ゼロの奇妙な使い魔 まとめ内検索 / 「ティータイムは幽霊屋敷で-05」で検索した結果

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  • ティータイムは幽霊屋敷で-05
    「るーるるーるーるるー♪」 グラン・トロワに響く微妙な音程の歌声。 その巨体には似合わぬ少女じみた声。 空の色を映したような青い鱗が陽光を反射し輝く。 今日のように天気が良い日は決まって、 シルフィードは嬉しそうに歌を歌う。 最初は物珍しさから人が集まっていたのだが、それも毎日続けば飽きるのも当然。 彼女の歌声は王宮で奏でられる音楽には遠く及ばない。 どちらかといえば酒場に入り浸る酔っ払いの鼻歌に近いものがある。 これを苦痛に感じる侍女や召使の間で、 “誰がシャルロット様に嘆願に行くか?”を相談中らしい。 彼女がいる中庭から王宮を覗けば、窓の向こうで本を読み耽る一人の少女。 気ままに歌うシルフィードを気にも留めず、白い指先がページを捲る。 晴天の下、青い主従はそれぞれ思い思いに自分の時間を過ごしていた。 読書に没頭する彼女の姿を見ながらベルス...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-06
    テーブルの上に置かれたビスケットを口に放り込み、 高級酒を喉の奥に流し込みながら使い魔の話に耳を傾ける。 この部屋は昔ここにあった貴族の屋敷の一室だそうだ。 もうとっくに失われたはずのそれが何故ここにあるのか。 その理由を聞いた時、私は思わず呆れ返った。 これは屋敷が幽霊になったもので、そいつは自由にそれを扱えるらしい。 にわかには信じられない話だったが、 喉を通り抜けて床に零れ落ちるワインを見ては信じるほかない。 “じゃあお前も幽霊なのか”と訊ねるとそいつはキッパリと否定した。 幽霊じゃなくて、そいつは自分の能力だと言った。 “そんな魔法はない”と反論すると『スタンド』という答えが返ってきた。 系統どころか一人一人が違う、その本人だけにしか使えない魔法とは別の力。 そして、そいつのは『生き物以外の幽霊を自由に操れる』能力だった。 話を聞きながら、わたしは部...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-08
    「それじゃあ品評会での健闘を期待してるわ」 “平民に出来る芸などない”言葉の裏に嫌みを含めてキュルケは立ち去る。 現にルイズは半ばまで諦めている。 だがキュルケの背中にイザベラは不敵な笑みを浮かべていた。 彼女たちはエンポリオの“スタンド”について何も聞かされていない。 ただの平民と侮る彼女を心中で嘲笑うイザベラにエンポリオが声をかけた。 「やっぱり隠し通すの?」 「当たり前じゃないか。前にも言っただろう」 “スタンド”の存在を決して他人に明かさない。 それは幽霊の部屋を出る前に話し合って決めた事だった。 こんな異質な力を持った使い魔は後にも先にもエンポリオ一人だ。 その能力を解明する為に解剖や実験台にされる恐れがあった。 「……でも」 何の能力もない子供を使い魔としてお披露目に出せば、 召喚に成功したとしてもイザベラの面目は間違い...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-15
    苦虫を噛み潰したようなイザベラの表情。 騎士の報告を耳にした彼女の眉が釣り上がっていく。 頼りの東薔薇花壇警護騎士団は総力を挙げシャルロットの行方を探している。 だけど、そこにはイザベラの名前など出てこない。 彼女を守ろうとする動きを見せていない。 その場に跪く騎士がカステルモールの弁護をする。 「……恐れながら。これは決してイザベラ様の御身を軽んじてのものでは」 「どうだかね。案外いなくなった方が好都合だと思ってるんじゃない」 青く長い髪を振り回しイザベラは視線を外した。 カステルモールの判断は間違っていない。 わたしが狙いだとしたら、わざわざ警備が厳重な日を選んだりはしない。 平日の夜中にでも学院に忍び込めば殺すのも捕らえるのも容易だ。 それをこんな騒ぎを引き起こしてまで強行したとなると狙いは別にある。 だからこそ危険はないと踏んでシャルロットの安...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-34
    鼓膜を激しく震わせる轟音と身を引き裂かんばかりの衝撃波。 それを地に伏せて必死にやり過ごしたコルベールはゆっくりと顔を上げた。 砂塵が視界を覆う中、はっきりと塔のシルエットが浮かび上がる。 彼の口から安堵の息が漏れる。少年の判断は正しかった。 もし、炎の壁を強行突破していれば何人かは重傷を負っていたかもしれない。 それに、パニックになった彼等を火と衝撃に巻き込まれぬように誘導できたかどうか。 土を払って起き上がろうとした最中、耳障りな雑音が響いた。 近い物を挙げるとすれば何かを引っ掻くような音に似ている。 それは次第に大きさを増し、悲鳴のような異音へと変貌していく。 不安を掻き立てる騒音を耳にして、コルベールはじりじりと後退る。 特殊部隊で鍛え上げられた勘が危険を告げる、“全力でその場から離れろ”と。 その一方で、理性が彼に強く命令する、“生徒達を助けろ”と。 ...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-09
    「それ、どうしたんですか?」 「……火の輪くぐりに失敗した」 水汲み場でエンポリオとサイトは互いに洗濯籠を抱えて再会した。 腕に包帯を巻いて現れた彼にエンポリオは訪ね、その返事に驚愕した。 彼の隣にはいつの間に親しくなったのかシエスタがいて、 火傷したサイトに代わってルイズの洗濯物を洗っている。 遠慮するエンポリオを押し切り、ついでだからと彼女はイザベラの洗濯物も一緒に洗う。 仕事もなくなり手持ち無沙汰となった二人が地面に腰掛ける。 不意に空を見上げてサイトは呟いた。 「なんでこんな事になっちまったんだろうな」 「分からないけど……それでも人が出会うのは運命だと思う。 きっと今は意味を知らなくても大きな何かに繋がっていく、そんな気がする」 「そうか。なんか凄いな、お前」 エンポリオの事情を知らないサイトが、 その意味の半分も理解しないまま感心し...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-04
