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**終焉! 流星は時の彼方へ まばゆい閃光! それは音も無く広がり、ルイズ達を飲み込んだ。 「キャアッ! な、何なのこれ!?」 「ルイズ……!」 光の中、承太郎は咄嗟にルイズに駆け寄り抱きしめると、即座にスタープラチナの拳を床に叩き込んで、右腕を肩近くまで埋めた。 光は渦を巻きながら、重力のように周りの物を引き寄せている。 承太郎は何とか床に腕を埋め込む事で、それに抗った。 それを見て仗助も慌ててクレイジー・Dの拳を地面に打ち込みながら叫ぶ。 「アズーロ! 逃げろ!」 部屋の隅、壁に寄りかかりながら目を覚ましたアズーロは、光から逃れようと慌てて天井近くまで飛び上がる。 だが光に引きずられた天井にヒビが入り、砕けていく。 アズーロは落ちてきた天井の瓦礫で頭を打って、床に墜落してしまう。 だが幸い仗助の近くに落ちたため、尻尾をクレイジー・Dに掴んでもらえた。 そして、気絶していたディアボロは誰に助けられる事もなく、部屋中に散らばるガーゴイルの残骸と共に光の中に引きずり込まれていった。 ディアボロの姿が消えるのを見た承太郎は、冷や汗をかきながら叫ぶ。 「デルフ! これはいったい何だ!?」 「時空間の歪みだね。時間を止めたり吹っ飛ばしたりを連発したところに、空間を繋げるサモン・サーヴァントのゲートなんかを開けちまって、その後も時間をいじくった挙句、エクスプロージョンで虚無の力を使った。 あまりに滅茶苦茶やりすぎたもんだから、ゲートの痕跡が暴走して、時空間に穴が空いちまったみたい。こんなにおでれーたの何千年振りだ?」 「……で、その時空間の穴とやらに落ちると、どうなるんだ?」 承太郎の質問を、ルイズと仗助は固唾を呑んで見守った。 重力が90度引っくり返ったかのように、自分達は横方向に落下しようとしている。 あの穴をどうにかできなければ、自分達が飲み込まれるのも時間の問題だろう。 「そうだねぇ、多分、時の狭間にでも落っこちて、異空間を永遠にさ迷うんでないの? 運がよければどっか別の場所に飛ばされるだろうけど、飛ばされる場所と時間がどこでいつなのかの保障は無いねぇ」 「どうすればいい?」 「知らね」 舌打ちをしながら承太郎は渦の中心を凝視する。 虚無の魔法、空間をつなぐゲート、スタンドによる時間操作。 それらの要因が集まって現れたあれをどうすればいいか、あの光を消すには――。 「ディスペル・マジックだ! 俺達が助かる可能性はそれしかない!」 「わ、解った。やってみる!」 ルイズは杖を落とさないようしっかり握りしめながら、承太郎の腕の中で虚無の詠唱をつむいでゆく。 だが詠唱には時間がかかり、歓声までの時間を許さないものがいた。 「や、やばい……腕がッ!」 アズーロの巨体を支えているクレイジー・Dの腕が悲鳴を上げ、さらに床に打ち込んだ腕が抜けかけかけている。 「こらえろ仗助!」 「む、無理っスよぉ~両手がふさがってんだから! 物を直して引っ張るにしても、近くには何もねーしよぉ~……」 アズーロを放せば、仗助は助かるかもしれなかった。 だが仗助は決してアズーロを放そうとせず、承太郎もそれを理解していた。 仲間を見殺しにはできない。 当然の事をしているだけだ、例えその結果――。 「……承太郎さん。運がよければ、またどこか別の世界、別の時間で」 「仗助ッ!」 クレイジー・Dの腕が床から抜け、地面に落下するかのようにして、部屋の中央にある光の奔流の中へと仗助とアズーロは吸い込まれていった。 その光景を見て、ルイズの詠唱がわずかに途切れる。 「……ルイズ、詠唱を続けろ」 「……ッ!」 嘆いてもどうにもならない、今ここで無駄口を叩いたら詠唱を失敗してしまう。 だから涙を呑んで、せめて自分達だけでも助かるようにとルイズは唱える。 一方承太郎は、自分達が仗助と同じ末路になりかねない事に焦っていた。 左手でデルフリンガーを握り、右手でルイズを抱きしめ、スタープラチナの右腕を杭のように床に打ち込んでいるものの、その衝撃で床はひび割れており、左腕で補強しようと打ち込んだら、間違いなく床が崩れ逆効果となってしまう。 時間を止めれば何とかなるかもしれないが、時空間の歪みとやらのせいで何度試みても時を止められない。 少しずつ、少しずつスタープラチナの右腕が抜けていく。 時空間の穴はますます勢いを増し、床や柱にも亀裂が走っていった。 「いいかルイズ、これから何が起きようとも……絶対に詠唱を続けろ。 床が崩壊しようが、天井が落ちてこようが、俺が守ってやる。 