嵐の地平





題名:嵐の地平
原題:Endangered (2015)
著者:C・J・ボックス C.J.Box
訳者:野口百合子
発行:創元推理文庫 2022.6.24 初版
価格:¥1,260


 久々に、主人公ジョー・ピケットに直球勝負で攻撃をかけてくる手強い敵手の登場。ここ数年のシリーズ作品中、最もピケット・ファミリーがピンチに襲われる強編に驚かされる一作。

 ロデオスターのダラス・ケイツを追って家出をしてしまっていた娘エイプリルが、意識不明の重症状態で発見され、救急病棟に運び込まれる。静脈麻酔薬プロポフォールで鎮静・昏睡の状態が始まる。

 キジオライチョウの大量殺戮事件に直面していた猟区管理官ジョーは、エイプリルの事件を聴いて、シリーズ中でも最大と言えるべき怒りを爆発させる。キジオライチョウの調査団員の高圧的態度に対しては冷徹な疑念を走らせながらも、エイプリル事件の容疑者に対しては、心が壊され、冷静さを欠いてしまうという一面が多々見られる。感情的なジョーを描写する珍しいシーンが連続する。

 同時期に、読者は拘留中のネイト・ロマノウスキーが仮釈放されると同時に、罠にかけられ重傷を負うというショッキングなシーンに直面させられる。ネイトも意識不明状態となり、エイプリルと同じ病院に運び込まれる。

 いつも事件のど真ん中に置かれるというジョー・ピケット。しかし、これまで以上に家族の危機に直面するジョーの姿は巻を通じて痛ましい。

 そして何よりも本作で登場する悪党どもの傲慢さが、許し難い。<荒野のディック・フランシス>と称される本シリーズだが、本家の作品が毎作、強烈な悪意や殺意と対峙する特徴を持つように、本作はまた一段と悪の側の描写が激烈である。さらにその中心となる人物が誰であるのか? 読み進めるに従い明らかになる悪の側の風景が、いつも以上に凄まじい。

 であればこそ、後段のジョーの側の反撃のパワーも、いつも以上に激しいように思える。極度な怒り。激闘。情念の爆発。鋼鉄の意志。ジョーも彼をとりまく家族も。入院中のネイトがどんな役割を本作で演じるかも、是非本作を貫く緊迫感とともに体感頂きたい。

 シリーズ中でも屈指の力作となる本書。家族の物語としても貫かれているピケット一家のストーリーだが、そこに新たな里程標が加わった感のある本書はシリーズ読者ならずとも、必読の一作である。

(2022.7.29)
最終更新:2022年07月29日 10:21