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皆が呆然とする中、ミス・ロングビルがメガネを外した。 優しそうだった目がつりあがり、猛禽類のような目つきに変わる。 「そう。『土くれ』のフーケ。さすがは『破壊の杖』ね。私のゴーレムがばらばらじゃないの!」 タバサが杖を振ろうとした。 「おっと。動かないで?動けばこの子がどうなるか判ってるわよね。全員、杖を遠くに投げなさい」 その言葉にしかたなく、キュルケとタバサは杖を放り投げた。 「あなたもその杖と剣を下に落としなさい。おっと、これは貰うわね」 ルイズが握りしめていた『破壊の杖』をもぎ取る。 言葉にルイズは杖を下に落とし、アヌビス神とデルフリンガ―の鞘の留め金を外す。 「『破壊の杖』もだけど、あなたのこのマジックアイテムも凄いわね。まさか私のゴーレムを、あそこまでバラバラに斬り刻むだなんて。 流石スクウェアクラス数人のかけた『固定化』をも斬り裂く魔剣ね」 「妖刀つってくれよォ、後褒めても何も出ないぜ? それにしてもお前がフーケだったとはな、見事な演技力だ。特にあのマリコルヌを、本で殴って踏み付けてたの何かおれも騙された」 「あ、あれは演技ではないわね……」 猛禽類のような目つきがいきなり宙を泳いだ。 一瞬少し顔が赤くなる。 そして自分へ向けられる、睨みつけるような視線に気づき、フーケが妖艶な笑みを浮かべた。 「そうね、ちゃんと説明しなくちゃ死にきれないでしょうから……。説明してあげる。 私ね、この『破壊の杖』を奪ったのはいいけれど、使い方がわからなかったのよ」 「使い方?」 「ええ。どうやら、振っても、魔法をかけても、この杖はうんともすんともいわないんだもの。困ってたわ。持っていても、使い方がわからないんじゃ、宝の持ち腐れ。そうでしょ?」 「確かにそうだが、脳味噌だけじゃなく、目ン玉も間抜けか?これのどこが杖なんだよ。控え目に見ても筒だろ? フーケは煙突も巨大な杖に見える、天然お茶目ガールか?」 「話しがごちゃごちゃになるから、スルーした方が良いわ」 ルイズが足元のアヌビス神を踵で蹴りつける。アヌビス神は『このタイミングでもかよ』とか言いながら少し転がる。 随分と、度胸と余裕がある事、と思いながらフーケは続けた。 「え、ええ……そのようね。じゃあ続けるわね。使い方がわからなかった私は、あんたたちに、これを使わせて、使い方を知ろうと考えたのよ」 『破壊の杖』を、愛おしい物を扱うようにそっと頬擦りする。 「それで、あたしたちをここまで連れてきたってわけね」 「そうよ、魔法学院の者だったら、知っててもおかしくないでしょう?」 「わたしたちの誰も、知らなかったらどうするつもりだったの?」 「その時は、全員ゴーレムで踏み潰して、次ぎの連中を連れてくるわよ。でも、その手間は省けたみたいね。こうやって、きちんと使い方を教えてくれたじゃない」 フーケは笑っい。そしてルイズをキュルケ達の方へ蹴り飛ばす。 「じゃあ、お礼を言うわ」 そして『破壊の杖』をゆっくりと構える。 「短い間だけど、楽しかった。さよなら」 先程の爆発を思い出し、三人がぎゅっと目をつむる。 目をつむってない者がいた。杖を落としていない者がいた。 その者はフーケが『破壊の杖』を構えるその瞬間を見逃さなかった。 「『レビテーション』!」 ギーシュは、今日までアヌビス神に散々振り回されてきた。それゆえにその性質は身を持ってよく知っている。あれに直接触ると、心が乗っ取られてしまうと。 突っ伏したままシルフィードの影を利用して杖を僅かに動かす。 そう、動かすのは僅かで良い。 フーケの足元に転がされたアヌビス神がカタカタと動き始める。『破壊の杖』と共にアヌビス神も戦利品としようと側に残していた。 それが彼女の命取りとなる。 『腿が冷たい?』その思考を残してフーケの意識は途絶えた。 「ナァーイスだ、ギーシュッ!」 