ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク-8,5

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8,5話


「お前達は・・・なんだ?」

そこはトリスタニアの裏通り。
表の世界が居心地悪い、ゴロツキや傭兵たちが集まる場所だ。
そんな場所で――しかも双月が空高く昇る真夜中に、その男は10人近くの傭兵に取り囲まれていた。

その男は何とも奇妙ないでたちをしていた。
頭には緑色の目出し帽、そしてそれにはゴーグルのようなものが留められている。
その身にはマントを纏っていたが、その下の格好は、見たことも聞いたことも無いような、
実に説明しがたい服装だった。
こんな妙ちくりんな格好をしてる人間は、いかにハルケギニア広しといえどもこの男ぐらいしかいまい。

「へっ・・・スッとぼけたツラしてよく言うぜ」

そして、男を囲む傭兵たちのうち、一人が口を開いた。

「オメーが来てからだ・・・。オメーが来てから、上客の依頼は全部オメーの方に集まるようになっちまった。
 メイジ殺しだかなんだか知らねーが、新参者のクセに生意気なんだよ!」
「そうだそうだ! ちょっぴり俺らより腕が立つからって出しゃばりやがってよォ~~。
 テメー誰に許可もらってここで傭兵稼業やってんだァーー!?」
「新参者は俺たち先輩に気ィ使うってのが筋だろーがッ!
 そんなことにも頭が回らねーほど、テメーは頭脳がマヌケなのかァー!?」

つまりこの男に仕事を取られてムシャクシャしてた傭兵たちが闇討ちをかけた、という次第だ。
なんとケツの穴の小さいことだろうか。
人数で押して、この男を殺す気でいるのだ。
だがこの傭兵たち、一つだけ大きな間違いを犯していた。

「それで・・・オレを・・・どうするつもりだ?」
「へっ、決まってんだろォ~? テメーはここでブッ殺す! 今まで散々ナメてくれた分、タップリと晴らしてやるぜッ!」
「・・・そうか。そういえば・・・お前ら・・・オレが実際に・・・戦うとこ・・・見たこと・・・あるか?」
「ハッ、無ぇーよ。だからどーしたッつーんだこの田吾作がッ!」

そう。
この傭兵たちは男がどのように戦うのかを見たことがなかったのだ。
この男と戦った者がどのようにして敗れるのか、どのようにして死ぬのか、それがこの傭兵たちには全く分かっていなかったのだ。

「そうか・・・それでは・・・理解できないだろうな」
「ああん? 何がだ」
「『スタンド使い』でもないお前たちでは・・・これから何が起きるのか・・・決して理解できまい・・・」
「『スタンド使い』だぁ~? テメーいきなり何言っt」

ドシュシュシュッ!

そこまで言った瞬間だった。
横柄に喋り散らしていた傭兵と、その周りにいた数名が、一瞬にして全身に風穴を開けられた。
男が「何も無いように見える空間」から放った「何か」が、彼らを貫いたのだ。
そしてネズミにかじり散らされたチーズのように、蜂の巣のようになったその傭兵たちは、
棒切れか何かのように、ばったりと頭から倒れた。
倒れたとき、彼らは彼らの血でできた水溜りで、ばしゃりと音を立てた。

「ひ、ひぃっ!」
「て、てて、テメー! い、一体、何をしやがった!」

面食らったのは死んだ傭兵たちの反対側、男の後ろ側にいた傭兵たちだ。

「こ、これでもくらいやがれッ!」

恐怖に駆られ、傭兵たちのうち一人が、男に後ろから斬りかかる。
だが男は軽くジャンプしてそれをかわす。
いや、かわすだけでない。
ジャンプしたままの勢いで、滑るように空中を移動し、蜘蛛のように壁にピタリと取り付いた。

「い、今の見たか!」
「あいつ、飛びやがった! め、メイジでもねえってのに!」
「て、て、テメーまさか、そいつは先住の・・・」

一人が発した「先住」という言葉に、その場の傭兵たち全員の血が凍る。
そして、今更になって彼らは気づいた。
自分たちが、とてつもなく恐ろしい相手に戦いを挑んでしまったことに。

「に・・・逃げろッ!」

誰かが言い出したその言葉に、その場の全員が従った。
そしてすぐさま、路地に逃げ込もうとする。
しかし――

ドシュシュシュシュッ!!

再び放たれた何かが、逃げようとした残りの傭兵全員を撃ち貫いた。
傭兵たちは全身から血を吹いて、走っていた勢いのままに地面に転がり、そのまま動かなくなった。

全てが終わったとき、あたり一面、血の海だった。

男は周囲に動くものがいなくなったことを確認すると、ペタペタと音を立てながら、蜘蛛のように壁から降りる。
そして地面に転がっている傭兵たちがそれで全部だったことを確認したところで――

「これはこれは、さすがはメイジ殺しとして名高き者。
 まったく、実に見事な手腕だこと。見ていて惚れ惚れすることこの上ない」

女の、艶のある声が響いた。

男はすぐに声のした方向を見やる。
するとそこには女が一人だけ、ぽつんと立っていた。

「今さっき殺した輩と・・・お前は・・・関わりがあるのか?」

男が女に問いかける。

「半分は、ね」

そう、女が答えた瞬間――

バギギィッ!

狭い裏通りに、悲鳴のような金属音が響いた。

「やれやれ、落ち着きなさいな。私は連中の不満を利用しただけ。それ以外は連中の意思。
 別にこうするように指示したわけじゃあないのよ」

楽しそうにそう言う女の前には、どこから現れたのか、巨大な盾を構える傭兵らしき男が一人。
この盾が、さっき男が放った『何か』を防ぎ、弾き飛ばしたのだ。
しかしそれはいいとしても、これほどの重装備の男がこんな狭い路地に突然現れるようなこと。
そんなことは・・・不可能だ。

「じゃあ・・・『半分』・・・というのは?」

盾を持つ傭兵が突然現れたことと、女の目的に対する二つの警戒心を込めて、男が聞き返す。

「お前の実力を確かめたかったんだよ。噂だけではどうにも信用に欠ける。
 やはり、実際に戦うところを見なくては・・・とてもとても、使う気にはならなくて」
「つまりお前は・・・オレを雇いたいのか?」

怪訝な様子で、男が言う。

「話が早くて、こちらも本当に助かる。
 前金が1000エキュー。成功したらさらに1000エキュー。
 これで仕事を一つ、受けてもらおうかと思ってね」

女が提示した金額のぶっ飛び具合に、男は眉をひそめた。
この男、これまでに貴族から依頼を受ける事は何度もあった。
依頼の内容は主に暗殺。
そしてその相手は腕の立つメイジである事がまた主だったが、これほどまでにはずんでくれる依頼人はいなかった。

何か、裏にある。それも、飛び切り危険な裏話が。
男はすぐさまそう思った。
しかし、男にこの話を断る気はさらさら無い。
自分の能力に自信があった事は勿論、
自分に対して随分ナメた真似をしてくれたこの女の依頼から逃げるのはいささか癪だったからだ。

「・・・受けよう」
「交渉成立ね」

そういって、女はにやりと笑った。

「ああ、そういえばお前の名前を調べていなかったのを思い出した。
 また使うことになるかもしれないし、ここで聞いておいたほうが後々都合がいいだろう。
 それで、お前の名前は?」

そう聞かれた男は、

「ラング・ラングラー」

そう、答えた。

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