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仮面のルイズ-38」を以下のとおり復元します。
アルビオンの首都ロンディニウムにほど近い、工廠の街ロサイス。 

数時間前に、神聖アルビオン帝国空軍の旗艦である『レキシントン』の艤装作業が完了し、食料などの搬入作業も終わろうとしている。 

町はずれには、作業員達が憩いの場にしている酒場があったが、今は閑古鳥なのか客は誰もいない。 

太陽がそろそろ傾き始める頃、店主がため息をついた。 

「こりゃあ、困ったなあ…大赤字だ」 
木製のカウンターの裏には、大きな酒樽がいくつも並んでいる。 
『レキシントン』をはじめとする戦艦の艤装が始まり、街が活気づくと予想した店主が大枚を叩いてかき集めた酒だ。 

ところが、ロサイスで働く技師や商人の足がぱったりと途絶えてしまった。 

一仕事を終えて、懐の暖まった連中を相手に酒を振る舞おうと思っていたが、夜になっても客足はまばらだった。 

なじみの客もなぜか来なくなり、店主は買い付けた酒の買掛金をどう工面しようとか途方に暮れていた。 

「あの…」 
店主はカウンターに肘を突いていたが、突然聞こえてきた声に驚き、バッと顔を上げた。 
お客が来たかと思い声の主を捜し、店内を見渡す。 
「あの、こっち」 
店主が声のした方を見ると、そこにはカウンターとに頭が隠れてしまう程小さい少女が立っていた。 
赤茶色の頭髪を紐で纏め、右肩から前に垂らしており、顔立ちはその年頃の少女とは思えないほど整っている。 
身体には茶色のローブを纏っており、決して裕福には見えない。 
「なんだい嬢ちゃん、ここは子供の来る所じゃないぞ」 
「ひとをさがしてるの」 
「なんだ、人捜しか…」 
「おとうさんが、なにかあったら、ロサイスではたらいてるおじをたずねろって」 

店主は少女の話から、戦災孤児か何かだと判断した。 

「ロサイスで働いてる叔父ねえ…悪いけどなあ、この店にゃ今、ロサイスで働いてる奴らは来ないのさ」 
赤毛の少女が首をかしげる。 
「どうして?ここはさかばじゃないの?」 
「そりゃあ、そうなんだが……何の仕事をしてるのか聞いてないのかい」 
「うーんと……くんせいのお肉とか、やさいとかを、ふねにはこぶんだって」 
「くんせい?すると、保存食か。ロサイス北通りに、赤い煉瓦のデカイ建物がある、そこが船に食肉を卸してるはずさ、そこを訪ねな」 
店主はそう言いながら、カウンターの裏から小さな乾し肉の包みを渡した。 
「これ、なあに?」 
「干し肉さ、一切れだけやるよ。探し人が見つかったら、包み紙に書いてある酒場をよく宣伝しておけよ」 
「ありがとう、おじさん。これお礼ね!」 
少女がカウンターの上に小さな巾着袋を置くと、走って酒場を出て行ってしまった。 

「戦災孤児かねえ、ああ畜生、人のこと心配してる場合じゃねえってのに……」 
ふぅ、とため息をつきながら、カウンターの上に置かれた巾着袋を持ち上げる。 
思ったよりもずっしりと思いそれは、ジャラリと、魅力的な音を響かせた。 
「……金か?どうせはした金…いや、それにしちゃ重すぎる」 
恐る恐る袋を開けると、そこには金色に輝く新金貨が五枚も入っていた。 
「ちょ、え、なんだ、こんな大金!?」 
袋を握りしめて外に出る、キョロキョロと辺りを見回したが、既に少女の姿は見つからなかった。 
試しに自分の頬をつねってみたが、当たり前のように痛かった。 
「夢じゃねえかなあ」 

それでもなお、掌の仲にある重さには、現実味を感じられなかった。 
ふと、近くの路地から少女と同じ色のローブを着た人物を見つけた。 
だが、背中に大剣を背負っていたので、関係はなさそうだと思い、店主は酒場の中へと戻っていってしまった。 

