洞窟内に轟くのは、大地を揺るがし、生きとし生けるものを戦慄させる王者の咆哮。群青色の岩壁はあまりの衝撃に打ち震え、至る所に崩壊の兆しが見られる。先程まで堅固に思えていた岩肌には亀裂が入り、天井からは岩石の雨が降り注ぐ。
そんな洞窟の中を、今まさに一人の青年が彷徨っていた。激しく揺れる地面。必死に身体を支えようとするも空しく転倒してしまう。立ち上がろうとするが恐怖に縛られた足はもつれ、再び地面に叩き付けられる。
「……痛ッ!」
青年はよろめきながらも立ち上がる。小さな石片が青年の膝にいくつも突き刺さっているが、それを取り除く余裕も無く、恐怖に急がされる。それでも、恐怖が足を縛り上げて身動きを封じていた。恐怖が毒牙となって心も体も蝕む。
「誰か助けてくれ……誰か! 誰か! 誰か助けてくれぇええええ! 助けてくれ……」
実に愚かな事である、何もせずに助けを求めるという行為は。青年の助けを求める声は空しく洞窟の中でこだました。
逃げようとせず、顔を地面につけ、蹲り、そのまま同じ場所にいる。青年は恐怖のあまり、目は瞳孔とも完全に見開き泣きながら祈願する。薄暗い洞窟の中、青年の顔は涙で濡れ、顔には土が付着している。
その姿は生きながらにして屍そのものである。生ける屍はこのまま見逃してくれと祈るばかりである。
轟音が響き渡り、天井から岩石の雨が再び降り注ぐ。洞窟の王者ドラゴンの咆哮と岩石の雨は嫌でも青年の意識を戻してしまう。彼は体を横に回し落ちてくる岩石の雨を回避した。紅に光る二つの光が彼の目の中に飛び込んできた。
「……ッ! クソッ。俺が討伐するのはゴブリンだったはずだ! どうしてあんな奴がいるんだよ! 畜生!」
恐怖を怒声で打ち払うように、青年は声を上げる。強く噛み締めた唇からは赤い血がポトポトと零れ出していた。
「斡旋所の奴に騙されたのか? ふざけた態度だったもんな! っざけんじゃねーぞ! あの糞親父ぃ、トンでもねぇ仕事を押し付けてくれたもんだな! ドラゴンなんてよ!」
不意に青年は洞窟の気温が突然上がるように感じた。青年は顔を引きつらせ首を捻る。
「冗談……だろ?」
不安は的中した。
巨大なる四本足の怪物。生物を制する古よりの王。圧倒的なる暴力で、人を恐怖と狂乱に導く悪魔の申し子。
ドラゴンという名の悪魔を超越する悪魔。
紅蓮の息を吐きながら、獲物にゆっくりと近づいてくる。
青年の目は完全に見開いていた。彼の口からガチガチと硬いもの同士が振るえぶつかり合っている音を鳴らしている。絶望し咄嗟に石を拾い上げる。
「ひぃい!ひひぃいい!」
青年は腕を振った。それだけである。彼の腰元に石は転がり落ちた。ドラゴンが一歩近づいた。青年は後ろに逃げようとするが岩壁が立ち塞がり、これ以上後ろに進む事を許さない。しかし、それに青年が気づく事なく、壁に頭を打った。
ガン!
