ラスト・トライアル





題名:ラスト・トライアル
原題:The Last Trial (2018)
著者:ロバート・ベイリー Robert Bailey
訳者:吉野弘人
発行:小学館文庫 2021.1.9 初版
価格:¥1,100


 ヘニング・マンケルのシリーズ主人公バランダーのシリーズは、主人公の心臓が止まるところで終わるという驚愕のエンディングを迎えたが、本書では、トム・マクマートリーが同じようなエンディングを迎えるのか、はたまた事件解決と主人公の寿命とがどのような絡み合いを見せてゆくのか、という事件とは別種のはらはら感に読者は付きまとわれることになる。

 そして本書で初めてわかったのだが、『ザ・プロフェッサー』『黒と白のはざま』は全四部作シリーズの前半部分であったのだ。本書が後半の一作で、全体をなす起承転結で言えば「転」となる作品になるのかと思う。

 つまりこのシリーズは、次作を持って一端終わりを迎えることになるらしい。その「転」独特の緊張感は、本書後半になって加速してゆく。最初はどう見ても逆転しようのない勝機のない裁判に、なぜトムが挑むのか? と疑問符付きのトムの直感任せでストーリーは始まる。どう見ても明らかに見える犯人像、とトムを訪れる14歳の少女の奥に見え隠れする真実らしきものへの主人公の拘りが、本書を引っ張る最初の力として提示される。

 そして相手も味方もまた前二作でトムとスクラムを組んだかつての教え子たち。そう、またしてもスポ根アメフト時代からの師弟しがらみを土台に、濃い目の魅力的なサブキャラクターたちが、それぞれの立場からトムを囲繞し、丁々発止の駆け引きと、二転三転する事件の奥行きに向けて活躍してくれるのである。

 トムの仲間たちが敵味方に分かれることによるトムの心境もさることながら、それぞれが引きずってきた前作までの物語と、さらに覆されトムたちに闘いを挑んでくる巨悪たちの非情さが、よりスリリングな物語を紡いでゆき、物語は底が見えなくなる。

 死と闘うトムの先行き、相対する人間模様と、愛憎の複雑な図式。一作目から順番に読まないと、前作へのネタバラシにもなりかねない内容であることを留意されたい。そして最終作へと続いてゆく、まだまだ目の前に積まれた宿題たち。眼が離せないシリーズの「転」期を、是非味わって頂きたい。

 そして作者のあとがきで、作者の周辺の状況も明らかになるのだが、作品の誕生秘話としても、作風を決定する上での肉付けの意味でも重要な裏話に読者は触れることになります。ますます応援したくなる本シリーズ、最終作がとにもかくにも待ち遠しい限り。

(2021.01.27)
最終更新:2021年01月27日 14:02