『いやー、それにしても子供のフリがうまいね』 
「褒めてるの?けなしてるの?」 
路地から出てきた女性は、背中に負った大剣と喋りながら、裏通りをてくてくと歩いていた。 
「ここで働いてるのは、サウスゴータから連れてこられた人間と、操られている技師が主でしょうね」 
『どいつもこいつも陰気な面してやがるのはそのせいか』 
「酒場は閑古鳥よ、操られていたら酒を飲む気も起こらないんでしょうね」 
『武器屋の店主がよ、仕事が終わった後の酒ってのは格別だと言ってたな』 
「そうねえ……私も酒じゃ酔えないけど、時々飲みたくなるわ」 
『へえ、吸血鬼に酒の味がわかるのかい?』 
「クセって奴よ、そう、人間の時のクセね」 



ゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世と、トリステイン王女、アンリエッタの結婚式まであと九日。 
結婚式はゲルマニアの首府、ヴィンドボナで行われる予定ではあるが、それに先んじてアルビオンからトリステインへの親善訪問が行われる。 
当初、トリステイン側は親善訪問を結婚式の三日前にしようとしていた。 
だが、アルビオン側からの強い要請により、予定を一週間近く繰り上げるハメになってしまった。 
ラ・ロシェールまでルイズに随行したアニエスが、宮殿に戻り早々そのことを知らされ、顔を青くしたらしい。 
マザリーニ枢機卿も、これが罠であることを重々承知していた。 
そもそも神聖アルビオン帝国などという王業名名前を付けれる連中だ、頂点に立つのは元司祭のクロムウェル。 
枢機卿という立場上、マザリーニは信仰の力の恐ろしさも、その利用法も熟知している。 
いや、知りすぎているがために、不可侵条約を結んだアルビオン帝国の訪問を止められなかったのだ。 
トリステインは決して強い国ではない、メイジの数で競うならば、はるかに国土の広いガリアに匹敵するほどの数が居るが、国力は非常に弱いのだ。 

アルビオンには強大なが空軍がある。 
ガリアにはガーゴイル生産技術がある。 
ゲルマニアには優れた工業技術がある。 

トリステインには、とりたてて何か優れた者があるわけではない。 
メイジとして優れた者が多くとも、それらが政治力、統治力を兼ね備えているとは言い難いのだ。 
あるとすれば貴族の過剰なプライドであろうか。 

増長したプライドが、他人を見下させ、想像力を欠如させる。 
神聖アルビオン帝国が、卑怯な手段を用いて大義名分を作り出すことは想像に難くない。 
しかしそれを、危機感として感じている貴族が、トリステインにどれだけ居ることだろうか。 

トリステインの政治家達は、自身を奮い起こす大義名分がなければ動けないほど、保身に凝り固まっているのだ。 

マザリーニは一人、執務室の窓から空を見上げ、ルイズの身を案じた。 

夜のうちに、ロサイスの街を見ておこうとしたルイズだったが、日没後に現れた沢山の警備兵達を見て、それを取りやめた。 
この街で働いている人間のほとんどは、アンドバリの指輪によって操られた人間達らしく、異常なほど規則正しい生活をしている。 
女子供の例外もなく、日没と同時に休息を取り、日の出と同時に働き始めているのだ。 
夜の街を歩いているのは警備兵だけ、ルイズの姿を見られたら間違いなく怪しまれるだろう。 
ルイズは、人通りが多くなる時間まで休息を取ろうとして、適当な家屋に侵入した。 
侵入した家屋には、一組の夫婦と、10才ほどの男の子が住んでいたが、ルイズのことを気にした様子もなく、機械的に日常を送っていた。 
機械的に食事を取り、機械的に身体を洗い、機械的に床に就く。 

