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災厄の匣と最厄の罪人


【災厄の匣と最厄の罪人】

全ての生物が手を取り合い、助け合った安寧の時代に、一匹の災厄の竜が誕生した。

竜は業火を吐き地を焼き、神を殺し、悪魔すら狩り、全てを屠った。
生きとし生けるものの悲鳴を糧に力を増した竜に、人類も、神々も、悪魔も、
皆が逃げ惑い、死に絶え、誰もが絶望した。

その時、一人の人間の男が竜の暴走を鎮めた。
男は竜の産声を宥め、竜の親《契約者》となり、竜の管理を行うことで世界の平和は約束された。
竜を殺すことは神にすら不可能。
ならば、眠らせることこそが世界を守ることに繋がる。
竜の眠りこそ、世界の安寧である。

竜が目覚めた時、男の血を引く子孫達が竜を眠らせる役割を負った。
眠りに誘う唄を歌い、時に舞い踊り、祈りを捧げ続けた。
だが、世界を絶望へと導く災厄の竜を鎮めるために、人間が無傷であるはずがなかった。

生命を削って竜を鎮め続けた一族は、代々短命の一族であった。
しかしその代償に、契約を交わした竜からは人間の身に余る魔力の恩恵を受け続け、
それを子孫へと受け継いでいった。

竜の誕生から気の遠くなるほどの時間が流れ、男の血は脈々と継承されていった。
一族は常に、竜と共に在った。
彼らが竜と邂逅するのは夢の中で願った時と、竜の寝床へと足を運んだ時だけ。
だが、一族は竜を愛し、災厄と呼ばれた存在をひたむきに守り続ける守り人であった。
中には、竜の守り人としての宿命から逃れようとした者もいた。
しかし、誰も逃れる者を責め立てはしない。
誰かが逃れたならば、他の者が守り人を務めた。

ある時代、一族の短命という宿命を我が子に背負わせることを嘆いた一人の母がいた。
一族の歴代最大と謳われた魔力を持つ彼女は、ついに一つの決断を下す。
竜の存在は災厄、そして災厄が存在するから短命の一族であらねばならない。
そして災厄を消滅させることは神にも不可能である。
「ならば、別の世界に閉じ込めてしまえばいい」
宿命を終えるためには、輪廻転生の輪から外れ、永久の匣に竜を閉じ込めるより他にない。

しかし、閉じ込めた匣を監視し、管理する者が必要だった。
永久の闇の世界を創造し、永久の牢獄で、竜とたった一人で永久に孤独を生き続ける生贄が必要だ。
彼女は、自らをその生贄に差し出し、孤独を選ぶことで我が子たちを短命という一族の宿命から開放しようとした。

本来、世界を創造し永久の身体を手に入れることなど、人間の身に許されたことではない。
創造主に成り代わり、自らを神へと押し上げる禁忌の魔術。
人の身で永久の命を得るなど――まして転生の輪を外れ、神々が定めた魂の総数に歪みを与える行為は、
神々の怒りに触れる。

だが、彼女はそれを知った上で、竜を世界から切り離し闇へと閉じ込めた。
そして、永久の孤独に自ら飛び込み、我が子を、子孫を一族の宿命から解放した。
だが、それで終わるはずもなく、災厄の竜を閉じ込めた災厄の匣の管理者として
人が永久を得たことに激怒した神々は、彼女に永久の苦しみを与えた。

最厄の罪人として、彼女の孤独と苦しみを罰としたのだ。
全ての生物は彼女を罵り、世界から追放した。
世界に優しさと祝福をもたらした母なる彼女の本当の姿を知っているのは、もはや彼女の子供達のみ。
優しい母は、最厄の罪人として、いつしか「パンドラ」という名を与えられた。

最終更新:2015年02月12日 04:27