ワニの町へ来たスパイ


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題名:ワニの町へ来たスパイ
原題:Louidiana Longshot (2012)
著者:ジャナ・デリオン Jana Deleon
訳者:島村浩子
発行:創元推理文庫 2017.12.15 初版
価格:¥940

 CIAの女スパイの一人称で描かれた少しブラックなユーモアで綴られたミステリー。明るく、タフで、ディープ・サウスのワニの町に展開するテンポの良い冒険譚が何とも味わい深いシリーズ開幕作である。

 ヒロインのフォーチュンは、CIA腕利きスパイとしての職務中、中東の砂漠で、ついある大物を殺してしまったことから、敵組織のボスから手配状を出されてしまう。直ちに帰国を命じられたフォーチュンは上司の計らいでルイジアナの湿地帯にある小さな集落のようなところに身をひそめることになる。

 亡くなった老女の家に、娘として潜伏することになるのだが、家のすぐ裏には、バイユーが流れ、ワニが棲んでいて、着いた途端に老犬が人骨を掘り出してしまう。警察には睨まれ、町の味のある老女たちには突っ込まれ、二転三転の熱い冒険が始まる。

 ドタバタ劇のように次々とフォーチュンの身にふりかかる不幸な出来事から抜け出すための四苦八苦の行動を、彼女自身の皮肉とユーモアたっぷりの一人称が怪しく語り進む。

 ディーリア・オーエンス『ザリガニの鳴くところ』でたっぷりと味わったノースカロライナの湿地の描写も凄かったが、アメリカ南部の自然とそこに住む人間たちのタフネスぶりは半端ではない。ジョー・R・ランズデールのハップとレナード・シリーズの流れを汲む南部ユーモア・ミステリとしてこれは人気が出るだろう。

 亡くなったおばあちゃん含めて、その親友であったガーティやアイダ・ベルなどの老婦人たちが、実はヒロインを凌ぐくらいの存在感と個性を持っていて、この町全体がとても好きになってしまうのだ。

 警察の暴力的な捜査や、押しの強い保安官補の登場回数の多さ、バイユーからにらみをきかせているワニ、等々、このシリーズを取り巻く粘度のどろどろの濃さは半端ではない。

 なるほど本国ではこのシリーズは10冊以上出版されており、邦訳のスタートは遅かったものの既に3作の翻訳を読むことができる。本書を知ったのは翻訳ミステリー札幌読書会での課題書に挙げられたからで、それまではぼくはスルーしていたシリーズ。読み始めたからには、全部読み続けていきたい。

 ちなみに今回の札幌読書会は、コロナ禍を警戒しての6/6 ZOOMでのオンライン・ミーティングで開催され、本レビューは読書会を待って公表としました。

(2020.06.04)
最終更新:2020年06月06日 18:18