目を閉じていた三人の耳に、アヌビス神の声が飛び込んできた。 「そう来るかよ。はははははっ!」 デルフリンガーの愉快そうな声が続けて聞こえる。 そして何時まで経っても爆発は起こらない。 不思議に思い恐る恐る目を開ける。 三人の目には、腰を屈めてアヌビス神を拾い上げているフーケの姿が飛び込んできた。 そして先程のギーシュという発言を思い出し、シルフィードの方を振り向く。そこには突っ伏したまま、ひらひら手を振るギーシュの姿が有った。 「あ、あんた気を失ってたんじゃないの?」 キュルケが目をぱちくりさせて驚いている。 「はは……伸びてただけだよ。フーケも僕らが戦闘で気絶してるとでも思って、放って置いたみたいだったけど」 シルフィードが『きゅいきゅい(物凄いドキドキしたの)』とタバサに向って喉を鳴らす。 「いやー、『フライ』がなんとか発動して良かったよ。……じゃ、後は任せたから」 そう言うとギーシュは今度こそ本当に気を失った。 「流石『ギーシュさん』」 タバサが呟くように賛辞の言葉を送った。 ルイズは未だ信じられないといった顔で、フーケとギーシュをきょろきょろと見ている。 「どっちにしろ、お前等は死ぬ事無かったんだぜ。何しろこいつは単発式だからな」 フーケの身体を操りアヌビス神は『破壊の杖』を地面へ放り捨てる。 「単発ぅ?」 「一回こっきりの使い捨てだ。魔法の杖でもなんでもねえ、おれが元いた世界で、ここ数十年に使われてる兵器だからな」 アヌビス神はあえて兵器と呼ぶ。こんなもの武器として認めたくはない。それは彼なりの刀としての『誇り』!! デルフリンガーは、その『兵器』と言う部分にうんうんと相槌を打ち。3人はその説明をぽかーんとしたまま聞いた。 「さーて、ちょいとこの土くれのフーケの尋問と洒落こまねえか? 痛い目にあわされたんだしよ。こいつの弱味とか色々穿り返してやろうぜ!」 言いながら、取り合えずデルフリンガ―を拾い上げると、ルイズへと放り投げる。 「悪趣味」 タバサがぼそりと呟く 「じゃあお前は参加しないのな?」 彼女はふるふると首を横に振った。 「あたしは大いに興味有るわ。来る時に聞いた話しの真偽も気になるわ」 キュルケはとてもノリノリだ。 「あ、あああ、あんたねぇ。そんな趣味の悪い事」 「ギーシュにもしたよな。今更だ。気にすんなご主人さま」 ルイズは言い包められた。 「おめーら、そんな恐ろしい事してたのかよ。人の心の底暴くとか別の意味でおでれーた」 「御禁制の秘薬と同じ」 デルフリンガ―とタバサがちょっと溜息気味に言葉を漏らした。 さて、今ここは学院への帰りの馬車。荷台では、ギーシュがぐーぐーといびきを立てている。 ルイズとキュルケは泣いていた。涙が止まらない。タバサも少し暗い顔をして俯いている。 一つ一つの事だったなら、『まあそんな事も有るよね』で済むのだが、これだけ一度にまとめて聞くとヤバイ。 「か、かわいそう。フーケ物凄い可哀想なの」 ルイズなんかは、流れ出る鼻水も其の侭に泣きじゃくっている。人生で初めてここまで泣きましたって感じだ。 フーケは、アヌビス神に操られ、やたらとだらしない格好で、御者をしている。時々すれちがう農夫が『おぉっ!』とばかりに食い入るようにその姿を見る。 「フーケをこのまま捕まえたら、困る人が沢山いるの。どぼじよぉー」 「はぁ……確かに困ったわ。こんな話し知っちゃって衛士に突き出したら寝付き悪すぎるわね……」 少し気取ってはいるがキュルケ、目が真赤である。人生で初めて心にクリティカルヒットだ。 「家を取り潰されたり名誉を奪われたら、とても大変。守るべき人を守るのも、とても大変」 タバサの目が何時もの数倍遠くを見ている。 「おめーら、だからやたらと人の心の底漁っちまうと大変なんだぜ。余計な同情しちまう」 三人の様子を見かねてデルフリンガ―がヤレヤレと愚痴る。 「けど、知らなかったら、それはそれで可哀想な事になったんだもんー」 何を言っても同調している者には無駄である。 