「
まほろば」は、捕えた
小人を生きたまま学会の場に晒し、自分を追いやった偏屈な学者共を負かしてやる
という
時崎の私怨の元、一先ず瓶詰め状態の小人をサークルの部室へと持ち帰る事にした。
その時、その話を聞いていた小人が彼女らに問いかける――何でも叶えられる力が欲しくはないか。
それは自分を見逃す代わりに、彼らの持つ力を彼女らに授ける、という事だった。
小人曰く、彼らはあらゆる願望を叶える力――【
魔術】を扱える。
小人に近付くと姿が見えなくなったあの現象は、彼が自らに掛けた魔術に依るものだった。
では何故、最初から全く誰にも認識されなくなる魔術を使わなかったのか、当然この疑問が浮かぶ。
その疑問に対し、小人は「それでは代償が大きく付いてしまう」と答えた。
小人の扱う魔術とは『生命力を代償に世界に願望を叶えさせる技術』なのだという。
『視認されづらくする』ならばわずかな生命力で済むが
『全く認識されないようにする』場合、世界に支払う生命力はその比では無く、彼はそれを良しとしなかった。
元々、小人ほどの大きさならば人の目に付きづらい上、距離次第で視認出来なくすれば
彼女達のように捕獲するつもりで周到に準備されない限りは問題無いからだ。
一通りの魔術の説明を受け、まほろばはしばしの談議に移る。
果たしてこの技術の伝授が、この小人を見逃すに値するか否かを決める為だ。
学会で公表して雪辱を果たしたい時崎、魔術の全貌と今後の発展性に興味を抱く
星野、小人がそもそも嘘を付いている可能性を考える
境井で意見は三分してしまう。
しかし、ここで意見の拮抗を破る小人の言が投げ込まれる。
「取引に応じなくとも、或いは、応じた振りをして後で反故にしようと、それが分かった時点で自ら命を絶つ事など容易に出来る。
たとえ遺骸を世間に晒そうと考えても、永劫に誰からも認識されない魔術を使った上で死ぬまでである」と。
魔術とは、術者の生命力を消費して発動されるもの。
この小人が自らの全生命力と引き換えに先程述べたような魔術を行使したとして、
発動の為の代償たる生命力は既に支払われているので、これは問題なく作動するだろう。
では、その持続性は?小人の言うように未来永劫、誰からも認識できないようにする事は出来るのか?
恐らく答えは否だ。
魔術の発動に生命力という燃料が必要になる以上、その効果の持続にも相応の燃料が要求されるはず。
ならば、その効果はいつ切れる?数日?数年?場合によっては幾十幾百年を要するやも知れない。
魔術が如何なるものかを知らされている今の三人にとって、確認しようのない不確実な彼の言葉は脅し文句として十全に機能した。
結果、時崎が考えを改め、境井も星野の意見に同調した事で交渉は小人の提示した通りで妥結するに至る。
『「作戦上手くいったね!」
「うん!さすが先生だね。……それじゃ、この子は瓶に入れちゃうね。ほ~ら、怖くないですよ~」』
小人捕獲作戦直後の会話より
最終更新:2025年01月01日 13:09