ステイ・クロース
ぼくにとってのハーラン・コーベン翻訳未読作品ラストの一作。直前に読んだ『
イノセント』同様ノンシリーズの単独作品なので、傾向は2作とも似ている。これと言ったシリーズ・キャラクターが出演しない点(実はコーベン作品でお馴染みのあの敏腕女性弁護士ヘクターが最終シーンで一瞬だけ登場するのだけれど)。主人公らしき人物が絞れないこと。視点が目まぐるしく入れ替わること。などなど。
序章は、ほぼメガン・ピアースが単独主人公と思われる形で進行する。メガンは郊外に住み普通の夫や子供を持つ普通の主婦であり母であるが、実は風俗産業下でダンサーをやっていた過去を変名により隠している。
しかし本書の主軸はそこになく、17年前から毎年同じ日に男が消えているという事実が関係者たち、捜査陣たちの間で判明してゆく。その事実に辿り着くまでが前半部で、後半部は一気に長年月に渡る毎年当月同日の行方不明事件という奇妙な事実の真相に迫ってゆく。
コーベンならではの迷宮構造がまたも深まる力作であるが、一見無関係と思われるキャラの多さ、中でも行方不明者の多さが他に類を見ないスケールである。行方不明者が多すぎるのだ。ましてやその時間軸の長さも半端ではない。
このトリッキー極まりない作家の嘲笑が目に見えるような奇術的ストーリーだが、コーベンなのだから仕方ないと読んでゆく自分も混乱した頭を抱えつつ変だと思えてくる。
多くの歳月をかけた犠牲者の多い事件を探るキャラクターたちの間を掻い潜るかのように、若い男女の殺人者たちが跋扈するのだが、この辺りもコーベン特有の変奏曲であり、アクセントであり、サービス精神なのかなと思う。
立て続けにコーベンの迷宮を二つも彷徨って来たので、そろそろまともな小説に戻りたいと思う。でもコーベンを完読してしまった今では、新作の翻訳が待ちきれない思いが胸のなかに疼いている、とそことだけは最後に申し上げておきたい。
(2026.07.11)
最終更新:2026年07月14日 13:38