告発者
題名:判事の殺人リスト 上/下
原題:The Judge's List (2021)
著者:
ジョン・グリシャム John Grisham
訳者:白石朗
発行:新潮文庫 2026.1.1 初版
価格:各¥850
『
告発者』で初お目見えした法審査組織<司法審査会>と、そのエージェントであるレイシー・ストールツの物語。その第二弾とあって、ややエキサイト気味、とても前のめりで読み始めた本作だが、やはり期待通りに当たりであった。グリシャムの新局面としての取り組み方が素晴らしいし、ヒロインの個性も魅力的である。
本書もまた新潮文庫らしく上下二巻に分かれているのだが、上巻がほぼレイシーの視点で描かれるのに比して、下巻は敵方となる悪徳判事ロス・バニックの視点に切り替わる章が激増する。そもそもがサイコな悪役として斜視的に見ざるを得ない今回の悪のヒーローはバニック判事であり、その冷血な人生が次第に明らかになるにつれ、グリシャムが前代未聞のストーリー作りに挑んできたという野望が見えてくる。
まさに前代未聞の悪役として、冷血でサイコな判事をクリエイトできたのがグリシャムの本作における最大の着眼点であり、本作のあまりに特異過ぎる面白さの軸ともなっている。ハンニバル・レクターに肉迫する連続殺人鬼、と帯に書かれている通り、作者にはこの犯罪者を隠す意図は全くなく、読者側は犯人捜しをする必要は端(はな)から無い。
さてヒロインであるレイシーがこのサイコキラーを追跡するきっかけになったのは、ある告発者からの相談だった。告発者は、あるサイコパスが、その人生において多くの人を殺害しているが、すべて巧妙な完全犯罪として罪を逃れているという相談を持ちかけてくる。
レイシーの所属する<司法審査会>に持ち込んできたのはシリルキラーが判事であるということからである。何しろ、タイトルが「判事の殺人リスト」であるから、犯人捜しのストーリーではなく、どのように連続殺人を犯してきたかを明るみに出すのが本書のメインストーリーなのである。
上巻のカバー絵はレイシー、下巻のカバー絵は件の地区裁判所判事ロス・バニックであることから、作者も出版社も殺人者を隠す意図は全くなく、読者はそれらを知った上で世にも不思議な連続殺人を紐解いてゆくことになるわけである。
グリシャムの球種が多いのはよくわかっていたつもりだが、ここまでの変化球を投げてくるとは、、、、まさに魔球としか言いようのないストーリー展開も楽しいが、最後の決着のつけ方もこの奇想の殺人鬼ならではの整然としたものであり、人間の知能と狂気のバランスというところに思いを馳せたくなる一作であった。グリシャムはまだまだ現役であるな、と恐れ入ったシリーズ第二作である。
(2026.05.09)
最終更新:2026年05月09日 11:56