ルイズはふと、吸血鬼ではなく透明人間になっていたら、こんな気分なのだろうかと考えた。 

翌朝、盛大に朝寝坊したルイズは、昼近くなってやっと行動を開始した。 
昨日酒場で聞いた「赤煉瓦の建物」を探そうと、操られた人間達に混じって街道を歩く。 

ルイズは赤煉瓦の建物を発見したが、そそくさとその前を通り過ぎた。 
中と外、両方に番兵が立っているのが見えたのだ。 

視線だけ動かして周囲を観察しつつ、街を歩く。 
ほとんどの人は目がうつろで、無言。 
正気を保っている人間はほとんど見かけられない。 

おそらく、洗脳した人間をかき集めて、仕事をさせていたのだろう。 
普段なら噂話にでも興じるような、ランプ油を売る店にも人はいない。 
多少、荒っぽい手段に出ようかと思ったところで、通りの先から馬車が走ってくるのが見えた。 

道の脇に寄って馬車を見送る、黒く塗られた箱形の馬車は、よく見ると馬車アルビオン空軍の紋章が描かれている。 
眼で馬車を追うと、先ほど通り過ぎた赤い煉瓦の建物の前で馬車が止まるのが見えた。 

同時に、赤煉瓦の建物の中から髪の毛をカールさせた恰幅の良い男が出てきた。 
その男は上質な絹の服を着ており、年齢は四十代ほどに見える。 
それを見たルイズは笑みをこぼした。 

「…あいつから話を聞きましょ」 
『どうやってさ』 
「”忘却”と、私の髪の毛を使って記憶を操作するわ、少しぐらいなら質問に答えてくれるでしょ」 
『先住魔法で操られてる相手に”忘却”は効かないぜ』 
「それは大丈夫よ、あいつ、笑ってたわ。賄賂でも貰ってきたんじゃない?」 
『よく見てるなあ』 
「まあね。 裏路地から先回りするわよ、竜騎兵が飛んでたら教えて」 
『あいよ』 

ルイズは裏路地を駆けながら、ティファニアの詠唱していたルーンを思い出す。 
一度聞いただけなのに、まるで脳にこびりついたかのように、ルーンが記憶されていた。 
腕の中に仕込んだ杖を右手に持ち、馬車の先へと回り込む。 
周囲に、操られている人間しかいないのが幸いした。 

ザザ、と足を滑らせながら、馬車の前に突如現れたルイズは、馬車を引く御者と馬車全体に向けて”忘却”の魔法をぶつけたのだ。 

ぐにゃりと空間が歪み、馬車を包む。 
馬車を引く馬がキョトンとして足を止め、御者もまたきょろきょろと辺りを見回した。 
それを見て、ルイズは御者の膝を軽く叩き、注意を自分に向けさせる。 
「あなたは街の外周をゆっくり回れと命令された、いいわね?」 
「え?ああ、そうだったかなあ……」 
ぼうっとした様子だが、御者は馬の扱いまでは忘れていないのか、手綱を軽く揺らして馬を歩かせる。 
ローブを脱ぎ、馬車の扉を開けて中を見ると、そこには先ほど見かけた恰幅のよい男が座っていた。 

ルイズはその男にローブをかぶせて視界を塞ぎつつ、自身の髪の毛を引き抜いた。 

髪の毛はしゅるしゅると、まるで触手のように蠢き、太い針のようなものを作り上げる。 
一見すると植物の種子にも見えるそれを、男の額にずぶりと突き刺す。 
すると、もこもこと音を立てて触手が頭に張り付き、大脳へと侵入していった。 
髪の毛を打ち込まれ、男は身体をがたがたと震わせていたが、しばらくすると動きを止めた。 

「さあ、質問に答えて頂戴。あなたの所属は?」 
「わ、わたしは、わたしは、神聖アルビオン帝国空軍の兵站支援部門……」 

兵站(補給・整備・輸送・衛生)を担当する部署の者だと知り、ルイズは、してやったりと思った。 

この男は、革命戦争前から戦艦に積み込む食料の運搬や検査を任されていたそうだ。 
だが、多額の賄賂を受け取っていた上、軍備予算の着服がバレそうになり、レコン・キスタに鞍替えしたらしい。 

