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ミカヅキ『村の夏の一幕』

2008.06.08 03:47

ミカヅキX

村の夏の一幕~或いは少年はいかにしてオオフユアゲハの蛹を手に入れたか~


 「だったら、フイゴみたいな感じでさ」
 「ダメダメ。それじゃ、空気が出るだけだよ」
 暑さを避け木陰で、地面に図を書き込みながら真剣に話し込んでいるのは、村一番の悪戯者のサント・ブローンと鍛冶屋の少女シーナ・スミスであった。
 「空気を出すだけだったら、団扇で十分じゃん」
 年上らしくえらそうな態度でサントが言う。
 「んー」
 まだ10にも満たないシーナは、三つ編みを二本ピンと立てながら、眉間に深く皺を刻み込んでいる。
 「問題は、いかに空気を冷たくするかなんだよ。わかるかシーナ?」
 「言ってる事は分かるけど・・・」
 そこに通りかかったのは、シーナと同い年の少年、ファンベル・ゲルタムであった。
 「あれ、何やってんの?」
 「お。ファンベル、いいところに来た」
 サントがにやりと笑う。
 悪戯者として村で名高いサントであったが、実は彼はかなりの智恵者であった。
 それは、サントの父のイーサンの蔵書のお陰でもあるが、それ以上に「いたずら」という目的の為に、常に頭脳をフル回転させているせいでもあった。
 そんなサントが一目置いているのが、幼いながらも鍛冶師の技術を身につけているシーナと、今目の前に現れたファンベルであった。
 ファンベルもまた、類まれなる知性を備えた少年であるが、その知識の方向性はサントは真逆であった。
 サントにしてみれば、ファンベルの頭に詰まっているのは役に立たない知識ばかりで、普段は少し小馬鹿にしていた。
 しかし、サントに無い智恵をファンベルが持っているのは確かである。
 「実はさ・・・」
 サントは手招きしながら、話を始めた。
 「ふーん冷たい風か。古スギル皇国の王様は、大きな滝を作ってその水しぶきで涼しく過ごしたって聞いた事あるけど、でも滝なんか作れないしね」
 「水か!」
 「水ね!」
 ファンベルの言葉に、サントとシーナは同時に声をあげた。
 「だったら、ポエルク姉ちゃんに作ってあげたシーナ特製如雨露が使えるわ」
 「なんだそれ?」
 「ハーブにお水をあげる時用の霧吹き」
 「なるほど。いいな、それ」
 「試作品がいくつか残ってるわ」
 二人はファンベルを尻目に盛り上がり始めた。


 その翌日。
 昼の光が差し込む酒場は、まるで魔法が解けたように昨夜の喧騒の名残が消えうせてしまって、どこか寂しさを感じさせる
 淡い光の中、エーニャ・ニベルは、藁箒で床掃除をしていた。
 ほっそりとした淡い緑のワンピース姿は、昼下がりの開店前の店先に溶け込んで、一幅の静謐な風景を描いた絵画のようであった。
 「あちー」
 その静寂をやぶったのは、肉感的でありながら健康的な肢体の少女、ルティア・グレイソンであった。
 言葉通りに、薄手の白シャツの胸元を大きく開けて、手でひらひらと扇ぎ空気を送り込みながらの登場であった。
 「あら、今日はずいぶんと早いお目覚めね」
 「こんなに暑くちゃ、おちおち寝てらんないよ、エーニャ姉」
 ほぼ毎日この酒場に入り浸るルティアと、この店の娘であるエーニャとは仲が良かった。
 日頃の素行のせいで村の女性陣とそれほど上手くいっていないルティアにとって、少し年上のエーニャは数少ない女友達であった。
 人付き合いがお世辞にも得意ではないエーニャにしてみれば、ルティアは気を使う必要も無く、また押し付けがましいことも言わない、気の置けない友人であった。
 「あー、あちー。しかも眠い~」
 夏に入ったばかりだというのに、今年は例年より暑さが厳しい。
 「本当に暑いわね」
 そう言うエーニャは汗一つかいていない。
 「なんかエーニャ姉がいうと、嘘臭い~」
 ルティアはカウンターの高い椅子に腰をかけ、ロングスカートを膝上近くまで捲り上げた。
 そのままカウンターの上にへたりこんだ。
 「あー。ねぇねぇ、カウンターがひんやりして気持ちいいよ」
 「それはいいけど、スカート、上げすぎじゃない?」
 「いいの。誰も見ないって。ってか、見られてもどうってことないし」
 「もう。またセルマさんに怒られるわよ」
 セルマ・スミスは鍛冶屋の若夫婦の奥さんで、最近風紀の乱れを気にし、ルティアに小言を言う事が多くなっている。
 「気をつけまーす」
 「ルティアったら」
 ルティアの生返事に、エーニャは少し微笑んで、再び箒を動かし始めた。

