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探索行

探索行

ソレグレイユのプロパガンダ政策の道具として、冒険作家シュニッツラーは、首都での監視生活を強いられていた。

彼女が活発に旅を続けていた頃に交流のあった探検家ゴッヘルザッホは、
そのような境遇に心を痛め、シュニッツラーを助け出すためソレグレイユ政府との交渉を重ねていた。
そして政府は、これまでに彼が幾つもの世界的な功績を成し遂げてきたことに目を付け、
ある条件と引き換えに、シュニッツラー解放の機会を与える。
それは、旧文明崩壊の原因を解明せよ、というものだった。

旧文明の崩壊から約400年。
現存する人類の中に、嘗ての文明が崩壊した理由を知る者は既にいなくなっていた。

辛うじて残された旧世界の残滓を手掛かりに科学文明を再興させてきたソルグレイユ(現・ソレグレイユ)ではあるが、
生存圏を確保しようと躍起になっていた成立当初の時代には、電子機器の類がほぼ壊滅していた為に
当時の情報は記録されず風化し、人々に語り継がれる事も無く忘れ去られていった。

その為、ソルグレイユ時代から行われてきた文明崩壊の真相を解明する研究は、文献や情報の乏しさから停滞して久しく、
今回ゴッヘルザッホにこのような条件を突き付けたのも、
実現不可能な要求を提示することで、シュニッツラーの解放を諦めさせようという政府の姦計に過ぎなかった。

だが、シュニッツラーを救う可能性を得たゴッヘルザッホはこの要求を承諾する。
彼は、旧文明再興を掲げるソレグレイユ国内での調査で解明されなかった点から、
真相に近付く鍵は、旧文明の遺跡や遺物が多く残る久平の地にあると考えたのだ。

彼の探検家らしい仮説に、政府(特に研究者陣)は一転して真相解明への期待を寄せるようになる。
一時は公式の調査団を派遣する事も検討されたが、当時まだ国交のなかった久平に大規模な調査団を入れることは難しく、
最終的には、ゴッヘルザッホの他に探検家ギルドから選りすぐりの者を数名雇い、
非公式の調査隊として派遣するという形で、可能な限り探索の達成に寄与する事となった。

久平到着後、ソレグレイユと大洋を挟んで位置する久平の一構成国である『列島』に降り立った彼ら探検家を待ち受けていたのは、未開拓の深い山野であった。
魔の領域と化した森林山野を彷徨うこと1ヶ月、ゴッヘルザッホは列島の旧首都へと辿り着く。

何の手掛かりも無く旧国の首都機能の中枢を担っていた施設周辺を捜索し、
文明崩壊の原因を探し出すまで実に3年強を要した。

この間、行き先も告げずに消息を絶った彼らに、同業者からは様々な流言飛語が飛び交ったものの、
当の本人らはそのような事を知る由も無く、嘗て大国の指導者の席があった施設で発見された地下空間の探索を続けていた。
この時点で、雇われた探検家はゴッヘルザッホを含め3名まで減り、そこから人間世界へ戻るまでに更に半年が過ぎた。

人間世界への帰路の途上、通過せざるを得ない魔の領域で残りの2名までもが倒れ、実に復路の過半をゴッヘルザッホは孤独に過ごす事となった。

そうして旧文明崩壊の真実を携え、傷付いた老体を引き摺り、ゴッヘルザッホは遂に生還を果たす。
ようやく辿り着いた最寄りの街の探検家ギルドを介して証拠となる文献と、自身と仲間たちが記した調査書をソレグレイユ政府に発送した。

後に、この世紀の大発見は、旧文明の崩壊から400年続く名ばかりの次元世紀を過ごしてきたソレグレイユの人々を驚嘆させるばかりでなく、
もう一つの大国ユグドラシルを始め、多くの人類に伝えられた。
これを切っ掛けに対立する二大国の間では、オルケインにて遥か過去の祖先の追悼式が行われると共に平和条約の締結が為され、新たな時代が到来する。

しかし、この世紀の大発見を齎したのが、8名から成る極秘調査団の活躍があった事実を人々は知らない。
この事実を知るのは、彼らとの交渉に携わったソレグレイユの僅かばかりの要人のみで
今回の出来事の発端となったシュニッツラーでさえ、それを知る事は無かった。

最終更新:2022年09月06日 00:20