人目を引く、女だった。
女のような男とも、男のような女とも取れる中性的な顔立ち、それも『美人』、『美形』といった言葉が付く。その上に『とびきりの』という表現が加わる程に端正な顔立ちの女だ。
身長は180cmを優に超え、袖の無い黒シャツを着ているために剥き出しになった両腕は、鍛えられ、使い込まれた筋肉のラインを、白い肌越しに見せている。
引き締まり、無駄な贅肉の存在など感じさせない腹部と、蜂の様に細い腰。腰の位置が同身長の人間と比べて10cmは高い為に、黒のホットパンツから伸びる白い脚は人並み外れて長い。
凡そ贅肉であれ筋肉であれ、無駄な肉の存在を感じさせない、均整の取れた身体付きの為に痩身に見えるが、決して華奢な印象を与えない。寧ろ並の男よりも力強い印象を与える。そんな女だった。
それ等肉体的な要素──────その全てが人目を惹きつける女だが、此の女が人目を惹きつける本質はその様な眼に見える表象上のものでは無い。
女が身に纏う、或いは体の奥深くから発散させるもの。
威風。覇気。そういったものが周囲の凡俗を圧し、近寄る事を許さず、そして目を離す事を許さないのだった。
女は東京の雑踏を一切気にせず歩いていく。同じ方向に歩く者を片端から追い越し、対向者は女の威風に圧されて道を開ける。女の足は雑踏を構成する人間達に全く遮られる事無く、歩みを進める。
「………チッ」
首を振り、周囲を見回し、苛立たしげに舌打ちをする。周囲からの怯えを含んだ眼差しなど一切意に介さず、女は再度周囲を睥睨する。
首を振る度に、腰まで伸びる金糸で織ったかのような見事な金髪が躍り、陽光に煌めいて、見る者を魅了した。
「シケた街だな」
何度目になるか数える気にもならない愚痴が漏れる。
微妙に不機嫌な所為で唯でさえ鋭い目付きが険しさを増しているが、それでも尚此の女は人目を惹きつける。
「確かに栄えてはいるが、それだけだ。家畜ばかりでロクな雄(オトコ)が居ない。雌(オンナ)は見てくれは良いがそれだけ。私が生きていた頃に比べると、随分と人間は惰弱で貧相になったものだ」
虚空を睨み付ける。焦点を結んだ空間が燃焼しそうな程の眼差し。高い高い空を思わせる蒼い瞳が烈しく煌めき、目つきは更に鋭く、険しさを増す。
「しかもこれだけ探してサーヴァントも居ない。欲求不満でキレそうだ」
歯を剥いて唸り出すと、鋭く尖った白い八重歯が覗いた。
今誰かが話し掛ければ、そいつが誰であれ、拳なり蹴りなりが飛ぶだろう。そんな剣呑な空気を纏い、女は周囲を睨め回す。
現世にいる者共がこうならば、せめてサーヴァント共に期待しよう。我が夫に並ぶ者共がいるだろうと思っていたが。さて、何処に居るのやら。
「おい」
背後からの呼び掛けに、女の身体が百八十度回転した。
「お前か」
拳も脚も届かない距離で、腕を組んで此方を見る黒髪黒瞳の少女を視界に収める。
少女の名は天羽斬々。武装女子が学ぶ愛知共生学園にて『女帝』の称号で呼ばれる美少女である。
見られた者を射竦める女の視線を真っ向から受け止め、その威風を浴びて意に介した様子など無い。
「お前は私の下僕(サーヴァント)だろう。主人を置いて動き回るな」
『女帝』の呼び名に相応しい、傲然とした声だった。人を超越した存在であるサーヴァントに対し、微塵も恐れを抱いていない。
「……下僕呼ばわりは気に入らぬが、まぁ流してやろう。今の私境遇は下僕でしかないからな。それでマスター。お前は今まで何処で何をしていた」
「調べ物だ。与えられた駒がどんなものなのか、な。」
女は肩を竦めた
「疑り深い事だ。私はお前に隠し事をした覚えは無いぞ」
「マスターとして当然の事をしたまでだ……。お前こそ一人で街を徘徊して何をしていた」
「何もしてはいないさ。サーヴァントが居たならば話は別だがな」
獰猛に歯を剥き出して、飢えた肉食獣の様な表情で女は言う。戦いたいと。