    “驚くかもしれないが決して取り乱してはならない これからお会いする御方にお前は生涯お仕えするのだ” 父上にそう言われて私は少し怖くなった。 初めて会うのにそんな事を言われたら余計に緊張してしまう。 だけど父上の言いつけを守らなくては覚悟を決めて部屋に入った。 ―――だけど言いつけは守れなかった。 私は一目見た瞬間、驚いて固まってしまった。 だって、その子はとても綺麗だった。 まるで絵本から抜け出てきた妖精みたいに。 一瞬たりとも彼女から目を離す事が出来なかった。 挨拶も忘れて立ち尽くす私に彼女が名前を尋ねた。 咄嗟に我に返って自分の名前を口にする。 それを噛み締めるように呟いた後、彼女は私の名前を呼んだ。 応える私に“お願いがあるの”と彼女は言った。 “命令”ではなく“お願い”と。 “私に出来る事なら”私はそう答えた。 だけど私に可能...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-03
    ああ、我等の偉大なる始祖よ。 これは貴方の教えに背いた罰なのですか? 私は彼等を愛していた。彼等も私を愛していた。 私は国を愛し、彼等も国を愛していた。 ただお互いに愛する者達との平穏だけを望んでいたというのに。 なのに何故、彼等を手にかけねばならないのですか? いいでしょう。それが貴方の罰というのなら受けましょう。 この手を愛する者達の血で染め、自身を呪いながら日々を過ごしましょう。 ですから私で終わりにしてください。 罪を犯したのは……そして、これから罪を犯すのも私だけ。 貴方に無垢なる祈りを捧げるあの二人には罰ではなく祝福を。 それさえも叶わぬというのなら、せめて見守ってください。 与えられるべき平穏が彼女達に訪れるように。 「それでケンカの原因は?」 椅子に腰掛けたままオールド・オスマンは憮然とした顔の前で指を組む。 そ...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-07
    お父様とお母様は言いました。 “外は危ない所だから決してここを出てはいけない”と。 だけど姉さんはいつも外の楽しい話を私にしてくれます。 外の世界を知らない私にはどちらが正しいのか分かりません。 だから私は自分の目で確かめる事にしました。 好奇心には打ち勝てず、私は外の世界へと飛び出しました。 決して良いことばかりじゃない。勿論それは覚悟していました。 ―――いえ、覚悟しているつもりでした。 私の目が姉さんの姿を捉えている。 いつも明るく笑ってくれた人の顔は、 今まで見たこともないほどに蒼褪めていました。 だけど、それはきっと私も同じ。 どうして私は外に出ようと思ってしまったの? 何で彼女の話す世界だけで満足できなかったの? 知らないままなら、ずっと一緒にいられたのかもしれないのに。 「殿下、夜風は身体に障ります。どうか中にお...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-02
    「どうやら到着したようじゃな。あの『ガリアの問題児』が」 左右に開いた大きな窓からオールド・オスマンは眼下を見渡す。 塔の下には豪奢な装飾があしらわれた馬車とそれを守る護衛数人。 事前にあった通達どおりイザベラを乗せた馬車は無事学院に到着した。 もっともガリア王国が誇る花壇警護騎士団が護衛に付いているのだ。 何かがあるなどとは到底考えられない。 「ラ・ヴァリエール公爵の三女に、オレルアン王の姪か」 これだけの重要人物を二人も抱える場所は珍しいだろう。 肩に圧し掛かる責任の重さと共に、彼は大きな溜息をついた。 もし、彼女達の立場だけを考えるのなら望ましい限りだろう。 いずれ彼女達があるべき地位に就いた際、その恩師にもそれなりの見返りはある。 下手をすればオールド・オスマンを免責し、自分が学院長に成り代わろうとするかもしれない。 だが、そんな奇特な人間...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-01
    世界は不公平に満ちている。 天秤は常に一方に傾き続けている。 誰かが満たされれば、その分だけ誰かが乾く。 平等なんて言葉は恵まれた人間の欺瞞にすぎない。 ガタガタと揺れる馬車の窓から外を眺めながら、わたしはそう確信した。 アイツより魔法の腕が劣るのは仕方ない。 そこは父上の遺伝だとスッパリ諦める。 わたしより勉強が出来るのも本の虫だから当然だ。 良い子ぶりっこしてれば行儀も良く見えるだろう。 見る眼のない奴が多ければ人望も集まる。 行動力も頭の回転も、わたしの方が遥かに上だっていうのに。 ただそれだけの事なのに、まるで皆はアイツばっかり褒め称える。 ―――ああ、それも当たり前か。 だってアイツはこの国のたった一人のお姫様なんだから。 「もうすぐトリステイン領内に入ります。 くれぐれもガリア王国の代表として恥ずかしくない立ち振る舞いを」...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-19
    「ここまでする必要があるとは思えねえが、まあ仕事だしな」 傭兵がぶつくさと独り言を洩らす。 ガツガツと杖の先で壁に面した地面を小突く。 あらかた後始末を終えた彼が一息入れて合図を待つ。 どうせ楽な仕事なのだから酒の一杯でもやらせてもらいたい。 そんな事を考えながら緩み切った表情を浮かべる彼の目前を何かが横切る。 その何かは大きく地面を跳ねて壁へとぶつかって転々とする。 「何だ?」 傭兵がそれにレビテーションをかけて止める。 油断しているとはいえ何か分からない物に触れたりしない。 罠かも知れないという危機感は戦場では常に持っていた。 男は距離を保ちながらそれを観察する。 白い霧の中では見えにくい同色の球。 素材は皮なのだろうか、このような物がどうして地面で大きく弾むのか、 見た事もない代物に男は興味を惹かれた。 ディテクト・マジックで魔法の反応...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-22
