ガットショット・ストレート




題名:ガットショット・ストレート
原題:Gutshot Straight (2010)
著者:ルー・バーニー Lou Berney
訳者:細見遙子訳
発行:イースト・プレス 2014.08.30 初版
価格:¥1,900


 『11月に去りし者』で久々に手ごたえのある筆力を持った作家と出会えたことが嬉し過ぎて、たった一冊のルー・バーニーの古い翻訳書を手に入れ、ようやくこの作家の世界と再会することができた。なるほど、前半はほぼロード・ノベル。こういう作風を得意とする作家である。

 しかも善玉悪玉ともに人間味があり、捨て難い印象を残すため、文字通り、善悪入り乱れてのもつれにもつれ合う、ひっきりなしの逆転ストーリーであっても、読者の側に、さほどの混乱は起きない。だからこそ、この作者の筆力に、ぼくはまたも着目してしまう。

 善悪と書いたものの、善なる人(たいていは被害者の側)はあまり登場しない。ほぼ登場人物の大方は、腹に一物抱えた煮ても焼いても食えないような男女ばかりだ。ひっきりなしの対決と駆け引きのシーンにアクションが混じるのだが、思いのほか暴力的な印象は多くない。からっとクールな緊張感と、独特に過ぎるユーモラスな会話がページを快適なステップで躍らせてくれるのだ。

 リズム感と疾走感と、人間のもつ純粋な温かみのようなものが、悪党だらけの世界であるのに溢れ出る。

 主人公であるシェイクが監獄を出所する間際の暴力すれすれシーンに始まり、出所後すぐに手にする一見簡単そうだがその実あまりにもやば過ぎる仕事。そしてこの作者ならではの独特の女性描写の巧みさが活きるアンチ・ヒロイン、ジーナの登場。スムースに終わらない取引と裏切りと化かし合い。組織対個人。独特過ぎる宝物の争奪戦。

 LA、ヴェガス、そして舞台はパナマシティに。運河を介して、太平洋とカリブ海に挟まれた太陽の町を舞台に、ユーモラスでスリリングな世界が広がる。エルモア・レナードを想起させる明るくドライなピカレスク・スリラーは、ページをめくる手を止めることのできない楽しさでいっぱいである。

 もっと沢山この作者の本が読みたい。でも今は読み終わった二作しか日本語作品はない。『11月に去りし者』の人気に押されて次々と作品が日本に紹介されてゆくことが期待される。何度も言うがルー・バーニーは真の実力派作家なのである。

(2020.03.29)
最終更新:2020年03月29日 15:15