今、幸せそうなのは、アヌビス神とギーシュだけである。 アヌビス神なんかさっきから、 『こいつの『錬金』すごい強力じゃねー?俺の刀身、治させようぜ!』 『どーせ塔直すのに強力な『固定化』かける為に何人も凄腕呼ぶんだろ?おれにもかけて貰おうっと』 とかウキウキしながら繰り返している。 ギーシュは先程から寝言で、 『モンモランシー、どうだい僕はあのフーケを倒したんだ』 『さあ、この指輪を』 とかエンドレスに繰り返している。 帰り着いた四人は学院長室へと向った。 一応フーケの正体が、ミス・ロングビルだったということは伏せて、アヌビス神にはさも普通に振舞わせ。そして今は人払いをさせた理事長室にいる。 ギーシュは道中寝ていたので何がどうなっているか判らず、終始『?』『?』と不思議な顔をしながらも、先陣を切って理事長室へと向った。 そして今四人の前には、オスマン氏とコルベールだけが居る。 そこでまず四人は、ミス・ロングビルが土くれのフーケだった事。今フーケはアヌビス神で意識を封じ込めている旨を話した。 「ふむ……。ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな……。美人だったもので、なんの疑いもせず秘書に採用してしまった」 「いったい、どこで採用されたんですか?」 隣に控えたコルベールが尋ねた。 「街の居酒屋じゃ。私は客で、彼女は給仕をしておったのだが、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな」 「で?」 コルベールが促した。オスマン氏は照れたように告白した。 「おほん。それでも怒らないので、秘書にならないかと、言ってしまった」 繰り返されるオスマン氏の見苦しいまでの言い訳。 しまいにゃ、『惚れてる?とか思うじゃろ?なあ?ねえ?』とか言い出す始末だ。『あれが魔法学院にフーケが潜り込むための手じゃったに違いない』とかカッコイイ顔で言われても説得力が無い。あまりに無い。 あの真面目なコルベールまでが『死んだ方がいいのでは?』とか言い出す有様だ。 けど一緒になって『美人はただそれだけで、いけない魔法使いですな!』とか言って笑っていたので、多分同じような事をしてたんだな、このハゲと一同は思った。 「その……フーケの事なんですけど、聞いて欲しい事があるんです」 陽気な雰囲気に包まれる二人に向って、ルイズがおずおずと口を開いた。 「ん?まだ何かあるのかね?」 オスマン氏の言葉にルイズがアヌビス神に目配せする。 そして再びフーケの隠された色んな大事な事大暴露大会が始まった。 元々フーケに思いっきり騙されていた上に、感情移入しまくりだった二人だ。涙腺がぶっ壊れたかというぐらい涙を流した。 ギーシュは食堂で自らに起こった事を、はっきりと理解する事となり、何か悟ったような『覚悟した男』の顔になった。 遠い過去の話しの時には二人口を揃えて『初恋のその男殺す』とかなんとか。 『あのエロ学院長に不意打ちで胸を思いっきり揉まれた時には、流石に泣きそうになった』の証言の所でオスマン氏とコルベールが殴りあいの喧嘩を始めそうになったり。 『着替え中、寝室に学院長が『アンロック』で上がりこんで来た時には』の話しで、オスマン氏がその場の全員に袋にされたり。 『ちょっとハゲがしつこく口説いてきて、どうやんわり断るか頭痛いわ』の部分でやたらと凹んだコルベールを皆で励ましたり。 兎も角紆余曲折を経て、フーケを椅子に縛り付けた状態で正気に戻す事となった。 「さようなら、お嬢さん達!」 フーケは突然大声を上げた後、きょとんとして、周りをきょろきょろと見た。 追い詰めて絶頂の所で、突然学院長室に巻き戻しである。フーケ大混乱。 「あ…ありのまま、今、起こった事を話すわ! 『『破壊の杖』を手に入れて、小娘達も追い詰めて、人生の絶頂!