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ゼロの兄貴-38 - (2008/10/22 (水) 04:55:01) のソース

実家で過ごすこと数日。 
ファンシーな雰囲気に慣れつつある自分に少しばかり辟易していたが、なんとかやっていた。 
だが、スタンド使いとスタンド使いが惹かれあうように、同じ法則が発動した…! 
遂にこの二人が接触…ッ!ドSとドSッ!兄貴と姉貴!性別が同じなら間違いなく同じタイプッ! 
プロシュート兄貴とエレノオール姉様の邂逅だァーーーーーッ!! 

とまぁスタンド使いと遭遇したような感じだったが、別に何も起こっちゃいない。 
エレノオールはプロシュートを新しく増えた使用人という認識だったし 
プロシュートも、『ああ、こいつなら確実にルイズの姉だ』としか思っていないわけで。 
もっとも、ますますカトレアの事を異常だと思うようになっていたが。 
現在のヴァリエール家においてただ一人、明らかにカトレアだけ性格が違う。 
突然変異、隔世遺伝、親が違うなど考えが浮かび、この時ばかりはマジにベイビィ・フェイスが欲しいと思っていた。 

ちなみに、ルイズママンことラ・ヴァリエール公爵夫人と遭遇した時は 
抜けきっていない暗殺者オーラと夫人が発する迫力がカチ合ってもんの凄い事になりかけた。 
「新しい使用人ね。平民がヴァリエール公爵家で働ける事を光栄に思いなさい」 
ママンがこう言った瞬間、ほんの一瞬だが元暗殺者と元衛士隊隊長のガンの付け合いが発生した。 
ハッキリ言えば非常に気に入らない。人を傅かせて当然という雰囲気は、この元暗殺者にとって当然反発材料に成り得る。 
今にもグレイトフル・デッドを叩き込むのが早いか杖を抜くのが早いかという感じだったが、片方は情報収集が目的のためすぐに収まった。 
「光栄に存じます」 
ほとんど何の感情も篭っていない返事だったが、その場はそれでどうにかなったのだが、それをカトレアに見られていたようだ。

机を挟んで対面に向かい合い、脚の上に小動物を乗せている状態で、その事を聞かれた。 
「母様と真正面から向き合って威圧されない人なんて初めて見たわ。なんだか根っこの部分がハルケギニアの人間とは違うような気がするの。どうかしら?」 
この天然っぽいカトレアにそれを見抜かれた事に驚いた。 
確かに、大貴族と暗殺者と言えばそりゃもう別の種族みたいなもんだが、それはあの一瞬しか見せていないはずである。 
その一瞬を見破った眼力の鋭さはリゾット並みとも言ってもいい。 
別世界の人間かどうかは知っているのかどうか分からないが、もうどうでもいい事だ。 
今のところ戻ろうと思っても居ないし、戻る必要も無いからだ。 
仲間は全て死に、報復すべき相手のディアボロも既に死んでパッショーネはジョルノが乗っ取っている。 
仲間を斃したのはブチャラティを初めとしたヤツらだが、それはこちらから仕掛けたからであって、それを逆恨みにする程腐ってはいない。 
家族も居ると言えば居るが、そんなものギャングになった時に捨てたようなものだ。 

そう思っているとペコリと頭を下げられた。 
「でも、そんな事はどうでもいいの。あのわがままなルイズを助けてくださってありがとうございます」 
「…あいつには先にオレが命を助けられたからな」 
『恩には恩を、仇には仇を』に従っただけなので、特に助けたと思っているわけではないのだが。 
それでもカトレアからしたら、妹を助けてくれた事は感謝してもしきれないという事だろう。 

