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使い魔は手に入れたい Sad But True - (2007/09/22 (土) 18:45:04) の最新版との変更点
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運命がカードを混ぜ、われわれが勝負する。 byショーペンハウエル
「がぁああああああああああ!」
「な、なに!?どうしたのよ!?わたしまだなにもしてないわよ!?」
頭が今にも割れそうなほどの頭痛、真っ赤に染まる視界、そして急速に薄れていく意識。
今ここで意識を失えばどうなるか、そんなものは予想もつかない。
またどこか見知らぬ場所で目が覚めるのか?それだけならまだいい。もしかしたら二度と目が覚めないかもしれない!
ふざけるな!このチャンスを逃してなるものか!
私は『平穏』に!植物のように静かに生活してみせる!
そのためには、ここで意識を失うわけにはいかない。この頭痛は痛みの割りに意識を繋ぎとめる要因にはなっていない。
なら、別に意識を繋ぎとめる要因を作ればいい。その方法は?
頭から手を離し自分の右手の小指と薬指を思いっきり握り歯を食いしばる。そして、
「あああああああああああああああああああああああああああああ!」
メキポギャッ!
自分の指を捻り折った。その瞬間、激痛が全身を襲う。頭痛の他に新たな痛みが増えたことで涙がこぼれ出てしまう。
それに構わずさらに自分のへし折る。それも痛みが増すようにしっかり捻ってだ。
そのせいでさらに激痛が体を貫く。頭痛は益々激しさを増し、視界は真っ赤に染まっているままだが、薄れていた意識は何とか引き止めることができた。
「な、なにしてんのよあんた!?」
目の前の少女が驚いたような声を上げた。その声を聞きながら足に力を込め立ち上がる。
「ハァ、ハァ、ハァ、見ての通りだ…。指をへし折った……」
痛みを振り切るように少女のほうへ向き直る。しかし、痛みを忘れぬように右手に握りこぶしを作らせる。
「い……痛いよ。頭が今に割れそうなほど痛い…、指も血が出るほど折ったし、視界は赤くなっててよく見えない……」
「……あんた何言ってるのよ」
「だが、それは問題じゃない…、今は意識が引き止められていればそれでいいんだ……。意識さえあればお前を殺すことができるからな……」
「わたしを殺す、ですって…………。冗談じゃないわ!なんであんたなんかに殺されなくちゃなんないのよ!」
少女の方へ一歩足を進める。
少女はそれをみて手に持っている棒をこちらに鋭く突きつける。
「このチャンスを逃がすものか……。私はなんとしてでも『幸福に生きてみせるぞ!』」
「それ以上近づかないで!どうやってヨシカゲを操ってるかは知らないけど、それ以上近づいたら容赦しないわよ!」
何をわけのわからないことを言っている……
「『キラークイーン』!」
そう呟くと同時に自分の体からキラークイーンが現われる。キラークイーンには、やはり右腕が存在していなかった。
だが、今そんなことを気にして何になる?どうにもならない。
少女がこちらに向けているあの短い棒、容赦しないということはあれで攻撃するということか?きっとそうなのだろう。
攻撃方法は予測がつかない。あれを持って突っ込んできたとしてもキラークイーンなら迎撃できる。だが、もし遠距離攻撃なら?
少女と私の間の距離はおおよそ7m。あの距離から攻撃されれば私は容易くやられてしまう。ここからあそこまで攻撃できるものはシアーハートアタックのみ。
こちらが近づいて攻撃するのが一番早いが、今のこの状態じゃまともに移動できるかも怪しい。キラークイーンの射程に相手を入れる前に倒されてしまうだろう。
今すぐシアーハートアタックを出すべきか?いや、焦ってはいけない。相手の出方を見極めるんだ。それからでも遅くはないはずだ。
少女を改めて見てみる。少女はこちらに棒を向けたまま一向に動こうとしない。鋭く、何かの覚悟を決めたようにこちらを見据えている。
……その眼、その眼が気に入らない。やはりこの少女は敵だ。その眼は私の人生の障害物なのだ!
少女を鋭く睨みつける。
攻撃して来い。それでお前の攻撃を理解してやる。そしてお前を打ち破ってこの生を謳歌して……!
その瞬間、突然意識が飛びそうになる。クソッ!やばい!
意識が飛びそうになるのを拳を握りこんで痛みを強くすることで対処する。しかし、その瞬間を待っていたのか、少女に動きがあった。
棒をわずかに下に逸らし、何かを口早に喋った。その瞬間、私のすぐ目の前が爆発した!