と思ったら学院長室で椅子に縛り付けられていたわ』 な…、何を言ってるのかわからないとは思うけど 私も、何が起こったのかわからなかったわ… 頭がどうにかなりそうだった… 終わりの無いのが終わりだとか、夢落ちだとか そんなチャチなものじゃ断じてない 最も恐ろしいものの片鱗を味わったわ」 今まで戦っていた四人とオスマン氏とコルベールが何故か目の前に居る。しかも人生で、今まで見た事も無いほどの哀れみの視線だ。嘘が無い。心の底からじゃないとこの目は出来ない。それ程の目を皆している。 フーケは、おねしょを何歳までしていたか知られた。 フーケは、本名がばれた。オスマン氏に『マチルダちゃん』と何度も連呼される。 フーケは、甘酸っぱい初恋と失恋を知られた。しかもその時の心理描写まで明確に。 フーケは、嫌いな食べ物を知られた。 フーケは、初めての女のあの日を知られた。しかもその時の気持ちまで厳密に。 フーケは、隠してきた守るべき人の事と、その秘密を全て知られた。しかもその相手への想いまで事細かに。当然名前まで知られてる。 フーケは、週に何回するかを知られた。しかもやり方まで細やかに。 フーケは、隠していた家の事情を全て知られた。 フーケが、知っているアルビオンのお家騒動が全て漏れた。 フーケは、身体のサイズを細やかに知られた。 フーケは、持っている下着の種類を全て知られた。 フーケは、盗みによって得たお金の使い道を全て知られた。 フーケは、絶対人に言えない性癖まで知られた。 フーケは、性的な弱点を知られた。 フーケは、最も知られたく無い失敗談を知られた。 フーケは フーケは フーケは 最初は『止めてー!』と叫んだ程度だった。段々叫びは増えて『いやァー!』『そ、それだけは許してぇー!』『や、やだっ』『言わないでぇー!』等と感情が剥き出しになる。 続けるうちに顔を真っ赤に染めて『やあ…ぁ……』とか声にならない声を出す程度になった。 死んだ魚の目になったが、途中で捨てられた子猫の目になった。そして『テファは、ティファニアだけは勘弁して』と言って放心していた。ちなみにティファニアと言うのはフーケが、守って支えてきた娘らしい。 知られた事を全てを一通り聞かされた後、土くれのフーケ、もう死にたくなった。だが死ねない程の事を知られた。心が死にそうだけど、それすら出来ないという地獄を越える何かを味わった気がする。 何とか残る理性で冷静に判断しようと振り返ると、耳まで真赤に染まる。やはり何を考えて良いのかも判らない。羞恥心と心配と怒りと哀しみと兎に角あらゆる感情が一気に押し寄せる。 気がついたら涙が溢れ出してきていた。人間感情が限界まで達すると涙を流すという。それによって精神安定を計り、ストレスを押し流し落ち着きを取戻そうとするのである。 追い詰められどうしたら良いかも判らない、自分からの逃げ道は何も無い。 ああ、逃げる為に死ねるのって、まだまだ温くて幸せなんだと思い知った。廃人になれる方が幸せねと心底思った。 己を含めあらゆる人の送る、生の暗い影の面をずっと見てきた。その経験で自分が負の世界に生き、そしてその心が光の無い場所に落ちつつある、それに対するある種自負にも似た感情もあった。 茶番だった。御禁制のポーションや魔法による自白も目じゃない、正気のままに抵抗も許されない、心の隅々まで解き放たれ、人に知られる恐ろしさ。 心に白も黒も無い、そんな物人が勝手に彩った幻想だ。闇に落ちる?引き返せない世界?自分には大仰な思い込みだった。 「私どうしよう、どうしたら良いの?」 取り合えず、今はブツブツそう繰り返している。そして泣いている。涙がボロボロ零れている。 その頃ギーシュは『まさか、このレベルまで暴かれてないよね?』と胃の辺りを押さえて、何度もルイズに聞いていた。その顔はもう何時ものギーシュに戻っていた。 『あんたはあんたが思っている以上に、純粋すぎたから大丈夫』と返され、しかし、眼前で繰り広げられた普通の人間なら耐えられない暴露劇に不安を覚え結局暫らく頭を抱えた。 