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ゼロのスネイク-1 - (2008/01/24 (木) 19:42:37) のソース

「ミス・ヴァリエール。召喚の儀式を」 

生え際の後退著しい中年教師が意を決したように言う。 
その教師――名はコルベールといった。 

コルベールはここ、トリステイン魔法学校にて2年生が行う中では最重要とも言える行事である召喚の儀式の監督を務めていた。 
そしてその結果は満足に値するものであった。 
上位陣にはそれはもう美しい風竜を召喚したタバサ、火山竜脈のサラマンダーを召喚したキュルケがいたし、 
それ以外の生徒達も十二分に成功といえる内容の召喚を行っていた。 



これから儀式を行う、一人の女生徒を除いては。 



彼女は別にヤサグレてる訳でもなかったし成績が悪かったわけでもない。 
他の生徒とのコミュニケーションも十分に取れている。 
しかしただ一つ。 
本当にただ一つだが彼女には欠点があった。 
そしてその欠点こそがコルベールを不安にさせていた。 
が、そんなコルベールの心配をよそに―― 

「はいッ!」 

その生徒――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは威勢のいい返事をした。 

といっても別に彼女自身がこの儀式に対して特別に自信を持ってたわけではない。 
むしろその心中では、 

(大丈夫よ大丈夫よ大丈夫よ! 使い魔の召喚の儀式なのよ? いくら私が『ゼロ』だなんてバカにされてても…これが成功しないハズはないわッ! 
 だから自信を持つのよイズッ!!) 

全力で自分に暗示をかけていた。 
そしてそれに反映されるように既に召喚を終えた生徒たちは、 

「なあ…成功すると思うか?」 
「いやいくら『ゼロ』でも召喚の儀式ぐらいは…」 
「でもあの『ゼロ』だぜ?」 
「だよなあ…失敗するかもだよなぁ~~」 

どうにもルイズの成功を期待していない。 
そんな周囲のヒソヒソ声と、「ルイズが成功するわけが無いでしょう。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから」みたいな態度の生徒たちをを横目に見て、 
ルイズはいつものようにカチンときた。 
同時にさっきまでの不安もそのムカツキで吹っ飛んだ。 

(ふん! 見てなさいよあんたたちッ! 私があんた達の使い魔よりもずっとカッコよくてずっと強い使い魔を召喚してやるんだからッ!) 

そして詠唱する。 

「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよッ! 
 神聖で美しくッ、そして強力な使い魔よッ! わたしは心より求め、訴えるわ…我が導きに答えなさいッ!!」 

気合十分の詠唱ッ! 
手ごたえは十分ッ! 
(やったッ! 成功す――) 
ルイズがそう確信した瞬間―― 

ドッグォォォォォオオオオオオオオン!!! 

盛大な爆発が巻き起こったッ! 
その規模は場所が場所なら「今ノハ人間ジャネェ~~~」なんて声が聞こえてきそうなレベルッ! 
同時に爆心に近かったルイズは体重の軽さも相まって勢いよく後ろに吹っ飛ばされるッ! 
そして2度3度後転を繰り返した後、ルイズはべちゃっと地面にキスするハメになった。 

「オホッオホンッオホン!」 
「ゲホッゴホッ! クソッまたやったな『ゼロ』!」 
「使い魔の召喚にさえ…ゲボッ! 失敗するなんて君も筋金入りだなッ!」 

周囲から聞こえてくる罵倒をうつぶせの姿勢のまま聞き――ルイズは泣きたくなった。 
(なんで…どうして『成功』しないのよぉ~~~~~~~~~!) 
目にはじんわりと涙が浮かび始めたが、必死でそれをこらえる。 
たとえ「ゼロ」と呼ばれてしまうようなメイジだったとしてもルイズは由緒正しきヴァリエール家の3女である。 
そのプライドが彼女をギリギリのところで支えたのだ。 

だがルイズがそんな衝動と戦っている頃―― 

「お…おい!煙の中に何かいるぞ!」 
「ホントだ! でもあのシルエットは…」 
「サルにしちゃあ背が高すぎるし…」 
「人間にしたってあれはデカすぎる!2メイルくらいはあるんじゃないか?」 
「じゃあ亜人? オーク鬼か何かってことか?」 
「おい! 煙が晴れるぞ!」 

周囲の会話にようやく気づき、そして周囲に気づかれないようにこっそり涙をぬぐったルイズの目に映ったのは―― 

実に奇妙ないでたちの人間、いや亜人だった。 
贅肉の一切見当たらない筋肉質の身体には文字のようなものがびっしり彫りこまれており、 
頭には奇妙な形の頭巾、そしてその身に纏うのはいずれも紫がかった黒色の襟巻きと短パン、リストバンドにブーツのみで、 
しかも襟巻きと短パンの二つが体の正中線で帯のようにつながっている。 
民族衣装だとかその類だとしても、かなりきわどい、いや、むしろ変態的な格好だ。 
しかもよく見てみれば、耳も鼻もこの亜人には無い。 
削がれたような傷が無いあたり、生まれつきそれらを持っていないとでも言うのだろうか? 