「なにぃ~!?」
地面が爆発したため、爆発した部分の土が煙と共に舞い上がる。
やばい!身を隠して攻撃するつもりか!?こうなったらやるしかない!
「『シアーハート…」
シアーハートアタックを発射させようとした瞬間、少女姿が舞い上がる煙の中から飛び出してきたのだ!
この距離でシアーハートアタックが爆発すれば私も被害を受けてしまう。もし、それが原因で意識を失ってしまったら?
「…アタック』!」
ええい!仕方が無い!一か八かだ!できるだけ後ろにシアーハートアタックを発射する。その瞬間、殆んど目の前まで来ていた少女も何かを両手で大きく横に振りかぶる。
少女に真っ直ぐ向かったシアーハートアタックは少女には当たらずギリギリ横を通り過ぎる。
なんだと!?
その瞬間、悟る。少女が何かを振りかぶる際、体勢が変わって軌道を直すまもなく横を通り過ぎてしまったのだ。
シアーハートアタックは通り過ぎてしまった少女の後ろで少女に向かおうと軌道を変えているがもう遅い。
シアーハートアタックが少女に攻撃する前に少女が私を攻撃するだろう。もし、あのとき、私が迷わなければ、少女にシアーハートアタックは当たっていたのか!
目の前の少女を見る。少女が振りかぶっていたものは、小脇に抱えていたあの大きな本だった。
「ヨシカゲを…」
それを私に向かって……!
「『キラークイー「返しなさい!」
少女は本を私に向かって叩き付けた。
人間は理由もなしに生きていくことはできないのだ。 byカミュ
「違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!」
頭痛に苛まれながら必死に自分が出した結論を否定する。
あれが自分なわけがない!あんな殺人鬼が私のわけがない!俺が殺しに幸福感を感じるわけがない!
これはきっと何かの間違いだ!あんな変な劇を見たせいでちょっと頭が混乱しているだけだ!
しかし、そんなことを思おうとも一向に自分の結論が揺らぐことはない。なぜなら既に心の奥底でその結論を認めているからだ。
自分が認めた結論を、自分がいくら喚こうとも変える事などできはなしない。
そして、
「あなたの中で固まった結論が、あなたにとっての真実なのよ」
杉本鈴美が宣言する。
俺の真実はこの結論なのだと、あの舞台に男が私の生前の吉良吉影なのだと。
しかしそれを、はいそうですか、と認めることができるか?できるわけがない!俺は俺だ!もはや生前など関係ない!
デルフは言った。自分なりの吉良吉影を作ればいいと。だからこれから俺は自分にとっての『キラヨシカゲ』を作って行く!
「生前の記憶なんて今までなかった!今更あれが俺などと認められるか!」
「あなたが認めなくても事実は事実なのよ。ここにいる全員がそれを認めるわ」
全員……だと?
伏せていた顔を上げると、目の前にいたのは杉本鈴美だけではなかった。
彼女の後ろに多くの人間が立っていた。それは女だったり、男だったりと入り乱れている。彼ら彼女らは私をただ静かに見詰めていた。
その中の何人かの顔を、私は知っていた。あの舞台で私に殺された女たちだった。それを確認した瞬間、背筋が引き攣り認めたくもない結論にたどり着く。
それを否定するため、それを嘘だと信じたいため恐る恐るだが首を横に向ける。
そこにも何人もの人間がいた。やはり男女入り乱れている。そして、全員が私を何の感情も浮かべていないガラス玉のような瞳でこちらを見詰めている。
慌てて反対側を見ると、そこにも同じように大勢の人間がガラス玉のような瞳でこちらを見詰めていた。
それを確認しただけで後ろ確認する勇気がなくなってしまう。後ろにも同じ光景が広がっているだろう。
私は今、大勢の人間に囲まれている。逃げることはできない……。そしてこいつらは、
「あなたが思っている通り、ここにいる全員があなたに、吉良吉影に日常を奪われたのよ」
杉本鈴美はまるで俺の心が見えているかのようにそう喋りかけてくる。
「とは言っても、みんな幽霊じゃないわ。もちろんあたしも。あなたがあの場所で連れて行かれてから、あたしたちも行ってしまったから」
「じゃあ……、じゃあお前らはなんなんだよー!あの世に行ったんだろ!?何故こんな場所にいる!?どうして俺をこんな目に遭わす!?俺はもう死んでるんだ!