さて、暫らく泣き続け、やっとで落ち着いたフーケ。泣き疲れてぐったりしながらも周りを見る。猛禽類のような目も、妖艶な笑みも何も無い。ただただ疲れた女性の顔だ。 ルイズはまた泣きだして『ふーげかばびそう』とか言葉にならない何かを言っている。 キュルケは視線を合わせずに目元を押さえている。鼻水が垂れてる。 タバサは黙って俯いている。メガネが少し何かで濡れている。やっぱ少しだけど鼻水が垂れてる。 ギーシュは胃を押さえて蹲っている。 オスマンは『かわいそうに、かわいそうにマチルダちゃん』と何度も繰り返し、髭が鼻水と涙でぐちょぐちょだ。 コルベールは何度も鼻をかんで鼻を真赤にして、何か上を向いている。 二振りの剣は、兎に角黙っていた。 「私をどうする気?これだけ、いたぶって満足したなら、もうさっさと城の衛士に引き渡せばいいでしょ?」 フーケは遠い目をしてぼそぼそと言った。 「まぁ『破壊の杖』は一応戻ってきたんじゃしのぅ……」 オスマン氏はとても困った顔で口髭を弄る。 「普段であれば、戻れば良い物では無いですぞ!と言いたいところですが……。はぁ……」 コルベールも心底困った顔をしため息をつく。 「塔の修繕費だせっちゅうても事情が事情じゃから出せんじゃろうし。黙ってりゃ国から出るしのぅ」 「おれ久々に人斬りてぇから、その女くれ。ずばァーっとばらして後腐れなくしてやるぜ」 今まで黙っていたアヌビス神が突然口を開いた。フーケ含めてその言葉に全員が、目ん玉を引ん剥く。 「あ、あああああ、あんひゃっていにゅはぁーっほんひょーに空気がひょめにゃいんやからひょめにゃいんやからひょめにゃいんやから!」 ろれつが回らなくなったルイズが、いつものようにアヌビス神を床へと叩き付ける。 「いや、ちょっと空気を和ませようと本音言っただけだから、な?怒るな怒るな」 「にゃごまにゃいわーっ!」 ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ 「しきゃもひょんきりゃにゃいのーっ!」 ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ 何か涙と鼻水が入り混じった液体が落ちる中、思いっきり踏みつけられた。 ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ 途中でキュルケとタバサも一緒になって踏みつける。 「屑」「人でなし!」 ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ 「おれ人じゃねえし。 それによ、やっぱ捉えた敵には制裁を加えねえと駄目だ。 温いお前等に判り易く例えて要約するとだな。 こうな、少しづつずっぷずっぷと(斬って)やって甚振るように責めてよ 容赦無く(痛覚的に)弱いところ探してぶっさして、そこを何度も何度も苦しそうな吐息を楽しみながらだ そのまま(はらわたの)中をぐっちゃぐっちゃに掻き混ぜてだ、だが弱いところ(の急所)は責めずに直ぐには(あの世に)いかせねえようにしてだ その状態で全身の弱点を弄るように撫で(斬り)ってよ。 あ、ちょいと長くなった気がするけど、そうやって楽しみながら、昇天させちまうのが勝利者の権限じゃないか?」 「うわっ、流石にそれは俺でも引くわ」 何とか反論を始めたアヌビス神に、デルフリンガ―が呆れ返った声をだす。 「剣の癖して生温い事、まーた言いやがって」 「はっ!斬ってりゃいいってもんじゃあねーんだ。この空気読めねーボケが」 二振りが脱線した所で、コルベールが乱入してきた。彼は頑丈そうな椅子(多分樫製、超カタイ)を持っている。 「いやいや、あなた方、やりかたが手緩いですぞ。こうです!こうです!こうですぞ!」 ドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッ ドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッ ドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッ ガツンッガツンッガツンッガツンッガツンッガツンッガツンッガツンッ バキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッ ゴツッゴツッゴツッゴツッゴツッゴツッゴツッゴツッゴツッゴツッゴツッ うわー、こりゃ引くわ。といった勢いで、彼は椅子が壊れるまでアヌビス神を殴打した。ついでにデルフリンガーも巻き込まれた。 「話しがそれる一方ですし、お茶でも飲んで一服しましょうか……」 しっちゃかめっちゃかな騒ぎになって盛り上がってる最中に、机の上に人数分のお茶が並べられる。 「ひょーね、ありが……ぶーっ フーケ!にゃんであんちゃがっ!」 真っ先にそれを手に取ったルイズが、ティーカップから一口含んだところで、思いっきりお茶を噴出した。 お茶を入れてきたのは土くれのフーケ、否、ミス・ロングビル?否、マチルダ・オブ・サウスゴータだった。 「だってオールド・オスマンが……」 「だって可哀想なんじゃもん。確かに縛り付けてるのも、胸の強調具合とか官能的じゃったけど」 指差されたオスマン氏がてへっと頭をかいた。 「今私は何もできない立場だから、心配しなくて良いわ。どんな手を使うにももう八方塞よ」 その表情はもうどこか心が折れていた。ぐったりしている。けどしっかりオスマン氏の腹を殴った。それは誰も止めなかった。 全員が席に着きお茶を全員が飲んで終わる事で、フーケの処遇話しが再開された。取り合えず全員其々の涙は止まったようだ。 「んじゃ私の愛人にするっちゅう事で」 開口一番オスマン氏が寝ぼけた事を言う。 ぽかーんとするフーケもといマチルダの前で、またオスマン氏はその場の全員から暴行を受けた。 またフーケもといマチルダがお茶を入れてきて飲みなおした。 「流石に城の衛士に付き出すのはどうか……と考えます」 コルベールがちらっと、フーケもといマチルダを見る。 ルイズやキュルケもうんうんと頷いて、オスマン氏に何か目で訴えている。 「同情?そんなの要らないわよ」 どこか自棄っぽい声で、フーケもといマチルダが吐き捨てた。 「あそこまで聞いて同情しないのも難しい」 タバサが呟く。 「んま、人間の精神構造的に何も思わんってのが無理じゃ。『そんなもの?』で済む範疇じゃなかったからの」 オスマン氏が、ぷちぷちと顎鬚を抜きながら遠い目をする。 「そう思うならあんな事しないでよっ」 フーケもといマチルダがちょっと涙目だ。 「け、けけ、けどそこまですごいのが飛び出してくるなんて、思ってなかったのよ。ギーシュもマリコルヌも、あんまり大した事なかったんだもん」 ルイズが冷汗を垂らしながら視線を宙に泳がす。 「あんな単純な変質者と一緒にしないでっ!あとよく判らないけど、フーケに統一してくれて良いわ」 フーケの言葉にギーシュがすごい嫌な顔をして『マリコルヌと一緒マリコルヌと一緒』と繰り返し呟いている。 「『ギーシュさん』をあんなのと一緒にするでない。『ギーシュさん』はピュアで物凄い『愛』に溢れておるんじゃぞ!」 オスマン氏が興奮して話しが逸れて暴走したので、フーケが又お茶を入れに行った。 またフーケが入れてきたお茶を飲みなおした。 「どっちにしろ揃って聞いちゃ不味い話しも聞いちまったんじゃよなぁ……」 オスマン氏の言葉はどうやらアルビオン王国の話しらしい。フーケは元そこの貴族との事だった。 「そういう意味では我々も、フーケが何処かしらかでその事を漏らせば、危険だと言う事ですな」 「じゃあやっぱ、こいつはばらすしかねえな。おれに任せてくれりゃ後でその関係の奴は全部暗殺しといてやるよ まずはそのティファニアって小娘からだな!」 