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使い魔ファイト-1 - (2007/06/30 (土) 19:49:45) の編集履歴(バックアップ)


 ……ハイジョン、これは犬ですか?
 いいえ、これは眼鏡です。

 私の中のジョンも眼鏡だと言っていた。
 私も眼鏡だと思う。それ以外の何にも見えないし。
 そう、眼鏡。見るからに眼鏡。誰が見ても眼鏡。眼鏡祭りだ。
 わっしょい、わっしょい。あはは、うひひ。わっしょい、わっしょい。
 ……ちょっと落ち着こう。冷静になろう。とりあえず手に取ってみよう。
 ほうほうほほう。こりゃ立派なもんね。レンズの輝きなんて、磨き上げられた宝玉も真っ青。
 パッドの可動域はかなり広めに作られてる。
 蝶番も九十度以上は余裕だから、小さい人も大きい人もオッケーってわけか。
 しっかしこれどういう技術使えばできるんだろう。かなりの熟練職人が練成したんだろうな。
 この軽さ。かといって頑丈さを犠牲にしてるわけじゃない。
 本来なら両立できないはず二つの柱がでんとそびえているわけよ。すごいね。
 無理に両立してるわけじゃなくて、ごく自然にそう作られている。
 この屋根を支えるにはこの太さの柱が必要ってな感じで。
 そして色。この色。草原の緑と素晴らしいコントラストを描く赤。
 使いようによってはかなり下品になっちゃう色なんだけど、これは違う。
 炎の赤? 血の赤? 夕陽の赤? 唇の赤? 髪の赤?
 どれも違う。
 フレームに使われた赤は、わたしが見たことのない赤だ。
 地面に置かれていたせいで少し土がついていた。息を吐きかけ、ハンカチで拭く。
 ああ、きれい。これはきれい。日用品じゃなくて芸術品。見てるだけでうっとりしちゃう。
 でもね。
「ミスタ・コルベール」
「なんだね。ミス・ヴァリエール」
「もう一回召喚させてください」
「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
「眼鏡は使い魔になりません」
「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。例外は認められない」
 いやいやいやいや。いくらなんでも眼鏡は無いって。

「彼は……」
 口に出してからおかしいことを言ったと気づいたんだろうね。
 眼鏡に彼も彼女もないって。
「コホン。その眼鏡は……」
 あ、ごまかした。
「ただの眼鏡かもしれないが、呼び出された以上、君の『使い魔』にならなければならない。古今東西、眼鏡を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する。彼には君の使い魔になってもらわなくてはな」
 あ、また彼って言った。
「嫌です。伝統がどうこういったってわたしは嫌です」
「だからね」
「わたしは眼鏡なんて嫌です」
「はい」
「なんだね、ミス・タバサ」
「私は眼鏡が好きです」
「君ちょっと黙っててくれないか。頼むから。……ミス・ヴァリエール。眼鏡をそう毛嫌いするもんじゃない」
 毛嫌いはしてないけどね。でもねぇ。
「おいおいゼロのルイズが眼鏡召喚したぜ!」
「すごいな、俺たちにゃ到底真似できないぞ!」
 ここでどかんと笑いが起きた。
 あーあ、自分のことでなけりゃわたしだって笑いたいよ。
 でも自分のキャラってもんがあるし、とりあえずマリコルヌ睨んどこう。
「ミスタ・コルベール。やっぱり眼鏡は使い魔になりません。眼鏡は物じゃないですか」
「いやしかし。物といえば、ゴーレムだって物なわけじゃないかね」
 なるほど、一理ある。あってもやだけど。
 まずいな、このまま言い負かされちゃうと本当に眼鏡使い魔にするはめになる。
 そんなことになったら……そんなことになったら……まずい、まずい。まずいって。
「眼鏡はゴーレムじゃありません」
「しかしだね……」
「私は眼鏡なんか嫌です」
「私は眼鏡が好きです」
「ミス・タバサ、少しでいいから黙っていてくれ」


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