ユグドラシルの荒廃都市


ユグドラシルの荒廃都市/Ruined city of Yggdrasill》

ユグドラシル廃図書館から少し下ったところに存在する遺跡。
石造りだが、圧力が極大になる点には金剛石を、そして極小になる点には美しい石灰岩がはめ込まれている。
巨大な建造物にもかかわらず、廃図書館同様――文明の薫りを感じさせるために――放置されている。
以前は破壊の機運が高まったこともあったが、難所にあることと、
放置しても早急の危険性がないことから、計画は棚上げにされ、それ以来手付かずのままとなっている。

自然主義であるユグドラシルらしさを残しつつ、几帳面すぎるブロックの積み方、
圧力分布がわかっていなければ間違いなく作れなかっただろう柱の配置など、
細部には不可解な点――果たして、それはソレグレイユの学問から流用されたものであった――が
多数残されている。

内部構造はユグドラシルに住まう動物や、集落の人間がほとんど棄損してしまったために
ほとんど残されていないが、乾燥・低温の気候によって、未だに風化せずに残っている。

era3においては、エラミーが廃図書館から帰る際に断髪を行った場所である。
手前側にいる髪の短い少女がそれである。
彼女が伸ばし続けた髪の毛はここで切られることとなる。


『私がしてきたこととは何だったのだ?
 私は自問する。答えはない。当然だ。けれど、こんなアホみたいに重いトランクを持って、
 あんなに恥ずかしいことをして、私は結局、紙切れの中に金箔を探していただけだったのだろうか。

 涙はとうの昔に出なくなっている。けれど、胸には深い憂悶が訪れる。
 あの、閉じ込められた世界で味わったのとは全く別の――期待に答えられなかったという。
 ため息をつく。髪の毛が乾いた風にバサバサとなびく。
 廃墟となった都市には何も残っていない。
 羚羊だろうか、角を持った動物が一匹死んでいるのが見つかっただけだった。
 壁面にはところどころ真っ白に輝く場所と、鈍色に照り映える場所がある。
 私の探しているものも、こんな風に埋まっていれば。自嘲気味に笑う。
 一見乱雑に組まれた通路を歩く。――私には分かる。この構造はユグドラシルのなんかじゃない。
 これは、ソレグレイユの、それも、ものすごく古典的な組み方だ。
 わざと欠落している柱――これで自分たちの建築能力を誇示しているのだ――も、
 そしてわざとくっきり陥没している床も。知っている。
 だからここに来て、だからここに本があると思って、だから――私は考えるのをやめにした。
 髪を切ろう。突然、そう思った。写真を取られた。きっと、誰かが照合すれば私だと気がつくだろう。
 だから、私は髪の短い女になりたい――違う! 髪の短い人間にならなけばいけないんだ。
 乱暴にナイフを取り出して、私は束にした髪の根元に白刃を当てた。
 廃都市は私のことをじっと見下ろしている。
 まるで、廃図書館に入るものを頑なに拒む門番のように――もはや肉は朽ち、 骨と鎧しか残っていないのだが。
 もはや私はここに来ることは無いのだけれど。
 私は通行料として自分の切った髪をそこら中に撒き、そして帰ることにした』

―――反逆者エラミーの回顧録より


最終更新:2015年02月12日 02:49
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