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風と虚無の使い魔-1 - (2007/10/27 (土) 00:38:43) のソース

教室の一角。マントを羽織った少年少女達の間に、大男が倒れていた。 
気を失っているようだが、それでもその雰囲気にはなにか語るべくないものがあった。 
「へ、へいみん?」 
「そもそも人間?」 
「ゴーレムとかじゃない・・・よな?」 
「ざわ……ざわ……」 

筋肉質であり、マントや宝石などの小奇麗なものはつけていないことから、貴族ではないことはわかる。 
しかし、彼の頭には角。彼の両肩にも角。人間ではないのか、人間、あるいは亜人だとしても平和的な人間でない可能性が 
非常に高そうだとメガネの少女は冷静に分析した。 

「ゼロのルイズ!なにを呼び出したんだ!」 
「何度も失敗して、成功したと思ったらこれかよ!」 
「まともに使える魔法はないのか!」 
教室から少女に向けて野次が飛ぶ。 

桃色の髪の少女が叫ぶ。 
「こ、コルベール先生、やっぱりこの大男とも『契約』しなければいけませんか?」 
「ミス・ヴァリエール、例外はありませんよ。」 

少女は少し唸った後、諦めたように気絶しているであろう大男に近づく。 
「き、貴族にこんなことされるなんて……普通は一生ないんだからね!」と気絶している大男に話し掛ける。 

そして、彼の顔に顔を近づけ、唇をあわせた。 
左手の甲が光る。 

「ROOOOAHHHHHHH!!」 
それとほぼ同時に大男が叫び声と同時に目を覚ました。 
(な、なんだこの痛みはァーーッ!このような痛みは……例えるなら、そう『波紋』ッ! 
それに…なぜ俺はこんなところにいるッ!?) 

叫び声をあげた大男の迫力から、本能的に命の危険を感じて逃げるようにして 
教室の出口へ向かうものが現れる。 

「女ァーーッ!俺になにをしたーーッ!」 
少女はその叫び声に怯み、数歩下がりつつ答えた。その前にさりげなく髪の薄い男性が立つ。 
「つ、使い魔のルーンを刻んでいるのよ。すぐ終わるから、あ、安心しなさいよ…」 

左手の甲の光が収まり、痛みが治まった大男は状況を確かめようとする。 

(俺は、『エイジャの赤石』を賭けて、ピッツベルリナ山神殿遺跡で、古代ローマの戦車戦を行い… 
[[ジョセフ]]と戦った末……奴に敗れて死んだはず…… 
しかし、無い筈の両腕!両足!胴体!全て元通りだ……どうなっているんだ?俺は死んだのではないのか? 
死んだことに悔いはない。一人のジョセフを戦士に成長させ、その戦士に全力を持って戦い、 
敗れて死んだということは誇りでもあるし、名誉でもある。 
が、しかし……生きている……死ぬ前の走馬灯という奴でもなさそうだ……) 

彼は少女に向き直って強く問い詰める。 
「女、ここはどこだ……俺に何をした。」 
「さ、さっき言った通りよ。あんたを私が『サモン・サーヴァント』で召還して使い魔の契約をしたの。 
つまりあんたは私の使い魔。わかった?平民だからわからない?」 
「『サモン・サーヴァント』だと?確か人間どもの言葉で『召使』だったか……俺に召使をやれと?」 
「だからさっきから使い魔だって言ってるでしょ。主人である私の望むものを見つけてきたり、守ったりするのよ。 
使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるはずなんだけど……まだ契約して時間が短いからかしら、 
なにも見えないし聞こえないけど……そうそう、もちろん主人である私には絶対服従ね。」 
「先ほど召還などといったか……よくわからんが何か普通の人間どもとは違う能力を持っているようだな? 
死の淵に居た俺を五体満足までに回復させるのだからたいしたものだ。場所もどうやらピッツベルリナ山神殿遺跡でもなさそうだ……」 

「あ、あんた?魔法も知らないの?どこのド田舎のド平民よ!?ピッツベルリナ山なんて聞いたことないわよ! 
だいたいあんた、人の話聞いてないでしょ!あんたは私の使い魔になるの!わかってるの?」 
少女はルーンを結べたこともあって面食らいつつも少し強気に出ていた。 
が、使い魔に素直になる気を微塵も感じられないためにただでさえ常日頃バカにされている少女は 
焦り、いらついていた。 