普通なら、疑ってもよさそうなもんだが、アルビオンで戦死したウェールズが持っているはずの風のルビーと本人の性格で疑っていないようだ。 
好感は持てるタイプだが、少々人に利用されやすいタイプかもしれない。 
そんなタイプだからこそ、もう少し掘り下げて話す事にした。 
「あいつは、他のヤツらが思ってる程、柔でもねぇし、無能ってわけでもない」 
実際、猿のスタンド使いとやりあった時、ルイズが居なければ確実に詰んでいたはずだ。 
ただ、性格的に難があるため、苦笑しながら次の言葉を吐いた。 
「ま…オレらに言わせりゃ、まだまだなんだがな」

そして翌日。 
トリステイン首都トリスタニアにプロシュートが居た。 
カトレアが飼う動物用の品を買いに着ているのだが、まぁそっちはついでで、本当の目的は情報収集だ。 
噂話といっても結構馬鹿にできないものがある。金剛玉石だが、本来そういった情報を選別するというのも組織で生き残るためには必要な事だ。 
もっとも、大抵メローネに押し付けていたが。 

「暑ぃな…」 
夏も近いという事で、それなりの気温だ。ここで広域老化を発動させれば半径200メートルの人間は全滅とまではいかないだろうが、かなり効果が出るはずだ。 
当人は、念のために髪を下ろし自身を老化させ品目を集めながら、情報を集めている。 
さすがにスーツは着ていない。元ギャングといえど人間である。常時スーツというわけではないのだ。暑いものは暑い。 
湿度はそう高くないので、不快指数は高くなく、むしろ爽やかさすら感じるのが幸いか。 
「やっぱ使えそうな情報ってのは中々手に入らねぇな…」 
手に入った情報は、『タルブで敵艦隊を打ち破ったのは伝説の不死鳥フェニックス』というのが殆どだ。 
それでアンリエッタが『聖女』と呼ばれている事も知ったのだが、そのフェニックスを操っていた当人は苦笑いするしか無い。 
「フェニックスな…確かに、スタンドでも出せないような威力だったが…そうなると、侵攻があるとなるとやはりルイズが巻き込まれる公算が高いな」 
スタンド故にストレングスの撃破には至らなかったが、十二分に驚異的な威力である。 
アンリエッタはどう思っているか知らないが、少なくとも協力は要請されるだろう。そして何の疑いも無くそれに応じるのがルイズだという事をよく知っている。 
「言えた立場じゃあねーが、損な性格してやがんな。あいつも」 
そうなった場合、どうすべきかという事も考えねばならない。放っておくというのは後味が悪い。世話になった相手だし、それなりに信用もしている。 
だからと言って、馬鹿正直に名乗り出て、使い潰される気は無い。ルイズにその気が無くてもだ。 
「…あるか無いかって事を考えても仕方ねぇな」 
とりあえず、今すぐにどうこうというわけではないのだ。そう思いそれに関しての思考を打ち切る。

日が沈んだ頃までに集まった情報は他にも2~3あったのだが、どれも使えそうに無い。 
『ウェールズが生きていて、アルビオンを取り戻すため地下に潜伏している』という噂まであった。 
プロシュート自身はその噂話は、即使えないと判断し切り捨てていた。何せ本人が倒れているのを確認した上で、老化しなかったのを知っているからだ。 
「仕方ねぇ…もう少ししたら戻るか」 
そう判断し、通りを歩くが、店先に飾られているある物に気付いた。 
「…用途が同じなら似るもんだな」 
海兵御用達の水兵服である。映画などで見た物と殆ど変わり無い。 
「御目が高い。こいつはかなり丈夫ですぜ」 
戦闘職用に作られた物であるからには、そうなのだろうと思ったが、特に必要な物ではない。 
店主に勧められたが、断りつつ店を離れた。 
後に黒髪の少年が凄まじく興奮しつつ、それを買っていった事は別の話である。 

