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アヌビス神・妖刀流舞-14 - (2007/07/23 (月) 15:34:52) の編集履歴(バックアップ)


 ルイズは夢を見ていた。
 生まれ故郷のラ・ヴァリエールの領地にある屋敷での幼き日の夢を。
 デキのいい姉たちとの魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られたあの日。
 その事を召使たちにまで噂され悔しい思いをしたあの日。
 それが悔しくて悔しくて、夢の中の幼いルイズは『秘密の場所』へと逃げるように駆けていく。
 そこは唯一安心できる場所。あまり人が寄り付かないうらぶれた中庭。
 池の周りには季節の花々が咲き乱れ、小鳥が集う石のアーチとベンチがある。池の真ん中には小さな島があり、そこには白い石で造られた東屋が建っている。
 島のほとりに小船が一艘浮いていた。舟遊びを楽しむためのその小船、今はもう使われていない、幼き今の日よりもずっと前に置き忘れられた、その小船。
 その忘れさられた中庭の池と小船が、幼いルイズの『秘密の場所』
 叱られると、決まって小船の中へ逃げ込む、そこは心の砦。

 そして今もその小船へ。中に用意してあった毛布に潜り込む。そんな風にしていると……。
 中庭の島にかかる霧の中から、つばの広い羽根つき帽子にマントを羽織った一人の立派な貴族が現れた。
 年のころは十六歳ぐらい、夢の中のルイズは六歳ぐらいの背格好だから十ばかり年上に見えた。
「泣いているのかい?ルイズ」
 帽子に顔が隠れていて、それでもルイズは彼が誰だかすぐにわかる。
 憧れの人。最近、近所の領地を相続した年上の貴族。胸がほんのり熱くなる。
 晩餐会をよく共にした。そして、父と彼の間で交わされた約束……。
「子爵さま、いらしてたの?」
 幼いルイズは慌てて顔を隠した。みっともないところを憧れの人に見られてしまったので、恥ずかしかった。
「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね」
「まあ!」
 ルイズは更に頬を染めて、俯いた。
「いけない人ですわ。子爵さまは……」
 俯くとその視界に何か長い物がある。毛布に紛れてよくは判らないけれど。
「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」
 おどけた調子で、子爵が言った。夢の中のルイズは、首を振った。
「いえ、そんなことはありませんわ。でも……。わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」
 ルイズは、はにかんで言った。帽子の下の顔がにっこりと笑い、そして手をそっと差し伸べてくる。
「子爵さま……」
 何故だかわからないけど、その差し出された、その手の意味がわかる気がする。
 そう、今この手の下にあるのを使うの。
「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって」
「大丈夫ですわ。子爵さま」
 だって今は魔法が上手に使えなくても、戦えるもの。
 敵だけでなく、自分とも。そして敵が巨大なゴーレムでも立ち向かえるもの。
「では」
 憧れの人がにこりと笑って杖を抜く。
「ええ」
 笑って応え、毛布を投げ飛ばすように捲って、そしてその下にあるものを手にして杖と打ち合わせるように。
 小船が大きく揺れ、池に波紋が広がりゆく。
 子爵さまが杖を振ると、風が渦巻き花が舞い散る。
 その風に我が身を任せ空へと舞い、そして身体がまるで自分の物で無い様に、華麗に舞うが如く動き出す。
 手にした妖しく煌くものを振りぬくと、子爵さまの帽子が飛ぶ。飛んだ帽子は風に乗り、吹き散らされた花と一緒にくるくる、くるくると空を舞う。
 子爵さまの杖が風を纏って、桃色の柔かい髪を吹き散らす。
 気付けばその身が十六歳。幼き日より伸びた腕、その手に輝く妖しき剣が、杖ごと子爵さまの腕を切り落とす。
「強くなったなあルイズ」
 子爵さまが笑って頭を優しく撫でる。



