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「さてと皆さん」 コルベールがおちゃらけたように禿げ上がった頭を叩く。 その顔は実に嬉しそうだ。 そして机の上に何か置く。それは実に妙なものだった。 円筒状の金属の筒に、金属パイプが伸びている。そのパイプはふいごのようなものに繋がっている。 円筒の頂上にはクランクがついており、そのクランクは円筒の両脇にある車輪に繋がっていた。 そして車輪は扉のついた箱にギアを介してくっついている。 まさしく妙なものだった。 おそらく魔法に関係ある道具なのだろう。 「それはなんですか?ミスタ・コルベール」 違ったようだ。 どうやら生徒もあれがなんなのかわからないらしい。 いや、もしかしたら生徒も知らない魔法関連の道具なのかもしれない。 「おほん」 クラスの注目が集まる中、コルベールがもったいぶった咳をする。 「えー、『火』系統の特徴を、誰かこのわたしに開帳してくれないかね?」 コルベールはそう言うと教室中の視線が一箇所に集まった。 その視線の先にはキュルケが存在していた。キュルケは授業中にも係わらず爪の手入れを続けている。 しかしなぜキュルケに視線が集中するんだ? 確かにキュルケは『火』系統のメイジだったはずだが、そんなにクラスが注目するほど優秀なのだろうか? ……この反応を見る限り優秀なのだろう。 「情熱と破壊が『火』の本領ですわ」 注目を浴びる中、キュルケは爪をいじりながら気だるげに答えた。 「そうとも!だがしかし、情熱はともかく、『火』が司るものが破壊だけでは寂しいと、このコルベールは考えます」 キュルケの態度などまるで問題にせず(諦めているのかもしれない)にこにこしながらコルベールは言う。 「諸君、『火』は使いようですぞ。使いようによっては、いろんな楽しいことができるのです。 いいかねミス・ツェルプストー。破壊するだけじゃない。戦いだけが『火』の見せ場ではない」 「トリステインの貴族に、『火』の講釈を承る道理がございませんわ」 コルベールの言葉にキュルケはイヤミで返した。 言い草からしてトリステインの貴族よりゲルマニアの貴族の方が『火』について詳しいと言っている感じだ。 あのときキュルケに注目が集まったのはゲルマニアが『火』系統に優れているからかもしれない。 しかしキュルケは本当に舐めきっているな。イヤミすら言うほどだし。 だが言われた本人は気にせずににこにこしている。なぜ怒らないんだろうか? 「でも、その妙なカラクリはなんですの?」 キュルケもやはり気になっていたのかきょとんとした顔で机の上の妙なものを指差す。 その言葉でにこにこしていたコルベールの口がさらにつりあがる。 まるでよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりだ。 「うふ、うふふ。よくぞ聞いてくれました」 うわ、本当に言ったよあいつ。 「これは私が発明した装置ですぞ。油と、火の魔法を使って、動力を得る装置です」 なるほど、どうりで生徒どもが知らないわけだ。 個人が発明したものを知っているわけが無いからな。 「まず、この『ふいご』で油を気化させる」 コルベールはそういいながら足でふいごを踏み始める。 「すると、この円筒の中に、気化した油が放り込まれるのですぞ」 あれ、これもしかして…… そんなこと考えている間にコルベールが慎重な顔で円筒の横に開いた小さな穴に杖の先端を差し込む。 そして呪文を唱えたかと思うと発火音が断続的に聞こえてきて。そして発火音は爆発音に変わった。 「ほら!見てごらんなさい!この金属の円筒の中では、気化した油が爆発する力で上下にピストンが動いておる!」 思ったとおり円筒の上についていたクランクが動き出し車輪を回転させる。 回転した車輪は箱についた扉を開く。すると開いた扉からギアを介してヘビの人形が出てきた。 「動力はクランクに伝わり車輪を回す!ほら!するとヘビくんが!顔を出してぴょこぴょこご挨拶!面白いですぞ!」 いや、全く面白くは無い。 だが凄さはわかった。しかし周りは凄さがわからないらしく反応が薄い。 「で?それがどうしたっていうんですか?」 そう言われたコルベールは少し悲しそうな顔をした。 しかしそれを吹き飛ばすかのように咳払いを一つする。 「えー、今は愉快なヘビくんが顔を出すだけですが、たとえばこの装置を荷車に載せて車輪を回させる。すると馬がいなくても荷車が動くのですぞ! たとえば海に浮かんだ船のわきに大きな水車をつけて、この装置を使って回す!すると帆がいりませんぞ!」 「そんなの、魔法で動かせばいいじゃないですか。なにもそんな妙ちきりんな装置を使わなくても」 コルベールの発言を否定する発言に皆が頷きあう。 わかってないな、魔法を使える奴らは。これがどれだけ画期的な発明か。魔法が使えるからわからないんだろうがな。 「諸君、よく見なさい!もっともっと改良すれば、なんとこの装置は魔法がなくても動かすことが可能になるのですぞ! ほれ、今はこのように点火を『火』の魔法に頼っておるが、例えば火打石を利用して、断続的に点火できる方法が見つかれば……」 コルベールは興奮した様子でまくし立てるが生徒たちは、ついていけないよ、といった感じだ。 そうだ、今のうちに聞いとくか。 「ミスタ・コルベール一つ聞きたいことが」 そう言って手を上げ質問する。 「ん?あなたはミス・ヴェリエールの使い魔だったな。なにが聞きたいんだね」 「それは自分ひとりで考えついたものですか?」 「ああ、その通りだ」 コルベールは誇らしげに頷く。 「誰に教わったわけでもなく?」 「勿論だ!」 よくもまあ魔法が使えるこの世界でこんなものが思いつけるものだ。 コルベール本当に天才らしい。それがたった今証明された。 もっとも魔法が使えるせいで受け入れられない天才だがな。 「しかしどうしてそんな質問を……、まさか!きみは何かこれについて知っているのかね!?」 コルベールが突然そんなことを言いだし、興奮した様子で近寄ってくる。 「もしかして似たようなものを見たことがあるとか!?」 眼前に顔が迫ってくる。 近い!近いって! 「え、ええ。似たようなものを見たことがあってつい質問を……」 「それはどんなものなのかね!?形は!?原理は!?用途は!?名前は!?」 安全地帯にも地雷は埋まっているものだと初めて知った。 なぜなら自分が地雷を踏んでいたからだ。 それ以上顔を近づけるな!大きな声を出すな!つばが飛ぶ!鼻息が荒い!頭が眩しい!
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