夜中頃に、灯が燈され大通りから少し外れたところで人にぶつかった。 
「ちっ!」 
衝撃で手に持った品を落す。割れ物も結構入っているのだ。 
だが、地面にそれが落ちる前にグレイトフル・デッドの腕でそれを受ける。 
「危ねーな…割れてたらどうすんだ?おい」 
ぶつかっただけなら、特にどうこう言う気は無かったが、完全素通りで通り過ぎようとしている事にムカついた。 
相手の肩を掴むが、瞬間背筋に寒いものが奔った。 
(なんだ…!?こいつ…!!) 
思わず手を離す。殺気でも敵意があるわけでもない。ただヤバイと体が反応した。 
「…ああ、すまないね、急いでいるんだ。おや、君とは…どこかで会ったかな?」 
フードを被っていたが、振り向いた時にそこから覗く顔を見て、心底ぶっ飛んだ。 
(バカな…!あの時、『老化しなかった』んだぞ…!どういうワケだよ!) 
さっき完全に切り捨て予想だにしていなかっただけに動けない。 
そうこうしていると、そいつは人通りも少なくなった王宮へと続く道を歩いていく。 
そこでようやく我に返った。

「生きてやがっただと…?ありえねぇ…仮に仮死状態で老化が効かなかったとしても、あの状況で生き残れる可能性は無ねぇ…!」 
そいつは完全に死んだと思っていたウェールズだった。 
だが、事実だ。現にああして動いている。 
人違いという事も考えたが、すぐにそれは無いと判断する。 
ターゲットの顔を常に覚えねばならない暗殺者だけあって、一度覚えた顔はそうそう忘れるものではないし、声で本人と確信した。 
生きていたというのはいい。こちらに気付かなかったのも髪型を変え自身を老化させているからだ。 
だが、肩を掴んだ時に感じた、あの寒気だけは納得できない。 
繋いでいる馬の所に戻ると、その側に居る大きなフクロウに向き直る。 
「トゥルーカス…だったか?オメーは先に戻って伝えろ。『知り合いに会ったから、ケリ付けてくる』ってな」 
「…かしこまりました」 
そのフクロウがそう喋り飛び立つ。夜の案内にとカトレアから預けられたヤツだが、この場合伝令に使うのが一番だろう。 

そうすると、後を追うようにして自身も城の方向に向かう。 
万一、バレるかもしれないと思ったが、あの寒気が妙に気になった。 
そういう時プロシュートが取るべき行動は実にシンプル。納得できないなら、納得できるように行動する。それだけの事だ。 

夜と言ってもさすがに王宮だけの事はあり、警備は並大抵のものではない。 
こういった場所に難なく入れるのはホルマジオ、イルーゾォ、リゾットぐらいのものだ。 
プロシュートも老化による変装はできるが、完全警備の場所に入れるものではない。 
「さて…どうすっか」 
正面からとも考えたが、直ぐに打ち消す。 
そんな事をすればウェールズを捜す以前の問題だ。どう考えても賊扱い確定だろう。

城に行ったという確証は無かったが、勘がそこへ向かったと教えている。 
勘と言っても、前後の状況を確認した上での勘だ。 
本人であれ偽者であれ、戦死したはずの皇太子の姿をしているのだ。 
何をやらかすつもりか分からないが、向かった方角も考慮に入れると、十中八九で城のはずだ。 
そして、列車の時もそうだったが、その勘に従って行動した時は大抵間違いは無い。 
ただあの時と違うのは、今回は動かない城という事だ。 
「仕方ねぇ…何かあるとしても、待つしかないな」 
性に合わないが、この際贅沢は言ってられない。現状はそれしか選択肢は存在しないのだ。 
「待つってのはホルマジオかイルーゾォの仕事なんだが…な」 
もう会う事の無いかつての仲間の名を呟き、闇に身を任せる。まだ何かが起こる気配は…無い。 

