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仮面のルイズ-48 - (2009/12/08 (火) 06:51:10) のソース
トリステインの首都トリスタニア。 タルブ戦で勝利したトリステイン軍と、アンリエッタを称えるお祭りも一段落し、街は普段の落ち着きを取り戻していた。 とは言っても首都である以上、にぎやかであることには違いはない。 平民達にはあまり関わりのないことだが、この日、王宮ではシュヴァリエ授与式が行われていた。 トリステインの貴族達にとって、シュヴァリエの称号は最下級ではあるが、非常に名誉な称号でもあった。 タルブ戦で活躍した者達ですら、恩賞や勲章、もしくは役職を与えられた者達がほとんどであり、シュヴァリエを授与される者はシエスタとモンモランシーの二人のみだった。 王宮の一室で待機するように命じられたシエスタは、革張りの柔らかいソファに身を預けていたが、柔らかすぎて落ち着かないようだった。 魔法学院の制服を着たとき、自分がこんな上質の服を着て良いのだろうかと恐れたものだが、王宮はそれにも増して豪華であり上品であり、そして恐ろしかった。 オールド・オスマンとミス・ロングビルは、先ほどアニエスと名乗る女騎士が連れて行ってしまい、40メイル四方はありそうな部屋でシエスタは孤独だった。 壁を見てみると、薄い灰色と茶色の波が通っており、それが天然の岩石模様なのか練金で作られたものなのかシエスタには判別できない。 だが、考えられぬほどの手間と技術によって作られているのだろうと、一人で納得した。 ソファにしてもそうだ、生まれて間もないグリフォンの産毛でも使われているのだろうか、ふわりと体を包み込む独特の柔らかさと質感は生まれて初めて体験する。 視線をテーブルに向けると、つなぎ目一つ無い大きなテーブルに金箔の線が入っている。 テーブルの大きさは縦2メイル横4メイルの長方形だが、一枚の樹木から削り出されたらしく、深い茶色の木目には一つとして繋ぎ目はない。 ラ・ロシェールの桟橋には劣るが、かといってこれほどの樹木はなかなか見かけられぬ事だろう。 これから王女、いや女王となったアンリエッタの前に呼ばれ、直々にシュヴァリエを授与される。 それを考えると、シエスタは今にも気絶してしまいそうなほど、頭が混乱してしまう。 天井を見上げるとくすんだ銀色の細工が施され花びらの形をしたシャンデリアが象牙のフィルターごしに光を出しており、窓から入ってくる光だけでは照らされぬソファの足下までをも十分に照らしていた。 よく考えてみれば強い光なのに目が痛くならないのはこれも魔法か、かなりの手間と技術と、金がかけられているに違いないと思って……シエスタは考えるのを止めた。 ミスタ・グラモンが『貴族の生活には見栄も必要なんだ』と語っていたが、どこまでが見栄なのか、どこまでが純粋な財力なのか、シエスタにはとても考えることは出来ない。 不意にガチャリとドアを開ける音がして、シエスタは体を強ばらせた。 扉の方に視線を向けると、制服姿のモンモランシーが親に呼ばれたという 「緊張してる?」 もじもじと手を膝の上で動かしたり、壁に掛けられた絵画や調度品を見回しているシエスタに、モンモランシーが声をかけた。 「あ、え、はい。緊張、してます」 肩をびくっ、と震わせつつ、シエスタが答えた。 その様子を見たモンモランシーが、にこりと笑う。 「私も緊張してるわよ」 「落ち着いてるじゃないですか」 「落ち着いてる?ううん、心臓がどきどき音を立ててる、シエスタに聞こえるんじゃないかってぐらい、私、緊張してるわ」 モンモランシーが自身の胸に右手を当てた。 シエスタの向かい側の席に座ると、緊張してきょろきょろしているシエスタを見つつ、モンモランシーが喋り始めた。 「…私の家はね、代々ラグドリアン湖に住む水の精霊と関わってきたの。