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インドクリスタル





題名:インドクリスタル
作者:篠田節子
発行:角川書店 2014.12.30 初版
価格:\1,900


 デビュー当時は、面白い作家が出てきたと思って出る作品を次々と読んだものけれど、『女たちの聖戦(ジハード)』で直木賞を獲った辺りから、久しくこの作家から足が遠のいていた。

 大体この作家のジャンルが、およそわかって来て、小説自体も新しみが失われてきたばかりか、ストーリーにダイナミックさがなくなって堅実になったというか、もともとこの作家にぼくが求めていた面白さは、むしろ逆方向なわけで、人の向かないところに興味を見出すというところに魅力を感じていたので、それがある程度読めてきてしまうと、自然とこだわるべき理由がまくなったように感じられたというわけだ。

 この作家のジャンルは広く、ホラー、芸術家小説、ホームドラマ、国際冒険小説と、ぼくは無理やり大別してしまうのであるが、本書はこの最後の国際冒険小説の流れの一冊である。『弥勒』『インコは戻ってきたか』『コンタクト・ゾーン』と続く第三世界を舞台にした日本との文明観の隔たりを材に取り、スリリングな非日常を描き出す物語作風となっているものである。

 本書はタイトルの通り、人口でも産業でも最近新たな<大国><脅威>として注目されるようになったインドの物語。しかしインドと言えばカースト、その広さはヒマラヤの麓にまで及び、教育やカーストの埒外に置かれる先住民族的世界をすら抱合する。もちろん篠田節子が描くのはインドの近代的一面の方ではなく、辺境の物語の方だ。

 国際冒険小説の巨匠・船戸与一であれば、辺境を描くときに日本人らしい日本人は描かず、敢えて日本に背を向けたはぐれ日本人を主人公に描くことが多いのだが、篠田節子の場合、あまりにも日本人らしい日本人を辺境に置くことによってその油断を衝いて現出する異質な文明観や価値観の隔たりを特化させた小説となる。日本人が不通だと思っているごく当たり前の価値観が、理解できない価値観で構築された別なる世界との軋轢を経て葛藤するのである。

 本書はクリスタル、つまり水晶の原石を求めて辺境の村に鉱脈を開発する計画を持つ山梨在住の人工水晶開発会社の社長が、インドで経験してゆく商談、開発、欺瞞、暴力、裏切り、革命の物語である。大河ドラマと言っていいスケールであり、中でもこの小説で描かれるヒロイン、少女ロサの人物造形はインドの辺境文化そのものと言ってよく、彼女が西欧近代社会や日本文化と触れ合いつつ成長してゆく様子を物語の縦軸としながら、村そのものの成長と行く末を生きもののように活写してゆくドラマチックで壮大な展開がたまらない。

 篠田節子版『闇の奥』とさえ言いたくなる本書のラストは圧巻。読みにくい展開のなか、最後までミステリアスで魅力的なヒロイン、ロサの存在感が圧倒的に光る一冊であり、篠田節子の最高傑作と言ってよさそうな力感たっぷりの巨編である。

(2015.05.12)
最終更新:2015年05月12日 14:13