東京二十三区で働く辺見は退屈していた。現状、生活に不自由はない。周囲は平穏そのもの、かつて生きていた世界よりも便利で物が溢れている。だからこそ、彼は自分を抑えねばならない。
ー彼は殺人鬼である。
死に瀕した犠牲者が見せる命の煌めきを求めて、多くの命を奪ってきた彼は自分を殺してくれる何かをも、ずっと求めてきた。自分自身の命を煌めかせて死んでいくために。その願いは既に叶ったのだ。
ー引っ剥がしたお前の入れ墨を広げる度に思い出すよ
杉元さん。とても恐ろしく、とても強いが底の部分に優しさを秘めた素敵な人。彼との逢瀬は辺見にとって特に幸せな思い出の一つだ。だから聖杯戦争なる催しに招かれた事は、思い出に水を差されたようで、少々残念に思っている。
(セイバーさん、何を考えているのでしょうか?)
昨晩、召喚を済ませた英霊は現世を見物したいと辺見に告げると、霊体化したまま辺見の職場についてきた。
《セイバーさん?》
《マスター、貴方は違う時代の生まれだと言っていたが、この時代をどう思う?》
《はぁ、どう思うか…ですか》
休憩に入った時、辺見が念話を送ってみたら、セイバーは問いを投げてきた。
《とても煌びやかでモノに溢れていますね。ただ、僕が出会ってきた人達より、元気がないな、と思う事があります》
《…》
彼が生きた明治時代は、この東京より侘しかったが人は煌めいていた。杉元さん、白石さんを筆頭に…あるいは時代そのものが、この世界よりも未成熟だったからなのかもしれない。
《セイバーさんはどう思っているんですか?》
《マスターと概ね同意見だ。私が生きた国については覚えているな?》
《もちろんです》
アステカ。
精巧な暦と独自の信仰を持つ謎多き国。中でも人々の耳目を引いたのは、人身御供の文化。豊穣、雨乞いなど様々な理由でアステカの人々は生贄を捧げ、捧げ物となる事は名誉であった。現代において流血と恐怖の心象をもって語られるとしても。
彼らの世界に花の戦い、というものがある。古代アステカにおいて、神に捧げる生贄を得るために行われたと一般に言われている儀式戦争である。他にも戦闘訓練、軍事力の広報活動などの意味があったとも言われている。
それらも間違いではないが、全てではない。最も大きな目的は平民、貴族の区別なく、戦いを通して神に全てを委ねる事。現世を超越した次元との合一。好戦的な国家、アステカにおいては悦楽と等しく解釈される祝祭。
《私が生きた頃より人間は随分と版図を広げたが、それゆえの悲劇も数多く生まれたようだ。私は我々の子孫だけでなく、他の土地の人々を含めた全員と共に"花の戦い"に身を投じたい》
《…!》
《聖杯が手に入ったなら、私はそれを願う。殆ど全ての者達から狂気と詰られたとしても》
殺戮を望んでいるわけでは断じてない。
ただ、世俗に纏わる一切を放棄するあの法悦。あれを皆が味わったならば、あれらを文化として取り入れたならば、マスターの生活圏にまで聞こえて来る悲劇の数百分の1くらいは減るのではないだろうか?