(なに…何なのコイツ? こんな亜人、あたし図鑑でも見たことなんて…) 

そんなことを考えていると、突然件の亜人が文字通り「飛ぶようにして」ルイズの前に移動した。 
その速度はドヒュウゥン! と空気を切るほどッ! 

「きゃあ!」 

思わず悲鳴を上げるルイズ。 
周囲も唖然としている。 
だが亜人はそんなことは気にもかけないという様子でルイズに話しかけたッ! 

「オ嬢サンニ聞キタイ事ガアル」 

何だかカタコトだが、そんなことを気にしている余裕はルイズにはない。 

「な、なななな、何よッ! そもそもあんた、何者なのよッ!名前と種族を言いなさいッ!」 
「質問ニ対シテ質問で答エルノハ無礼ニ相当スルノダガ…マアイイダロウ」 



「私ハホワイトスネイク。種族ハ…ソウダナ。トリアエズ人間デハナイ事ハ確実ダ」 



その答えにルイズの顔がぱあっと明るくなった。 
そして周囲はどよめき始める。 

「人間じゃないって事は…」 
「『ゼロ』が召喚に成功したッ!?」 
「信じらんねぇーーーーーーーーーーーッ!!」 
「ウソだろ承太郎!」 
「これは『現実』だッ!」 

周囲がいろいろ言ってるが、今のルイズにはそんなたわごとは届きようも無い。 
何故なら、何故なら今の彼女はッ! 

(やったわ! あたしが召喚したこいつが人間じゃあないってことは…あたしが使い魔の召喚に成功したということッ! 
 やったわッ! あたしはやったのよッ!!) 

「最高にハイ」ってヤツだったからだッ!! 
だがそんなルイズの心中をカケラも察することなく、亜人――ホワイトスネイクは再びルイズに話しかけた。 

「サテ、私ガ君ノ質問ニ答エタノダカラ…今度ハコッチノ質問ヲ聞イテモライタイトコロダナ」 
「あっ…そ、そうだったわね! さあ何? 何が聞きたいの? 何でも答えてあげるわッ!」 

すっかりご機嫌&有頂天なルイズはお安い御用とばかりに言う。 

「ココハドコダ?」 
「ここはトリステイン魔法学校。あんたはあたしに召喚されてあたしの使い魔になったのよ」 
「トリステイン魔法学校? ソレニ使イ魔ダト? 使イ魔トハ一体ナンダ?」 
「メイジの目となり耳となって、メイジに忠誠を誓うもののことよ」 
「メイジトハナンダ?」 
「…は?」 

いくらか問答を続けるうちに、とんでもない質問が飛び出した。 
メイジとは何だ、だって? 
トリステイン魔法学校を知らないのは置いておくにしても、いくら未開の地の亜人だってメイジの存在ぐらいは知ってるはずだろう。 

(あ…ひょっとしてこいつの一族ではメイジのことを別の呼び方でいうのかしら? 
 うん、そうだわ。そうに違いないわッ!) 

ルイズは適当に脳内解釈を済ませるとホワイトスネイクとの質疑応答に戻る。 

「メイジってのはね、簡単に言えば魔法を使える者のことを言うのよ」 
「魔法…ダト?」 
「………」 

ここまでくると流石に脳内解釈はキツイ。 
いやそもそも物を考えられる生物の中で、魔法を知らない者がこの世界にいるだろうか? 
コーラを飲んだらゲップが出るのと同じくらい確実に、いないだろう。 

「そもそもあんた…一体どこから来たのよ?」 
「アメリカノフロリダ、ト言ウ所ダ」 
「ふろりだ? どこのド田舎よ?」 
「………」 

今度はホワイトスネイクが沈黙する番だった。 
「水族館」でエンリコ・プッチ神父とともにエンポリオに敗北したホワイトスネイク――もっともその時はメイド・イン・ヘブンだったが、 
彼は本体のプッチ神父の死とともに消滅する間際、光る鏡のようなものに吸い込まれたのだ。 

そして意識が戻ってみればこれだ。 
周りは10代後半あたりであろうあどけない面を並べた小僧と小娘がお揃いの黒マントでズラリと囲んでおり、 
その輪の中にはこれまた黒マントを着たピンクの髪の小娘がちょっぴり泥に汚れた顔でこっちを見ている。 
しかもどういうわけか周囲の生徒も目の前の少女も自分の姿が見えているらしい。 
ということは・・・こいつら全員がスタンド使いなのだろうか? 