ガンダールヴとしての意思じゃあねー……俺の意志で」 その言葉を聞いたルイズは、途端に身体中に力がみなぎるのを感じた。 詠唱を歌のように軽やかにつむげる。 これなら、あの光の渦を何とかできるかもしれない。 やれる。できる。助かる。成功する。 ――はず、だった。 最初に、光の渦の真下にある床がはがれ、吸い込まれた。 さらに柱や天井も崩壊し、次々と光の中へ消えていく。 円を描くように床の崩壊は広がり、承太郎達を支えていた床も引っくり返った。 承太郎ごと空中に投げ出される感覚の中、ルイズは言われた通り詠唱を続ける。 すると、ルイズの指に突如何かがはめられる。 「……アンドバリの指輪だ。俺の代わりに、水の精霊に返してやってくれ」 ……何、それ? まるで、自分はもう返す事ができないみたいな言い方して……。 ルイズは、馬鹿げた事を言い出す承太郎に文句が言いたくて、残り少ない詠唱をさっさとすませようとした。 「おめーはもうゼロなんかじゃねえ。自信を持って生きろ」 後少し、後ちょっとで詠唱は終わる。終わったら、文句を。 「あばよ、ルイズ!」 詠唱が、終わった。 杖を光の中心へと向けると同時に、ルイズを抱き上げた承太郎が、その唇に、一瞬だけ触れるようなキスを。 ルイズの杖から放たれたディスペル・マジックの光が、時空間の穴とやらが放つ光と衝突する。 それは承太郎の背中に触れるか触れないかという距離で起きた。 詠唱が完成したのは、まさに飲み込まれる瞬間の出来事だったのだ。 承太郎の身体は、次第に光の中に消え、しかしスタープラチナはデルフリンガーの刀身をルイズのマントに突き刺すと、もろともに全力でぶん投げた。 矢のように飛ぶルイズは、崩れた壁の破片の隙間を縫って行き、隣の部屋の壁にデルフリンガーの刀身が突き刺さる事で停止した。 「きゃうっ!」 マントが破れ、壁に刺さったデルフから落っこちたルイズは、崩壊した壁の向こうで未だ渦を巻く光を見つめながら叫んだ。 「承太郎ォォォォォォッ!!」 しかし答えは無く、光は次第に小さくなっていき、その上に天井や屋根の瓦礫が次々と降り注ぎ、粉塵を巻き上げる。 粉塵はルイズのいる部屋にまで及び、さらに天井まで崩れ出す。 その拍子にデルフリンガーが壁から抜け落ち、ルイズのかたわらに寄り添うようにして壁に立てかけられる形となった。 首都ロンディニウムの王城は、玉座の間を中心に半壊し、屋根は跡形も無く崩れてしまい多くの者が瓦礫に押し潰されて死んだ。 こうして指導者を失ったアルビオンは敗北し、連合軍が勝者となった。 横槍を入れるタイミングを見誤ったガリア王国は、結局この戦争にはほとんど関われずに終わる。終戦後も蚊帳の外だった。 連合軍の艦隊は無事ラ・ロシェールまで撤退し、ギーシュもシエスタ達も無事だ。 敗退したというのに、気がついたら勝利していたというのは、何とも奇妙だった。 とはいえ、勝利した事、生き残った事に喜ぶ連合軍達の中、ギーシュとシエスタは二人の人物の無事を願い続けていた。 戦争が終わり事後処理に後を追われていた女王アンリエッタは、枢機卿マザリーニが持ってきた戦死者リストを一晩かけて読み明かし、そして末尾に記されているふたつの名前を見て――泣いた。 ひとつは、聞き慣れない響きの、けれど決して忘れられぬ恩人の名前。 もうひとつは、幼い頃からずっと知っている、親しみを持った名前。 しかし――そのうちのひとつは、近いうちにくつがえさせられた。 首都ロンディニウムの瓦礫の中から、一人のメイジの少女が発見された。 服装はトリステイン軍の物で、脱水症状を起こし意識は無かった。 それでも発見されたのは、彼女のかたわらにあったインテリジェンスソードが、昼夜を問わず大声で助けを呼び続けたからだ。 そのインテリジェンスソードはよほど頑丈らしく、少女の上に落ちてきた大きな瓦礫から守るように、柱のような役割をしていたという。 頑丈なのが取り得だと自慢するインテリジェンスソードの口から、メイジの少女の名はルイズと判明した。 発見後、アルビオンの医療施設に運ばれ治療を受け、報告を受けたトリステインはすぐさま迎えの兵と治療のための水メイジを送った。 ルイズが目を覚ましたのは、トリステインに連れ帰られて三日後の事だった。 彼女は治療を受け持ったメイジから事情を聞かされると、自分以外に助かった者はいないか、玉座の間に遺体は無かったかと訊ねたが、どちらも否定され――夜になってから、誰にも気づかれぬよう、ひっそりと泣いた。 第七章 銀の降臨祭 完 ┌―――――――┘\ │To Be Continued > └―――――――┐/
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