あの湖ってすごく綺麗で、深くて…ほんとうに神秘的なのよ」 「水の精霊、ですか」 「そう。あなたも使ってた水の秘薬、あれも水の精霊の一部よね。モンモランシ家は代々水の精霊との交渉役を担ってきたわ…でも、ある時水の精霊を怒らせちゃって、交渉役を外されたの」 「……」 シエスタは黙ってモンモランシーの話を聞いた。 なぜこんな話をするのか解らないが、大切な話をしていると感じていた。 「水の精霊に頼んで、大きな瓶に入って貰ったまでは良かったんだけど…お父様ったら『歩くな、床がぬれる』なんて言っちゃうから、水の精霊を怒らせちゃったのよ」 「……」 「シエスタ?……おかしいとか思わないの?」 「え!いえ、あの、私おかしいとか、そんなことは」 しどろもどろになるシエスタを見て、モンモランシーはため息をついた。 「もう、ちょっと緊張がほぐれるかと思って恥ずかしい話までしたのに」 「すみません…」 「謝らなくたって良いわよ。…ともかく、それで水の精霊を怒らせて干拓は失敗。私の家は交渉役を外されたわ」 モンモランシーは居住まいを正すと、凛とした表情でシエスタに向き直った。 いつものモンモランシーと違い、普段意識することのなかった貴族としての威厳に満ちている気がした。 「だから私は緊張なんかしていられないの。私がシュヴァリエになったことで交渉役に戻れるかもしれないんだから。私はモンモランシ家の一員として恥ずかしい姿は晒せないの」 「……!」 シエスタはツバを飲み込んだ、その時の音がモンモランシーに聞こえるのではないかと考えてしまうほど、体の中で大きく響いた。 モンモランシーの持つ迫力は、彼女自身が背負っている家名その他諸々のものの使命感だった。 魔法学院の一員となって、貴族の間に混じって行動することに慣れたつもりだったが、 決定的に違う生まれの差が見えた気がした。 「シエスタにも、何か目標とか、夢とかあるんでしょう?それを思えば大丈夫よ」 「目標、夢…はい。あります」 モンモランシーがシエスタを気遣って、話をしてくれたのだと、今更ながらに気づいたシエスタ。 少し落ち着きを取り戻したのか、深くため息をつくように息を吐き出して、ゆっくりと音が立たぬ程度に波紋の呼吸を始めた。 顔を上げたシエスタの瞳には、リサリサと同じ深い優しさと厳しさを湛えた色が浮かんでいた。 「そうよ、だから緊張し過ぎちゃ駄目」 モンモランシーはそう言うと、にっこりと笑った。 その後、女官が二人を玉座へと案内し、厳かにシュヴァリエの授与式が行われた。 モンモランシーには、モンモランシ家から当主以下何名かが出席し、シエスタには親族の代わりに魔法学院学院長オールド・オスマンとミス・ロングビルが出席した。 他には、タルブ戦に参加した将軍が数名と、ロングビルのお目付役としてアニエスがいるだけであった。 略式とはいえ女王アンリエッタ直々にシュヴァリエの授与を行うのだから、モンモランシ家の感激といえばそれはもう大変なもので、モンモランシーの父親は誰よりも緊張していた。 対してモンモランシーとシエスタの二人は、あらかじめ女官に教わった通りの礼節を守り、堂々としたものであったという。 授与式が終わった後、シエスタ達は先ほどまで使っていた控え室に戻り、オールド・オスマン達やモンモランシ家の人々と共に談笑していた。 モンモランシーの父親が言うには、オールド・オスマンは昔と全く変わっていないらしい。 改めてオールド・オスマンの不可思議さを確認した二人だった。 「ところでミス・シエスタは、怪しげな魔法を使うと聞きましたが」 父親の『怪しげな』、という言葉にモンモランシーが眉をひそめる。 モンモランシーはシエスタの能力を高く評価しており、友人だと思っているが、他の貴族が元々平民だったシエスタを見下すのは至極当然のことだ。 「ほっほっほ、シエスタはワシの恩師の…ええとひ孫さんでしての。正確には水系統ではありませんのじゃ」 「ほう?」 