雨の影
題名:雨の影
原題:Hard Rain (2003)
作者:
バリー・アイスラー Barry Eisler
訳者:池田真紀子
発行:ヴィレッジブックス 2004.01.20 初版
価格:\800
前作『
雨の牙』に続く日米ハーフの
殺し屋ジョン・レインのシリーズ第二作。前作に引き続き東京を舞台にして、CIAや政治の黒幕に追われながら、新たな陰謀の火種に巻き込まれるサバイバル戦を繰り広げる。
大沢在昌あたりが書いてくれると、もっときりっとしてくれると思うのだが、そこがハードボイルド作家とアイスラーの違い。アイスラーの作品は、ハードボイルドは対極にあるほどにウェットで書かれているのだ。叙情に流される一人称文体というのが、どうもナルシスティックで、嵌まり切れない部分である。
根が真面目な作者なのだろう。三年しか日本に駐在していなかった人にしては、あまりにも日本の都市文化にフィットして見える。巻末の謝辞を見ると相当調査をかけて書いているのだということがわかるので、経験を考証で補って、きめの細かい作品が練り上がるのだろう。殺しの技術的考証に加え、日米の地政的要因を把握するための政治分析、経済分析が成されているばかりか、ヤクザの生態、都市のグルメ、バー、ジャズ・スポットなど、今の東京そのものを(一部大阪までも)よく抑えている。浅草を舞台にしたアクションなんてそうあるものではないだろう。
前作は本国より先に日本で発売だったように記憶しているが、このシリーズもう第四作目まで決定しているのだそうで、年間3作も書かれてしまったということになる。第三作では、主人公はブラジルに身を潜め、アジアや北米にまでまたがるよりスケールの大きい物語になってゆくらしい。東京のレギュラーメンバーを本作で整理してしまっているイメージがあるのも、そんな理由なのか。
ストーリーそのものは、まあそこそこ面白いと思う。ベトナム偵察隊員の経験を持つ殺し屋レインは、それだけでも相当年輩のはずなのだが、年齢を感じさせない恋愛好きで、しばしばクールであるべき本職を危うくする。職業に対し、非常に冷たい天性のものを持つと分析されながら、人間愛や友情に餓えており、殺しのターゲットから女子供を外しているという。銃器に頼らぬ接近戦での殺しというあたりは日本を舞台にする場合非常にしっくりした形ではある。相手の殺し屋がプライド出身の格闘家であるという設定には思わず笑える。
とこんな具合に日本人が書いたと言われても違和感のない作品であることは、第一作からのこのシリーズの特徴である。殺し屋の小説でありながら、ハードボイルドの距離感がないのは、背景がよりエスピオナージュやポリティカルな素材を大きく扱っているせいもあるし、それ以上に主人公の内面的な迷い、孤独が多く語られるせいでもあると思う。スパイ小説読者の方がむしろフィットする作品なのかもしれない。
(2004.04.12)
最終更新:2007年07月15日 17:23