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ゼロの兄貴-18 - (2007/08/21 (火) 09:24:45) の1つ前との変更点

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「女神の杵」―ラ・ロシェールにおいて貴族専用ともいえる宿である。 そこに手紙取り戻し隊の一行が宿泊する事になり ワルドとルイズが桟橋へ乗船の交渉を行っていたが困ったような顔をして戻ってきた。 「やれやれ…アルビオンにわたる船は明後日にならないと出ないそうだ」 「急ぎの任務なのに…」 「『兵は神速を尊ぶ』…オレの世界の兵法家の言葉だがどうして船が出ねーんだ?」 その疑問にワルドがプロシュートに向き直り答えた。 「明日の夜は月が重なるだろう?『スヴェル』の月夜だ。その朝アルビオンがラ・ロシェールに最も近付く」 「……アルビオンがラ・ロシェールに最も『近付く』だと?どういうこった?」 「アルビオンを知らないのかい?まぁ見れば一目で分かるさ」 そう言いながらワルドが鍵束を机の上に置く。 「キュルケとタバサが相部屋だ。そして、プロシュートは一人」 「あたしはダーリンと一緒でもいいわよ?」 「床以外で寝るのは久しいから邪魔されたくねぇんでな…」 組織を裏切ってから安眠などとはほとんど無縁だったが、プロシュートもやはり人の子、休息というものを体が欲しがっていた。 「僕とルイズは同室だ。婚約者だからな。当然だろう?」 ルイズがはっとして、ワルドを見る。 「そんな、ダメよ!まだ、わたしたち結婚してるわけじゃない!」 ワルドが苦笑しつつ首を振って、ルイズを見つめた。 「きみが思ってるような事はしないさ。大事な話がある、二人だけで話がしたい」 さすがに貴族を相手にするだけの宿のことはあり各人の部屋は立派なものだ。 グラスにワインを注ぎ二つの月を見ながらそれを飲み干す。 「ペッシ、メローネ、ギアッチョ、リゾット…まだ生きてるんだろうな       オレが戻った時に全滅してやがったらただじゃあおかねーぜ?」 プロシュートがここに召喚されてからかなりの時間が経過している。 ボスの娘を奪おうとしてから僅か2日足らずでホルマジオとイルーゾォが敗北したのだ。 ましてや自分すら召喚されなければ死んでいた。他の仲間の安否が気になるのも無理は無い事だった。 その思いを振り切るようかのようにもう一杯ワインの飲み干しスーツを脱ぎベッドに潜り込むが、しばらくすると 「……くそ…気持ち悪りぃ…」 ボスを裏切ってブチャラティと戦うまでは追っ手を警戒し、ハルケギニアに召喚されてからは床の上 安眠とは程遠い生活を送っていた上に貴族用のベッドの感触に慣れていないためだ。 だが頭が睡眠を求めておりしばらく耐えているとアルコールが廻ってきたせいもあり強烈な睡魔が襲ってきた。 「難儀な生き物だな…暗殺者…っての…は……」 そう呟くと意識を闇に手放した。 別の部屋ではルイズとワルドが話をしている。 そうして一通り思い出話を終えた後ワルドが意外な事を語りだした。 「きみの使い魔の左手のルーン。あれはただのルーンなんかじゃあなく伝説の使い魔の印さ」 「…伝説の使い魔?」 今一理解できないといった具合にルイズが聞き返す。 「『ガンダールヴ』の印。始祖ブリミルが用いたもので    誰もが持てる使い魔じゃあない。つまりきみはそれだけの力を持っているんだ」 プロシュートは確かにメイジ達とは違う何か別の能力を持っている だけど、そうだったとしても信じられなかった。自分は魔法の使えないゼロのルイズ しかもあの使い魔を制御すらできていない。ギーシュを返り討ちにして殺したり姫様の左手を踏みつけたりその度に寿命が縮む思いをしているのだ。 とてもじゃないけど、ワルドが言うような力が自分にあるとは思えない。 「この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」 そう思っていると唐突にワルドにプロポーズをされ思考が乱れうまく返事ができなくなる。 必死になって考えるが心の底に引っかかっていた言葉を思い出す。 