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仮面のルイズ-15」を以下のとおり復元します。
「…とまぁ、それがワシとリサリサ先生の出会いだったんじゃよ」 
オールド・オスマンが水パイプを取り出しつつ、感慨深そうに話す。 

「へぇ、その人の血を、シエスタは一番濃く受け継いでる訳ですか、何ともまぁ…」 
マルトーが驚き半分、呆れ半分といった感じで呟く。 
オールド・オスマンの話では、シエスタの曾祖母リサリサは、波紋という先住の魔法を使って吸血鬼を打ち倒したと言う。 
念のためにとディティクト・マジック等で調査させて貰ったが、特に反応はない。 
話を聞いてみると、リサリサは東方のロバ・アル・カリイエからやってきた人間であり、エルフではないということだ。 
だが、いくら人間とはいえ先住魔法の使い手が注目されないわけはない。 
オールド・オスマンは、魔法アカデミーにリサリサの魔法を報告した場合、エルフに対抗するためののサンプルとして拉致され、タルブ村にもその被害が及ぶであろうと考えた。 
命の恩人を危険にさらすのは忍びないとして、誰にも報告せずにいたのだ。 

「マルトーや、彼女が先住の魔法を使うからといって恐れずにいてくれんか」 
「はい、そりゃもう。…それよりもシエスタにも危険な目に遭わせないでやって下さい」 
「分かっておるよ、なあに安心せい、王宮を煙に巻くのはワシの得意技じゃからのう!」 

話が終わり、マルトーは厨房へと戻っていったが、その横でロングビルは頭を悩ませていた。 
話を聞く限りでは、シエスタはルイズの天敵なのかもしれないのだ。 
「ミス・ロングビル、浮かない顔をしとるの」 
「あ、いえ……ただ、ミス・ヴァリエールが気にかけていたシエスタに、そんな魔法の才能があったという話が、運命の悪戯のようで……」 
「うむ、そうじゃろうなあ」 
そこでロングビルは考える。 
一介の秘書に過ぎない私に、それも家名を失った私に、こんな重要な話をしたのは何故? 
嫌な予感がした。 

重々しく、オールド・オスマンが口を開く。 
「ときに、ミス・ロングビル」 

「ミス・ヴァリエールが生きているとしたら、君はどうするね」 


その頃、タルブ村では突然現れた風竜に村人が驚いていた。 
「ここがタルブ村?」 
「そうです、ここが…あ、お父さん!」 
広場に降り立った風竜の背に、マントを着けた貴族が乗っているのを見て、村人は仰天した。 
お父さん、と呼ばれた人物が風竜を見ると、その背から貴族の格好をした娘が降りてくるのを見て、再度驚いた。 
シエスタは父に駆け寄ると、抱きついた。 
「お父さん!」 
「シエスタ!?お前、いったいどうしたんだ、そんな格好をして」 
「あ、あのー、これは……オールド・オスマンが曾祖父の件だって言えば分かるって」 
それを聞いたシエスタの父は、ああ、と呟いて、シエスタを見た。 
「お父さん、ひいお婆ちゃんは、気が触れて村を飛び出したって言っていたのは、嘘だったの?」 
「許してくれ、これを他言できない理由は聞いただろう、そちらの貴族様もご存じなのかい?」 
シエスタの父はちらりと、キュルケとタバサを見る。 
「うん…」 
「そうか…」 

久々の父娘の再会に水を差すようだが、このままでは話が進まない。 
キュルケはワインを要求し、タバサはシルフィードに寄りかかって読書を再開した。 
シルフィードはこんな所でも本を手放さない主人に呆れたが、いつものことだと思って諦めた。 
「あの、ミス・タバサ」 
読書しようとしたタバサに声をかけたのは、シエスタだった。 
いつも通り無言で済まそうと思ったが、シエスタの傍らにいる少女に目が移る。 
年の頃10歳ほどだろうか、少女の持つカゴには野草がたくさん摘まれていた、もちろんハシバミ草も入っている。 
「何?」 
興味を牽かれたタバサは、思わず返事をした。 
「ひいお爺ちゃんが伝えた料理で、ヨシェナヴェという料理があるんです、お口に合うかどうか分かりませんが、よろしければ一緒に昼食を」 
「止めて」 
「あっ、ご、ごめんなさい、村の料理を薦めるなんて、私無礼なことを…」 
「違う、かしこまらないで」 
「え?」 
「あなたもメイジ、私のことは呼び捨てでいい」 
シエスタはタバサの言葉に、タバサはハシバミ草を使うであろう料理に心を打たれ、二人して笑顔を見せた。 


