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蜃気楼の小人を捕えよ
京都府京都市某所。オカルトサークル「
まほろば」が部室を構える同地にて少々、毛色の違う調査案件が舞い込んだ。
小人――書いて字の如く、小さき人。人類の中から先天的な身体障害で現れる類のものとは違い、御伽噺や寓話に登場するようなあの小人だ。
その小人が日本の、それも京都に現れたという証言が、多数ネット上のオカルト
掲示板に寄せられた。
目撃者らの証言曰く、体長はおよそ20cm程度。身体的特徴は西洋風の庶民服を着ていたり、和装であったりと様々。
彼らは証拠となる映像か写真を残そうと手持ちの端末での撮影を試みたのだが、どういう訳か小人のみが画面に映り込まなかったという。
ならばと、意を決して捕獲を試みてみた者たちは更に、こう付け加えていた。
――近付いた途端に見えなくなった、と。
これだけの数の証言、そして彼女らの地元で起こる怪現象という事もあり、「
まほろば」は同日中に行動を開始した。
全ての目撃者が皆一様にその周辺を書き記していた。
そこは京都市郊外の外縁部、土とアスファルトの道路との境界線付近。
目撃証言の集中するこの地ならば、件の小人に遭遇出来ると考えた
時崎、
境井、
星野の三名は証言の一つである
「近付いたら見えなくなった」という点を考慮し、およそ10m間隔で近・中・遠距離からの観測を試みる。
数日に及ぶ張り込みで、幾度となく通行人から奇異の目で見られながら捜索を続けるも、しかして小人が姿を現す事は無かった。
やはり張り込んでいては向こうも出てき辛いのでは――星野は訝しんだ。
メンバーは一度調査を中断し、作戦会議に入る。
会議の末、結論として現状の調査方法は中止し、持ち回りで一人が離れた地点から双眼鏡等で監視を継続。
発見し次第、各員に通達後、全員集合まで待機という運びとなった。
近付くと見えない以上、野探しでの発見は困難な為、発見後の捕獲まで考慮に入れた判断だった。
厳正なるじゃんけんの結果、境井からの持ち回りで目撃地点の監視が始まった。
――思えばこれまでにいくつもの超常現象をサークル活動で探究してきた。
度重なる校外活動、決まった日程のある県外への遠征と異なり、今回は地元での調査という事もあって、移動や予算面での制約が少なく、日程の限りが無い。
時間的制約が無ければ、いつまででもその事に没頭してしまう人種である自覚はある。
しかし、そろそろ単位の心配をし始めている境井にとって、一旦の区切りをつけて留年回避に動きたい心情でもあり、
今回に限っては、成果が無くて良いから早く終わらせたいと思い始めていた。
それだけ彼女は焦りが出ていたのだ。
そんな時だった――眼前の道路に動く影を見たのは。
あの後、すぐに時崎と星野に小人発見の報告をし、三人は遂に小人に接近する機会を得た。
まずは冷静にこれまでの証言の反芻を行う。
念のために持ってきたカメラには、情報通り映らなかった。
映像媒体に移りこまない為の細工を施しているのか、或いは霊的存在なのか、今後突き止めるべき課題だ。
続いて、目視可能な距離の確認。
じりじりと物陰に隠れながら接近し、小人の背後10m付近にまで近付いた。
すると、この距離に差し掛かった所で、小人の身体が薄くなったような錯覚を各々は覚える。
一度後退してみると、また鮮明に小人の姿を視認出来た。
およそ10m付近が視覚に影響を及ぼす範囲のようだ。
次は危険な賭けだが、踏み込んだ実証実験に移る。
境井と星野を何食わぬ顔で会話させながら、小人の近くを通らせる。
予め用意してきたインカムを装着し、後方から小人の位置を確認する時崎から随時報告を受け、二人は小人を足元に通り過ぎる。
二人が近付くと小人が接近に気付く。
しかし、小人は二人に踏みつけられない様に距離を取っただけで、逃げるような動きは見せなかった。
小人は自分が見つかっていないと思っているらしい……距離次第でこちらが認識出来ている事に気付いていないのだろうか。
ともかく、これで作戦を次に進めても良さそうだ。
まほろばは、事前に用意していた作戦に移行する。
その名も『観測手(スポッター)作戦』。
方法は先程同様、時崎が観測手として小人の動きを伝え、境井と星野の両名が捕獲組として手探りで捕まえる。
実際に捕まえる二人に小人が見えないという欠点は、網目の小さい大型の捕獲網を使い、範囲でカバーする。
斯くして行動が開始された。
作戦配置は時崎が15m後方から双眼鏡で小人の動きを監視、先程小人の傍を歩き去った後、境井はその場に残り、星野が引き返して挟み打ちの形を取る。
小人を中心に、今度は二手から歩み寄る境井と星野。
何度も行ったり来たりする二人にさすがに違和感を覚えたのか、小人が周囲を警戒するような素振りを見せる。
その時、双眼鏡で見つめる時崎は、小人と目が合った。
気付かれた!――そう判断し、時崎は咄嗟に作戦開始の号を発する。
逃げ出そうとする小人を前後からそれぞれ目の前に目掛けて網を投げ放つ捕獲組。
僅か一瞬の出来事。
そして遂に、オカルトサークル「
まほろば」は、突如、京都僻地に舞い込んだ超常の存在「小人」の捕獲を成し遂げた。
『「今回は比較的近場だから良いけどさ、近いとそれはそれで往復がメンドーじゃない?」
「わかる。10日もこれじゃ、いつもの遠征の方が逆に楽だったかも」』
小人捜索10日目の少女達の会話より
最終更新:2025年01月01日 13:10