30分程待つと、城の中で何かがあったと感じた。 
大きな騒ぎがあったわけではないが、衛兵達の動きが慌しくなってきている。 
「何かあったな…入るなら今か!」 
慌しくなった分、警備に隙が生まれる。 
ガンダールヴでなくなったとはいえ、この前までプロの暗殺者だったのだ。 
リゾット程ではないが、気配をある程度消す術も心得ている。 
「あいつに気配消されるとマジで分かんねーからな…[[ペッシ]]が泣いてたぞ」 
メタリカを使わなくても時々見失う事がある。特に夜なんぞにやられると洒落にならない。 
それで、いつの間にか後ろに立っていたリゾットにペッシがマジでビビって泣いた事が一度あった。 
当然、ブン殴り説教かましたが、頭を押さえながらリゾットにも『頼むから仲間内の間で気配を消すな』と言ったのだが 
あまり変わらなかったのであれは最早意識してやっているのではないだろう。 
それが、リゾットの暗殺者としての能力に異論を挟む者がチーム外にも一人たりとも居なかった理由の一つだ。 
「オレがやられても、リゾットは生き残ると思ってたんだがな…」 
プロシュートは知らない。リゾットが、後少しの所までドッピオを追いつめ、エアロ・スミスの邪魔さえなければディアボロを倒していたという事を。

隙を突き、城の中に手早く潜入すると、自分と姿形が似ている衛兵を見つけた。 
「…ん…なんだ…なにをするきさ…」 
叫ばれる前にグレイトフル・デッドで殴り飛ばし鎧を奪い着込む。 
「こいつを、ここでやんのは二度目だな…」 
モット伯での館を思い出すが、浸っている場合ではない。とりあえず何があったのか聞き出さねばならないのだ。 
「随分と騒がしくなったが、何かあったのか?」 
「陛下が何者かにかどわかされた。魔法衛士隊がラ・ロシェールでの損害で再編中だというのに…!」 
「今、現在動けるのは新たに新設された陛下直属の銃士隊だけだそうだが…魔法無しで賊を取り押さえられるものかどうか…」 
(なるほど…な。死んだはずのウェールズが来れば、あの姫様は疑いもせず着いていくってことだ) 
状況は把握できた。三つある各魔法衛士隊はワルドの裏切り、タルブでの戦闘、そしてトドメの『レキシントンだッ!』のおかげで、ほぼ壊滅状態で再編中という事だ。 
それを補うために新設されたのが銃と剣で武装され身辺警護も兼ね、女性のみで構成された銃士隊らしいのだが、戦力不足は否めないというところだろう。 
もちろん、唯一動ける戦力であるため銃士隊が出動せざるをえないようだが。 

そこまで把握したところで、どうしたものかと思考を張り巡らせる。 
自分で着いていったのだから放っておいてもよかったが、やはり、完全に死んだと思っていたはずのウェールズが気になった。 
ミスタの頭に3発銃弾をブチ込んで生きていたというのとは、少しばかりワケが違う。 
ウェールズがワルドにやられてから広域老化を発動し、その体が老化しなかったのを確認している。 
だからこそ、生きて動いていたという事が異様に引っかかる。 
スタンド能力で死体を操るというのは何度か遭遇した事がある。 
その場合はスタンドが操っているだけで死体そのものが自意識を持っているわけではない。 
だがあれは、ぶつかった時にハッキリとした感じで言葉を吐いた。死体を操っているのならもう少し曖昧なはずだ。 
何より、背筋に奔った寒いものも気にかかる。操っている死体に触れた程度でああなるはずはない。 
(分かんねー事を考えても仕方ねぇ…行くか!) 
分からないなら分かるようにするまでだ。そういう思考に到達するあたり、この男まだまだ実にギャング的である。

「陛下をお救いする!私の後に続け!!」 
先頭の隊長と思われる女性が、そう叫ぶと兵が後に続き街道を疾駆する。 
後ろを離れること約500メートル。その距離を保つようにしてプロシュートが続く。 
「どーして中々。結構やるな、あの女」 
聞いたところ平民の出らしいが、それだけに実力を備えているのだろう。遠くから見ただけだが、初見としては気に入った方だ。 

