協力者の布石
『
試作円筒居住区』――それは人類の新たな生活圏として期待されていた場所。
人の住む街や都市の外には魔が蔓延り、その中でも
悪魔は、時に人類の頭上に突如として現れることがある。
人類にとっての安息の地は、陽の当たる場所には存在しないのだと、先人たちは皆悲観した。
そんな世界からの解放を夢見て計画されたのが、この試作円筒居住区であった。
次元科学を手にして早4世紀余り、それから常に人類は、悪魔の脅威に晒され続けてきた。
だが、只やられっぱなしで終わりではなかった。
era1には捕獲した悪魔やその死骸から得た情報を蓄積し、一度は悪魔の出現条件の解明にまで届きかける。
しかし
ジャッジメントデイによりそれらは失われ、
科学、
魔法文明双方の発展に伴い、
改めて悪魔の生態研究が行われ始めた。
そうして人類は、一つの有力な仮説に辿り着く。
それは『悪魔は空のある場所からしか出現しない』ということだ。
悪魔がこの世界に現れる際、空間を裂くことは既に周知の事実だが、
それらの目撃情報は一貫して、悪魔は「空から」現れている。
この点に着目したソレグレイユは、人間世界に悪魔を侵入させない方法として
人間の生活圏そのものを覆う、という傍目には突拍子もない発想を得る。
こうして科学者らは国の許諾の下、円筒居住区の建設にあたり、実際に試作の完成にまで漕ぎ着けた。
だが、結果は知っての通りで、完成後の試験運用の中で問題点が明るみに出ると、
円筒居住区は試作を破棄、以降の開発も取り止めとなった。
問題が露見してからとんとん拍子に事が進んだ点については、
「初めから政府は円筒居住区の欠陥に気付いていて黙認したのではないか?」
という疑念がソレグレイユ政府に向けられた。
当然政府はこれを否定したが――果たして彼らは、こうなることを全く予見していなかったのだろうか?
答えは否である。
最初から政府は、この試作円筒居住区を本格的に運用するつもりなど微塵もなかったのだ。
それでも計画続行の認可と建設のための資金提供を行ったのは、
偏に彼らの裏側にある目的を遂げる上で、
彼らにとって必要な過程を遂行する手段に転用させる狙いがあってのものだった。
それ故、居住区内には生命維持装置の他に、『
幻灯機』や天候制御装置、
光合成や人工的手段による大気の再現実験施設、
宇宙空間での運用を目的とした遠心力による擬似重力の実験場などが増設されていた。
但し、それらの機材や実験施設は居住区の破棄から1年ほどで撤収し、
以降は完全に無人の立ち入り制限区域となった。
最終更新:2015年06月05日 01:30