どうして俺をそっとしておいてくれない!俺はキラヨシカゲだ!吉良吉影なんじゃねぇ!」
「あたしたちは、もう行ってしまったあたしたちの残りカスなのよ。吉良吉影を安心に与えることを許さない、15年間の間に蓄積された深い深い感情が凝り固まった物」
「なんだと……」
「そして、あなたは確かに吉良吉影じゃないかもしれない。でも、吉良吉影がいなくなったわけじゃないの。あなたの中にちゃんと存在してる」
ピキッ!
その言葉が聞こえると同時に、陶器に罅が入る音が聞こえた。
ピキピキピキピキピキピキ!
それは自分の腕から聞こえてくるではないか!
頭から手を離し自分の右腕を見てみる。右手には細やかな罅がびっしり入っていた。
「あ…ああ……あああああああああああああああああああああああああああ!」
「あなたが幸福になるためには、吉良吉影という存在があなたの中からなくなるしかない。どうしてあなたがこの劇場に来たのか、それはあたしにもわからないけど……」
「俺の!俺の手が!」
手を動かそうと指に力を入れた瞬間、手がボロボロと崩れ落ちる。
「うぁああああああああああああああああああ!」
「ここに来たということは何か意味が意味があるはずよ。あたしたちはこの劇場からよほどのことがない限り出れない。ずっと自分たちが死ぬ瞬間を見続けるしかない」
崩壊は止まらず、着ている服すら粉々に砕け崩れ落ちていく。
「止まらない!俺の腕が!」
左腕で右腕を掴もうとするが左腕が動かない。左腕を見てみると、
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
左腕は付け根からなくなっていた。
「でもあなたにはチャンスがある。ここにいてあなたが平気でいられるわけがないけど、それでも何らかの意味を持つことはできるはずよ。それをどう使うかはあなた次第。
幸福に生きられるかどうかは、あなた次第なのよ。ここで起こったことを忘れるのも、忘れずに何とかするのも全部あなた次第なのよ」
足が崩れ落ち体が床に倒れこむ。その衝撃で体中に罅が入ったのが解った。
もう声を出すことすらできない。
「人は、変われるのかしら?」
それが聞こえたと同時に、自分の体が全て崩れ去ったのを悟った。
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運命がカードを混ぜ、われわれが勝負する。 byショーペンハウエル
「がぁああああああああああ!」
「な、なに!?どうしたのよ!?わたしまだなにもしてないわよ!?」
頭が今にも割れそうなほどの頭痛、真っ赤に染まる視界、そして急速に薄れていく意識。
今ここで意識を失えばどうなるか、そんなものは予想もつかない。
またどこか見知らぬ場所で目が覚めるのか?それだけならまだいい。もしかしたら二度と目が覚めないかもしれない!
ふざけるな!このチャンスを逃してなるものか!
私は『平穏』に!植物のように静かに生活してみせる!
そのためには、ここで意識を失うわけにはいかない。この頭痛は痛みの割りに意識を繋ぎとめる要因にはなっていない。
なら、別に意識を繋ぎとめる要因を作ればいい。その方法は?
頭から手を離し自分の右手の小指と薬指を思いっきり握り歯を食いしばる。そして、
「あああああああああああああああああああああああああああああ!」
メキポギャッ!
自分の指を捻り折った。その瞬間、激痛が全身を襲う。頭痛の他に新たな痛みが増えたことで涙がこぼれ出てしまう。
それに構わずさらに自分のへし折る。それも痛みが増すようにしっかり捻ってだ。
そのせいでさらに激痛が体を貫く。頭痛は益々激しさを増し、視界は真っ赤に染まっているままだが、薄れていた意識は何とか引き止めることができた。
「な、なにしてんのよあんた!?」
目の前の少女が驚いたような声を上げた。その声を聞きながら足に力を込め立ち上がる。
「ハァ、ハァ、ハァ、見ての通りだ…。指をへし折った……」
痛みを振り切るように少女のほうへ向き直る。しかし、痛みを忘れぬように右手に握りこぶしを作らせる。
「い……痛いよ。頭が今に割れそうなほど痛い…、指も血が出るほど折ったし、視界は赤くなっててよく見えない……」
「……あんた何言ってるのよ」
「だが、それは問題じゃない…、今は意識が引き止められていればそれでいいんだ……。意識さえあればお前を殺すことができるからな……」
「わたしを殺す、ですって…………。冗談じゃないわ!なんであんたなんかに殺されなくちゃなんないのよ!」
少女の方へ一歩足を進める。
少女はそれをみて手に持っている棒をこちらに鋭く突きつける。
「このチャンスを逃がすものか……。私はなんとしてでも『幸福に生きてみせるぞ!』」
「それ以上近づかないで!どうやってヨシカゲを操ってるかは知らないけど、それ以上近づいたら容赦しないわよ!」
何をわけのわからないことを言っている……
「『キラークイーン』!」
そう呟くと同時に自分の体からキラークイーンが現われる。キラークイーンには、やはり右腕が存在していなかった。
だが、今そんなことを気にして何になる?どうにもならない。
少女がこちらに向けているあの短い棒、容赦しないということはあれで攻撃するということか?きっとそうなのだろう。
攻撃方法は予測がつかない。あれを持って突っ込んできたとしてもキラークイーンなら迎撃できる。だが、もし遠距離攻撃なら?