『オメー自身の心が『成長』しなけりゃあまた『ゼロ』と言われるだけだッ』 あの時は魔法が失敗した事もあり半ば無視していたが、初めて使い魔…いや人に本気で怒られた。 家族や教師達から怒られた事はいくらでもある。でも、あんな風に怒られた事は一度も無かった。 「…まだ、わたし心が成長できてない」 ルイズが顔をワルドに向け真剣な顔でそう答えた。 フーケの時もそうだ。ゼロのルイズと呼ばれたくないがため無謀にゴーレムに魔法を使い危うく踏み潰されるところを助けられた。 プロシュートがいなければゴーレムを倒すどころか下手すれば全滅していたのだが『その覚悟があればゴーレムを倒せる』と言われた。 それでゴーレムを倒せたのだが一人では何もできないという事を痛感させられたのでもある。 「…分かった、取り消そう。今、返事をくれとは言わないよ。でも、この任務が終わったらきみはこれを受けてくれると思っている」 ベッドに向かい目を閉じたが幼い頃あんなに憧れていたワルドからの求婚に応えれなかったのか自分でも不思議だった。 その理由が分からなくなりその考えを打ち消すが次に浮かんできたのは自分の使い魔の事だった。 自分だけではなく姫様にすら本気で怒りをぶつけたあの使い魔の事を。 ただ叱るだけではなく、自分が成長する事を望んでいるかのように感じたのだ。 「カトレア姉様が健康で男だったらあんな風に叱ってくれたのかな…」 病弱ながら誰であろうと分け隔て無く接する優しい姉と誰であろうと臆す事なく真剣に怒り成長を望むプロシュートが被った気がした。 眠りに身をゆだねるがルイズは知らない。プロシュートが別の世界でも『兄貴』と呼ばれ慕われていた事を。 ―翌朝― ガバァ! 「…………たっく」 ベッドから跳ね起きるようにして目が覚めたプロシュートが辺りを見回すようにしてベッドから降りる。 「……こっちに来て以来だが…しょうこりもねぇ夢だ」 また、初日に見たあの夢を見たのだ。 不安を打ち消すかのように窓を開け、新しい空気を肺に入れると少しだけだが気が楽になった気がした。 着慣れたスーツを着るが昨日の崖滑りで少しだけ汚れが付いている場所を見付けた。 「さすがに一着だけじゃあな…似たようなヤツを作れれば問題ねぇんだが」 汚れは落とせる、だが傷はそうはいかない。ある意味自分の身が傷付くより厄介な問題だった。 実にイタリア人らしい思考を巡らせている時ドアがノックされた。 「…誰だ?」 「相変わらず用心深いね。ワルドだ、少し話があるんだがいいかい?」 「何の話だ?」 ドアを開け向かい合うワルドとプロシュート もし、二人とも貴族と認識されていればこの場を目撃した女性達から黄色い歓声が沸きあがるのはほぼ確実の光景である。 「きみは伝説の使い魔『ガンダールヴ』なんだろう?」 だが、その問いにプロシュートが瞬時に反応するッ 「テメー…その話誰から…いやどうして知った?この事はオスマンのジジイとコルベールとかいう禿しか知らねーはずだぜッ!?」 一瞬で空気が張り詰める。老化能力はともかく印に関しては自分ですら最近知ったのにこの男がそれを知ってるはずはないと思った。 「…フーケを尋問した時に君の印について知った。それで王立図書館で君の事を調べたら『ガンダールヴ』にたどり着いたというわけさ」 「あいつか…まぁ確かに見られてても不思議じゃあないが」 「それにルイズから聞いたが異世界から来たそうじゃあないか。   正直なとこ興味がある。そしてあの土くれを捕まえた腕を知りたいんだ。手合わせ願いたい」 「……いいだろう、互いの戦力を知るいい機会ってもんだからな」 実際、ここに来てメイジとの戦闘経験は乏しいと言ってもいい。 フーケの時はメイジというよりゴーレムを相手にしギーシュでは弱すぎて話にならない。 そういった意味で隊長級のメイジの実力を知っておく丁度いい機会だと思い了承した。 「中庭に練兵場がある。そこでやるとしよう」 練兵場でギャングと貴族が向かい合う。正直言って異質だ。 持ってきたデルフリンガーを抜くとワルドがそれを制止した。 「立ち合いにはそれなりの作法がある。介添え人がいなくてはね。呼んであるからそろそろ来るはずだ」 「来いっていうから来てみれば…一体何を?」 