何故自分はいきなりこんなところにいるのか、とか何故本体であるプッチ神父を失った自分が存在し続けていられるのか、とか、 
疑問はオキシドールと過酸化マンガンの反応から生成される酸素のようにムクムクと沸きあがってきていたが、 
ホワイトスネイクはそれらの疑問をとりあえず置いておくことにした。 
そして自分から一番近い小娘に話を聞いてみる。 

するとその幼女は、トリステインだのメイジだのとホワイトスネイクが知りもしないような、 
いやホワイトスネイクでなくても知らないような単語を当たり前のようにずらずらと並べて話をするではないか。 
これには流石のホワイトスネイクも、 

(マサカ我ガ主人トDIOガ目指シテイタ『新世界』トハコレノコトダッタノカ? 
 二人トモ私ニ内緒デ、随分ト変ワッタ趣味ヲ共有シテイタノダナ) 

などとまったく見当違いな事を考えざるを得なかった。 

こうしてルイズとホワイトスネイクの間に気まずい空気が流れたところで、ようやくコルベールは我にかえった。 
コルベール自身ホワイトスネイクのような使い魔を見るのは初めてだったし――ホワイトスネイクのド変態な格好をしていたのもあるが、 
少しの間呆気に取られていたのだ。 

コルベールは「オホン、ン」と軽く咳払いをすると、 

「ミス・ヴァリエール。まだ使い魔との契約が終わっておりませんよ」 

と言うと、ルイズもさっきのコルベールと同じようにハッと我に返り、 

「ホワイトスネイク…だったわよね? あんたの名前」 
「ソウダ」 
「ちょっと屈みなさい?」 
「何故ダ?」 
「いいから屈みなさいよ。あんたの背が高すぎて届かないんだから」 

ホワイトスネイクには何の事だかサッパリ分からなかったが、とりあえず言う通りにする。 
ルイズはホワイトスネイクの頭が自分の身長と同じくらいにまで下がったのを確認すると、儀式に入った。 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え・・・」 
「待ってください、ミス・ヴァリエール!」 
「え?」 

突然コルベールがルイズの詠唱を遮った。 

「…あなたはまだ使い魔との契約を済ませていない そうですね?」 

当たり前のことを聞くコルベール。 
「いきなり何を言い出すんだこのハゲは」とルイズは思ったが口には出さず、 

「…はい。そうですけど」 

当たり障りのない返答をした。 

「そうでしょうね。私もあなたがこの使い魔を召喚してから、契約するところを見ていません。しかし…」 

そこでコルベールは言葉を切ると、つかつかとホワイトスネイクのほうへ歩み寄る。 
そしてホワイトスネイクの左手を取ると―― 

「既に使い魔のルーンが現れているのです。この左手の甲に」 

バァ―――――z______ン 

「ウソ…」 

その左手の甲に文字が浮かび上がっていた。 
つまりルイズとホワイトスネイクとの契約は既に完了していたのだ。 

こんなケースは召喚した本人であるルイズはおろか、教師であるコルベールにとっても見たことも聞いたことも無い怪奇であった。 
そして二人ともそのことに沈黙している。 
だが―― 

「何ダ? コレハ…」 

ホワイトスネイクはやはり空気を読まずに、自分の左手の甲にいつの間にか浮かび上がった奇妙な文字に興味を向けていた。 

「と…とりあえず、この件は私が調べておきます。ではみなさん、今日はここまでです! 解散ッ!!」 

と言って逃げるように、召喚の儀式のひとまずの終了を宣言する。 
周囲の生徒達はなにやら状況が理解できていないようだったが、儀式が終了したことは理解したらしい。 
そして次の瞬間、彼らはが突然ふわりと空中に浮かび上がったッ! 
さらにそのまま中世ヨーロッパの城のような建物へと飛ぶようにして移動し始める。 
思わず目をむくホワイトスネイク。 
しかしスタンドのヴィジョンが見えない以上スタンドに運んでもらっているわけではないようだ。 

(確カコイツラハ『メイジ』トカイッタナ。 
 メイジトヤラハスタンド使イデ無クテモスタンドガ見エルモンナノカ? 
 ソレニ…スタンド使イデナイノナラ…アイツラハ本当ニ魔法ッテヤツデ浮カンデルノカ?) 

などとホワイトスネイクが考えているとルイズから声がかかった。 

「ほら、なにボケッとしてんのよ。あたしたちも行くわよ」 
「君ハアノ空中ニ浮カベル力ヲ使ワナイノカ?」 

当然ホワイトスネイクにとっては何気なく言った言葉である。 
だがルイズはその言葉に一瞬顔を曇らせると、 

「せ、精神力がもったいないから、使わないだけよ! 大体歩いていけば済むことなんだから、そんなことに魔法を使うなんてナンセンスよ!」 

言葉の節々に何か言い訳じみたものを漂わせながらそう答えた。 
そして逃げるように早足で、先ほどの建物の方へ行ってしまった。 

「ヤレヤレ、ダナ」 

そう呟き、ルイズの後を追おうとしたところで、ホワイトスネイクはあることに気づいた。 

「コレハ…私ノ本体ガアノ小娘ニナッテイルノカ? トナルト…ソウカ、『契約』トハソウイウ事ダッタノカ」 

そんなことを一人で勝手に納得しながら、ホワイトスネイクはルイズの後を追った。 



To Be Continued... 
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