    霧に溶け込んだ白を基調にしたドレス。 その後姿をルイズが見つけ出したのは奇跡としか言いようがなかった。 それを始祖の導きと信じ、ルイズは大声で彼女を呼び止めた。 「姫様!」 僅かにルイズへと向けられるアンリエッタの横顔。 しかし、それも一瞬。 すぐさま彼女は前へと向き直り、再び走り出す。 ルイズの姿を見止めても彼女の足は止まらない。 息を切らせながらルイズがその後を追う。 追いかけっこのように続く二人の歩み。 互いに必死に前へと突き進む中、 重いドレスを纏ったアンリエッタの腕をルイズが捕らえた。 それでもアンリエッタは振り払おうと、残った手を振り回して叫ぶ。 「手を離してルイズ! 離しなさい!」 「ダメです姫様! 早く学院から避難してください!」 幾度も顔に当たるアンリエッタの手を堪えながらルイズは答えた。 何が彼女をそうさせる...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-52
    「お前の娘は預かった。返して欲しくば……」 煉瓦造りの見るからに高級そうな書斎で、青い髪の少女が不穏当な文言を書き記す。 その口元には薄ら笑い。走る筆先がライカ檜の机に叩きつけられてカリカリと小気味いい音を立てる。 しばらくして書き終えた書類を傍に控えていた黒髪の女性へと不躾に押し付ける。 「いいなシェフィールド。こいつをアルビオン王に届けるんだ、一言一句違わずにな」 「拝命しました。正式な書状として清書した上で構わないでしょうか?」 「……ふん。好きにしな。こっちの意図さえ伝わればいい」 「その点は抜かりなく」 恭しくイザベラに礼をするとシェフィールドは書類を手に部屋を立ち去った。 これから清書という名目で脅迫文を形式的な文書に校正するのだろう。 無駄な手間だとイザベラは溜息を零しながら机の上に組んだ足を乗せる。 言っている事が同じならどんな美辞麗句を並...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-31
    ガリアの王都リュティス、ヴェルサルテイル宮殿は騒然となっていた。 トリステイン魔法学院襲撃の報は平穏、悪く言えば怠惰に過ごした家臣たちを叩き起こした。 取るものもとりあえず、駆けつけた彼等の居並ぶ姿は壮観というには程遠く、 また、何をするべきなのか判断も付けられずに右往左往するのみ。 止むを得ず、指示を仰ごうとオルレアン王の登場を待つばかりだった。 彼等を傍目に戦慣れした騎士達は部下を集めて出陣の準備を整える。 何が起きたかを知るよりも先に、いつでも行動できるようにしておく。 いつ戦争が始まるかなど始祖ではない彼等には与り知らぬ事だ。 だからこそ備えを怠る事はない、それでも間に合わないのならば仕方ない。 いざとなれば杖一振りで敵軍に突撃するだけの覚悟を彼等は持っていた。 しばらくして大理石の石床が甲高い音を鳴り響かせる。 身の丈よりも巨大な扉が両側に開かれ...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-17
    カステルモールの詠唱を耳にしたセレスタンが全力で退く。 己が体術とレビテーションを駆使して生み出す疾風の如き動き。 一拍遅れて放たれた嵐がセレスタンが立っていた場所を抉る。 大地も大気も全てを巻き込み、切り刻まれて塵と化す。 霧の裂け目からは竜巻が通り抜けた痕がハッキリと窺える。 そこだけ巨大な怪物に食い千切られたかのような地面。 もし直撃していればカステルモールの言葉通りになっていただろう。 “カッター・トルネード” 真空を帯びた竜巻で対象を引き裂く風のスクウェアスペル。 知識としては知っていても実際に目にするのはこれが初めて。 目の当たりにしたその凄まじい破壊力にセレスタンは恐怖した。 防ぎようなどない。喰らえば竜巻に呑み込まれて八つ裂きにされる。 様子見も何もあったものではない。 カステルモールは全力で俺を消しにかかっている。 「やっぱ強えわ…...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-20
    エンポリオは遠ざかっていくコルベールの背中を見送った。 どのような説得を試みても無駄に終わるだろう。 それほどまでに彼の決意は固かった。 “子供を戦わなくていいんです。その為に大人は戦うんですから” コルベールの言葉が頭の中で反響する。 ずっと、ずっと、ずっと守られてばかりだ。 最後に振り絞った勇気は今は奮い立つ事はない。 託された想いは受け継がれ、そして神父との決着を迎えた。 そこで長く長く続いたジョースターとDIOの因縁は断たれた。 そして、それに巻き込まれた自分の戦いも終焉を迎えた。 だからこそ平穏な世界からハルケギニアに呼び出されたエンポリオは、 幾度の死線を潜り抜けた戦士ではなく、ただの少年だった。 彼の戦う動機は知り合ったばかりの人たちを助ける為、それだけだ。 この学院を襲撃している者たちにも騎士にもコルベールにも遠く及ばない。 ...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-47
    「随分と遅くなりましたね。それにその傷は……」 「ちょっとした手違いだ。余計な手間を取らされたが解決した」 騎士の問いに答えてワルドが剣を投げ捨てる。 放り投げられた剣は弧を描いて地面に突き刺さった。 騎士とイザベラには知る由も無いが、刃に返り血を帯びたそれは紛れもなく才人の剣だった。 背後のルイズとアンリエッタ、そしてやや離れた場所からイザベラがワルドを睨む。 状況は悪化の一途を辿っている。仮にこの場に他の衛士隊が駆けつけたとしても、 アンリエッタを人質に取られている限り手出しできない。 それどころかシルフィードのように人質を奪い返すよう命令されるかもしれない。 イザベラの頬を冷たい汗が伝う。時間稼ぎは失敗に終わった。 あの平民が救援を呼ぶの待っていても意味は無い。 いや、それどころか助けを求めたのがワルドだったら? 自分の無策がみすみす彼...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-51