そこにルイズがやってくるがデルフリンガーを抜いたプロシュートを見ると気付いたように顔を硬直させた。 「彼の実力をちょっと試したくなったんだ」 その言葉にこれが決闘だという事を悟り慌ててプロシュートを見る。己の使い魔が決闘であれば容赦しないという事を知っているからだ。 目は鋭くなっていたが殺意は持っていない。だがそれでも止めようとした。 「やめなさい。これは命令よ?」 「手合わせだ、オメーが心配することでもない」 殺意は持っていないが目は本気だ。止められない事を悟り数歩下がった。 「では、介添え人も来た事だし始めるとしようか」 だが、それもまた別方向からの声に止められることになった。 「珍しくルイズが早起きしてるから尾けてきたけど…面白そうな事してるじゃない」 声の主の方向を見る。そこに剣を持ったキュルケと眠そうにして本を開いているタバサが居た。 「…なにしにきたのよ?」 「これを渡しに来たのよ。あの時勝ったのはあたしなんだから文句無いわよねヴァリエール」 そう言ってプロシュートに差し出した剣はデルフリンガーより刀身が二周り程小さいが真新しい剣だった。 その剣をプロシュートが見ているとデルフリンガーが口を開く。 「兄貴ィ…まさか俺の出番これだけ?」 「あっちの方が使い回しが良さそうだからな」 「なんたる差別!ああブルジョワジー!ブルジョワーヌ!!」 わけの分からない事をわめくデルフリンガーを後に改めてワルドに向き直る。 「手加減は無用の隙を生むからな…悪りーが本気で行くぜ」 「構わぬ。全力でこい」 その言葉と同時にプロシュートが飛ぶようにして距離を詰める。 片手で持った剣で切りかかるそれを杖で受け止められた。 だが受けられたと同時に足払いを繰り出す。ワルドがそれを後ろに飛ぶようにしてかわすと構えを整えた。 無論距離を取られる事を黙ってみているプロシュートではない飛ばれると同時にまた距離を詰める。 「遠距離型に距離を取られるのは厄介だからな…」 要は近距離パワー型と遠距離型スタンドとの戦いと思えばいい。 近距離型が攻撃の為に距離を詰めれば遠距離型が間合いを取ろうとする。 だがこの男は近距離戦闘にも精通している。そこが厄介だった。 ワルドが杖を突き出すがそれの手を己の手で弾き軌道を反らし一瞬だが体勢が崩れたところに蹴りをブチ込む。 「っ~~~がッ!…速いな動きも素人のものじゃあないし、今の蹴りにしても剣で斬るよりも短時間で攻撃できるものだ」 だがワルドもただでは済まない、蹴られた反動を利用してかなり距離を開けていた。 「しかし、それだけでは本物のメイジには勝てない」 その言葉を無視し距離を詰める。 ワルドが突きを繰り出す。だがさっきの突きと違い軽いが速度を重視したものだ。 (この突き…ダメージを与えるためのものじゃあねぇな) 常人には見えない程の突きだったが防御に徹すればS・フィンガースのラッシュを捌けるのだ。 まして印の効果で本体の能力が上がっているためこれは致命傷にならないはずだった。 「デル・イル・ソル・・・」 だがそこにワルドの呟きが聞こえこの突きが一定の動きを以って行われている事に気付く。 「魔法かッ!」 聞き慣れない言葉を聞き瞬時にそう判断し今度は逆にプロシュートが距離を取る。 どんな魔法か知れないがあの至近距離で魔法を受けるのはヤバイと感じた。 「ラ・ウインデ…」 距離を取った瞬間空気が爆ぜプロシュートに向かってきた。 『エア・ハンマー』― 殺傷能力は無いが膨大な空気の質量を相手にぶつける強力な魔法だ。 「このまま『エア・ハンマー』に吹き飛ばされる確率90%     残るは右に身をかわす確率5%、左に身をかわす確率5%」 いつの間にか本から目を離したタバサがそう解説していた。 「右か左へかわして直撃は避けても体勢を崩すのは確実。その隙にワルド子爵が追撃を仕掛けるのは当然」 キュルケの目に一瞬タバサがサングラスをかけているような気がしが多分幻覚だ。 しかしプロシュートは…… 地面に向け剣を思いっきりブッ刺したッ!! 「それでいい。それがBEST」 何かもうタバサが今にもコォォォォオオという呼吸を始めそうだが気にしない。 