 ここでOP

 ふぁーすとKILLからはじまるーっ
 二本のバトルひすとりーっ
 この強烈なー 斬ーれ味にっ
 敵は ばっさーりー バラされたっ

 剣が二つ
 斬れない敵
 ありえないこーとーだーよねー

 マジありえねえ


 ゼロの奇妙な使い魔 アヌビス神・妖刀流舞 第二部 双剣・風の国に舞え



「なあデル公、今日のご主人さまは寝床の中でも元気だな」
 二つの月明かりに照らされた二振りが、ベッドの中でばったばったと暴れるルイズを眺めている。
「ああ、騒がしいね。時々隣の壁を殴ってるから、多分キュルケと喧嘩してる夢でも見てるんじゃねえか?」
 ルイズは時々上半身を起こして壁に向って、ドカドカドカと見事な連撃を叩き込んでいる。
「お?立ち上がったみたいだ」
「あの顔、まだ寝てるね。夢遊病だね、こりゃ」
 ルイズはくるくるとベッドの上で身を捻ると、見事な回し蹴りを壁に叩き込む。
「スゲェ、ご主人さまスゲエな。さすが最近少し走り込みしてただけはある」
「しかしまあ、可愛いくねえ寝惚け方だね」
 半分呆れている彼等の前で、見事な膝蹴りが壁に叩き込まれる。
「むぅ……こ、これは!」
「知っているのかアヌ公!」
「あれは伝説の真空跳び膝蹴り!噂には聞いていたが本当にこの目に見ようとは」
「何だと!」
「嘘だけどな。
 しかし、やっぱここまでしたら、隣の部屋は五月蝿いと思うか?」
「そりゃもう駄目だね。今頃連れ込んだ男とのムードもズタズタで怒り心頭だーね」
「へへへ、お前、発言が結構スケベだな」
「おめーにだけは言われたかねえ!」

 案の定少ししたら、扉が物凄い勢いで、ばんっと開かれ、ベビードール姿で悩ましい格好のキュルケが怒鳴り込んでくる。
「あ、おれ、これは少しだけデジャブ」
「相変わらずの問答無用『アンロック』だーね」
「五月蝿いわよルイズ!」
 ずかずかとベッドの前までやってきたキュルケが、ベッドの上で凄まじい格好で突っ伏しているルイズに食って掛かる。
 怒鳴り声にルイズが『むにゃ?』と反応して目元を擦って……。そのままキュルケを抱きしめた。その予想外の不意打ちに、入室時には握っていた杖を思わず取り落とした。
「ば、馬鹿っ。離しなさいルイズっ!」
「むにゃ……駄目ですわ、子爵しゃまぁ~」
 首を押さえ込まれ、頭をベッドに引っ張り込まれたキュルケがばたばたと暴れて抵抗する。
「は、離しなさいルイズ!駄目、髪の毛がぐしゃぐしゃに」
 兎に角踏ん張る事ができる何かをと、必死に手を足を動かし、探る探る探る。
 がしっ
 何かを掴めた。
「お、俺だってかー!?」
 キュルケが何とか掴んだのはデルフリンガーであった。
 何か掴めたと感じたキュルケは、勢い良くそれを引く。
 固定された物でなかったそれは、そのまま勢い良く……、つまりは重たい物を握ったパンチとなり、キュルケの上半身を押さえ込んでいるルイズへと炸裂した。
「ぶにゃぁーっ」
 奇妙な叫び声を上げて、ルイズがベッドへと打ち倒される。
「ハハハハ、これは綺麗に入ったな」
 アヌビス神がそれを見て、こりゃ愉快だとばかりに笑い声をあげる。
「でえじょうぶか?随分と綺麗に入ったぞ」
 デルフリンガーの言葉にキュルケは『え?え?』と大慌てで。
「これは殺っちまったな……。おれは使い魔だから判る。今なにか感じた」
「え、えええ、え、えええええええ??」
 アヌビス神の言葉にキュルケ大混乱。
「ルイズ!ルイズ、しっかりしてルイズ!」
 ルイズの肩をがっくんがっくんと揺さ振り生死を確認しようと必死である。
「こ、今度の相手はきゅるけにゃのね?」
 どこか眼が寝惚けたままのルイズがゆっくりと首を持ち上げる。
「ルイズっ、生きてたのねルイっぶーっ」
 涙目になりかけていたキュルケの腹に、いきなり鋭い膝蹴りが叩き込まれた。
 続けて何かを叩き付けるように、ルイズの腕が振るわれ、そして宙を斬る。
「あれ?」
 ルイズは振りぬいた腕が宙を切った事を疑問に思い、その手を見た。
「……にゃんで無いの?」
 周りを素早く見渡す。『あった!』一声そう言うとベッドから飛び出す。
 そして、素早く床に転がるアヌビス神を手に取る。
「とにゃぁー!」
 やたらと可愛らしい気合の声が、部屋に、寮塔に響き渡る。
「な、ななななな、ななななっ」
 キュルケは混乱しながらも、何とか手にしていたデルフリンガーでそれを受け止めた。
 しかし容赦無くルイズはガンガンと殴りつけてくる。可愛らしい鞘に入ったままのアヌビス神で、ガンガン、ガンガンと殴りつけてくる。
「フハハハハ、勝負だなデル公」
 デルフリンガーは、やたらと偉そうな態度で腕を組む、犬面男の幻影を見た気がした。ついでに何故か、可愛らしいティアラやらピアスがついている気もする。
「ば、馬鹿かおめーっ。勝負とか言うタイミングか、空気読め!アヌ公ッ!」
 鞘(可愛らしい)から少しだけ刀身の覗かせたデルフリンガーがカタカタ鍔を鳴らして抗議の声を上げる。
「あ、あんたたち止めなさいよ!自分の主人でしょ。如何にかしなさいよ、こ、こここ、殺されてしまうわ」
「いいネー、殺し。それ凄くいい!ずばァーっといこうゼずばァーッと。
 ハラワタぶちまけようぜ
 心臓ビクビクいわせようぜ
 脳漿とか、おれ大好き」
 必死の抗議でアヌビス神、逆に興奮しだす有様。何時もよりやたらと具体的かつ直接的な表現で、大笑いをしだす。