が、やはり大男の返答は少女の望むものではなかった。 

「体のいい召使い兼ボディーガードなどをなぜ俺がしなければならない?俺が従うのは強者だけだ。断る。」 
「は、はぁ?あんた、人の話わかってるの?大体強者って……平民だか亜人だかしらないけど、 
仮にもここは魔法学校。これだけの貴族に囲まれて勝てると思ってるの?」 
「そう思うなら……試してみるか?力づくでここを出ても構わなんしな。」 
大男はなめ回すようにクラス見る。その迫力に短く声をあげるもの、後ろに倒れるものなどがいたが、各自同じようなものであった。 
「……が、この部屋には俺の相手をできるような者はいないようだな……そこの男は見込みがありそうだが、生憎リングがないものでな。さ、どけ」 
「だ、誰がどくっていうのよ!私がどくのは道にマリコルヌが落ちてるときだけよ!」 
少女は数歩後ろに飛びのき、杖を向ける。 
「ミス・ヴァリエール!貴女は下がっていなさい!」 
男が叫び大男に杖を向ける。ぶつぶつと何事か唱えた後に杖の先から炎の玉が大男へ向かう! 

しかし彼は、片手だけで、その巨大な炎の玉を払いのけた。 
まるで、ハエを払うかのように。 

普通の相手であればかわすのも難しいタイミング、威力も普通の相手であれば手で払いのけることなど選択肢にすら 
入らなかったであろう威力。まさに絶妙な攻撃であった。 
惜しむらくは、放った相手が普通の相手ではなかったことだ。 

「ここの人間どもは波紋の一族とは違う……なにか不思議な能力を持っているようだな……魔法学校などといっていたが… 
これらを『魔法』と呼んでいるのか?だが、威力も工夫も足りなかったな。貴様でこの程度ならば……たかが知れるな」 

彼は致命傷どころか火傷すらしていない。 
怯む様子もなく、彼は起き上がった。そして、光、前の世界であれば忌むべきものであった光の差す 
窓の方向へ走り出し、その方向にいた先ほど攻撃してきた杖を持った男に蹴りを放とうとするッ! 
起き上がった勢いによる攻撃と脱出を同時に行う。彼の戦闘のセンスは失われていなかった。 
1対1ならば確実に仕留めていただろう。1対多でも彼の神経が研ぎ澄まされた、彼が言えば激昂するであろうが 
油断していない状況であればその蹴りは入っていたであろう。しかし、彼はその男以外を敵としてみなしていなかった。 

伏兵は男の後ろの少女だった。


少女が叫ぶ。 
「コルベール先生……下がるなんてできません……敵に……敵に背中を向けないやつを貴族と呼ぶんです! 
『ファイアー・ボール』!」 
先ほどの少女が大男に杖を向け、なにかを飛ばす。 

大男は先ほどと同じタイプの攻撃であると断定し、同じ対処を試みた。 
片手をなにかが飛んでくる方向に出し少女を見据える。 

「馬鹿の一つ覚えかッ!MOOOOOO!!」 
片手でそれを払いのけようとした…が!それが腕に着弾した途端!爆発をおこしたッ! 
彼女の唯一の『得意技』である爆発が大男を包む! 
轟音が部屋を包む。教卓の上の備品が少々吹っ飛ぶ。教卓も吹っ飛ぶ。しかし、それでも大男は立っている…はずだった。 

その大男の類まれなる身体能力をもってすれば、この程度の規模の爆発では驚きすらしなかっただろう。 
しかし、大男は立てなかったッ!爆発による煙が舞っている中、彼はひざまずいていた。 
その爆発は『普通』の爆発ではなかった。 

(か、体が痺れるッ!う、動けんぞッ!幸い体は無事のようだが……これはまるで『波紋』ではないかッ……MOOOOOO……! 
しかし、この少女…波紋戦士には見えん……シーザーのシャボン玉のような攻撃のように攻撃してきたなにかに波紋を含めているなら、 
俺の体の神経は破壊されるはずッ!しかし、動けないだけでそれはない……さらに、無意識下の波紋戦士でもしているはずの 
波紋の呼吸をしていない。そして、なによりもッ!戦いについて場数を踏んでいる雰囲気、こういった命の危険に大して無防備すぎる…… 
つまり、この程度の能力を持った人間はこのあたりにはいくらでもいるということか? 
ということは、俺に適うだけの戦士がまだどこかにいるのではないだろうか? 
我が柱の男たちの敵は波紋戦士たちだけだと思っていたが……少し…興味がでてきた…この魔法とやらに) 

強者と戦いこそ全てである大男は心境の変化とともに立ち上がった。 

そして、煙がはれたのち、少女は立ち上がった大男に話し掛けた。 
「これで貴族と平民の格の違いがわかったでしょう!おとなしく使い魔になりなさい!」 
「……いいだろう……少しの間、その使い魔とやらになってやろう……」 
「少しの間って…ま、今のところはまあいいってことにしておいてあげる。 
じゃあ、使い魔には名前が必要ね。あんた、名前ある?」 


風の戦士が、二度目の二〇〇〇年ぶりの目覚めを果たした。 

「俺の名はワムウ。風の戦士ワムウだ。」 



風と虚無と使い魔 召還潮流

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