『エア・ハンマー』がプロシュートを襲うが一瞬早く剣を楔のように打ち込み立ち向かうかのように暴風と向き直る。 瞬間、プロシュートの体が暴風に包まれ吹っ飛ばされそうになるが地面に打ち込まれた剣を支えにしているためそれには至らない。 ビキィ ビシ ビシ だがそこにプロシュートの耳にギアッチョが氷をブチ割るかのような音が聞こえ―― バッギィーーz__ン 「何ィ!?」 甲高い金属音が鳴り響く。剣が折れた音だ。 空気の大半は後ろに流れていたため吹き飛ばされはしないが剣が地面に打ち込んだ先を消失させていた。 「……リゾットが作ったナイフの方が丈夫じゃあねーか」 「武器を折ったからには勝負あり…だ」 そう言いながらワルドが杖を向けてくる。 「確かに君は強い。動きも素人のそれじゃあない。    だがそれだけではメイジには勝てない。つまり君ではルイズを守れない」 折れた剣キュルケに返しているプロシュートを尻目にワルドとルイズが問答を繰り返しているがワルドに引っ張られるようにしてそこから去った。 スーツに付いた埃を払っていると今まで黙っていたデルフリンガーが口を開く。 「あっぶねー…俺下手したら折れてたんだよな…    しっかしあいつ強いな。スクゥエアクラスかもしれねぇが…兄貴どうしてあの化物を使わなかったんだ?」 「手合わせで自分の能力をバラしたくねーからな。切り札は本番まで取っておくもんだぜ」 グレイトフル・デッドを使えば勝てただろうがあくまで手合わせだ。 能力を見せる必要も無いと思い本体のみの攻撃でカタを付けるつもりだった。 「それに、向こうも手の内を見せてねー感じがしたからな」 「そういうもんかね。まぁ次は俺を使ってくれよ兄k……」 そう言い終える前に鞘に戻し部屋に戻る。 だがその後ろで折れた剣を持ったキュルケがあの武器屋をどうしてくれようかと心の炎を燃やしていたのは知る由もない。 プロシュート兄貴 ― スーツ手に入れ隊結成(現在隊長のみ) [[←To be continued>ゼロの兄貴-19]] ---- #center(){[[戻る<>ゼロの兄貴-17]]         [[目次>ゼロの兄貴]]         [[>続く>ゼロの兄貴-19]]} //第五部,プロシュート
「女神の杵」―ラ・ロシェールにおいて貴族専用ともいえる宿である。 そこに手紙取り戻し隊の一行が宿泊する事になり ワルドとルイズが桟橋へ乗船の交渉を行っていたが困ったような顔をして戻ってきた。 「やれやれ…アルビオンにわたる船は明後日にならないと出ないそうだ」 「急ぎの任務なのに…」 「『兵は神速を尊ぶ』…オレの世界の兵法家の言葉だがどうして船が出ねーんだ?」 その疑問にワルドがプロシュートに向き直り答えた。 「明日の夜は月が重なるだろう?『スヴェル』の月夜だ。その朝アルビオンがラ・ロシェールに最も近付く」 「……アルビオンがラ・ロシェールに最も『近付く』だと?どういうこった?」 「アルビオンを知らないのかい?まぁ見れば一目で分かるさ」 そう言いながらワルドが鍵束を机の上に置く。 「キュルケとタバサが相部屋だ。そして、プロシュートは一人」 「あたしはダーリンと一緒でもいいわよ?」 「床以外で寝るのは久しいから邪魔されたくねぇんでな…」 組織を裏切ってから安眠などとはほとんど無縁だったが、プロシュートもやはり人の子、休息というものを体が欲しがっていた。 「僕とルイズは同室だ。婚約者だからな。当然だろう?」 ルイズがはっとして、ワルドを見る。 「そんな、ダメよ!まだ、わたしたち結婚してるわけじゃない!」 ワルドが苦笑しつつ首を振って、ルイズを見つめた。 「きみが思ってるような事はしないさ。大事な話がある、二人だけで話がしたい」 さすがに貴族を相手にするだけの宿のことはあり各人の部屋は立派なものだ。 グラスにワインを注ぎ二つの月を見ながらそれを飲み干す。 「[[ペッシ]]、メローネ、ギアッチョ、リゾット…まだ生きてるんだろうな       オレが戻った時に全滅してやがったらただじゃあおかねーぜ?」 プロシュートがここに召喚されてからかなりの時間が経過している。 ボスの娘を奪おうとしてから僅か2日足らずでホルマジオとイルーゾォが敗北したのだ。 