 「エーニャさん。こんにちわ」
 籠一杯のモジャキノコを抱えて酒場を訪れたのは、フィラン・ハンキィパンキィ。
 キノコ狩りを生業とする、ハンキィパンキィ家の次女であった。
 「あら、フィラン。キノコを持ってきてくれたの?」
 エーニャは笑ってフィランを迎えた。
 「はい」
 「ありがとう」
 渡した籠の後ろから、立派な胸が飛び出した。
 「おーおー。相変わらず育ってるねぇ」
 「あ、ルティちゃん!」
 奥のカウンターにルティアの姿を見つけたフィランは、胸を左右上下に振り回しながら駆け寄っていく。
 「ルティちゃん何してんの?」
 「だらけてんの~」
 「フィランも!フィランもだらける!」
 「おう。だらけろ」
 フィランはルティアの横に並んで腰掛けた。
 「そういや~」
 ルティアは長い金髪をかき上げながら、隣のフィランに話しかけた。
 「あれ、やってるか?」
 「うん。でも、あんまり効き目ないの」
 「おかしいなー。あ、エーニャ姉、その籠貸して」
 「え?これ」
 「そうそう。あ、ありがと。んー、これがいいか」
 言いながら、ルティアは籠の中から大き目のキノコを一本取り出した。
 「何するの?」
 「あ、エーニャ姉には、あんまし関係ない、かな」
 意地悪そうに、ルティアは笑う。
 「いいか、フィラン。こうやってだな・・・」
 「うん」
 「ここに挟んで・・・」
 「ちょ、ルティ!何やってるのよ!」
 「いや、何ってフィランに女としてのたしなみを・・・」
 「いいから止めなさい!」
 慌ててエーニャは、ルティアの美しい胸の谷間にあるキノコを取り上げた。
 「あーあ。怒られちゃった」
 「ちゃったね」
 ルティアとフィランは顔を見合わせて笑い声を上げた。

 「あついなー」
 「あついねー」
 「だったら水浴びにでも行ってらっしゃいな」
 掃除を終え、店に出す料理の下ごしらえをしながら、エーニャは二人に言った。
 「めんどくさい」
 ルティアは、モジャキノコに串を差すエーニャを見ずに答える。
 エーニャの横で、その手伝いをしていたフィランが、軽く首をかしげた。
 「アンサーが言ってたんだけど、サント兄ちゃんが冷たい風を作ってるんだって」
 「冷たい風?」
 ルティアの蒼い瞳が生気を取り戻した。
 「サントって名前に不安が残るが・・・。しかもアンサーからの情報か~」
 「アンサーはフローベルちゃんから聞いて、フローベルちゃんはファンベルから聞いたんだって」
 ルティアの瞳の輝きが増した。
 「お、ファンベルか。信頼度の上がる名前が出てきたな」
 ルティアがにやりと笑みを浮かべた。
 「で、サント坊やはどこにいるんだ?」
 「ちょっと待ってね。スィラン!」
 「わん!」
 「きゃ!」
 突然現れたハンキィパンキィ家の末息子の姿に、エーニャが驚きの声をあげる。
 「お前、どこにいたんだ?」
 「んー。お外」
 「ま、いいか。今更驚くまい」
 ルティアは深く追求するのを諦めた。
 「スィラン、サント兄ちゃんを探してきて」
 「あーい」
 姉の命令にスィランはうなづくと、四つんばいになって店の外に駆けていった。
 その姿を、フィランは満足げに眺める。
 「・・・エーニャ姉」
 スィランの駆けていった方角を見ながらルティアは、呆然としているエーニャに声を掛けた。
 「大丈夫か、あれ?」
 「・・・」
 エーニャは無言で首を振った。