青年の頭の中で鈍く低い音がこだまする。青年の頭の中で何かが切れた音がした。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃぁあああああああああああああ!!!!」
人であるにも関わらず、彼の出す声は人のものではない。青年の精神は完全に狂乱状態と化していた。
青年は笑みを浮かべた。歪み、絶望し、全てをさらけ出して笑っている。
彼はコワレタのだ。
それでもドラゴンは何事もないように近づいてくる。そして、舌を出して口の中に戻した。
ゆっくりと息を吸い、胸を大きく膨らませ。そして、吐き出す。それだけで息は地獄の業火となり、青年に襲い掛かる。
一瞬で地獄と化する洞窟。鉄の鎧を溶かす灼熱の炎。青年の身を守る鎧では裸同然である。
残ったのは黒色の灰である。
―「Episode 1 天国と地獄の狭間への入り口」―
そんな洞窟の中を、今まさに一人の青年が彷徨っていた。激しく揺れる地面。必死に身体を支えようとするも空しく転倒してしまう。立ち上がろうとするが恐怖に縛られた足はもつれ、再び地面に叩き付けられる。
「……痛ッ!」
青年はよろめきながらも立ち上がる。小さな石片が青年の膝にいくつも突き刺さっているが、それを取り除く余裕も無く、恐怖に急がされる。それでも、恐怖が足を縛り上げて身動きを封じていた。恐怖が毒牙となって心も体も蝕む。
「誰か助けてくれ……誰か! 誰か! 誰か助けてくれぇええええ! 助けてくれ……」
実に愚かな事である、何もせずに助けを求めるという行為は。青年の助けを求める声は空しく洞窟の中でこだました。
逃げようとせず、顔を地面につけ、蹲り、そのまま同じ場所にいる。青年は恐怖のあまり、目は瞳孔とも完全に見開き泣きながら祈願する。薄暗い洞窟の中、青年の顔は涙で濡れ、顔には土が付着している。
その姿は生きながらにして屍そのものである。生ける屍はこのまま見逃してくれと祈るばかりである。
轟音が響き渡り、天井から岩石の雨が再び降り注ぐ。洞窟の王者ドラゴンの咆哮と岩石の雨は嫌でも青年の意識を戻してしまう。彼は体を横に回し落ちてくる岩石の雨を回避した。紅に光る二つの光が彼の目の中に飛び込んできた。
「……ッ! クソッ。俺が討伐するのはゴブリンだったはずだ! どうしてあんな奴がいるんだよ! 畜生!」
恐怖を怒声で打ち払うように、青年は声を上げる。強く噛み締めた唇からは赤い血がポトポトと零れ出していた。
「斡旋所の奴に騙されたのか? ふざけた態度だったもんな! っざけんじゃねーぞ! あの糞親父ぃ、トンでもねぇ仕事を押し付けてくれたもんだな! ドラゴンなんてよ!」
不意に青年は洞窟の気温が突然上がるように感じた。青年は顔を引きつらせ首を捻る。
「冗談……だろ?」
不安は的中した。
巨大なる四本足の怪物。生物を制する古よりの王。圧倒的なる暴力で、人を恐怖と狂乱に導く悪魔の申し子。
ドラゴンという名の悪魔を超越する悪魔。
紅蓮の息を吐きながら、獲物にゆっくりと近づいてくる。
青年の目は完全に見開いていた。彼の口からガチガチと硬いもの同士が振るえぶつかり合っている音を鳴らしている。絶望し咄嗟に石を拾い上げる。
「ひぃい!ひひぃいい!」
青年は腕を振った。それだけである。彼の腰元に石は転がり落ちた。ドラゴンが一歩近づいた。青年は後ろに逃げようとするが岩壁が立ち塞がり、これ以上後ろに進む事を許さない。しかし、それに青年が気づく事なく、壁に頭を打った。
ガン!
青年の頭の中で鈍く低い音がこだまする。青年の頭の中で何かが切れた音がした。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃぁあああああああああああああ!!!!」
人であるにも関わらず、彼の出す声は人のものではない。青年の精神は完全に狂乱状態と化していた。
青年は笑みを浮かべた。歪み、絶望し、全てをさらけ出して笑っている。
彼はコワレタのだ。
それでもドラゴンは何事もないように近づいてくる。そして、舌を出して口の中に戻した。
ゆっくりと息を吸い、胸を大きく膨らませ。そして、吐き出す。それだけで息は地獄の業火となり、青年に襲い掛かる。
一瞬で地獄と化する洞窟。鉄の鎧を溶かす灼熱の炎。青年の身を守る鎧では裸同然である。
残ったのは黒色の灰である。
―「Episode 1 天国と地獄の狭間への入り口」―