    「双方そこまで! その喧嘩はこのイザベラ様が預かった!」 才人が地面に崩れ落ちる音と同時に、彼女の啖呵が響き渡った。 幽かに残っていた霧が晴れていく。遮られていた陽光が溢れてスポットライトのように少女を照らす。 何の臆面も持たず、彼女はずかずかとウェールズの前へ歩み出る。 ウェールズの手には未だ軍杖が握られており矛を収めた訳ではない。 彼女を一瞥するとウェールズは不愉快そうに顔を歪めて言い放つ。 「ガリアには関係ない。これはアルビオンの問題だ。口出しはしないでもらおう。 ましてや決闘に横槍を入れるなど貴族の伝統に悖る行いと知っているだろう?」 「決闘……? はん、決闘か! こいつはいい! 傑作だ!」 何がおかしいのか、イザベラは仰け反りながら笑い声を上げた。 まるで嘲笑するかのような彼女の態度にウェールズの表情がさらに引きつる。 ひーひーと笑いを堪え...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-44
    近くを旋回する風竜にアルビオンの騎士達は物陰に姿を隠した。 薄くかかった霧と繁った森が視界を阻み、上空からでは何も窺い知る事は出来ない。 そして、それは騎士達も同様。あれがトリステインの手の者か、 あるいはガリアなのか、それを判別する事は出来ない。 警戒する彼等の前に草木を掻き分けて一人の男が姿を見せた。 腕には気絶しているのか脱力した少女を抱え、 もう一方の手は杖を手に取り、その先端を彼女の喉に突きつけている。 「……セレスタンか」 やや驚愕の入り混じった声で騎士は彼の名を呼ぶ。 無論、彼にも衛士が刺客として差し向けられた。 花壇騎士くずれと魔法衛士隊。始末するには十分な戦力だ。 ましてや奇襲ならば尚の事。だが戻ってきたのはセレスタンの方だった。 「死んだと思ったのか? 生憎と俺は生き汚い性分なんでな」 皮肉で返す彼の表情から余裕が満ち溢れているのが見て取れる。...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-48
    薄霧の中を掻き分けるように現れたウェールズをイザベラが訝しげに見やる。 “コイツは本物なのか?”それが彼女の脳裏に浮かんだ最初の疑惑だった。 顔を合わせた事があるといっても数えられる程度、しかも特別に親しかった訳でもない。 ましてや今の彼は記憶の中にある華やかな姿からは遠く懸け離れていた。 それでもイザベラは直感する、これは間違いなくウェールズ本人だと。 もし偽物ならもう少しまともな……それっぽい偽物を使うだろう。 そして、それを裏付けるように彼を目にしたアルビオンの騎士たちがその場で跪いた。 一同は手にした杖を地面に置き、敵意が無い事を証明している。 「ウェールズ殿下……ご存命であられましたか」 「ああ。代わりに多くの臣下の命を失った」 騎士の問いかけに憎しみの篭った声でウェールズは答えた。 戦死したように見せかけて何処かに落ち延びたのだ...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-38
    森の中を2つの影が疾走する。 彼等の身体を覆う布が風にバタバタとはためく。 しかし、一切構わず彼等は集合地点へと直走った。 小さな人形を手に一刻も早く異変を伝えるべく駆ける。 「早く抑えつけろ!」 「布を口の中に! このままじゃ舌を噛むぞ!」 彼等が辿り着いた直後、喧騒が耳に届いた。 その中心には必死に抵抗する少女と、それを取り押さえる数人の男。 地面に広がる少女の乱れ髪。その色に駆けつけた男達は言葉を失った。 しかし、それも僅か。すぐさま気を取り戻すと騎士の下へと報告に向かう。 「………どうしました?」 近付いてくる部下の尋常でない様子に彼は明らかな不審を覚えた。 いや、先程から感じていた不安が具現化しようとしていたのかもしれない。 生還した喜びを分かち合うよりも先に彼は報告を求めた。 それに彼等は手にした人形を差し出して答えた。 ...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-33
    昏倒している男とキュルケ、その両方をシャルロットは見下ろす。 一見、冷静に振る舞う彼女だが、その実、今にも心臓が破裂しそうだった。 何の考えもなく飛び出し、いきなり少女が襲われている現場に出くわしたのだ。 幾つもの魔法を習得しながら焦りと混乱がルーンを紡ぐのを邪魔する。 戦闘はおろかケンカさえ従姉妹と数回あるかないかの彼女にとって初の実戦。 一か八かで彼女は男の頭の上に落下するという荒業を敢行したのだ。 それは運良く成功し、無謀な首筋に膝を叩き込まれた男は意識を絶った。 「ありがとう。助かったわ。 ところでアナタ誰? うちの生徒じゃないわよね?」 「私は……」 キュルケの問いにシャルロットは喉を詰まらせた。 本名を告げれば事は大きくなるし、自分も狙われる可能性が出てくる。 それに、下手をすれば何も出来ないまま保護されてしまうかもしれない。 嘘をつくのは良くな...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-32
    「きゅいきゅい! おねーさま、何か変なのね」 シルフィードに言われるまでもなく彼女は場の異常さに息を呑んだ。 眼下に映る世界は白一面。辛うじて巨大な塔が影のように浮かぶ。 それはシルフィードが間違えて雲の上に出てしまったのかと錯覚してしまうほどに、 地上とは懸け離れた“異世界”だった。 地表を覆い尽くさんばかりの濃密な霧を前に彼女は躊躇う。 いくら優れたメイジが集まったからといって、こんな現象を引き起こせるはずはない。 いや、そんな事は後で考えればいい。今はそれよりも一刻も早く彼女を見つけなくては。 覚悟を決めて飛び出そうとした彼女の足が止まる。 ――――無理だ。 1メイル先も判らぬ白い闇の中、手探りだけで彼女を探し出せるものか。 敵の数も正体もハッキリしていない上に誰が味方かも判らない。 そんなところで私に一体何ができる? 宮殿から一歩外へ出てしまえば私は...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-40