フーケが『それだけは絶対許さないから!』と半泣きでおぼんでアヌビス神に殴りかかったが、誰も止めなかった。 タバサがお茶を入れてきて飲みなおした。 「「「「「「ぶーっ」」」」」」 全員凄まじい苦さに噴出した。 またフーケが入れてきたお茶を飲みなおした。 「やっぱお茶はミス・ロングビルもといフーケちゃんのに限るのー」 「はははは、全くですなオールド・オスマン」 繰り返す内に二人はいつもの感覚に戻ってきたようだ。 ついになにやら談笑を始めた。 フーケは先程触れられた事が不安でたまらないらしく、少しすがるような目に変わっている。 アヌビス神は放置しておくと脱線の元NO1なのでデルフリンガーをお目付け役(道連れ)にして棚の中へと放り込まれた。 「暗いよーっ、孤独だよーっ、こういうの嫌だよーっ」 「うるせえー。俺もいるのに孤独たーどういう了見だ!」 「あ、あああ、あ、兄貴。もっと喋ってくれっ。おれ暗くて孤独なの博物館思い出して駄目なんだ」 「こんな時だけ兄貴呼ばわりか、てめぇー!」 「怒っても良いからぁー」 「あ、甘えてくるんじゃねー!気持ちわりいぃぃぃぃぃ!!」 それでも小さい声が五月蝿いが、気にしない事にする。 「さて、五月蝿い犬は片付けたし今度こそ、さっさと結論だしましょう」 ルイズは棚の隙間にしっかりと目張りし、振り返る。 「うむ。さて結論から言えば、監視的な意味も含めて目の届く場所にいて貰うしかないかの」 「では学院の一室に監禁を?」 「うむそういうプレイも燃えるの!」 「ちょ、ちょっとワクワクしてきましたよ!」 「エア・ハンマー」 タバサが椅子に立てかけていた杖に手を伸ばして少し動かす。 髭とハゲが壁に叩きつけられる。 ルイズが水の入ったティーカップを机に叩き付けるように置いた。 「さっきのはジョークじゃ。うっかり欲望に流されたんじゃ。 取り合えずフーケちゃんには……」 「”ちゃん”は止めてください」 「えー、かわいいのに」 フーケの言葉にオスマン氏は両手の人差し指を胸の前で絡めながら、物凄い残念そうにする。 「お・願・い・で・す・か・ら・止・め・て・く・だ・さ・い・!」 「ちぇー。 まあ取り合えず、監禁などせんよ。続けてミス・ロングビルとして秘書続けてくれんか? 正直フーケちゃんより優秀な秘書には私会ったこと無いし」 要求が通じないので、フーケは悔しさに任せて水を一気に飲み干した。 「勿論盗賊行為は自重してもらうがの。その代わり仕送りきつくなるじゃろ?」 「ま、まぁ……そうですわね」 「こっそり給料増やしてやるわい。そこのハゲの分減らせば余裕じゃ」 コルベールが口に含んだ水を噴出す。 「嘘じゃよ。まあ贅沢無理でも苦労せんぐらいの額は、私の懐からどうにかなる」 咳きこむコルベールを横目にオスマン氏は続ける。 「そっちがよけりゃ、その子達皆ここに呼んでもええ」 「そ、それは……」 フーケが冷汗を流す。 「ハーフエルフだって言うんじゃろ?」 一同揃って『最初は死ぬほど驚いたけど』とか頷く。どうやら驚きを越える感情の嵐で、その時来るべき驚きポイントが流れたらしい。 「そ、そこまで知って……」 「それ所かその先までじゃ。性格性質から何から何までの。そうじゃなけりゃ揃って平静な顔しとらんわ むしろ私的には是非是非会いたい所じゃ! …………乳とか楽しみ」 最後に小声でぼそっと付け加える。しっかり横で聞いたコルベールが力強く頷きかけて首を止める。 「は?最後に何かおっしゃいませんでしたか?」 「伝説っぽい何かは見なかった事にするから、と言っただけじゃよ」 オスマン氏は唇を尖がらせて何食わぬ顔で水を啜る。 「つ、連れてこない方向で検討します し、しかし、そんな都合の良い話し、条件が有るのでしょう?」 「うむ、条件は一つじゃ」 「それは……なに?」 机の上にからオスマン氏の方へ身を乗り出し、フーケはごくりと唾を飲み込む。 「今晩ある『フリッグの舞踏会』で私の踊りの相手をする事じゃ!」 