 デルフリンガーに『何とかして』と話しを振ったら『諦めろ、もう駄目だ。大丈夫、骨は拾えないけど拾ってやらあ』と返ってきた。
 駄目だ、この部屋の連中は揃って駄目だ。キュルケ半泣きで、とにかく思いついた名前に助けを求めてようと思い、叫びを上げる。
「タバサーっ!タバサ!タバサタバサタバサタバサーっ!タバババタバサー!」
 タバサは2階上で熟睡中、聞こえる筈が無い。途中で『この声、タバサに届くのかしら?』とも思ったが、叫び声を上げ続ければきっと他の誰かが……。そのようにも期待して繰り返す。

 もっとも他の同階の寮生は、また何時もの連中かと耳栓やら『サイレント』やらで、とっくに防音している訳で。
 つまりは日頃のルイズとアヌビス神のゲシゲシの賜物です!

「ええい、てぎょわい!」
 こりぇでもかこりぇでもきゃっ!」
「ちょっと、ちょっとルイズっ!
 寝惚けてるわね?寝惚けてるんでしょう?
 実はわざとやっているのよね?ね?」
「さすぎゃ、終生のらいばるーっ!」
「やっぱり止まらないわ、タバサーっお願いだから気付いてっ!」
 止まらない。幾らキュルケが必死に呼びかけてもルイズ、止まる事を知らず。

 結局、1時間程経過して気付いたタバサが、杖でルイズの頭を後ろから小突くまで、ひたすら、カンカンと硬い物を打ち合わせる乾いた音が響き渡った。



 今、学院にいる男性の間でミス・ロングビルの人気が妙に高い。

 最近見せるようになった憂いのある顔がたまんねぇ!とか。
 以前時折見え隠れした柔かい中の、嫌な刺々しさが消えて、棘はあってもどっか清々しくて、むしろその棘で突いて!貫いてェー!とか。
 時々何故か変えてる髪型が新鮮で凄くイイ!とか。
 時折見せる弱さが以前と違ってどこか保護欲を刺激する!とか。