「お前にとっても悪い話ではないだろう?何しろ好いた男に纏わりつく羽虫を駆除せねばならんのだから」
空気が冷える。周囲の人間が一斉に動けなく程に鮮烈な殺気。サーヴァントの言葉は、天羽の触れてはならないところに突き刺さったらしかった。
「……黙れ」
軋る様な声。声に込められた感情の重さ激しさは、向けられた者を金縛りにする程のものだったが、サーヴァントは平然と流した。
「大切にしろよ、その男。何しろ己を呉れてやっても良いと思える男も、その全てが欲しいと思える男も、生涯ただ一人しか居らんのだから。しかも大抵の者は巡り会うことも叶わず死ぬ。お前は世の中の大抵の女よりは、幸運だ」
「黙れと言っている」
叩きつけられる殺意。気配に敏感な者ならば、胸を刃で貫かれたと錯覚するだろう。それほどの殺意が天羽の総身から照射された。
「フン…恋した女の先達としての経験談なのだがな。此の私とて、恋して自由を捨てたんだ。恋するものの想いが分からぬでもないし、協力するにやぶさかでもない。
それこそ、この私がサーヴァントなどという不自由な境遇に身を落とす程度にはな」
サーヴァントは天羽に笑みを向ける。男も女も魅了されそうな笑顔を。天羽は何の感慨も浮かべずに受け止めた。
「それだけか」
「うん?」
「お前が戦うのはそれだけかと訊いた」
当然の疑問ではある。万能の願望機をめぐっての殺し合い。そんなものに只『意気に感じた』というだけで参じるものなど居るわけがない。普通はそう疑問に思うだろう。
サーヴァントは天羽の疑問を当然と受け止め、気分を害した訳でも無く返答した。
「見物さ。人理に名を刻んだ傑物共を観に来た。我が夫に比する者共も数多く居るだろうと思ってな」
要は暇潰し。観光の類だと、そう言い放った。
「別に、浮気をしようなんて思ってはいないぞ。単に歴史に名を刻んだ猛者達を見てみたいと思っただけだ。
私は自由を至上とする。座に縛られているよりも、仮初のものでも良い、身体を以って現世で活動したい。というのもあった。…………まあ要するに。気まぐれだ」
「呆れた輩だな。貴様は」
「生前から聞き慣れているさ。その言葉はな」
眼前のサーヴァントの言葉は巫山戯ている様にも思えるが、それが事実であることを、サーヴァントについて調べて得た知識から理解した天羽は、返す言葉を思いつかなかった。
「あー…それでだ。私からも訊きたいが、マスターは聖杯に男の愛を望むのか?」
天羽はサーヴァントの問いを鼻で笑った。
「ふはは…高々杯如きに願って我がものとする?納村と我が想いを貶すつもりは毛頭ないぞ」
『それは良かった。想いを告げることもなく、願望機如きに願う様な覇気のない奴に付き従うのは御免だからな」
「安心しろ。貴様の主人はその様な腑抜けでは無い」
「ああ、安心したさ」
二人は人目を憚る事なく獰猛な笑みを浮かべながら向かい合っていた。
周囲の通行人達がドン引きしていた事に結局両者共に気付く事は無かった。
【CLASS】
ライダー
【真名】
アルビルダ@五世紀スカンディナビア
【性別】
女
【身長・体重】
183cm 72kg
【属性】
混沌・中立
【ステータス】
筋力: C 耐久: D 敏捷: C 魔力:C 幸運: A 宝具;B
【クラス別スキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
船に関してはスキルランクが一つ上がる。
【固有スキル】
嵐の航海者;A
「船」と認識されるものを駆る才能を示すスキル。船員・船団を対象とする集団のリーダーも表すため、「軍略」「カリスマ」も兼ね備える特殊スキル。
過酷な北海を航海したアルビルダは、荒天の際に受けるデバフが存在しない。
海賊の誉;A+
海賊独自の価値観から生じる特殊スキル。低ランクの精神汚染、勇猛、戦闘続行などが複合されている。
