一人だけの軍隊
題名:一人だけの軍隊
原題:First Blood (
1972)
作者:David Morrell
訳者:沢川進
発行:ハヤカワ文庫NV 1986.1.15 12刷 1982.11.30 初刷
価格:\440
この代表作を読んでいないだけにマレル・ファンとは豪語できなかったのだけど、この20年以上も前の作品を読まなかったのは、マレルを知るずっと以前にスタローンの映画『ランボー』でメイン・ストーリーを知っていたからだろう。そして主人公ランボーが映画とは違う結末を迎えることも既に有名だったので、知っていた。これだけネタを明かされてみると原作が映画よりずっと良いと薦められていてもなかなか手に取ることができないものだ。
それが今になってこの本を手に取ったのは、最近作『
真紅のレクイエム』でマレルらしさに触れることができた喜びのおかげだったかしれない。マレルの初期のピークと呼ばれるこの『一人だけの軍隊』を、マレルの真のランボーを読むにはちょうど頃合と感じたのが真情である。
そしてやはりあった。今のマレルには見られない荒々しさと無遠慮なまでのバイオレンス。マレルはけっこう主要登場人物を虫けらのように殺してしまう作風であるが、その原形とも言うべき野性のバイオレンスがこの作品には満ちている。
稲見一良が『
ソー・ザップ!』を書いたときに思い浮かべたのは
ギャビン・ライアルの『
もっとも危険なゲーム』であると言うが、これらの作品に共通するのは本能的な男たちの「狩り」である。
この本にはその狩猟民族的な野性が横溢している。つまらぬことから生死をやりとりする闘いになるストーリーと言うのは以外に少ないのではないかと思う。大抵の頃試合には殺し合いには利害関係や復讐といった、殺人につきものの動機が見られる。しかしこのマイノリティたちに共通するのは殺しのゲーム性なのだと思う。そして本能。その愚かさと相反する誇り。
そういうすべてを冷酷に淡々と描いてゆくマレルのディテールがこの作品では凄い。一匹対一匹の構図を軸に多くの世間が、時代が巻き込まれてゆく様子が、皮肉に満ちて冷たい。この小説を読んだ後では映画のランボーはスーパーマンにしか見えない。映画のランボーに較べて肉体も精神性もあらゆる意味で一段も二段も劣る主人公だからこそ、この作品に漂う無情さ、虚しさが鋭利な輝きを放っているのだと思う。
ひさびさにいい読書の時間に浸ることができた。
(1996.07.29)
最終更新:2007年07月15日 21:32