森の竜と少女の物語
ドラゴンナイトの起こりを物語調に編纂した
ユグドラシルの童話。
この著の作者バイモン・ドラコイヤーは、本の編纂に際して女子供を主役とした故事の多さに驚愕したと同時に、
人身御供として
魔物である竜に捧げられ、結果として見染められて竜乗りになった、
といった類の故事の多さに心を痛め、著の出版後に自費で慰霊碑を建てている。
国も興らぬ昔のある年、魔物被害が頻発するようになり近隣の町は大きな被害を受けた。
男たちは自警団を組織して対抗したが、戦い慣れぬ彼らでは魔物に手も足も出ず、大層困り果てた。
悩みに悩んだ挙句、町の者たちは力ある森の竜のいる湖に赴き、町を護ってもらえないかと懇願した。
森の竜は拒んだが街の者たちがあまりにしつこいので、追い返すためにある条件を出した。
「お前たちの町で一番美しい少女を一人差し出せば、願いを聞き入れよう」
森の竜はわざと無理難題を吹っ掛けて町の者たちを諦めさせようとした。
町の者たちは「わかった」とだけ言い、とぼとぼと帰って行った。
これで諦めるだろうと胸を撫で下ろした森の竜だったが、
翌日、村の者たちと話した湖に行ってみると、そこには約束通り一人の少女がいた。
足枷を填められた少女は森の竜に気付くとひどく怯えた表情で、こう告げた。
「森の竜さま。わたくしの命と引き換えに、どうか町を御救いください」
森の竜は落胆した。
保身のためならば弱きものを平気で切り捨てられるニンゲンの醜さと、
軽はずみに条件を提示した自分自身に心の内で静かに憤怒した。
それと同時に、このような理不尽を前にし恐怖に身を震わせながらも
自分を生贄に捧げた町の者たちのために犠牲になろうとする少女の優しさに、森の竜は心打たれた。
元々少女をどうにかしようと思っていなかった森の竜は、少女に契約を交わさせ、
その身滅びるまで共に在らんことを誓わせた。
こうして少女は竜乗りとして大空へ飛び立ち、森の竜は古巣を捨て新天地を目指し、
何処かへと旅立っていった。
数日が経ち町の者たちが湖へ現れたが、当然そこに森の竜の姿はなく、
一様に騙された、と喚き散らしていたが、その声に引き寄せられてきた魔物に食べられてしまい、
少女を見捨てた町にも相応の報いが下ったそうな。
―――バイモン・ドラコイヤー著 森の竜と少女の物語より一部抜粋
最終更新:2014年10月24日 07:39