素晴らしき世界
題名:素晴らしき世界 上/下
原題:Dark Sacred Night (2018)
著者:マイクル・コナリー Michael Connelly
訳者:古沢嘉通
発行:講談社文庫 2020.11.13 初版
価格:各¥900
『
レイトショー』のレネイ・バラード・シリーズと、『汚名』のハリー・ボッシュ・シリーズが、どちらもそれぞれの前作の続編という形で合流する。これ以上ない読者サービス。しかも素晴らしいリーダビリティをどちらも前作から受け継いだままのリズムで。離れ業。
コナリーは、そもそもシリーズ主人公たちを一つの事件で引き合わせて、話を展開させることが上手い。新主人公をすぐ次のボッシュ・シリーズで合流させ、主流に持ってゆくというサービス精神に富んだ作家なのである。
C・イーストウッド主演監督で映画化された『
わが心臓の痛み』のテリー・マッケイレブも、マシュー・マコノヒーを起用した『
リンカーン弁護士』のミッキー・ハーランも、『
ザ・ポエット』の主人公である新聞記者ジャック・マカボイも、いずれもハリー・ボッシュのシリーズに合流する。初主演作では独立しているものの、作者はより彼らの活かそうと、使い捨てにはせずに、再登場させてシリーズを互いに合流させてきた。
最新デビューを果たした魅力的なナイトシフトの刑事レネイ・バラードは、すぐに直後の作品である本書にてボッシュとのシリーズ合流を果たした。バラードとボッシュが引きずってきた直前のストーリーとシームレスに繋がるいくつもの事件に向かい合う形で。
ボッシュの前作『汚名』では、
リンカーン弁護士が契約する探偵シスコの手を借りている。キャラの強い者はサブであれ流用されるのがコナリーの世界なのだ。そしてそれは見事に活きている。
本作では、ボッシュとバラードの世界が交互に描かれて、複数の事件を互いの協力のもとどれも解決に導いてゆくものなので、見た目にはオムニパス・ミステリーのように見える。一時期、流行った映画『パルプ・フィクション』『バベル』『
クラッシュ』などの形式みたいに。複雑に関係し合う短編作品集みたいに。それでいて大きな激流の中で、互いに岩にしがみつき合う孤独な二つの魂みたいに。
ストーリーテリングの上手さは、相変わらず。最強のページターナーぶりを誇ったまま。時間を前に押しやる推進力と、そこに野太く息づくヒーロー&ヒロインの個性の強さと、信頼すべき彼らの尊厳と力強さと、そして優しさを読者へと確実に受け渡して見せる。これまた、職人技、ここに極まれり、としか言いようのない一作なのである。
(2021.01.03)
最終更新:2021年01月07日 16:26