    風竜から振り落とされた後、平賀才人は変わらず闇雲にルイズを探していた。 声を張り上げるも反応はおろか敵が襲ってくる気配さえない。 ふと耳元で囁くように響く音に彼は足を止めた。 背負った鞄から微かに聞こえるアニソンのメロディー。 そんなはずはないと思いながらも才人はノートパソコンを取り出す。 そして画面を開けば、切れていたはずの電源が回復している。 液晶ディスプレイに映るのは新着メールの表示。 目の前で立て続けに起きた不可解な現象。 だが、それに一切構わず才人はメールを開いた。 もしかしたら家族からかもしれない、そんな淡い期待が込み上げる。 そうして彼は書き綴られた本文へと目を配らせて……思考を停止した。 「……日本語でOK、と」 危うく送信ボタンを押しかけた手を止めて訂正する。 読み取れたのは送信者の名前がエンポリオだという事ぐらい。 そ...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-46
    精一杯のハッタリで睨みを利かせる。 平静を装いながらもイザベラは耐え切れぬ恐怖に晒されていた。 無理に浮かべた笑みに頬は引き攣り、震える歯を噛み締める。 汗ばむ手から滑り落ちかけたナイフを必死で握り込む。 向けられる殺気で眩暈がしてくる。 捕まっていた時とは状況が違う。 あの時の私は人質でお客様だった。 けれど今は人質を手にした明確な敵だ。 僅かにでも気を逸らせばその瞬間に死んでいる。 張り詰めた空気は渓谷に渡されたロープの上を歩むのに等しい。 少し気を抜いただけで失神してしまいそうなほどに息苦しい。 だが、こんな世界に単身で飛び込んだバカがいるのを私は知っている。 狙われているのが自分と知りながら使い捨ての駒を助けに来た奴を。 認めてやるよシャルロット。お前はバカだけど勇敢だ。 ここで逃げ出したりなんかしたら、あたしは一生はお前には敵わない。 そうだ。...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-21
    エンポリオは火薬樽を埋め戻しながらどうするべきかを考えた。 導火線もない以上、直接着火するつもりはないようだ。 恐らくは時限爆弾として使われるものだろう。 このまま校舎の延焼が進めば、加熱により樽の中の火薬が爆発する。 外へ逃げれないようにして校舎を崩落させ、中の生徒たちを全滅させる。 襲撃者の意図を理解したエンポリオが恐怖と怒りに震える。 しかし、この爆弾をどうにかする事は出来ない。 火薬の満載した樽は子供一人では運ぶ事はおろか持ち上げる事も出来ない。 レビテーションを使わなければ安全な場所まで移動させるのは無理だ。 それに爆弾はこれだけだと決まったわけじゃない。 いや、間違いなく他の地点にも同様の仕掛けが施されている。 それを1つずつ探し出して処理するなんて時間が残されている訳がない。 だとしたら方法は唯一つ。校舎に取り残された皆を避難させるしかない...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-39
    廃屋に刻まれる破壊の爪痕。 机は引っ繰り返され、足を折られた椅子が床に転がる。 手の届く範疇にある全ての物は投げ捨てられ無惨な姿を晒す。 まるで室内に嵐が吹き荒れたかのような惨状が広がる。 その中心に一組の少年少女が立っていた。 目を血走らせて破壊の限りを尽くした少女が肩を震わせて呼吸を乱し、 そして、そんな少女に臆する事なく少年は真っ向から彼女と向き合った。 首筋には両手で締め上げた痣が浮かび、殴打された頬が赤く染まる。 切った口の端から血が滲んでユニフォームに赤い雫を落とす。 しかし、彼は一歩も引かなかった。 「…………気は済んだ?」 何事もなかったかのようにエンポリオは冷静に言い放った。 それに従うように彼の背後で砕かれた家財道具が元通りに修復していく。 イザベラは砕けんばかりに歯を噛み締める。 まるで家具にさえお前は無力だと笑われている...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-24
    「後は私に任せて、君は避難するといい。 ただ食堂の方はダメだ。さっき火の手が上がっているのが見えた。 別の塔がいい。そこで事態が収まるまで待つんだ、いいね?」 肩に手を当てた騎士の言葉に何度も何度もギーシュは頷く。 考える事を放棄し何の疑いもなく彼は指示に従った。 冷静さを欠いている自分よりも冷静な他人の言葉の方が信じられる。 そう判断してギーシュは騎士に頭を下げてその場を立ち去った。 何の疑いを持てなかった彼は気付かなかった。 その騎士の正体も、肩に付けられた血によく似た赤い塗料にも。 遠ざかっていくギーシュの背中を見ながら騎士は呟いた。 「君には生きて証言してもらわないと困るんですよ」 ギーシュが来た方向、イザベラたちがいる場所へと騎士は駆け出す。 遠ざかっていく二人を確認し、襲撃者はギーシュの後を追った。 走るギーシュより僅かに足取りは速く...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-13
    「……………」 無言で三人はそれを見下ろしていた。 ほんの少し前まで人であった黒い炭の塊。 ルイズは蒼白になった顔を必死に横に振り、 才人は人が死んだ事実に現実観が得られず呆然とする。 二人の背後から覗いていたエンポリオは、その惨状に思わず目を覆った。 何かが起きているというのは分かっていた。 だけど、まさか人が死ぬような事態だとは誰も思わなかった。 屍を目にして立ち尽くす彼等の横を、 小太りの身なりのいい貴族らしき男が通り抜けていく。 大量の汗をかきながら、どすどすと足音を立てて走る。 それをルイズは呼び止めて訊ねる。 「待ちなさい! 何があったの?」 「分からんのか? 賊の襲撃だ!」 「賊……それで姫様は?」 「知るか! こっちは自分で手一杯だ! 魔法衛士隊もいるんだ。多分、無事だろう」 それだけ言うと男は袖を掴むルイズの...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-50
    交錯する杖と刃。それに乗せられた互いの意地がぶつかり合って火花と散る。 出方を窺う小手先の業など1つとしてない。両者は渾身の力を込めて得物を振るう。 絶え間なく響く剣戟にエンポリオは直感した――“この戦いはどちらかが倒れるまで終わらない”と。 「おねえちゃん! 二人を止めて! このままじゃ……」 「無理だね。もう言葉なんかアイツらには届かないよ」 必死に裾に縋りつくエンポリオを一瞥もせずに振り払う。 言葉でダメなら実力行使か? ―――バカらしい。 あの旋風じみた斬り合いに飛び込もうなんてのは自殺志願者だけだ。 切り結ぶ両者を苛立たしげにイザベラは眺める。 彼女は彼等の実力を読み違えていた。 ただのお坊ちゃんだと思っていたウェールズにかつての面影はない。 憎悪が彼を更なる高みに引き上げたのだろう、すでに彼の魔法はスクエアに達している。 何より敵を必殺せんと...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-41