一国の王女でありながら、自由を求めて海へと繰り出したアルビルダは最高のランクを有する。
戦闘継続;B
ランク相応の戦闘続行スキルの効果に加え、Cランク以下の『仕切り直し』を無効化する。
海に繰り出した直後、出会った海賊達を逃さず、遂に降伏せしめた逸話がスキルとなったもの。
反骨の相;C-
一つの場所に留まらず、また一つの主君を抱かぬ気性。自らは王の器ではなく、自らの王を見つける事ができない流浪の星。
同ランクまでのカリスマを無効化する。
父からの縁談を拒んで海賊となったアルビルダはこのスキルを有する。
なお恋心によりこのスキルは効果を失う為に-が付く。
【宝具】
海賊姫の略奪行(Piratprinsesse)
ランク:A + 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:一人
遭遇した海賊を降し、配下に加えた逸話が宝具と化したもの。
戦闘により撃ち倒した敵を自身の傘下へと加える宝具。
サーヴァントが作成した使い魔や、召喚系宝具により召喚された英霊や幻想種などは、撃破すればそのまま自動的に傘下にし、聖杯戦争に参加したサーヴァントは敗北を認めさせた上で、降伏する事を承諾させる事により配下とすることが出来る。
この際降伏したサーヴァントの霊格は大きく落ち、宝具は唯の武具や技術となり使用不能となる。
これ等配下にした存在は、真名解放により召喚され、アルビルダに使役される。
共に海に繰り出した友人達は真名解放をせずとも召喚可能。
【Weapon】
手斧と剣。そしてヴァイキング船
船は水上でなくとも船体を地面に隠しながらの移動などもできる。
【解説】
五世紀ごろに実在したとされるスカンディナビアの王女。
父の取り決めたデンマークのアルフ皇太子との縁談を拒絶し、複数の女友達を引き連れてバルト海へと出る。
出港直後に出会った海賊達に襲い掛かり、これを逃さず遂に降伏に追い込んで傘下とすると、海賊として暴れ回り、スカンディナビア一帯に名を轟かせる。
やがて精鋭を引き連れて討伐にやってきたアルフ皇太子と交戦。海賊船に乗って勇敢に戦うアルフ皇太子をアルビルダは大いに気に入り、正体を自ら明かすとアルフ皇太子と結婚することを決めたという。
性格は自由を愛するロマンチスト。
欲しいものは奪い取るし、気に入らない事は殺されてもしない。
恋心を持つものに対しては妙に甘くなる。
生前屈強な海賊達と、その海賊達を打ち負かす女達を率い、バルト海で暴れ回った経験から、弱いものを好まず強いものを好む。現代の人類はアルビルダの眼には惰弱と映る。
聖杯にかける願いは存在せず、只々観光気分でやって来た。
男言葉で話し、所作も粗雑だが、伊達に王女として産まれ育った訳では無く、礼儀作法の類はしっかりと身につけている。
【マスター】
天羽斬々@武装少女マキャヴェリズム
【weapon】
刃となるまでに鍛え上げた肉体
【能力・技能】
空手の使い手。化身刀(タケミカヅチ)という、刃物も鈍器も効果の無い頑強極まりない肉体と、コンクリートでさえも穿つ貫手を使用する。
攻撃に対し、無意識の条件反射により行われる自動反撃(オートカウンター)という返し技も持つ。
【解説】
『女帝』の呼び名に違わず、女王様気質でありドSかつヤンデレ。
主人公である納村不動に対して尋常では無い執着を見せる。当人の前では平静を装っているが、一人になると激情に掻き乱されていたりする。
納村に対する思いの程は『殺したい程愛している。我がものにならなければ死ね』という程に苛烈であり、納村の周囲の人間を傷つけ、納村とも拳を交える事となる。
【聖杯にかける願い】
帰還。納村は杯等に願って手に入る程度の男では無い
【ロール】
港区の高校に通う女子高生
【把握媒体】
アニメを観るか武装少女マキャヴェリズムを6巻まで読むかすれば良いです
最終更新:2022年03月31日 22:16