少女と私の間の距離はおおよそ7m。あの距離から攻撃されれば私は容易くやられてしまう。ここからあそこまで攻撃できるものはシアーハートアタックのみ。
こちらが近づいて攻撃するのが一番早いが、今のこの状態じゃまともに移動できるかも怪しい。キラークイーンの射程に相手を入れる前に倒されてしまうだろう。
今すぐシアーハートアタックを出すべきか?いや、焦ってはいけない。相手の出方を見極めるんだ。それからでも遅くはないはずだ。
少女を改めて見てみる。少女はこちらに棒を向けたまま一向に動こうとしない。鋭く、何かの覚悟を決めたようにこちらを見据えている。
……その眼、その眼が気に入らない。やはりこの少女は敵だ。その眼は私の人生の障害物なのだ!
少女を鋭く睨みつける。
攻撃して来い。それでお前の攻撃を理解してやる。そしてお前を打ち破ってこの生を謳歌して……!
その瞬間、突然意識が飛びそうになる。クソッ!やばい!
意識が飛びそうになるのを拳を握りこんで痛みを強くすることで対処する。しかし、その瞬間を待っていたのか、少女に動きがあった。
棒をわずかに下に逸らし、何かを口早に喋った。その瞬間、私のすぐ目の前が爆発した!
「なにぃ~!?」
地面が爆発したため、爆発した部分の土が煙と共に舞い上がる。
やばい!身を隠して攻撃するつもりか!?こうなったらやるしかない!
「『シアーハート…」
シアーハートアタックを発射させようとした瞬間、少女姿が舞い上がる煙の中から飛び出してきたのだ!
この距離でシアーハートアタックが爆発すれば私も被害を受けてしまう。もし、それが原因で意識を失ってしまったら?
「…アタック』!」
ええい!仕方が無い!一か八かだ!できるだけ後ろにシアーハートアタックを発射する。その瞬間、殆んど目の前まで来ていた少女も何かを両手で大きく横に振りかぶる。
少女に真っ直ぐ向かったシアーハートアタックは少女には当たらずギリギリ横を通り過ぎる。
なんだと!?
その瞬間、悟る。少女が何かを振りかぶる際、体勢が変わって軌道を直すまもなく横を通り過ぎてしまったのだ。
シアーハートアタックは通り過ぎてしまった少女の後ろで少女に向かおうと軌道を変えているがもう遅い。
シアーハートアタックが少女に攻撃する前に少女が私を攻撃するだろう。もし、あのとき、私が迷わなければ、少女にシアーハートアタックは当たっていたのか!
目の前の少女を見る。少女が振りかぶっていたものは、小脇に抱えていたあの大きな本だった。
「ヨシカゲを…」
それを私に向かって……!
「『キラークイー「返しなさい!」
少女は本を私に向かって叩き付けた。
人間は理由もなしに生きていくことはできないのだ。 byカミュ
「違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!」
頭痛に苛まれながら必死に自分が出した結論を否定する。
あれが自分なわけがない!あんな殺人鬼が私のわけがない!俺が殺しに幸福感を感じるわけがない!
これはきっと何かの間違いだ!あんな変な劇を見たせいでちょっと頭が混乱しているだけだ!
