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使い魔は手に入れたい-29 - (2007/12/13 (木) 17:09:44) のソース

今私たちは馬に揺られて前に進んでいる。 
空はすっかり茜色になっている。 
シエスタによればあと少しでタルブの村へ着くそうだ。 
学院を出発して3日間、色々なことがあったと思ったが考えてみれば何も無かったな。 
山なし谷なしの旅だった。 
唯一あったとすれば2日目のルイズマジ切れ事件だけだろう。 
あれは怖かった。いくら胸を触られたからって普通あそこまでするだろうか?そこまで胸があるわけでもないのに。 
触った奴も冗談で触っただけだろうに。猫ですら全身の毛を逆立てて威嚇していたほどだ。 
「そろそろ見えてきますよ」 
そんなことを思っているとシエスタが声をかけてきた。 
そろそろ見えてくる?一体何が? 
ああ、シエスタの村か。それしかないだろう。 
そしてそこに思い到ったとき、何かが見え始めた。 
それは数々の家だった。家はそこまで多くは無いがそれほど少ないわけでもない。 
まさに村というのがふさわしいぐらいの数だった。 
「ここが私の村です」 
シエスタは嬉しそうにそういった。 
声は察するまでもなく弾んでいる。久しぶりの帰郷が嬉しいのだろう。 
「じゃあ私の家まで案内しますね」 
「ああ。よろしく頼むよ」 
シエスタが先頭に私とルイズを自分の家へ案内していく。 
きっとこの時間帯じゃ目当ての草原は見れないだろうな。明日でいいな。 
そう思いながら私はシエスタについていった。

シエスタの家に到着するとシエスタの家族に物凄く驚かれた。 
自分の娘が予定より早く帰ってきて、さらには貴族まで連れてきたのだから驚くというのは当然だろう。 
私も驚くだろうとは予想していた。 
しかしその驚きが村中に広がるとは思ってもみなかった。 
村長が挨拶しに来るほどの騒ぎになったからな。 
シエスタもそれにはさすがに驚いていた。 
私は村人の態度から自分がどれだけ貴族慣れしているのか自覚した気がした。 
私なら貴族が村に来たからといってもここまで騒ぎはしないだろう。 
しかしそれは普段から自分が貴族の中で生活しているからだ。最近では同じテーブルで同じ食事すら取っている。 
普通の平民ではありえない生活だ。 
ここまで騒ぐほどのものかと思っていたが、普通こんなところまでわざわざ貴族が来ることなんて殆ど無いだろうからこれが普通の反応なんだと確認したほどだ。 
私と普通の平民との間にはそれほど差があるんだな。 
だからといってそれがいいことだとは思わない。 
いくらそこに差があろうと、良いか悪いかを決めるのは精神的な満足感なのだ。 
最近の私の生活は安定している。不満などあまり無い。 
しかしそんな生活をしているのにどうしてだか精神的な満足感が得られないのだ。 
得られないのであればそんな生活に意味があるのだろうか? 
泥沼に浸かっていようと、両手が無かろうと、目が見えなかろうと、貧困だろうと、精神的に自分がそれでも満足できるのが一番なのだ。 
精神的な満足感こそが『幸福』なのだ。 
騒ぎの中私はそんなことを考えていた。 
というかこんなに騒ぎになるならルイズなんて連れてこなければよかった。
騒ぎの中私とルイズはシエスタの家に泊まることになった。 
どうやらルイズがそう提案したらしい。そして貴族からの直々の提案ということでそれはすぐに了承された。 
なぜルイズがシエスタの家に泊まりたいと思ったのかはわからない。 
村長だってもっといい家があると言っていたはずなのだがな。 
まあ、そんなことはどうでもいいいだろう。 
どうせいい家といってもそれほど違いは無いだろうし。 
騒ぎがある程度収まり、落ち着いた頃に私たちはシエスタの家族に紹介された。 
シエスタの父に母、そしてシエスタの弟妹たち。シエスタは8人兄妹の長女だった。 
これまたシエスタの両親はえらく励んだんだな。 
「それじゃあ先に寝室に案内しますね。食事はすぐに用意します。本当はすぐにでもヨシェナヴェを食べさせてあげたいんですけど生憎材料がないそうなので、 
ヨシェナヴェは明日になります」 
「ああ、別に構わない」 
ヨシェナヴェなんて私にとってはあくまでおまけだからな。 
「ヨシカゲさんにはここで寝てもらうことになります」 
そういってシエスタが一つの部屋のドアを開ける。 
中はルイズの部屋と比べれば小さかったが困らない程度の広さはあった。 
別に文句をつける場所は無いだろう。 
「すみませんが、ミス・ヴァリエールの部屋は今片付けている途中なんです。さっき家の者に片づけを指示したばかりなのでもう少し待っていただくことに……」 
シエスタのそんな声を聞きながら部屋に入りデルフを立て掛け、用意してあったベッドに肩に乗っていた子猫を放り投げる。 
「ミッ!?」 
そんな声を上げながら子猫は難なく着地した。 
「ちっ」 
それを見て舌打ちしてしまう。さすがに慣れたか猫の奴め。 
そんなどうでもいいことを思いながら夕飯までベッドに寝転がっていようと決めた。

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