 当人にとっては、それらは全て不本意な結果なのだけれど。
 耳に入ってくるそう言った噂に頭を抱えながらも、色々心の穢れが半ば強引ながら落ちたのも事実な訳で……、そんな事を考えながら今彼女は、マチルダとして手紙を綴っている。
『仕送りの額が少し減るかもしれないけど、大丈夫かい?』『額は減るけれども、以前より安定して送る事はできそうだよ』
 近況と思いを形にしていく。
 しかし『そこから皆で出てみる気は無いかい?』と書いてぐしゃぐしゃと紙を握り潰した。
 危ない、うっかり呼び寄せる所だった。あの爺の毒牙にかけてしまう所だった!
 正直今のアルビオンに行く理由が減るのは個人的に望ましいところながら、危ない危ない、自分の都合で大切な人を生贄に捧げてしまうところだった。
 何しろオスマン氏のセクハラが以前と違い、的確に弱いところをついてくる事があるのが、今向き合っているとても困る現実な訳で。
 どういう風に想像してみても不安しか涌いてこない。オスマン氏が手が滑った振りをしたり、転んだ振りをして、ティファニアの胸を掴んだり胸に顔を埋めようとする姿が鮮明に脳裏に浮かぶ。
「ええい!牢獄送りで縛り首になる事を考えれば、随分と運が良い気がするけど腹が立ってくるわね」
 怒りに任せて、開けっ放しだった窓へ向けて、文鎮を投げつけた。

 ゴガッ
「あだっ!おぶぉあッ!!」

 窓の外で景気のいい打撃音と、せつない動物の鳴き声が聞こえた。
『まただわ、また糞爺だわ』と目元を数秒押さえた後、やれやれと思いながら窓から外を覗く。
 頭を抱え『おー痛っ!おー痛っ!』と繰り返すオスマン氏が浮かんでいる。
「オールド・オスマン!部屋への乱入は、お止めください!」
 せつない動物へ向けて、侮蔑を思いっきり込めた声を、腹の底から搾り出す。
 しかしこの、せつない髭爺は全く懲りた様子も無く軽快にしゃべり始める。
「ち、違うわい。ちょぉーっとばかし、学院の治安の為に巡廻したついでに、フーケちゃんの―――――」
 寝言は聞きたくないので、容赦無く言葉の間に割り込む事にする。
「徘徊では?
 それと“ちゃん”に関しては一歩引きましょう、ですけど、此処でその名前はお止めください!」
「ロングビルちゃんは言い難いんじゃ。
 そんじゃ、マチルダちゃん。
 マチルダちゃんが心配じゃったから、ちゃんと着替えてベッドに入るか確めにきたんじゃよ。ホッホッホ」
「し、失礼ですが。学院の治安を最も乱しているのは、オールド・オスマン、貴方なのではないでしょうか?」
「気の所為じゃよ。そんな事よりじゃな。何時になったら、その噂のあの娘さんとは会えるのかね?」
 オスマン氏はとても自然な動きで窓から部屋に入り込み、腕を震わせるミス・ロングビルの胸をむにむにと撫でた。
「一瞬考えましたけど、たった今、何が何でもっ!」
 鋭い膝蹴りがオスマン氏に叩き込まれる。
「絶対絶対絶対に!」
 怯んだオスマン氏に『レビテーション』をかけ窓から放り出す。
「お断りする事を決めました!」
 素早く『レビテーション』を解除、数瞬置いて『練金』のルーンを唱える。
 窓の外に、地面から生えてきた巨大な土の腕に殴り飛ばされるオスマン氏の姿が見えた。
「おやすみなさいませ!」
 ミス・ロングビルの怒声と共に窓がばたんと閉められた。


 今宵のトリステイン魔法学院はとてもとても騒がしい。



 To Be Continued

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