しかし、そんなことを思おうとも一向に自分の結論が揺らぐことはない。なぜなら既に心の奥底でその結論を認めているからだ。
自分が認めた結論を、自分がいくら喚こうとも変える事などできはなしない。
そして、
「あなたの中で固まった結論が、あなたにとっての真実なのよ」
杉本鈴美が宣言する。
俺の真実はこの結論なのだと、あの舞台に男が私の生前の吉良吉影なのだと。
しかしそれを、はいそうですか、と認めることができるか?できるわけがない!俺は俺だ!もはや生前など関係ない!
デルフは言った。自分なりの吉良吉影を作ればいいと。だからこれから俺は自分にとっての『キラヨシカゲ』を作って行く!
「生前の記憶なんて今までなかった!今更あれが俺などと認められるか!」
「あなたが認めなくても事実は事実なのよ。ここにいる全員がそれを認めるわ」
全員……だと?
伏せていた顔を上げると、目の前にいたのは杉本鈴美だけではなかった。
彼女の後ろに多くの人間が立っていた。それは女だったり、男だったりと入り乱れている。彼ら彼女らは私をただ静かに見詰めていた。
その中の何人かの顔を、私は知っていた。あの舞台で私に殺された女たちだった。それを確認した瞬間、背筋が引き攣り認めたくもない結論にたどり着く。
それを否定するため、それを嘘だと信じたいため恐る恐るだが首を横に向ける。
そこにも何人もの人間がいた。やはり男女入り乱れている。そして、全員が私を何の感情も浮かべていないガラス玉のような瞳でこちらを見詰めている。
慌てて反対側を見ると、そこにも同じように大勢の人間がガラス玉のような瞳でこちらを見詰めていた。
それを確認しただけで後ろ確認する勇気がなくなってしまう。後ろにも同じ光景が広がっているだろう。
私は今、大勢の人間に囲まれている。逃げることはできない……。そしてこいつらは、
「あなたが思っている通り、ここにいる全員があなたに、吉良吉影に日常を奪われたのよ」
杉本鈴美はまるで俺の心が見えているかのようにそう喋りかけてくる。
「とは言っても、みんな幽霊じゃないわ。もちろんあたしも。あなたがあの場所で連れて行かれてから、あたしたちも行ってしまったから」
「じゃあ……、じゃあお前らはなんなんだよー!あの世に行ったんだろ!?何故こんな場所にいる!?どうして俺をこんな目に遭わす!?俺はもう死んでるんだ!
どうして俺をそっとしておいてくれない!俺はキラヨシカゲだ!吉良吉影なんじゃねぇ!」
「あたしたちは、もう行ってしまったあたしたちの残りカスなのよ。吉良吉影を安心に与えることを許さない、15年もの間に蓄積された深い深い感情が凝り固まった物」
「なんだと……」
「そして、あなたは確かに吉良吉影じゃないかもしれない。でも、吉良吉影がいなくなったわけじゃないの。あなたの中にちゃんと存在してる」
ピキッ!
その言葉が聞こえると同時に、陶器に罅が入る音が聞こえた。
ピキピキピキピキピキピキ!
それは自分の腕から聞こえてくるではないか!
頭から手を離し自分の右腕を見てみる。右手には細やかな罅がびっしり入っていた。
「あ…ああ……あああああああああああああああああああああああああああ!」
「あなたが幸福になるためには、吉良吉影という存在があなたの中からなくなるしかない。どうしてあなたがこの劇場に来たのか、それはあたしにもわからないけど……」
「俺の!俺の手が!」
手を動かそうと指に力を入れた瞬間、手がボロボロと崩れ落ちる。
「うぁああああああああああああああああああ!」
「ここに来たということは何か意味が意味があるはずよ。あたしたちはこの劇場からよほどのことがない限り出れない。ずっと自分たちが死ぬ瞬間を見続けるしかない」
崩壊は止まらず、着ている服すら粉々に砕け崩れ落ちていく。
「止まらない!俺の腕が!」
左腕で右腕を掴もうとするが左腕が動かない。左腕を見てみると、
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
左腕は付け根からなくなっていた。
「でもあなたにはチャンスがある。ここにいてあなたが平気でいられるわけがないけど、それでも何らかの意味を持つことはできるはずよ。それをどう使うかはあなた次第。
幸福に生きられるかどうかは、あなた次第なのよ。ここで起こったことを忘れるのも、忘れずに何とかするのも全部あなた次第なのよ」
足が崩れ落ち体が床に倒れこむ。その衝撃で体中に罅が入ったのが解った。
もう声を出すことすらできない。
「人は、変われるのかしら?」
それが聞こえたと同時に、自分の体が全て崩れ去ったのを悟った。
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