オスマン氏と『それは私が言いたかった事ですぞ!』と言うコルベールが殴り合いの喧嘩になった。 又タバサがお茶を入れてきた。タバサしか飲まなかった。 「さて……フーケちゃん、この話し飲むかね?」 「同情は気にいりませんけど、選択肢がその一つしかないですから」 フーケは”ちゃん”を繰り返されるのに少し額をぴくぴくさせながら同意を示した。 ルイズ達は、やっと表情を和らげ、ほっと胸を撫で下ろした。 「フーケちゃん、いやミス・ロングビルよ。最後にわしから言えるのはこれ位じゃ。 ちょっと髪の毛アップにして。そそそ、うんその辺で結んでみてくれね?うなじが見えて絶対色っぽさが増すと思うんじゃっ!」 オスマン氏と『ツインテール試した方が良いのでは?』と言うコルベールが殴り合いの喧嘩になった。 今度はキュルケが熱湯をなみなみと満たしたティーカップを置いた。 気付かずに熱湯を口にしたコルベールがのたうちまわる。 「復讐は程ほどで止めておくのが賢明ってものじゃよ」 そんな中オスマン氏は、やっと本当に真面目な顔をした。 土くれのフーケはミス・ロングビルとして、引き続き学院長の秘書としての職務を続ける事となった。 そして一応内々に処理はした物の、事実をしる教師達向けへの発表も兼ねて、土くれのフーケは『破壊の杖』を奪い返された後、重傷を負い逃走、消息不明という形を取っておいた。 「さて、君たちの、今回の褒章じゃが……。最初は『シュヴァリエ』の爵位申請をとでも考えておったんじゃが、内々に処理する事になった以上無理な話しじゃ…… 話しの途中、熱湯はきついのでギーシュが新たにお茶を入れてきた。薔薇の香りが部屋にぱぁーっと広がる。 「美味っ!これ、うんまっ!『ギーシュさん』SUGEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!」 オスマン氏が感動して話しが逸れた。 またかよ、しゃーねえなーと思いながら全員、その味が気になって一口含む。 「ミス・ロングビルのより美味いですぞっ!」 コルベールが驚く。 「ど、どどど、どうやって入れたのかしらっ!?」 コルベールの言葉にむっときながらも、フーケもといミス・ロングビルも口にして、目をぱぁーっと輝かせる。 「何よ、大袈裟な反応して……なにこれすごっ!」 「そうよ、ルイズの言う通り大袈裟過……な、なに?この香り。美味しいじゃないっ!」 ルイズとキュルケが感嘆の声を上げる。 「……わたしの方が上手」 タバサが呟いた。 「「「「「 そ れ は な い ! 」」」」」 それを横目に、ギーシュが薔薇の杖をひらひら振りながら歌うように語る。 「特別に調合させたローズティーさ。それを更にモンモランシーと相談しながら色んな茶葉とブレンドしたんだよ」 愛の調合がどうとか語るその話しをオスマン氏だけが目をキラキラさせながら聞き入っていた。 「……で、褒章じゃが。君等の望みをできる範囲でかなえてやろうと思う。 成績上げてくれとかは駄目じゃよ?ゆっくり考えておきなさい」 考え込む四人を見てオスマン氏はニッコリと笑う。 「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。このとおり、『破壊の杖』も戻ってきたし、予定どおり執り行う」 キュルケの顔がぱっと輝いた。 「そうでしたわ!この騒ぎで忘れておりました!」 「今日の舞踏会の主役は『ギーシュさん』じゃ! じゃなかった。 もとい君たちじゃ。用意しておきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」 四人は礼をするとドアに向った。ルイズはアヌビス神とデルフリンガーの事を、すっかり失念して其の侭部屋に帰った。 ---- [[アヌビス神-13後]]へ
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