次元の乱れ
ユグドラシル辺境の町「
クロムクロム」に大規模な
悪魔の襲来事件が発生した。
この悪魔大挙の報を受け、ユグドラシル政府は軍隊を出動させると共に、"
教会"に
悪魔祓いの派遣を要請。
大規模な討伐隊を編成し、速やかな事態の収拾に乗り出した。
やがて悪魔の掃討を終え、その出現地点と思しき場所にやってきた悪魔祓い達は、ソレを目撃した。
『神の力の源泉』
一体、何時からそんな言葉がユグドラシルの国々で聞かれるようになったのか。
オールグリーンに住まう人々にとって、悪魔とは世界の狭間(≒11次元空間)から出現する凶悪な怪物であり、
旧世界の技術や知識を積極的に復興させようとする
ソレグレイユ圏の人々とは、根本的な認識に差があった。
だからこそ、オールグリーンの人々は科学文明圏の人々以上に、悪魔を特別視してしまったのかも知れない。
「《悪魔》の対義語とは何か?」
そんな疑問を持った時、きっと大半の人が真っ先に思い浮かべる言葉は《天使》であろう。
そして仮に、《悪魔》たちの上に《魔王》と呼ぶべき存在が居るとすれば、
その対極には《天使》の上に立つ《神》が存在するはずであると考えるのも、無理のないことだ。
先人は、この思考から様々な発想を巡らせ、
「仮に、あの怪物が《悪魔》であり、奴らの住まう世界(=魔界)が存在するのならば
その対となる《天使》、そして神が住まう世界(=天界)も彼らと同じ、
或いは近しい次元に存在するのではないか」という疑念――一部の者にとっては盲信的な確信――は
オールグリーンに、そして後のユグドラシル圏の国々で実しやかに語り継がれ、
悪魔研究という形で着実に続けられていったのだ。
だから、この時の討伐隊たちがソレを見た時、
とっさに『神の力の源泉』という単語が思い出されたのも当然のことであった。
そこには《目》があった。
見開かれた目を彷彿とさせるソレは、周囲の空間を歪め、
その内側には禍々しさを顕現させたかのような色彩の空間を内包していた。
目撃した者は、ソレと《目》を合わせてしまうと一瞬にして体が硬直し、
全身を悪寒が駆け巡るような恐怖を感じたという。
討伐隊が恐怖に身を固める中、《目》から這い出ようとする新手の悪魔の姿を前にして
彼らはようやく無理やりに自らを奮い立たせ、どうにか窮地を免れることができた。
その後、政府へこの《目》の存在が伝えられると、今度は廃墟と化したクロムクロムに調査団が派遣された。
悪魔がこの世界に現れる際、《ゲート》として一時的に空間が裂かれることは既に知られていたが、
それらの《ゲート》は悪魔の出現と共にすぐに閉じてしまっていた。
そこに今回の常態化した《ゲート》から多数の悪魔が出現したという事実を踏まえ、
ユグドラシルはこの《目》と悪魔に強い関連性があると考え、その正体の解明を急いだ。
だが、ある意味では既に解は出ていた。
便宜的に《目》と呼称されるようになったこの空間の正体は、
間違いなく悪魔が出現する際にできる《ゲート》であり、 常に《魔界》へと繋がり続けているそれは
ユグドラシルで語られる『神の力(=次元の壁を越える力)』を手に入れるための手掛かりであり、
『神の領域(=天界)へと到達する』という大望を実現する可能性を示すものに他ならないからだ。
かつて、人類が
次元科学を手に入れるきっかけとなった”次元の乱れ”。
この乱れによって生じた他の次元世界に存在する惑星の虚像は、
旧人類に次元科学と次元世界への航行技術を確立させる要因となった。
当時の”次元の乱れ”は惑星の虚像が観測できる程度の影響の少ないものだったが、
今回発生した常態化した《ゲート》の存在は、当時以上に深刻な”次元の乱れ”の発生を予兆するものであった。
なお、ソレグレイユで『
Demons eye』と呼称される銀河の一つを観測していた学者たちが
これから起きつつある事態の重大さに驚愕したのも、ちょうどこの頃であった。
次元の歪みが生んだ邪悪なる情景と、遥か彼方の宇宙で観測された銀河の鮮血の輝き―――
この二つが同一の存在であることはまだこの時の人類には知られていない。
最終更新:2014年12月06日 17:04