馬を駆る事30分、前方で動きがあった。 
「隊長!前方に騎馬隊!数6!」 
「追いついたか!射撃用意!人を狙うな、陛下に当たりでもしたら取り返しがつかん!馬を狙え!」 
銃士隊に配備されている銃は新型のマスケット銃。従来の物より精度は上だ。 
ギリギリまで射程圏内まで近付く。こちらに後ろを向けている以上魔法は無い。 
「撃て!」 
隊長がそう叫ぶと一斉に銃弾が放たれる。新型といえど連射はできないが、威力は高い。 
騎乗射撃であるから命中率はそう高くないが、それでも少なくない弾が馬にめり込み転倒、落馬させる。 
かなりの速度で走らせていたのだ。落馬した連中は地面に思いっきり叩きつけられる。 
悪くて即死、良くて再起不能だろう。 
「雑魚に構うな!陛下を連れている賊の馬の足を止める事のみ考えろ!」 
アンリエッタを乗せた騎馬を入れると残り3騎。 
だが、距離を詰めようとしたところで、アンリエッタを乗せた騎馬が速度を落とした。 
「観念したという事か…?いや、油断するな!相手はメイジだ!」 
アンリエッタまで落馬に巻き込んではならない。そう判断したのか近接し賊のみを仕留めるようだ。 
左右側面から分かれて接近する。こうすればどちらかが魔法で攻撃を受けたとしても片方から攻撃できる。敵が騎乗しているのならなおさらだ。 
「陛下をかどわかした罪!地獄で償え!!」 
各騎馬が剣を抜き隊長が剣を賊に振り下ろそうとした。

「うぁあああああ!」 
しかし、そう叫びをあげたのは、賊ではなく隊長だ。 
「バカな…後ろから…だと…!?」 
他の銃士からも悲鳴があがり落馬していく。速度を出していなかったのが幸いし即死というわけではないが、どれも重症の部類に入るだろう。 
「…なんだ…!?なぜ…落馬した者どもが……」 
後ろから魔法を撃ってきたのは、さっき落馬させたばかりの3人だ。走る馬から思いっきり落馬したというのに平然と歩いている。 
もちろん相手は、その疑問には答えようとせず、落馬した銃士隊の馬を奪い駆ける。 
他の隊員は気絶しているが意識を保っているあたり、隊長に任ぜられるだけあって、その精神力も高いのだろう。 
「待て…!くそ…!くそ!陛下ァーーーーー!」 
そう叫ぶが、それに答えるものは誰一人として居なかった。 

馬に乗ったアンリエッタが、目を覚まし、後ろの惨状を目にし愕然とした。 
「ウェールズ様…!あの者たちは、わたくしの銃士隊です!なぜ…あのような事を!」 
「すまない…だが、誰にも僕達の邪魔をさせたくないんだ。君は僕を信じてくれ」 
「でも…」 
「ラドクリアンの湖畔で君が誓ってくれた言葉を信じて、僕に任せて欲しい」 
「ウェールズ様…」 
そう言われると、何も言えなくなる。見せる笑顔には一点の曇りも無い。だからこそその言葉のままに、身を任せた。 

「こいつは…ヒデーな」 
遅れること数分、倒れている銃士隊の面々をプロシュートが見つけた。 
呻き声が上がってるあたり、死者は出ていないようだが、それでも一目で重症だと分かる。 
どうしようもないので、さらに馬を進めるが、剣を杖代わりにして歩く人影が視界に入った。