ましてや自分すら召喚されなければ死んでいた。他の仲間の安否が気になるのも無理は無い事だった。 その思いを振り切るようかのようにもう一杯ワインの飲み干しスーツを脱ぎベッドに潜り込むが、しばらくすると 「……くそ…気持ち悪りぃ…」 ボスを裏切ってブチャラティと戦うまでは追っ手を警戒し、ハルケギニアに召喚されてからは床の上 安眠とは程遠い生活を送っていた上に貴族用のベッドの感触に慣れていないためだ。 だが頭が睡眠を求めておりしばらく耐えているとアルコールが廻ってきたせいもあり強烈な睡魔が襲ってきた。 「難儀な生き物だな…暗殺者…っての…は……」 そう呟くと意識を闇に手放した。 別の部屋ではルイズとワルドが話をしている。 そうして一通り思い出話を終えた後ワルドが意外な事を語りだした。 「きみの使い魔の左手のルーン。あれはただのルーンなんかじゃあなく伝説の使い魔の印さ」 「…伝説の使い魔?」 今一理解できないといった具合にルイズが聞き返す。 「『ガンダールヴ』の印。始祖ブリミルが用いたもので    誰もが持てる使い魔じゃあない。つまりきみはそれだけの力を持っているんだ」 プロシュートは確かにメイジ達とは違う何か別の能力を持っている だけど、そうだったとしても信じられなかった。自分は魔法の使えないゼロのルイズ しかもあの使い魔を制御すらできていない。ギーシュを返り討ちにして殺したり姫様の左手を踏みつけたりその度に寿命が縮む思いをしているのだ。 とてもじゃないけど、ワルドが言うような力が自分にあるとは思えない。 「この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」 そう思っていると唐突にワルドにプロポーズをされ思考が乱れうまく返事ができなくなる。 必死になって考えるが心の底に引っかかっていた言葉を思い出す。 『オメー自身の心が『成長』しなけりゃあまた『ゼロ』と言われるだけだッ』 あの時は魔法が失敗した事もあり半ば無視していたが、初めて使い魔…いや人に本気で怒られた。 家族や教師達から怒られた事はいくらでもある。でも、あんな風に怒られた事は一度も無かった。 「…まだ、わたし心が成長できてない」 ルイズが顔をワルドに向け真剣な顔でそう答えた。 フーケの時もそうだ。ゼロのルイズと呼ばれたくないがため無謀にゴーレムに魔法を使い危うく踏み潰されるところを助けられた。 プロシュートがいなければゴーレムを倒すどころか下手すれば全滅していたのだが『その覚悟があればゴーレムを倒せる』と言われた。 それでゴーレムを倒せたのだが一人では何もできないという事を痛感させられたのでもある。 「…分かった、取り消そう。今、返事をくれとは言わないよ。でも、この任務が終わったらきみはこれを受けてくれると思っている」 ベッドに向かい目を閉じたが幼い頃あんなに憧れていたワルドからの求婚に応えれなかったのか自分でも不思議だった。 その理由が分からなくなりその考えを打ち消すが次に浮かんできたのは自分の使い魔の事だった。 自分だけではなく姫様にすら本気で怒りをぶつけたあの使い魔の事を。 ただ叱るだけではなく、自分が成長する事を望んでいるかのように感じたのだ。 「カトレア姉様が健康で男だったらあんな風に叱ってくれたのかな…」 病弱ながら誰であろうと分け隔て無く接する優しい姉と誰であろうと臆す事なく真剣に怒り成長を望むプロシュートが被った気がした。 眠りに身をゆだねるがルイズは知らない。プロシュートが別の世界でも『兄貴』と呼ばれ慕われていた事を。 ―翌朝― ガバァ! 「…………たっく」 ベッドから跳ね起きるようにして目が覚めたプロシュートが辺りを見回すようにしてベッドから降りる。 「……こっちに来て以来だが…しょうこりもねぇ夢だ」 また、初日に見たあの夢を見たのだ。 不安を打ち消すかのように窓を開け、新しい空気を肺に入れると少しだけだが気が楽になった気がした。 着慣れたスーツを着るが昨日の崖滑りで少しだけ汚れが付いている場所を見付けた。 「さすがに一着だけじゃあな…似たようなヤツを作れれば問題ねぇんだが」 汚れは落とせる、だが傷はそうはいかない。ある意味自分の身が傷付くより厄介な問題だった。 