「質問よ、トリステインへの『親善訪問』について」 
「し、親善訪問は、親善訪問だ、としか、聞かされてない」 

「上層部からの命令で腑に落ちないことはなかった?」 
「あった」 
「それを答えなさい」 
「しょ、食料を積み込まなかったのが、2隻ある、食料の代わりに火薬と脱出廷を多く積んだ」 

火薬と聞いて、ルイズの表情から笑みが消えた。 
「……デルフ、当たりよ。こいつら、トリステイン側から攻撃されたという名目で船を自沈させるつもりだわ」 
『だろうね』 

「クロムウェルが虚無を使うというのは本当?」 
「クロムウエル様は、死者を蘇らせるが、それが虚無なのか解らない。蘇らせるところを見たわけではないのだ」 

「最期の質問よ、レキシントンの出航はいつ?」 
「今朝、日の出と同時に、既に出航した…」 
「!」 
ルイズの眼が驚愕に見開かれた。 
『こりゃヤバいんでねーの』 
「…やられたわ、デルフ、すぐ出発しましょう」 

ルイズは男を荒縄で縛り上げ、猿ぐつわを噛ませると、額に打ち込んだ自身の髪の毛を引き抜いた。 

ローブを身に纏いつつ、馬車の扉を開け外に飛び出す。 
ルイズは街の外で待機させている吸血馬の元へと急いだ。 

「……もご、むご!?む…」 
猿ぐつわを噛まされ、喋ることのできなくなった男は、翌日の朝になって御者が正気に戻るまで、馬車の中に閉じこめられていたという。 




街道に出たルイズは、スカボローの港へと急いでいた。 
吸血馬で堂々と街道を走ると、その姿を見た度との何人かはルイズを指さして驚愕の視線を向ける。 
おそらく、石仮面……いや、鉄仮面の名がそれなりに広まっているのだろう。 
ルイズはフードを深く被りなおし、デルフリンガーの重さを確かめた。 
『嬢ちゃん、どうする気だい、港から出る船じゃあの戦艦には追いつかねえと思うぜ』 
「スカボローの港には警備用の竜騎兵かグリフォンがいるはずよ、それを奪うわ」 

吸血馬が走る。 

ド ド ド ド ド ド ド ド ドと、地響きのような足音を響かせ、土煙を上げながら走る。 

「止まれ!止まれーっ!」 
途中、騎馬兵がルイズを止めようとするが、吸血馬はそれを無視して走る。 


スカボローの港が遠目で見えてきた頃、直径1メイルはある火の玉が吸血馬の進行方向に落ちた。 

ボンッ、と音を立てて火球が地面に衝突し、炎が飛び散る。 
吸血馬はそれを難なく飛び越えると、その強靱な足で地面を踏みしめ急停止した。 
ルイズが上空を見ると、竜騎兵が二騎、ルイズに向けて杖を構えているのが見えた。 

一つは上空20メイルほどの高さに、もう一つは50メイルほどの高さに浮いている。 
ルイズの口元に、笑みが浮かんだ。 


低空を飛ぶ竜騎兵の杖から、『フレイム・ボール』と思わしき火球が生まれ、ルイズめがけて放たれ。 
高い位置にいる竜騎兵からは魔力の尾を引いた『マジック・ミサイル』が放たれた。 

「飛べ!」 
ルイズが叫ぶ。 
「GOAAAAAAAAAAAAAAA!!!」 
吸血馬がそれに呼応し、竜のような咆吼を上げた。 

ドォン、と音を立て、吸血馬とルイズが炎に包まれる。 
それを見て、二人の竜騎兵は笑っていた。 
『フレイム・ボール』と『マジック・ミサイル』を食らい、跡形もなく吹き飛んだだろうと思ったのだ。 

この二人は、ニューカッスル城から脱出したという『鉄仮面』の噂を知っていたが、ただの噂だろうとタカをくくっていた。 

だからこそ笑っていられたのだ。 

だが、炎を突き破り、高さ60メイル以上にまで飛翔した吸血馬とルイズを見て、二人は笑うのを止めた。 


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竜騎兵は、我が目を疑った。 
馬が、竜を『見下して』いたのだ。 