興味深そうに聞き返すモンモランシーの父に、オールド・オスマンは飄々と、時折嘘と真実を混ぜながら答えた。 「まあ、軍人なら魔法の力だけでなく体も鍛えて基礎体力を向上させるじゃろう?それと同じじゃよ、シエスタは自己治癒能力を他人に分け与えられるほど持っておるんじゃ」 オールド・オスマンは、シエスタの曾祖母は吸血鬼退治を生業とする女性であり、彼女の使う魔法は平民も貴族も本来持っているはずの力だと説明した。 特にその力は平民、貴族、亜人、精霊…つまり生命が必ず必要とする力であり、特にその力は治癒の力として非常に優れているのだと主張するに至って、モンモランシ家当主の目に、何かを打算するような表情が浮かんだ。 オールド・オスマンはモンモランシ家が干拓に失敗し、苦しい経済状況に陥っていると知っていた。 だからこそあえて「精霊」という単語を含ませて興味を惹いたのだ。 「ミス・モンモランシー、シエスタと共に治癒を繰り返して、何か得るものはあったかね?」 突然オールド・オスマンから話を振られて、紅茶を飲んでいたモンモランシーの動きがピタリと止まった。 オリーブのような鮮やかな緑で描かれたツタが、ソーサーの中央へとカップを導く。 モンモランシーは静かに、浅く広口のティーカップをソーサーに乗せると、手に持ったソーサーをテーブルに降ろしてから一呼吸を置いた。 「シエスタのおかげで学ぶことは沢山ありましたわ、水の流れがより微細に感じられますの。体全体の流れを大きく感じることで、かえって微細な濁りや漏れが感じ取れるようになりましたわ」 「おお!そうか、それは素晴らしい、いずれはトライアングル、いや、水のスクエアになれるかもしれんな!」 興奮した口調で喜びを表現する父の姿を見て、モンモランシーは少し困ったように肩をすくめた。 「ミス・シエスタ!これからも娘のライバルとしてよく頑張ってくれたまえ」 「は? …はい!あ、それに私もミス・モンモランシーにお世話になっていますから」 一瞬呆気にとられたシエスタだったが、勢いよく返事をして、顔を真っ赤にした。 そんなシエスタを見て、モンモランシーが笑っていた。 一方、ロングビルは一足早く王宮を出て、城下町を歩いていた。 成り行きで仕方なく、不本意だが仕方なくシュヴァリエの授与式に出席したが、正直なところ生きた心地がしなかった。 今でこそなりを潜めているが、ロングビルはトリステインの貴族達に一泡も二泡も吹かせた『土くれのフーケ』そのものなのだ。 その上王宮内ではアニエスがぴったりと後ろに張り付いていた、ただでさえ息苦しい空間なのに、余計な息苦しさと不安を感じ、早々に王宮から立ち去ったのだ。 唯一の救いは、アニエスがあらかじめ「王宮内では行動を監視させてもらう」と前置きしてくれたことだろうか。 どうせなら王宮を出る前に、どこかに隠れているウェールズに「バカ野郎ー!」と罵声でも浴びせてから出て行けば良かったかなと思いつつ、ロングビルは裏通りに入っていった。 裏通りには秘薬の材料や、マジックアイテム類を売っている店がある、表通りの大きな店と違い中古品や粗悪品、もしくはご禁制スレスレのものを売っている店があった。 そのうち一つ、がらくたのようなマジックアイテムを扱っている店に入ると、ロングビルは壁にかけられた板に目をやった。 薄暗い店内の壁にぶら下がるそれは、幅一メイルほどの木板で、手のひらサイズのメモがいくつも貼り付けられていた。 よく見ると『高く買い取ります』等と書かれており、この店の常連達が欲しい商品を集めるために使う掲示板のようだった。 そこに目的のものが貼り付けられていないのを見て、ロングビルは落胆し眉間にしわを寄せた。 …つまりは、ルイズからの連絡が無いのだ、注文書が連絡の代わりになっているはずだが、それが無い。 タルブ村での戦いで『アルビオンを疾走した騎士が現れた』とは聞いている、デルフリンガーは『心配するな』とは言っていたが、ルイズが今どうしているのか気になって仕方がなかった。 