「お前ら、よっぽど王党派のことを嗅ぎ回ってたみてぇだな、噂になってるぜ」 
ルイズとブルリンは目隠しをして、椅子に座らされている。 
宿屋で捕縛され、猿ぐつわを噛まされて二人は連行された。 

ルイズはここに連行されるまでのことを考えていた。 
それなりの距離を歩いた歩かされた気がするが、曲がり角を二十カ所以上曲がった上に、周囲の気温が微妙に変化していた気がする。 
足の裏から伝わってくる感触は、均整のとれた石畳の感触だった。 
日陰と日向を歩かされたのも分かっているので、まだアルビオン首都の中にいるのだろう。 
ある点から石畳の感触が変化し、繋ぎ目がほとんど感じられなくなった。 
そして更に歩くと石畳は微妙に柔らかい感触になる、これは倉庫などに使う湿気を吸収する石だろう。 
おそらく、大きな屋敷の倉庫に監禁された状態だ。 

「おいおい、だんまりじゃわからねえよ、まあしばらく頭を冷やすんだな、貴族派に付くなら解放してやってもいいんだぜ」 
「誰が、誰が貴族派なんかに付くかってんだ」 
隣でブルリンが言う、威勢がよいとは言えないが、いつ殺されるか分からない恐怖の中でこれだけ言えるならたいしたものだと思う。 
「そっちのお嬢ちゃんも考え直すんだな」 
ルイズ達を尋問していた男は、部屋から出て行った。 
「ちくしょう…」 
ブルリンが悔しそうに呟く。 
「あんたよっぽど目立ってたのねえ」 
「そ、そんな事言われてもよぉ、すまねえ姉御、迷惑かけちまって」 

 ミキッ  ブチン 

「あ、あれ?手かせが外れたぞ?」 
ブルリンは慌てて自分の目隠しを外す、するとルイズがブルリンの手かせを握って立っていた。 
手かせは、無惨にも引きちぎられている。 
「………すげえ」 
「鉄じゃ役に立たないわよ」 
「でも姉御、ここからどうやって逃げるんですかい」 
ブルリンの言葉ももっともだ、この部屋はルイズが睨んだとおり倉庫らしい、窓には格子がはめられている。 
ルイズは地面に耳を当てて、周囲の音を拾い始めた。 

「…外に見張りはいるけど、少し離れてるわね、今足を組み替えたかな…椅子に座ってるのかしらね」 
「すげぇ、姉御、何でもできるんだなあ」 
「静かにしなさい」 
ルイズに注意され、ブルリンは慌てて自分の口を手で塞いだ。 
「………一人………四人………十一人…ん?」 
足音からこの建物内にいる人数を数えようとしたが、廊下から奇妙な音が聞こえるのに気づいた。 
ただの足音だが、どうもその足音が気になる、上手く表現できないが、何か奇妙なのだ。 
「…。…。…。…。…。…。」 
地面に耳を当てたまま、ルイズは小声で何かを呟いている。 
ブルリンは心配そうにそれを見ていたが、ルイズが立ち上がったのを見て、口から手を離した。 
「ブルリン、傭兵に従軍経験のあるメイジって、けっこう見かけるもの?」 
「いや、そんな奴ら滅多にいねえよ」 
「そう…なら安心ね、たぶんこいつら王党派よ」 
「えっ!?」 
「足音の間隔が揃いすぎてるのよ、ちょっと歩くぐらいならまだしも、廊下を歩く音のほとんどは足並みをそろえるように歩いてるわ、たぶん60サンチ程度の間隔でね」 
「ど、どうしてそれが王党派だと分かるんで」 
「儀仗隊よ、王族や貴族の親衛隊は能力が高ければいい訳じゃ無いわ、統率された行動のとれる者でなければ親衛隊にはなれないの」 
「それが足音から分かった…って事か」 
「そうよ、奴らが貴族派の兵隊なら、傭兵のフリなんかしないはず…自分たちは傭兵だと偽ったのは、貴族派の目をくらませるためでしょうね」 
「すげぇなあ、姉御、ホントにすげぇや」 
「とりあえず、ここで待ちましょう、今外に出ても騒ぎを大きくするだけよ」 
「わかったよ」 

ルイズは椅子に座り直し、大きく深呼吸した。 
足音を聞くと、母親の姿が思い出される。 

規律を重んじる母は、マンティコア隊隊長として隊員から強く慕われていた。 
何度かマンティコア隊の姿を見たことがあるが、突風が吹いても微動だにしない儀仗隊にこれ以上ない程、一糸乱れぬ規律の採れた動きだった。 
ルイズは久しぶりに、自分の生まれの良さを思い返し、母に感謝した。 


To Be Continued → 

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