実にイタリア人らしい思考を巡らせている時ドアがノックされた。 「…誰だ?」 「相変わらず用心深いね。ワルドだ、少し話があるんだがいいかい?」 「何の話だ?」 ドアを開け向かい合うワルドとプロシュート もし、二人とも貴族と認識されていればこの場を目撃した女性達から黄色い歓声が沸きあがるのはほぼ確実の光景である。 「きみは伝説の使い魔『ガンダールヴ』なんだろう?」 だが、その問いにプロシュートが瞬時に反応するッ 「テメー…その話誰から…いやどうして知った?この事はオスマンのジジイとコルベールとかいう禿しか知らねーはずだぜッ!?」 一瞬で空気が張り詰める。老化能力はともかく印に関しては自分ですら最近知ったのにこの男がそれを知ってるはずはないと思った。 「…フーケを尋問した時に君の印について知った。それで王立図書館で君の事を調べたら『ガンダールヴ』にたどり着いたというわけさ」 「あいつか…まぁ確かに見られてても不思議じゃあないが」 「それにルイズから聞いたが異世界から来たそうじゃあないか。   正直なとこ興味がある。そしてあの土くれを捕まえた腕を知りたいんだ。手合わせ願いたい」 「……いいだろう、互いの戦力を知るいい機会ってもんだからな」 実際、ここに来てメイジとの戦闘経験は乏しいと言ってもいい。 フーケの時はメイジというよりゴーレムを相手にしギーシュでは弱すぎて話にならない。 そういった意味で隊長級のメイジの実力を知っておく丁度いい機会だと思い了承した。 「中庭に練兵場がある。そこでやるとしよう」 練兵場でギャングと貴族が向かい合う。正直言って異質だ。 持ってきたデルフリンガーを抜くとワルドがそれを制止した。 「立ち合いにはそれなりの作法がある。介添え人がいなくてはね。呼んであるからそろそろ来るはずだ」 「来いっていうから来てみれば…一体何を?」 そこにルイズがやってくるがデルフリンガーを抜いたプロシュートを見ると気付いたように顔を硬直させた。 「彼の実力をちょっと試したくなったんだ」 その言葉にこれが決闘だという事を悟り慌ててプロシュートを見る。己の使い魔が決闘であれば容赦しないという事を知っているからだ。 目は鋭くなっていたが殺意は持っていない。だがそれでも止めようとした。 「やめなさい。これは命令よ?」 「手合わせだ、オメーが心配することでもない」 殺意は持っていないが目は本気だ。止められない事を悟り数歩下がった。 「では、介添え人も来た事だし始めるとしようか」 だが、それもまた別方向からの声に止められることになった。 「珍しくルイズが早起きしてるから尾けてきたけど…面白そうな事してるじゃない」 声の主の方向を見る。そこに剣を持ったキュルケと眠そうにして本を開いているタバサが居た。 「…なにしにきたのよ?」 「これを渡しに来たのよ。あの時勝ったのはあたしなんだから文句無いわよねヴァリエール」 そう言ってプロシュートに差し出した剣はデルフリンガーより刀身が二周り程小さいが真新しい剣だった。 その剣をプロシュートが見ているとデルフリンガーが口を開く。 「兄貴ィ…まさか俺の出番これだけ?」 「あっちの方が使い回しが良さそうだからな」 「なんたる差別!ああブルジョワジー!ブルジョワーヌ!!」 わけの分からない事をわめくデルフリンガーを後に改めてワルドに向き直る。 「手加減は無用の隙を生むからな…悪りーが本気で行くぜ」 「構わぬ。全力でこい」 その言葉と同時にプロシュートが飛ぶようにして距離を詰める。 片手で持った剣で切りかかるそれを杖で受け止められた。 だが受けられたと同時に足払いを繰り出す。ワルドがそれを後ろに飛ぶようにしてかわすと構えを整えた。 無論距離を取られる事を黙ってみているプロシュートではない飛ばれると同時にまた距離を詰める。 「遠距離型に距離を取られるのは厄介だからな…」 要は近距離パワー型と遠距離型スタンドとの戦いと思えばいい。 近距離型が攻撃の為に距離を詰めれば遠距離型が間合いを取ろうとする。 だがこの男は近距離戦闘にも精通している。そこが厄介だった。 ワルドが杖を突き出すがそれの手を己の手で弾き軌道を反らし一瞬だが体勢が崩れたところに蹴りをブチ込む。 