    平賀才人に魔法の知識はない。だが、その脅威は知っている。 自分に突きつけられた杖の一本一本が銃口であり剣先。 不意を突いて撹乱しようにも背後にはルイズがいる。 彼女を人質に取られれば才人には投降するほか術はない。 躊躇が僅かに才人の足を背後に引かせる。 その逃げの気配を察知して隊士達は距離を詰める。 だが、その先へと進もうとする部下の行く手をワルドの杖が遮る。 「僕一人で十分だ。それと奴等には聞きたい事もある。 お前達は先にアルビオンの連中と合流しろ」 「はっ!」 その指示に敬礼で答えながら隊士達がその場を離れていく。 やがてグリフォンの羽ばたきも聞こえなくなり、 緊張感に満たされた空間には痛いほどの沈黙だけが残る。 この場にいるのは強敵を前に冷たい汗を流す才人と、 未だに信じられないといった表情を浮かべるルイズ。 そして無表情な仮面を被り直したワ...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-11
    濃密な霧の中、衛兵が声を上げていた。 自分の位置を知らせながら同様の仲間を見つけて安堵の息を漏らす。 しかし次の瞬間。手を振っていた相手がぐらりと崩れ落ちた。 倒れた仲間の体から溢れ出す鮮血。 衛兵が声ではなく悲鳴を上げようとした直後、彼の喉に赤い横線が走った。 真一文字に裂かれた肉から噴き上げる血飛沫。 衛兵の体は糸が切れた人形のように容易く沈む。 突然発生した自然のものとは思えぬ霧。 そして次々と上がっていた声が消えていく。 騎士や衛兵達も事態の異常さに気付き始めていた。 各々自分の杖を抜き詠唱を始める。 彼等が同士討ちを避けるために声を掛け合う中、 “人でなし”達は霧の中に完全に己の存在を隠していた。 息を殺し、姿を見せず、ただ聴覚にだけ意識を集中させる。 それはまるで草むらに身を潜ませる狼の姿にも似ている。 そして詠唱する者、声を掛け合う者達の位...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-35
    学院を出て街道よりやや離れた場所にある森。 騒動が治まる気配を感じさせない学院と打って変わり、 そこは梢が風に揺れる音さえ聞き取れるほど静寂に満ちていた。 その中でマチルダ・オブ・サウスゴータは切り株に腰を下ろして深い溜息をついた。 生き延びた仲間はここに集合する手筈だった。 そして、本国と内通者からの手引きを受けて撤退する。 だが、森に集結したのは彼女の予想を遥かに下回る数だった。 遅れている者がいたとしても半数に届くかどうか。 「あれだけいて……たった、これだけか」 「いえ、“こんなにも”ですよ。 あの花壇騎士団を相手にしたのですから大健闘といえるでしょう。 最悪、一人だけでも生還できれば我々の勝ちなのですから」 何の感情も挟まず、彼等を率いる中年の騎士は答えた。 出立前には何度も言葉を交わし、楽しげに酒を酌み交わしていた部下達。 それを失ったにもかか...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-26
    「撤収ってのはどういう事だい!?」 「仕事は終わりだ。後は放っておいても火薬に引火する」 傭兵達を指揮していた男に詰め寄るマチルダに、 その背後に聳える紅蓮に包まれた校舎を見上げながら彼は答えた。 もはや燃え盛る炎を止める事は誰にも出来ない。 組み上げた石が形を保てず歪な悲鳴を上げ始める。 触れれば火傷どころか肉まで持っていかれるだろう。 鎮火はおろか脱出さえ叶わない。 仮にスクエア・クラスの水メイジがいたとしても、 爆発するまでの間に消火するなど不可能だ。 校舎に逃げ込んだ教師と生徒達は確実に死ぬ。 これは予想ではない、既に決定事項だ。 「だからって確かめもせずに退くのは契約違反じゃないか!」 「そうしたいのは山々ですがね、ここにいたら間違いなく皆殺しにされる」 何をバカなことを、とマチルダは言おうとして口を噤んだ。 教師と生徒ぐらいしかい...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-43
    少女を前にセレスタンは犬歯を剥き出しにして笑った。 嘲笑ではない。それは獲物を前にした獣のそれ。 この少女が花壇騎士かどうかなど問題ではない。 怯え竦み狩る価値さえ無いと思った相手が牙を剥いたのだ。 それがたとえどんなにか細く無力な物であろうと関係ない。 相手が杖を構えたならばする事など一つしかない。 「セレスタン・オリビエ・ド・ラ・コマンジュ、推して参る」 高らかな名乗りと洗練された構え。 彼の振る舞いは騎士らしく堂に入ったものだった。 ただの傭兵ではないと悟ったシャルロットの表情が強張る。 刹那、セレスタンの持つ杖を中心に周囲の空気が熱を孕んで膨張していく。 『フレイム・ボール』標的を追跡する火のトライアングルスペル。 その高熱は命中すれば火傷どころか人体など容易く溶解させる。 咄嗟に魔法を詠唱するもシャルロットは“間に合わない”と直感した。 すぐさま...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-30
    傅いたまま息絶えた忠臣の傍らに寄り添うようにイザベラが膝をつく。 彼女の祈りを捧げる声がその場に静かに流れた。 それを邪魔しないように背後まで歩み寄ると騎士は告げた。 「申し訳ありませんが、あまり時間がないものでしてね」 「お祈りぐらいはいいだろ!」 振り返ったイザベラがキッと騎士の顔を睨む。 このような状況下にあろうとも気丈な立ち振る舞いは変わらない。 しかし、その目尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。 恐怖からではない。それならば人質にされた時に泣いていた。 真っ向から自分を見据える彼女の曇りなき眼差し。 だが、それに何ら心動かされることなく騎士は更に近付く。 彼の手がイザベラへと届く直前だった。 慌てたように部下の一人が駆け出し、彼の耳に何事かを伝える。 それを聞いて彼はイザベラから視線を外す。 目を向けた先には苦しげな吐息を洩らす自分の部...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-29