その馬はまるでワイバーンのように、頬が裂けるほど口を開いて、竜騎兵を飲み込んだ。 
吸血馬は空中で竜を踏みつぶし、たてがみを伸ばして、竜と同化していった。 

もう一人の、低空を飛ぶ竜騎兵は、その異常な光景に目を奪われていた。 
馬が竜を食らい、地面へと落ちる。 
あまりにも常軌を逸しているその光景に、身が震えた。 

「ぐっ」 

不意に、竜騎兵の身体を、熱い何かが貫いた。 
吸血馬から飛び降りたルイズが、デルフリンガーを使い、上空から竜騎兵を貫いたのだ。 
竜騎兵はそのまま落下し、地面へと縫いつけられた。 

「BUGOAAAAAA……」 

竜と同化した吸血馬が、ぐちゃぐちゃになった足を引きずりながら、ルイズへと近寄る。 
「これも食べなさい」 
仕留めた竜をルイズが指さす、すると吸血馬は竜に跨り、その肉体を吸収し始めた。 

ルイズは辺りを見回す。 
よく見ると街道の向こうでは、何人かの旅人らしき人がルイズを見て腰を抜かしていた。 
ルイズは杖を取り出し、詠唱を開始した。 
「ナウシド・イサ・エイワーズ……」 

可能な限り広い範囲をイメージする。 

二匹の竜と一体化し、巨大になった吸血馬は、翼を器用に動かしてルイズを掴み、背中に乗せた。 

ぶわさっ、と、ひときわ盛大に羽を打って、吸血馬が空へと舞い上がる。 

「ベルカナ・マン・ラグー…………」 

ルイズは吸血馬の背から、地面に向けて忘却の魔法を放った。 

ぐにゃりと景色が歪み、街道を歩く人、ルイズと竜騎兵の姿を見て腰を抜かしている人達を包み込む。 

ルイズは『吸血馬』『ルイズ』『竜騎兵』の記憶を奪ったのだ。 


「………あ、う…」 
『おい、大丈夫かよ』 
吸血馬の背に膝を付いたルイズを見て、デルフリンガーが心配そうに声をかけた。 
吸血馬もまた、背に乗るルイズを心配して、羽の動きを弱める。 
「だ、だいじょうぶ、よ。少し休めば…大丈夫…」 
『そんな大規模の”忘却”を使ったんだ、疲れもピークに来てるはずだ』 
「悔しいけど…その通りよ……」 
ルイズは自身の肩を抱き、ハァハァと苦しそうに呼吸していた。 
すると、竜の鱗の隙間から、吸血馬のたてがみがしゅるしゅると伸びて、ルイズの身体を包み込んでいった。 
「何?」 
『寝てろ、って言いたいんだろ』 
「そっか……デルフ、アルビオンの戦艦が見えたら起こして」 
『俺が起こすまでもねえ、こいつは、おめえの意志をよく汲み取ってるさ』 

ルイズが周囲を見渡す。 
いつの間にかスカボローの港を通り越し、吸血竜は雲海へと突入しようとしていた。 


ルイズのまぶたが閉じられる。 

戦争は決して避けられない。 

せめて戦争までの残り数時間、願わくば、魔法学院でのひとときを夢に見たい。 

そうだ、私は笑顔が見たいのだ。 

魔法が使えないと言われ、ゼロといわれバカにされ続けた私が本当に欲しかったのは、皆の賞賛を浴びることでも魔法が使えるようになることでもない。 

ただ、笑い合いたかった。 



雲海の中を飛翔する吸血竜は、ルイズの瞳から涙が溢れたのを感じた。 
たてがみを伸ばして、そっと涙をぬぐう。 


四枚の翼を持った異形の竜が、おおおおんと鳴いて、翼をはためかせた。 


To Be Continued→ 

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