落馬の怪我もあるだろうが、背中に受けた傷が非常に痛々しい。 
頭は歩を進めようとしているが、体はついていかない。 
遂には、剣を地面に突き刺し膝を付いた。 
「くそ…陛下に大恩ある身でありながら…肝心な時にお役に立てなくてどうする…!動け…!動け!」 
「やめとけ。今のオメーじゃ行ったところで何の役にも立ちゃあしねーよ」 
「何だと…!?お前…衛兵の装備をしているが見た事無い顔だ…誰だ!?」 
(こいつ、この怪我でそれに気付きやがったか) 
部下の把握は幹部にとっての必須条件だ。それができなかったからこそ、モット伯も直触りを喰らっている。 
「気にすんな、オレも賊とかいうヤツに用があんだよ。…何があった」 
「…連中、馬から落馬したというのに…平然と立ち上がった…!即死しないまでも、ああも平然と立てるはずが無い…!」 
吐き捨てるようにして言ったが、再び立ち上がりおぼつかない足取りで前へと進もうとしている。 
「やめとけつったはずだぜ?どうすんだよ」 
「黙れ…!私が行かねば、誰が陛下をお救いするというのだ…!」 
一歩前へ進むが、頭を掴まれ地面に叩きつけられた。 
「ガハ…ッ!貴様何を…!離せ!」 
「そんなに死にてーってんなら、今ここでオレが殺してやってもいいんだがよ」 
抵抗しようとするが、片手とは思えない力で押さえつけられている上に、重症ともいえる怪我を負っている。動くはずも無い。 
少しの間抵抗していたが、杖も持っていない男一人に抗えないようでは、どうしようもない事を悟ったようで、大人しくなった。 
「情けない…何がシュヴァリエだ…何が銃士隊隊長だ…私は…陛下お一人すら…満足に助けられんというのに…」 
力なく呟き、目から涙が流れている。

「平民が正面からカチあってメイジに勝てるわけねーだろうが」 
頭から手を離すが、そこに遠慮無く。しかも、思いっきり突き放すような声で言い放つ 
「…ッ!」 
睨んでくるが、その程度で気圧されはせず、淡々と続ける。 
「やり方ってもんがあんだよ。正面がダメなヤツなら搦め手を使って、側撃、背撃、奇襲、何でも使って隙を作りゃあいい」 
スタンド使いと同士の戦いと同じ事だ。近距離パワー型に中距離、遠距離型が正面からぶつかっても勝てるはずはない。 
グレイトフル・デッド自身、相手を老化に追い込んでからが本番なのだ。 
スタンド使い同士の戦いでなくても、パッショーネと他の組織の抗争の間において、油断し、その隙を突かれ一般構成員に殺し殺されたスタンド使いも数多い。 
特に暗殺チームは、その報復を受ける一番手だ。 
「先に言うが、卑怯とか言うんじゃねーぞ。持ってないヤツからしたら、魔法なんざ使ってる連中の方が卑怯なんだよ」 
メイジと平民の戦力差はスタンド使いと非スタンド使いと同じようなものだ。 
刺客の中には当然鉄砲玉扱いの非スタンド使いも大勢居た。 
当然、返り討ちにしてきたが、中にはトラップを巧みに使い、追い込まれ危なかった事も数度ではない。 
一般人でも扱える強力な武器があるあちら側でもそれだ。 
いいとこマスケット銃程度の武器しか無いこっち側で、平民が貴族に勝つ手段と言えば正面以外からの攻撃しか無い。 
「分かったら寝てろ。まぁそのダメージで、まだ戦おうとした事は褒めといてやる」 
ワルドの時があるだけに、人の事言えた立場ではないが、魔法に対抗できるスタンド能力を持っているからだという事だ。 

「くそ…気に入らんヤツだが…仕方ない…陛下を助けてくれ…だが、覚えていろ…陛下になにかすれば…私がお前を…殺す…ぞ…」 
そう言うと気絶した。 
「ったく…女でこれか?ペッシに見習わせてーとこだぜ」 
正直呆れたが、同時に感心もした。 
パッショーネでも、これ程の精神力を持ったヤツはそう居ない。ましてこいつは女だ。 
「暗殺じゃねーしな。依頼の報酬は…ツケといてやるよ」 
街道の脇に運びなるべく目立つように置きながらそう言うと、後を追うべく馬を全速でカッ飛ばした。 

←To be continued
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