おかしな話だが、ルイズという存在はロングビルの心に完全に入り込んでいた。 化け物、吸血鬼、貴族、虚無、理解の範疇を超えた存在を裏で支えているのが私だという自負があった。 もし、ルイズに見捨てられたら…と思うと、ロングビルの背筋に冷たいものが走る。 「今日は買っていかないのかい」 「え?ああ、めぼしいものがないね」 店の店主に声をかけられ、ロングビルは素っ気なく返事をした。 店主の体つきは良く、カウンターの上にだらしなく出した腕は太い、しかし背は低いようで椅子は他よりも高いものを使っていた。 浅黒く、頬にしわの刻まれた初老の男性だが、昔は傭兵か何かをしていたらしい。 「また来るわ」 そう言ってロングビルは店を出て行こうとした。 ギィ、と音を立てて扉を開くと、フードを被った二人組が店に入ろうとしているところだった。 身分を隠して店に来るものや、すねに傷を持った者がフードを深く被ることは多いが、それにしてもボロのようなフード付きローブを着た二人組と鉢合わせするのは不気味だ。 早々に立ち去ろうとするロングビルの腕を、二人組の片方が掴む。 ギョッとして振り向くと、フードを被った二人組のうち、背の低い方が左手でロングビルの左腕を掴んでいた。 ギィー、と間の抜けた音が鳴る、扉の閉まる音だ。 「あ」 あんた何者だい、私に何か用?……と言おうとしたロングビルの表情が固まる。 フードの隙間から見慣れたピンク色の髪の毛が見え隠れしていたのだ。 「丁度良かったわ、鳥で落ち合いましょう」 フードを被った女はそう言ってロングビルから手を離した。 夕方、空が赤みがかる頃…フードを被った二人組と、ロングビルの計三人は、ブルドンネ街のはずれにある安宿で合流した。 この宿屋の前には秘薬屋があり、元はどこかの貴族の三男だった男が店主を務めている、店主には使い魔が居て、それがカラスだったので、この店の近くにある宿のことを「鳥」と言っていたのだ。 ロングビルは右手の袖に仕込んだ杖を取り出し、サイレントを唱えた。 土系統を得意とするロングビルは他の系統が苦手だが、それでも盗みに使えるサイレントは必死で練習し、会得していた。 ディティクト・マジックを唱え、この部屋が覗かれていないか、音を聞かれていないかと確認をしてから、ベッドに座る二人の前で呟いた。 「耳も目もないみたいだよ」 ロングビルの言葉を聞き、二人はフードを外した。 「ふう」 窮屈な服装から解放されたのか、大げさに息を吐きながら、ルイズがフードを外した。 ピンク色の髪の毛が短く、ショートカットになっているのを見て、ロングビルは軽く驚いた。 「切ったの?」 「切れたの」 ルイズが短く答えると、ルイズの隣に座る男が、ためらいがちにフードを外した。 「あら、いい男じゃない」 「もう、キュルケじゃあるまいし」 ワルドの姿を見たロングビルは軽口を叩き、ルイズもそれにつられて笑い出した。 「…で、何者なのか説明してもらえるんだろうね」 ロングビルが備え付けの椅子に座りつつ、ルイズに質問する。 「ええ。彼はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。この間アルビオンの王様を殺した人よ」 「…なんですって?」 ロングビルの瞳が驚きに見開かれる。 「とりあえず…そうね、タルブ戦の話をする前に、彼との再会から話しましょ」 そう言って、ルイズはワルドと自分との因縁を語り出した。 ニューカッスル城では、まだ自分がルイズだとは気づかれてなかったこと。 タルブ戦で戦い、吸血竜となった吸血馬を翻弄するほどの実力があること。 そして『エクスプロージョン』を放った後、ワルドの母親を生き返らせようとしたが、失敗してしまったことなどを話した。 ティファニアに関することはあえて話から除外した、今の時点でテファの存在を事細かくワルドに教える必要はないと判断したからだ。 