    「……何してんだよアンタ」 突然、掛けられた声にワルドは視線をその方向へと向けた。 そこにいたのは平民と思しき黒髪の少年。 見慣れぬ風体に、手には剣を手にしている。 敵意というよりも憤怒を感じさせる強い眼差し。 それを真っ向から見つめ返す僕に、少年はさらに語気を強める。 「もう、そいつには戦う力なんて無かったんだぞ!」 刃を捨て杖を失った襲撃者の遺骸を指差して平賀才人は叫んだ。 武器を全て失ったのなら、もう戦う必要もない相手だった。 なのに目の前の男……ワルドは何の躊躇いも無く襲撃者を始末した。 自分の身を守る為に殺すのならば仕方ない。 だが、ワルドは無抵抗の相手を手に掛けたのだ。 それも一切の躊躇も、一片の容赦もなく、 まるでケーキにナイフでも入れるような容易さで。 ―――才人には許せなかった。 ワルドの非道を許せば自分の中で何かが終わる。...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-18
    いつもなら昼食で賑わう『アルヴィーズの食堂』は、 事態を把握できないまま集められた生徒たちで騒然としていた。 異常気象か、それとも何かのイベントだろうかと口々に意見を言い合う。 中には事の不穏さを感じ取った生徒が数人、青褪めた表情を浮かべている。 唯一人、生徒たちの中に紛れた少年だけが真相に気付いていた。 いや、彼だけではない。彼の視線の先にはコルベールの姿。 他の教師たちに的確な指示を飛ばし生徒を避難させた人物。 混乱を招かぬよう、生徒たちに事実を伏せているのも彼だろう。 だからエンポリオも生徒や教師に尋ねられた際には適当に誤魔化した。 ある航空便で飛行機が胴体着陸を試み、機内で発生した火災により多くの人命が失われた事例があった。 だが後の事故調査により火災は大規模なものではなく、十分に乗客が避難する時間はあったと結論付けられた。 かといって着陸時のショ...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-45
    シャルロットを盾にしたセレスタンとそれを囲むグリフォン隊。 一触即発の状況でどちらも身動きがが取れない中、 アルビオンの騎士は朝食のメニューを訊ねるような気軽さで問う。 「どうでしょう。もう一度こちら側に付くというのは」 それを聞いたセレスタンが鼻で笑うと同時に杖をさらに喉元まで突きつけて見せる。 慌てふためく周囲の反応にセレスタンはくっと口元を釣り上げて笑みを零した。 “一度は殺しかけておいて状況が変わったから味方につけ” そんなことを言われれば並の神経の持ち主なら激昂して人質に手を掛けたかもしれない。 だがセレスタンはそうではない。そして、それは騎士も知る所だった。 そもそも彼には我々への恨みなどない。傭兵仲間を殺された仇を討つ気もない。 誰かを殺し、誰かに殺されるのは狂気の只中にある彼にとっては当然の出来事。 ただ逃げるだけなら我々に姿を見せる必要もない。彼女の...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-23
    二つの杖が激しい音を立てて衝突し両者の眼前で停止する。 そのまま杖ごと叩き切らんとする騎士の目の前で鈍い銀光が閃く。 逆手に握られた刃。喉元を裂かんとした一太刀を寸前で避ける。 力が緩んだ一瞬の隙を突いて男は鍔迫り合いから逃れた。 逃すまいと背後に跳躍した敵へと花壇騎士は杖を向ける。 しかし、その追撃を左右から放たれたエア・ハンマーが阻む。 迫り来る空気の塊を旋風の守りで弾きながら騎士は舌打ちした。 “さほど手強い相手ではないが戦い慣れている……厄介な連中だ” 戦闘に長けているというのは強い魔法が扱えるという事ではない。 自分と相手の力量を正確に測り、退くべき時に退き、攻める時に攻める。 如何なる状況にあろうと冷静にその判断が下せる者こそ一番厄介なのだ。 包囲する襲撃者達は常に散発的に仕掛けて一人に狙いを絞らせない。 深追いしようとすれば残る二人が先程の...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-12
    「何をボサっと突っ立てるんだい!」 イザベラが呆然としていたギーシュを引きずり倒す。 ギーシュの顔を地面に押し付けたまま、その場に伏せて前を見据える。 悲鳴や断末魔が響き渡り、何かが焼ける臭いが周辺に漂う。 学院が賊の襲撃を受けている事は疑いようがなかった。 「いきなり何をするんだ!?」 「いいから静かにしてな!」 顔を起こしたギーシュを再び地面に押し戻す。 “むぎゅ”っと不思議な悲鳴を上げるギーシュを睨む。 この馬鹿には危機感とかそういうものはないのか。 今の状況がヤバイ事ぐらい子供でも分かるだろう。 ここで大声を上げるなんて敵陣のど真ん中で野営するぐらいマズイ。 もちろんカステルモールや東薔薇花壇警護騎士団の実力は知っている。 だけど、それも十全に発揮されればの話だ。 もし、ここが勝手知ったるグラン・トロワなら霧で覆おうが関係ない。 ...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-10
    アンリエッタ王女が馬車から降りると、 学院の前で待ちわびていた生徒達から歓声が上がった。 清楚なドレスに身を包みながらも少女は陰鬱な表情で俯く。 それは、その端麗な容姿さえも曇らせる。 たとえるならば萎れた花というべきか。 「なんだ、わたしの方が美人じゃないか」 盛り上がる群集の中、イザベラだけが冷めた目で彼女を見つめる。 不遜ともいえる勝利宣言を口にしても咎める者はいない。 傍らで固まっている男子生徒たちは二台の馬車を眺めながら、 まだ見ぬ姫の容姿について熱い議論を交わしている。 シャルロット姫について訊ねられたイザベラが正直に “自分とは正反対の性格だ”と答えると一同は騒然となった。 彼等の中で“万人を愛し人々に尊敬される素晴らしき姫”という、 聖女の如きシャルロット姫のイメージが紡がれていく。 “わたしがガリアの実権を握った暁には覚悟はで...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-16