 「できたわ!」
 「さすがシーナ」
 妙な形の機械を前に、サントとシーナは満足そうな表情を浮かべる。
 二人がいるのは、鍛冶屋の横にある、シーナ専用の工作小屋で、元は納屋だったものをシーナの祖父ロバート・スミスが改造したものだ。
 二人が作り上げたそれは、巨大な鉄製の花の後ろに丸い袋が付いたような形をしていた。
 「さっそく試してみるか」
 腕まくりをしながら、サントは機械に近づき、その横についている取っ手を回し始めた。
 シーナは機械の前に立つ。
 取っ手の回転は、そのまま花びら状の部分に伝わる。
 サントの顔より大きい花びらは回転し、風を起こす。
 「回転運動と歯車の比率は問題な無さそうね」
 シーナが頷きながら言う。
 サントの力はさらに、別の部位に伝わる。
 花びらの後ろの丸い袋を二枚の板が挟んでいるのだが、上の板だけが上下に動き出した。
 結果、二枚の板が袋を押しつぶしたり戻したりを繰り返す。
 「バネの調子もいいわ」
 一種のフイゴのようになったその袋の先には、シーナがかつて試行錯誤した小さな金属の塊が付いていた。
 ポンプ式で水を噴出す仕組みは簡単だったのだが、その水を細かい霧状にするためにかなりなやんだ部分であった。
 三日三晩悩んだ甲斐あって、噴出す水は見事な霧になった。
 その霧が、高速回転する花びらの産み出した風にのってシーナに吹きつける。
 「涼しい!すごく気持ちいい!」
 「成功だな!」
 二人は満面の笑顔を浮かべた。
 「で、これ、何につかうの?」
 「こんどの肝試しに使ってやろうと思ってさ。いきなり冷たい風が吹いてきたら、大人だってびっくりするぜ、きっと」
 「ふわーん」
 シーナは、あまり気のない欠伸交じりの返事をした。
 作品が完成した時点で、シーナの興味は薄れてしまい、昨夜の徹夜から急に眠気が襲ってきたのだろう。
 「まあ、ちょっと疲れるけど、効果は抜群だ。クレッセンのおっさんだって、飛び上がるに決まってる」
 「へー。おっさん呼ばわりしてるんだ」
 突然掛けられた声に、サントの体がびくりとする。
 その声は誰あろう。
 今サントがおっさん呼ばわりしたクレッセン・グレイソンの娘、つまりさっきまで暑さにだらけきっていたルティア・グレイソンその人であった。
 その横には、ちょこんとフィランがいる。
 「へー。それが例の発明なわけね」
 ルティアの口が、期待ににやけている。
 「ル、ルティア姉ちゃん!こ、これは」
 「いいって、いいって。サント。あたしはこれが何に使われるかなんて、興味が無い。ただこの暑さを吹き飛ばしてくれるんならね。そうじゃなければ、まあ、村の平和のと親父の名誉の為に、チクリなんてケチな真似をしなくちゃなんないけどね」
 「くぅ・・・ずりぃよ!」
 「サント、諦めた方がいいわよ。ルティア姉ちゃん、好きにしていいからね」
 シーナは、あっさりそう言うと出口に向かった。
 「シ、シーナ、どこ行くんだよ!」
 「帰って寝るー。昨日あんまし寝てないの。じゃあねー」
 サントは、シーナの後姿を恨みがましく見送るしかなかった。
 「ルティア姉ちゃん、フィラン姉ちゃん、またね」
 フィランは笑顔でシーナに小さく手を振った。
 「さあて、じゃ、そういうことで。サント君、よろしく」
 満面の笑顔でルティアが、サントに向かって言った。

 ルティアの大満足している様子と、取っ手を回しすぎて汗だくになったサントに関しては、省略する。
 その後、薄手のシャツが濡れそぼって、裸同然の姿になったルティアを村人が見て一騒動起こり、この夏を快適に過ごす大発明は、どこかの倉庫の奥深くに隠されてしまった。
 しかし、これが元でルティアとサントの中が悪くなったということはなかった。
 もともと素行の悪さで目立っていたルティアの評判はそれ以上悪くなりようがなかったし、サントにいたっては父と祖父にこっぴどく怒られた以上の見返りが、村の男達からこっそりと届けられたからだ。
 その中には、希少な冬に羽化するオオシロアゲハのサナギも含まれており、サントは村中の子供達から羨ましがられたのであった。


シーナ嬢
色は適当。そばかすは趣味です。


エーニャ姉
管理人さんではありません。こっちも色は適当です。


ニート…いやルティアさん
ノーメイクです。


ムチュール…いや、フィラン嬢
この娘は、むずかしいなぁ


野良(--)
おお、大作だな。途中から若干の気抜けを感じないではないが(笑
俺の担当分の連中は的確に表現されているな。よい掛け合いであった。
サントのいたずらネタは広げられそうで意外と難しいんだよな。俺もなんか考えてみよう。06/08 19:20

水上 える
フィランが思ったよりいい子(笑
イラストはえろいけど…裸?06/29 02:52
最終更新:2009年10月07日 19:50
ツールボックス

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