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仮面のルイズ-2 - (2007/08/21 (火) 11:10:36) のソース

朝食の時、ルイズの姿が見えなかった。 
いつものならルイズのことなど気にもとめないが、昨晩のルイズはどこか奇妙だった。 
もしかしたら風邪でも引いていたのか?ならば、あの奇行もうなずける。 
キュルケは授業の前にルイズの様子を見に行こうと、心に決めた。 

「ヴァリエール、遅刻するわよー」 
そう言って何度か扉を叩く。 
すると、ギィー…と、音を立てて扉が倒れた。 
「きゃっ」 
真っ暗な部屋の中でローブを被ったルイズが、小さく悲鳴を上げた。 
「ちょ、あ、この扉壊れてるんじゃない?」 
などと言いながらも、何となく気まずいと思ったのか、キュルケはルイズから目をそらした。 
しかし、キュルケはルイズの異様な姿に気づき、ルイズをまじまじと見た。 
ルイズは全身を覆う大きさのローブに身を包んでいた、まるでおとぎ話の悪い魔女のようだ。 
その上部屋も真っ暗、窓があった場所にはベッドが立てかけられている。 
「あんた何やってるのよ」 
ルイズはキュルケの言葉には反応せず、自分の顔を撫でたり、部屋の入り口から入る陽光に手をかざしたりと、奇妙な動きをしている。 
「…ちょっと、ヴァリエール?」 
いくら何でも変だと気づいたキュルケが、ルイズの部屋に足を踏み入れようとした。 
「あ、ごめん、何でもない…ちょっと変な夢を見ただけよ、遅れて出席するから先に行ってて」 
そう言ってルイズはローブと寝間着を脱ぎ始めた。 
「呆れた、扉開けっ放しで着替えるなんて大胆ねえ」 
そう言ってキュルケは扉を持ち上げる、蝶番(ちょうつがい)は壊れたままだが仕方がない。 
扉を立てかけると、キュルケは教室へと急いだ。 


キュルケが教室に入ると、タッチの差で教師が教室に入ってきた。 
教師のミセス・シュヴルーズは土の系統を得意とするメイジで、実力はトライアングルだそうだ。 
どこからともなく机の上に石ころを生み出したり、その石ころを真鍮に変えたりして授業を進めている。 
キュルケが真鍮を見てゴールドと勘違いしたが、それはご愛敬というものだ。 
授業が中盤にさしかかったところで、突然教室の扉が開きルイズが入ってきた、今朝のような妖しい格好はしていない、いつも通りの服装だった。 
ルイズはミセス・シュヴルーズに寝坊して遅れたと説明し、空いている席に着いた。

「…使い魔もいないんだぜ…」 
「…誰でも成功するような召喚に失敗…」 
「…寝坊なんて、頭の中もゼロ…」 
と、後ろから小声で聞こえてくる、ルイズのことだろう。 
ゼロのルイズ、魔法成功率ゼロのルイズは、召喚魔法をも失敗して使い魔がいない。 
それを笑っているのだろう。 

キュルケにはそれが無粋なものに聞こえた。 
言いたいことがあるなら面と向かって言うのがキュルケの信条であり、キュルケの人気の秘密でもあった。 
彼女は陰口を言わないし嘘も嫌いだった、その代わり人前で堂々と他人を批判するので恐れられてもいる。 

そして授業は進められ、ルイズが遅れてきた罰として『練金』の実践を指名された。 
「危険です!ゼロのルイズにやらせちゃいけません!」 
「自殺行為です!」 
「いや他殺行為です!」 
「だ、誰かひらりマントを貸してくれ!」 
途端に教室がうるさくなる。 
ここにいる生徒達は皆、ルイズが魔法をやれば必ず失敗すると知っている、ミセス・シュヴルーズはまだそれを目の当たりにしたことがないのだろうと想像して、キュルケは早々に机の下へと潜った。 

数秒の後に聞こえてきたのは、いつもの爆発音と…ミセス・シュヴルーズの悲鳴だった。今日の授業で、ミセス・シュヴルーズは何のミスもしていない。 
小石を別の物に練金するようルイズに指導しただけで、手順にも何にもミスはない。 
教科書通りの教え方と言えるだろう。 
彼女は『ゼロのルイズ』と呼ばれている生徒がいるのは知っていた、その由来が『魔法成功率ゼロ』なのも知らされていたが、失敗に爆発が伴うとまでは知らなかった。 
ましてや、その爆発がルイズ自身にまで酷いダメージを負わせるなどとは、まったく予想していなかったのだ。 
ミセス・シュヴルーズは悲鳴を上げた後気絶した。 



その日の晩、キュルケは男と遊ぶ約束をすべてキャンセルし、ルイズの部屋に見舞いに行った。 
ベッドの上には、顔と手の肌がが見えないほど、包帯でぐるぐる巻きにされたルイズが眠っている。 
ひどい火傷を負ったというのに、スピー…スピー…と、のんきな寝息を立てている。 
時々鼻提灯まで浮かせて寝返りを打つその姿を見て、キュルケは安堵のため息をついた。

ルイズとキュルケ、二人だけの空間に、ノックの音が響いた。 
返事を聞かずに扉が開かれ、キュルケの親友タバサが部屋に入ってきた。 
ちなみに、土系統のメイジにより扉は修理されている。 
「秘薬」 
そう言ってタバサが袋を差し出す。 
「ありがと」 
キュルケは身近く礼を言うと、袋の中身を取り出した。 
タバサが持ってきたものは水の秘薬、水の魔法だけでは、重い怪我を治療することはできない。 
しかし秘薬を用いることで、治癒の効果を劇的に引き上げることが出来る。 
その代わり非常に高価な物だが、上手く使えば切断された腕や足でも元通りに治るという代物だ。 
「あたし、『水』は苦手だから」 
キュルケはそう言って秘薬をタバサに渡す、タバサはそれを受け取ると、秘薬をルイズの身体に振り掛けつつ水の魔法を唱えた。 
一通り魔法を唱え終わると、二人はルイズの部屋から静かに出て行った。 
「ねえ、顔だけでも治せる?」 
「秘薬をあと二回使えば大丈夫」 
「じゃあどうにかして手に入れないとね」 
「でも、高額」 
「いーのよ、後でヴァリエールに請求すれば良いんだから」 
「……優しい」 
「ち、違うわよ、ほら……敵に塩を送るって言うじゃない」 
「そういう事にしておく」 
「ちょっとタバサ、あんた意外と意地が悪いわねえ」 



仲の良い友達同士の会話、それが遠くなっていくのを確認してから、ルイズはベッドから起きあがった。 
顔に巻かれた包帯を引きちぎり、ルイズは鏡の前に立つ。 
そこに映っていたのは、傷一つ無いルイズの姿。 
「秘薬……無駄に使わせちゃったかな」 

そう言いながら舌なめずりをすると、唾液が唇を彩り、妖しげで艶やかな色を放った。

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