    獲物を探し求める傭兵の顔には獰猛な笑み。 それは血の臭いを嗅ぎつけた飢えた狼の姿にも似ている。 だが、これから挑む相手は無力な羊などではない。 花壇騎士団の実力はガリア王国でも屈指を誇る。 他国にとって両用艦隊と並んで恐怖の対象とされる戦闘集団。 無論、彼もそれを知っている。 あの中の誰よりも熟知していると言ってもいい。 何故なら彼もその花壇騎士団の一員として杖を振るっていたのだ。 もっとも東薔薇花壇などという華々しい騎士団ではなく、 表向きは存在しない汚れ仕事を一手に担う日陰の騎士団だったが。 だからこそ彼は花壇騎士の強さも弱さも知り得ていた。 彼が知る限り花壇騎士には二種類の人間がいる。 親の七光りで叙された能無しどもと、 実績と実力で這い上がってきた猛者たち。 真に恐れるべきは後者のみ。 奴等は腕が立つばかりではない。 連中はガリア王...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-28
    恐怖で見開いた目に映ったのは胴体を貫かれる花壇騎士の姿。 溢れ出た血が雨漏りのように地面へと滴り落ちる。 イザベラはただ黙ってそれを見ているしかなかった。 彼女は何もできなかった。“構うな”と言えなかった。 そう簡単に手にした人質を殺すとは思えない。 ただの脅しである可能性は高かった。 だが、連中の狙いがシャルロットだとしたら……。 イザベラは嫌というほど彼女と自分の違いを知っていた。 もしシャルロットを手中に収めていたとしたら自分は用無しだ。 躊躇うことなく男は自分の喉に当てた杖を押し込むだろう。 判断を誤れば逃れようのない死が待っている。 突きつけられた死の恐怖―――その迷いが彼女の判断を遅らせた。 逡巡の結果がこれだ。 自分を守っていた騎士の末路を目に焼き付ける。 その凄惨な姿から目を逸らさずに睨み続ける。 こいつを殺したのは敵じゃない、わたしなん...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-14
    息を切らせながらルイズはただひたすらに走った。 姫を探す当てもなく、がむしゃらに霧の中を駆け巡る。 どこに敵が潜んでいるかも分からない状況。 彼女の脳裏に、先程目にした誰とも知れない焼死体がちらつく。 だけど退けない。退くわけにはいかない。 「私は貴族よ! 魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ!」 それは彼女の決意表明。 誰かに聞かせるためにではない 自分を奮い立たせるように彼女は叫んだ。 「敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!」 ルイズの雄叫びが霧の中に響き渡っていた頃。 イザベラは堂々と襲撃者に背を向けて逃げ出していた。 邪魔なドレスの端を掴んで必死に足を動かす。 王宮で走り慣れているとはいえ、その動きは鈍い。 ギーシュを失った悲しみと悔しさから彼女の目尻に涙が浮かぶ。 “ああ、畜生! こんなに早く囮を使い捨てる事になる...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-42
    「もう追っ手が来やがったのか!」 傭兵が叫びながら杖を引き抜く。 突然消えたイザベラの捜索に追われていた時、それは現れた。 彼等の頭上には舞い踊るように周回するグリフォン、 そして、その背には魔法衛士隊が跨っている。 「ただの周辺警戒です。恐れなくても大丈夫ですよ」 迎撃態勢を取る傭兵達を騎士は片手で制すとグリフォンに向かって手を振る。 すると、それに応えるようにグリフォン隊を静かに地面へと降り始めた。 「グリフォン隊隊員八名、これより貴殿等と合流する」 「よく来てくれました。アルビオンは貴方方を心から歓迎します」 笑顔で会釈する騎士とどこか憮然とした表情の衛士達を見比べて傭兵は得心した。 捕縛された連中を真っ先に取り調べる権利があるのはここ、トリステインの連中だ。 魔法衛士隊なら尋問にかこつけて捕虜を逃がす事も自殺に見せかけて始末する事も出来る。 だから騎士は捕...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-37
    「なんてこったい。上手くいってりゃアタシが女王になれたかもしれないじゃないか」 「そんな国家の危機引き起こすぐらいなら、宮廷の連中もさすがに王制を廃止するだろうね」 ゴロゴロと地面を転がりながら抗議の声を上げる。 それをマチルダが冷たい視線と呆れた口調で平然と返す。 シャルロットの代わりってのは気に入らないがアイツに貸しを作るのも悪くない。 この調子ならシャルロットは捕まっていないだろうしね。 ただ一つだけ納得いかない事がある。 なんで私ならシャルロットの代わりになるって思ったんだ? あの程度の条件なら確かに私でも取引材料になる。 でも、それならシャルロットを人質にする必要はない。 他の有力貴族でも十分に交渉のテーブルに持っていけるはずだ。 こんな無茶をやらかす理由なんてどこにもない。 つまりシャルロットと私に共通し、且つ他の貴族にはないもの。 ……ガ...
  • ティータイムは幽霊屋敷で-25
    「どこだルイズ! 聞こえたら返事しろ!」 剣を片手に喚きながら走る少年を襲撃者は追った。 彼に印が無いのを確認して背後から静かに刃を抜く。 ……何とも容易い獲物だと思った。 周囲を警戒するどころか声を上げて自分の居場所を晒す。 仕方ない。剣を持っているとはいえ相手は子供。 戦場を知らずに育った人間に対処できる事態ではない。 少年の不運を嘆きながら、その心を非情の刃に隠す。 せめて一太刀、恐怖さえ感じる間もなく終わらせよう。 フライと組み合わせた踏み込みで刃の間合いに飛び込む。 それに気付いた少年の目が私を捉えた。 だが、それも遅い。 避けるどころか反応する間さえなく刃は首筋へと走る。 それは頚動脈を断ち切り、瞬時にして相手を死に至らしめる。 そう積み上げた経験が少年の最期を告げていた。 刃が振り抜かれる。 しかし、あるべき手応えはなく必殺の...
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