《私自身が懐かしがっているのでもあるがな。マスターの望みはなんだ?》
《セイバーさんと同じです。命の煌めきを、僕も見たいんです!》
そうか、とセイバーは呟くとそれきり返事をしなくなった。語るべき事はもうない、と言外に告げているのか?利害についてはその認識で問題ない。後の方針は、実際の戦闘を経験した後でも遅くはあるまい。この英霊となら、最期まで組んでいられるだろう。辺見は小さく笑った。
【サーヴァント】
【CLASS】
セイバー
【真名】
モクテスマ1世(モクテスマ・イルウィカミナ)
【出典】
アステカ帝国
【性別】
男
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷C++ 魔力C 幸運C 宝具B
【属性】
秩序・善
【クラス別能力】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
信仰の加護:A
一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。
加護とはいうが、最高存在からの恩恵はない。
あるのは信心から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性のみである。
陣地作成:A-
本来はキャスターのクラススキルだが、宝具により所持している。“工房”に匹敵する“聖地”を形成することが可能。
皇帝特権:B
本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。
【宝具】
『幸福な花園(センパスチル)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:500人
アステカにおいて、神に捧げる生贄の獲得や軍事訓練目的で行われていたとされる儀式戦争の逸話が宝具となったもの。
モクテスマが陣地とした場所では、彼が真名解放を行うまで戦闘行動を取ることができない。解放後、レンジ内で戦闘を行う際は射撃・投擲武器が制限されるほか、相手が宝具やスキルなどで大量の増援を呼び出した際、カウンターとしてモクテスマは無銘の戦士を擬似サーヴァントとして上限500人まで召喚できる。
『戦士達の祝祭(パンケツァリストリ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人(自身)
テノチティトランの祭祀の一つが宝具に昇華されたもの。宝具を開帳する事でモクテスマは太陽や狩猟を司る神、ウィツロポチトリの化身と化し、一時的にBランク相当の神性を獲得し、炎熱と閃光によるダメージを宝具ランク分減衰させる。さらに幸運、耐久を除くステータスと対魔力スキルがワンランクアップ。発動中のみ、下記宝具が解禁される。
『王招く天威の蛇(マクアフティル・シウコアトル)』
ランク:C 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:100人
『戦士達の祝祭』展開中のみ使用可能な宝具。
ウィツロポチトリ神がかつて扱ったとされる"トルコ石の蛇"の情報を己の武器である棍棒にダウンロードし、性能を強化する。炎の鞭と化した得物は縦横無尽の動きを見せ、轟音と閃光、凄まじい熱を放ちながら、レンジ内にある全てを焼き尽くす。
【weapon】
マクアフティル:
黒曜石の刃のついた棍棒。
『王招く天威の蛇』の触媒となる武器。
【人物背景】
テノチティトランの第5代統治者。第2代統治者ウィツィリウィトルの子であり、叔父イツコアトルが没した時、将軍位に就いていた彼はその後継者となる。伝説によれば、父ウィツィリウィトルが特製の矢を射った際、母ミアワシウィトルが口に含んだことで妊娠したという。
在位中、テスココ湖に水位を調節する堤を築き農業用水の確保を可能とし、さらに各地に学校を建てて若者を教育。統治が固まると頻繁に外征を行い、アステカの領土を拡大させた。
外見は腰布とマントを纏った褐色肌の男性。
堂々たる体躯を持ち、厳しい表情をしている。
静かな性格だが大王であり戦士でもある彼の態度から、怯懦を読み取ることはできない。
【サーヴァントとしての願い】
個人の役割から人々を解放する祝祭としての"戦い"を催す。誰よりも本人が戦いを望んでいる。
【方針】
優勝狙い。
【マスター】
辺見和雄
【出典】
ゴールデンカムイ
【性別】
男
【能力・技能】
「殺人鬼」
各地を放浪しながら100人以上を殺害してきたシリアルキラーであり、C~Aランク相当の精神汚染スキルを所持。その身体にはアイヌの隠し金塊の在処を示した暗号の一部が彫られている。
【weapon】
なし。
【人物背景】
明治末期、のっぺら坊なる死刑囚に促されるまま網走監獄から脱獄した囚人の1人。人当たりの良い温厚な人物だが、他殺願望と破滅衝動がないまぜになった性癖の赴くまま殺人を繰り返してきた人物。
幼少期、弟が大猪に食い殺される様を目撃して以来、「必死に抵抗する自分を殺してくれるもの」を求めて犯行を繰り返してきた。脱獄後、ニシン漁に従事するヤン衆に潜り込んでいた彼は金塊を求める帰還兵"杉元佐一"とその仲間達と出会う。彼と対話し、その強さと優しさに惚れ込んだ彼は杉元の殺害を決行、そして望み通りに返り討ちにあった。
致命傷を負った彼はシャチに嬲られて息を引き取る。死亡後からの参戦。
【マスターとしての願い】
聖杯が手に入ったなら杉元佐一との再会を願う。
【方針】
優勝狙い。
最終更新:2022年03月31日 22:19