「っ~~~がッ!…速いな動きも素人のものじゃあないし、今の蹴りにしても剣で斬るよりも短時間で攻撃できるものだ」 だがワルドもただでは済まない、蹴られた反動を利用してかなり距離を開けていた。 「しかし、それだけでは本物のメイジには勝てない」 その言葉を無視し距離を詰める。 ワルドが突きを繰り出す。だがさっきの突きと違い軽いが速度を重視したものだ。 (この突き…ダメージを与えるためのものじゃあねぇな) 常人には見えない程の突きだったが防御に徹すればS・フィンガースのラッシュを捌けるのだ。 まして印の効果で本体の能力が上がっているためこれは致命傷にならないはずだった。 「デル・イル・ソル・・・」 だがそこにワルドの呟きが聞こえこの突きが一定の動きを以って行われている事に気付く。 「魔法かッ!」 聞き慣れない言葉を聞き瞬時にそう判断し今度は逆にプロシュートが距離を取る。 どんな魔法か知れないがあの至近距離で魔法を受けるのはヤバイと感じた。 「ラ・ウインデ…」 距離を取った瞬間空気が爆ぜプロシュートに向かってきた。 『エア・ハンマー』― 殺傷能力は無いが膨大な空気の質量を相手にぶつける強力な魔法だ。 「このまま『エア・ハンマー』に吹き飛ばされる確率90%     残るは右に身をかわす確率5%、左に身をかわす確率5%」 いつの間にか本から目を離したタバサがそう解説していた。 「右か左へかわして直撃は避けても体勢を崩すのは確実。その隙にワルド子爵が追撃を仕掛けるのは当然」 キュルケの目に一瞬タバサがサングラスをかけているような気がしが多分幻覚だ。 しかしプロシュートは…… 地面に向け剣を思いっきりブッ刺したッ!! 「それでいい。それがBEST」 何かもうタバサが今にもコォォォォオオという呼吸を始めそうだが気にしない。 『エア・ハンマー』がプロシュートを襲うが一瞬早く剣を楔のように打ち込み立ち向かうかのように暴風と向き直る。 瞬間、プロシュートの体が暴風に包まれ吹っ飛ばされそうになるが地面に打ち込まれた剣を支えにしているためそれには至らない。 ビキィ ビシ ビシ だがそこにプロシュートの耳にギアッチョが氷をブチ割るかのような音が聞こえ―― バッギィーーz__ン 「何ィ!?」 甲高い金属音が鳴り響く。剣が折れた音だ。 空気の大半は後ろに流れていたため吹き飛ばされはしないが剣が地面に打ち込んだ先を消失させていた。 「……リゾットが作ったナイフの方が丈夫じゃあねーか」 「武器を折ったからには勝負あり…だ」 そう言いながらワルドが杖を向けてくる。 「確かに君は強い。動きも素人のそれじゃあない。    だがそれだけではメイジには勝てない。つまり君ではルイズを守れない」 折れた剣キュルケに返しているプロシュートを尻目にワルドとルイズが問答を繰り返しているがワルドに引っ張られるようにしてそこから去った。 スーツに付いた埃を払っていると今まで黙っていたデルフリンガーが口を開く。 「あっぶねー…俺下手したら折れてたんだよな…    しっかしあいつ強いな。スクゥエアクラスかもしれねぇが…兄貴どうしてあの化物を使わなかったんだ?」 「手合わせで自分の能力をバラしたくねーからな。切り札は本番まで取っておくもんだぜ」 グレイトフル・デッドを使えば勝てただろうがあくまで手合わせだ。 能力を見せる必要も無いと思い本体のみの攻撃でカタを付けるつもりだった。 「それに、向こうも手の内を見せてねー感じがしたからな」 「そういうもんかね。まぁ次は俺を使ってくれよ兄k……」 そう言い終える前に鞘に戻し部屋に戻る。 だがその後ろで折れた剣を持ったキュルケがあの武器屋をどうしてくれようかと心の炎を燃やしていたのは知る由もない。 プロシュート兄貴 ― スーツ手に入れ隊結成(現在隊長のみ) [[←To be continued>ゼロの兄貴-19]] ---- #center(){[[戻る<>ゼロの兄貴-17]]         [[目次>ゼロの兄貴]]         [[>続く>ゼロの兄貴-19]]} //第五部,プロシュート

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