グデリアの死んだ家
題名:グデリアの死んだ家
原題:Das Haus In Dem Gudelia Stirbt (2024)
著者:トーマス・クヌーヴェア Thomas Knüwer
訳者:安原実津
発行:創元推理文庫 2026.07.17 初版
価格:¥1,200
ドイツ・ミステリーは翻訳が少ないため、読む機会は極めて少ない。今年は
エリーザ・ホーフェンの短編集『
暗黒の瞬間』に継いで2作目であるが、通常年に1作も読むことがないのが通例である。
本作は81歳の老婦人グデリア・クロルによって語られる一人称形式のミステリーだが、彼女の現在と様々な時制での過去が断片的に語られることによって、複数の未解決殺人が次第に関連づけられてゆき、その真実が徐々に明かされてゆくものである。
独白による物語は、いずれも仕掛けの多いものが多いように思うが、本書も例外ではなく、時系列で作品を切り分けてゆくことによって、いくつかの分断されたかに見える未解決事件が、徐々に形を見せてくる、と言うかなりリーダビリティの高いものだ。
独白形式の小説にはよくあることだが、登場人物の数に限りがあり、小さな田舎町の事件を、老いた一人暮らしの女性グデリアの目から振り返る過去と今進行する現在を混交させつつ進行するモノローグゆえのストーリー・テリングが本書の読ませどころとなっている。
住人たちがいずれも知り合いであるという規模の小さな田舎町という、比較的馴染みのないドイツの一地点を舞台としつつ、徐々に明らかになってゆく人間関係や過去の未解決事件を集約するのが、大雨により床上浸水に襲われた田舎町である、というところが本作の最大の個性であるかもしれない。
また、賃貸で貸していた一階が床上浸水に見舞われ、グデリア自身は二階に住むことで被害を免れているこの状況は、最近水害に襲われたばかりの千葉の被災地と重なってしまい、この作品の読書体験に普段以上のインパクトを与えてしまっていて、何とも複雑な印象である。
この作品は本質的に家族ミステリーであり、いくつかの回想シーンに時制を変えて、グデリアの人生に起こった謎めいた出来事を綴ってゆく形式が限りなく成功している一冊となっている。
ドイツという珍しい舞台。回想シーンによって明かされてゆくグデリアの人生の影。妻として母として決断して成してきた過去と罪のモノローグ。水に覆われた彼女の家と、孤立した地点。小説的に特異で印象的な舞台設定の中、過去に向けて明かされてゆく真実とは何か。
長年月を生き81歳を迎え、現在の大洪水に至ったグデリアの孤独な母性とその秘密とが、今明かされる。ドイツ発、濃密で情感の深さを味わうこともできる秀逸なノワールである。
(2026.10.5)
最終更新:2026年10月07日 22:23