最後に、ワルドの母から聞いた話を元に、高等法院のリッシュモンがレコン・キスタに通じて居るであろうことまで話した。 その間、ワルドはじっと黙っていたが、話が一段落するとおもむろに口を開いた。 「ルイズ、こちらの女性は?」 「土くれのフーケよ」 ルイズがあっさりと自分の正体をばらすので、ロングビルが慌てた。 「…!ちょっ」 「ああ、君がか。ルイズから話は聞いたよ」 だが、予想に反してワルドはあっさりとそれを受け入れた。 ロングビルからしてみれば、ワルドという男は良くも悪くも純粋で子供っぽい。 『ルイズを殺した憎きフーケ』だと思われていたらとても勝ち目はないと思っていただけに、そのあっさりとした反応が返って不気味だった。 戦い方によってはルイズを圧倒する実力の持ち主なのだ、どう考えても勝ち目はない。 「心配するな、ルイズが自分を死んだことにした後、君はルイズを影ながら支えてくれたのだろう?僕は君のような人が居てくれたことを嬉しく思うよ」 ワルドは心底からそう思っているようで、その表情もどこか無邪気に見えた。 毒気を抜かれたロングビルは肩を落として呟く。 「…まあ、そう思ってくれるなら、それはそれでいいけれど…」 ふと思いつく。 この男も、きっとルイズに惹かれているのだろう。 自分と同じように、ルイズに見捨てられたくないと思っているのだろう。 さらけ出すには恥ずかしい心を、容易に露出させてしまうのが、ルイズの魅力なのだろうかと思った。 「あんたも大変だったろうけど、私も大変だったよ。そうそう、一昨日アニエスって奴とウェールズが魔法学院に来てさ」 「一昨日?」 ルイズが聞き返す。 「そう、一昨日さ」 ロングビルは、シエスタとモンモランシーがシュヴァリエを授与されたことを話した。 また、ウェールズが身分を隠して魔法学院を訪ねてきたことも話すと、ルイズは少しだけ不満そうに顔を見上げ、そのままベッドに寝ころんだ。 「……シエスタがシュヴァリエかあ」 本来、戦場から一番遠いはずの人が、戦場で活躍してシュヴァリエを授与されたという話しは、ルイズの心に重くのしかかった。 「………」 ルイズは、天井を見上げつつ、喉の奥から出てこようとした言葉を飲み込んだ。 ”会いたいな” 会ってどうする?自分は生きていたのだと告白するか? おそらく、それは無理だろう、オールド・オスマンが吸血鬼対策を練っているはずだ。 虚無の魔法にある『忘却』を使って、吸血鬼に関する記憶をすべて消してしまえば、あるいはシエスタと再会できるかも知れない。 そしてキュルケ、モンモランシー、タバサ、ギーシュ、あの時私を助けようとしてくれた友人達とまた笑いあえるかも知れない。 自分が死んだという記憶を消せば、ちい姉様に会えるかもしれない… そこまで考えてルイズは頭を振り払った。 「…だめね、思い出に浸ると弱くなるわ」 ルイズの言葉を聞いたワルドが呟く。 「そうかもしれないな」 少しの間沈黙が流れると、ロングビルが唐突にルイズの頭を指さした。 「ところで、どうしたんだい」 「何が?」 ルイズが返事をしつつ、ロングビルの指先を見る。 それが自分の髪の毛を指しているのだと気づいたので、ルイズは苦笑した。 「失恋とかそんなんじゃないわよ、ちょっと油断して切られちゃったの」 「お隣の色男にかい?」 「バカね、そんなんじゃないわ。ワルドの首だって切られそうだったもの」 話が剣呑な方向に行きそうなので、ロングビルが眉をひそめた。 そして期待通り、ルイズはまた突拍子もないことを言い出したのだ。 「ちょっとミノタウロスと戦っちゃったの」 「はあ?」 ロングビルは口を半開きにして、この波乱の人生を送る少女の言葉に呆れた。 [[To Be Continued→>仮面のルイズ-49]] ---- [[戻る>仮面のルイズ-47]] [[目次へ>仮面のルイズ]]