ミステリーサークルの謎を暴け


ミステリーサークルの謎を暴け

オカルトサークル「まほろば」――当サークルにおける活動内容は
あらゆる超常現象を科学的、現実的、時にはサークルが銘打つような、オカルト的見地から解を導く事である。
今回、彼女達が調査の対象としたのは、福岡県某市某町に突如出現したミステリーサークルだ。
サークルメンバーらは、2泊3日の予定で現地へ向かった。

現地は田舎の寂れた町にしては賑わっていた。
町民が此度の超常現象を町興しの一環として巻き込んだのだろう。
数十年前に近隣で起こった事件と今回の現象との関連性を面白おかしくマスコミが報じた事で、全国からその筋の人間が集まっていた。
顧問である時崎空と、サークルメンバーの境井夢子星野月美の3名もまた、そんなオカルト臭漂うこの地に誘われていた。

町の人々は好意的に来訪者達を受け入れている。
ここで機嫌を取って旅館以外の施設でも金を落としてほしいのだ。
件のミステリーサークルは一般に公開されていた。
捜査の為の現状維持、という名目で立ち入り禁止を示すカラーコーンとバー、立て看板等が周囲を取り囲んでいる。

人目に付かないようにその日の夜半、「まほろば」メンバーは調査に出向く。
彼女らの超常現象に対する探究心を前に、人の善意に訴えかける障害物は何の意味も成さない。
当然、ミステリーサークルを囲む規制線は突破される。
――しかしそれは、彼女らのような者の侵入を知らせる警戒線でもあったのだ。

叢の中に仕掛けられたトラップに引っ掛かり、夜の町に鳴子の音が響き渡る。
これを聞きつけ、灯りと農具を携えた町人と「まほろば」による夜明けまでの鬼ごっこが繰り広げられた
(事の真相が公にはなっていない為、町人のこの行動が新たなオカルト話を生み出したという)。

2日目の夜、ミステリーサークルの周囲には見張りに狩り出された青年団員がおり、容易には近付けなくなっていた。
3日目の昼には帰路に就かねばならない為、もう半日の猶予もない。
「今回は諦めて、次の機会を窺いましょう」と提案する星野に、時崎はもう一度だけ動くと言う。
しかし、無策で飛び込みはしない。
時崎は「まほろば」らしいやり方を既に考えていた。

その名も『ヤマタノオロチ作戦』。
まず、時崎が持参した酒を見張りに飲ませる。
これは星野と境井の役割だ。
酔った旅行客を装い、一緒に飲もうと誘い出す。
この酒に睡眠薬を仕込んでおけば、一杯飲ませるだけでいい。
「女子大生の色香を活かせ」と無茶振りされる二人。
不安と一抹の恐怖を抱きつつ、星野と境井は作戦を決行する。

だがそれらの感情は杞憂であった。
見張りに立っていた8人ばかりの男達は二人のお酌を快く受け、20分としない内に全員が眠りに落ちていた。
余りの呆気なさに面食らいつつも、ようやく「まほろば」メンバーは本来の目的、ミステリーサークルの調査を行う――。


明けて3日目の朝、宿泊先の旅館で朝食を摂る3人。
若干寝不足だ。
目的も達成したので、帰りの電車までの時間は観光に当てる事にした。
友人たちへのお土産を買い、時間になったので旅館を後にする。
帰りの電車でレポートの提出を言い渡す時崎の言葉に、昨夜の件で疲れている二人は気だるげな声を漏らす。

結局、時崎はあのミステリーサークルの正体を人為的なものと結論付けた。
突如として現れたミステリーサークルを町興しの観光事業に取り込む行動の早さ、
1日目と2日目の夜の警戒っぷりに対して昼間には闖入者の存在を口外するどころか噂話一つ立てず、
何事もなかったかのように観光客をもてなす違和感から
町の人間以外に近付かれては困る事があったのだ、と時崎は推察した。

ミステリーサークルを荒らされる事を防ぐ、もちろんそれもあるが、それ以上に規制線の内側に入られたくない理由
それは――「あのミステリーサークルに隠し切れず残っている人の痕跡を見せない為」――であった。

突如として出現したミステリーサークル、という演出の為には、まず、制作段階で人目に触れない必要がある。
町民全員が協力者であるとは考え辛い。
恐らく町内会や役所の主だった者達が計画したのだろう。
重機も人海戦術も使えないので、ミステリーサークル作りは彼らが自力で行い、その後の鳴子や青年団等の侵入者対策は
ミステリーサークルを作った奴がまた現れるかも知れないとか、悪戯で荒らそうとする輩をすぐに見つける為とか、いくらでも口実は作れる。
人の痕跡を消し切れていなかったのは、人目に付かない場所とは言え、地元住民に見られる可能性を考えて拙速に事を運んだからだろう。
もしかしたら人目に付きづらい夜中に証拠隠滅を図っていたかも知れないが、「まほろば」による今回の騒動により、それも難しくなった。
それに、彼女らのような行動派の人間が今後現れないとも限らない。

「そう遠くない内に世間に真相が伝わるでしょ」と、時崎は言う。

ミステリーサークルの調査から約1ヶ月後、「まほろば」同様に規制線内に侵入した者が証拠の映像を撮影し、ネット上に公開した。
この映像は忽ちネット上に拡散し、やがてはテレビで続報として取り上げられるまでに人々の関心を引いた。
自宅のテレビでこの報道を目にした星野、境井は帰りの電車で自分たちの顧問が放った言葉を思い出していた。

「ま、事実が伝わろうが伝わるまいが、しばらく人は来るでしょうし、ブームが過ぎれば引き潮みたいに来なくなって、また寂れるでしょ。
 人は見たいものを見て、見終わればすぐに飽きちゃうのよ……」


『「なんもなーい!そら高ーい!」
 「ホント何もないね。 京都じゃ山ん中でも寺とか神社いっぱいあるのに」 』

                      1日目、現地到着後の会話より

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era1 事件
最終更新:2022年09月06日 23:51
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