狙われた楽園





題名:狙われた楽園
原題:Camino Winds (2020)
著者:ジョン・グリシャム John Grisham
訳者:星野真里
発行:中央公論新社 2021.9.25 初版
価格:¥1,800

 最近は文庫化された邦訳本がほとんどだが、その中身は、相変わらず充実したリーガル・スリラー。一方で時々、毛色の変わった作品を書くこともあるジョン・グリシャムは、らしくない(?)ジャンル外エンターテインメントで楽しませてくれることも多い。本書はその手の最新シリーズの一つ、本好きミステリー『「グレート・ギャッツビー」を追え』の続編である。

 前作と同じキャラクターたちの上に、さらに興味深い登場人物を増強。前作でおなじみの架空の高級リゾート地であるフロリダ州楽園カミーノ・アイランドは、本作では予想を超える規模の巨大ハリケーンの上陸と、全米スケールで展開する大掛かりな陰謀に巻き込まれる。

 そもそもが第一作で、早くも魅力的な主人公、はたまた個性的な脇役の面々たちがストーリーに重要な彩りを与えてくれていた。本作でもオールスターキャストの登場篇からスタートすると思いきや、大型ハリケーン<レオ>の稀有な上陸によって、このユートピアのようなリゾート地は大変な被害を被ることになる。のっけから<レオ>がある意味主人公のようで、人間たちはその小ささや弱さを思い知らされると言わんばかりだ。

 台風一過。島に残された爪痕は尋常ならざるものだが、本シリーズの舞台となるブルース・ケーブル経営の書店ベイ・ブックスは大きな難を免れる。島民や常連作家たちもほとんどが島から事前に避難。しかし残った数人の作家うちのある人物が遺体となって発見される。ブルースと新登場でミステリー好きのアルバイト学生ニック、さらに前科のあるサスペンス作家ボブというトリオが、素人探偵チームを組み、友人作家の殺人疑惑に挑むストーリーがスタートする。

 物語はあらよという間に、疾風怒涛のように展開、さらに大掛かりな陰謀に突入する。島の日常と災害復興のディテールを描きながら、一方で冷酷な殺人鬼や、その雇い主と疑われる巨大介護ビジネスグループの存在が明らかになる。介護ビジネスの世界に斬新な方法を持ち込んで金脈を構築する超悪というアイディアも凄いが、その真相を手繰り寄せるブルースたちのチームワークや情報ネットワークもアマチュアながら凄い。

 役に立たぬ島の警察。信頼しきれないFBI。災害復興でてんやわんやの島環境。様々な妨害要素に囲まれたブルースたちの仕事振り分けと、前作のヒロイン含めてキャラクターたちのほとんどが事件の解決に向けて参加してゆくあたりは、シリーズ第二作として読みごたえがあり、楽しく、かつスリル満点である。殺し屋たちのクールさや、暗闘シーンもスリリングで冷酷で皮肉でたまらない。

 前作以上に娯楽要素抜群でありながら本好きミステリーというツボをよく押さえて、グリシャムのリーガルミステリーならぬ大らかなエンタメ要素をこれでもかとばかりに注ぎ込んだ、ページターナーな娯楽力作である。従来のグリシャム・ファンの他、作家や出版界の舞台裏も楽しめるなど、幅広い読者に読んで頂きたいシリーズである。できれば第一作からどうぞ。

(2022.01.19)
最終更新:2022年01月19日 11:46