきりしている。
「オラァッ!」
「おっ、いい蹴りだな! 相手の脚をぶっ潰して機動力を奪う」
「その軽口叩ける余裕、気に入らんねぇ……!」
「……アンタ、随分と切羽詰まってんな」
「うっさいわ……ッラァ!!」
怒り。
まるでこの世全てに怒っている。
藤丸にはそう見えた。
その怒りをカメハメハにぶつけているようにも見えた。
そんな時であった。
「へいへい、ちょっくらお邪魔するぜ」
「邪魔すんなら帰りな」
「あいよ…………ってわけにはいかないわな」
「だろうな」
ふらっと二人の戦っている間に割り込んできた。
「あいつはドバイの都市の半分を一人で壊滅させた奴だぞ、おい!」
「な、なんだって!?」
「よ、また会ったな」
「しつこい男は嫌われるぜ?
で、何の用だ、アサシンだがアーチャーだがガンナーだがよく分からん奴……
ああ、お前さん、霊基随分と弄ってやがるな、正直なんのクラスだがもわからんな。
名乗ってくれなきゃ、オレは一生お前さんのことをそう呼ぶ」
「地味に役立たないわね、アンタの真名看破スキル……」
「ま、アイツが召喚した側のサーヴァントだからな、あれ」
「アイツって?」
「……………それは」
「そろそろいいか?」
「ダメに決まってんでしょ」
「そうかい…………………ってなるかよ!」
自分勝手にもほどがある。
双方が双方ともに。
正直、ちっとも話が進まない。
「……アーチャー、ロバート・ロイ・マグレガー……アサシンでもガンナーでもないぜ?」
「自分から名乗ってクラスまで明かすなんて随分と口が軽いのね」
「だな……スキル一個分得したぜ」
「なるほど、アーチャーならセイバーに強い!」
「何、どういうことだ。おい!」
「わたしにもよくわからない!」
「あァッ? 外野共うるさいわ――――少し離れてろ!」
赤い髪に二丁の銃。
ガンマン風の格好のように見える。
「世間一般的に『スコットランドのロビン・フッド』って通り名もある。
まあ、要するにただの賊のロブロイさんだ……つうわけで、さいならさん」
BANG! BANG!
正面からの奇襲。
こちらにお構いなくぶっ放してきた。
「ッラァッ!」
「!? いやいや、この距離で剣で銃弾の斬り払いとかすんのかよ!」
「いきなり銃ぶっぱした輩が何ふざけたことをぬかしやがって、ガキが!」
(またキレてる……さっちゃん、霊基滅茶苦茶不安定じゃん……)
滝夜叉姫はその行動に即座に反応した。
放たれた銃弾を居合抜きの要領で全て切り落とした。
勿論、藤丸たちの方に放たれた銃弾をも。
「……ガキ、ぶっ殺されてぇのか?」
「なんつー女だよ……どっから湧いてきやがった?」
「カルデアだよ……オラァッ! ぶっ飛べや!!」
抜刀。
滝夜叉姫の剣が銃でガードしたロブロイの身体ごと真横に飛ばす。
無茶苦茶な剣裁きで。
その姿はセイバーには見えない。
バーサーカーのようにも見えた。
「……オレを忘れてやがんな」
「なっ、早すぎ―――――」
最短で。
最高速で。
雷のように走った。
そして、飛んでいるロブロイの真横に追いつく。
その勢いのまま、ロブロイの身体を思いっきり蹴り飛ばした。
それは比喩表現抜きで遙か彼方まで。
「豪脚炸裂……! ってな!!」
「……槍持ってるなら使いなさいよ」
「オレはルーラーだからな、知ってるぜ。
ステゴロで戦うルーラーのクラスが多いと風の噂で聞いたんでな」
「風の噂ねぇ……」
「つーか、俺様よりも早く走んな! 俺様のアイデンティティ無くなるだろ、おい!」
「いやいや、瞬発力はあってもスタミナは全然お前さんの方が上だからな」
「それもそうだな!」
「で、あっち側って何よ」
「それは……『これ』をもう一つ持ってる奴側のサーヴァントってことだよ」
カメハメハが懐からそういうと『それ』を
その手には黄金の杯――――聖杯。
「まあ……なんだ、オレらがやってのは所謂【聖杯戦争】って奴だ」
◆ ◆ ◆
「大丈夫そうですネ?」
「……蹴られた腰がちょっと痛い」
「なら、湿布でも貼っとけば治りますネ」
「すまん、腰どころか、実は全身痛い」
「…………はぁ、これだから英雄と呼ばれる奴はネ」
「いや、そんなことよりも、なんかまた別のとこからまたサーヴァントが召喚されてんだ?」
「……『どんなに遠い星を夢見ても可能性を信じる限り、それは手の届く範囲にある』
彼はこんな状況であろうと星に手を伸ばし続けていた、つまり、そういうことだネ」
「出た出たキャスター先生の名言集」
「うむ、私はキャスターだが、出来るのは詩を送ることや思想を語るくらいだからネ。
時にペンは剣よりも強くなるネ。人それぞれの戦いのやり方はちがうしネ、ハッハッハッハ!」
「いや、そんなことよりもアイツに蹴られて霊核の半分がボロボロなんだよ。
もう半分は健在、■■■■■の方は全然平気、流石の猟犬様だ」
「というわけで、アイツらロックオンしたわ―――――――逃げ切れると思うなよ」
最終更新:2019年12月29日 01:03