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『足立区で男性の変死体。連続殺人事件か』

午前■時■■分ごろ、足立区内に在住する男性(43)が変死体となってるのを近隣の住人が発見した。
同様の事件が杉並区、練馬区、江戸川区で発生しており、警察は関連性があるか捜査する方針だ。



『新種の蜘蛛? 東京都内で目撃情報相次ぐ』

SNS上で新種らしき蜘蛛の目撃情報が相次いでいる。
研究者の■■■■博士は「興味本位に触れないようにして下さい」と注意を促している。






……あれ。オレ、なにしてんだ?

あ~、なんだっけ。

本当(マジ)覚えてねーや……おい、不味いだろ。どこだ、ここ。……東京か?
まぁ。東京タワーに、東京スカイツリーが見えるんだから東京、か。

んで……オレは何してるんだ?

何がしたいんだよ、オレは。

煙草をふかしながら適当に歩いて……何か。何かしねーと。何をすりゃいいんだ……?
クソッ。本気(マジ)で分からねー。
何か忘れてるのは確かだ。何かが思い出せねえ。


「……あん?」


向こうにボロボロの子供(ガキ)が俯いて歩いていた。
見るからにおかしい癖に、周りの奴らは見て見ぬフリしてやがる。
気づいちまったから、オレは話しかけてた。


「一時停止(ちょいまて)、そこの小学生(ショーボー)。誰にやられたよ。同級生(クラス)の奴か、親か?」


子供はいきなり声かけられてビビってたが、俺は笑って誘った。


「オレが殺し方ってのを――教えてやるぜ」

「……え」


ああ、そうだった。思い出した。ずっとそうだった。
昔から誰かに応えてきたんだ。なんで忘れてたんだろうな……


「ついて来いよ。オレがいい『ユメ』魅せてやる……!!」






『東京都内で子供の誘拐相次ぐ。組織的な犯行か』

[自分の息子がかよっている学校でも十数人いなくなったらしい。不安で夜も眠れない]

[数が尋常じゃない。間違いなくテロ組織が関わってる]

[小学生だけかと思ったらウチの高校も行方不明者いてビビった]

[このまま休校にならねえかな]



『前代未聞のストライキ? 行方を眩ます社会人たち』

[無断欠勤しない人かと思ってたけど、事件あったみたいで、連絡が取れないって店長からメール来た]

[今日、残業確定だわ。仕事が全部、俺にまわってきた……最悪]

[いなくなった子、先輩からパワハラ受けてたからソレが原因なんじゃ]

[ブラックで有名な■■■会社、電気全然ついてなくて糞嗤(クソワロ)]








ユメだ。

オレは『ユメの中』にいる。

『ユメの中』で生きる。そんでもって『ユメの中』で死ぬ――……


オレが声をかけた連中は皆、悲鳴を上げていた。
断末魔って奴だ。
現実がつれえ。現実が退屈だ。困難に耐え切れず、誰からも理解されねー孤独な連中。
大人も子供も、男も女も、若いか老いてるか、そんなもの関係ねー。全員に手を差し伸べた。

連中がオレの前で歓喜する。
皆、これから始まる『ユメ』に期待している。
俺が静寂の号令をかければ、全員行儀よく黙り込んだ。


「オメーラ、オレたちは仲間で家族だ。此処にいる全てが同じだ。現実が空虚(シャバ)くて地獄で耐え切れねえ。
 だが、オレは赦す。心が折れた『負け犬』、困難から逃げた『卑怯者』……オレは赦す。肯定する。
 そんなオメーラに『ユメ』を魅せてやる……!!」


オレを求める声が聴こえる。


「そうだ! 俺達は働いてっ……働いて!」

「だけど何も意味がねえ! こんな事をして生きてて……生き続けて何になるんだっ!!」

「このまま死んでっ、虚しいまま終わってた!」

「そんな私達に、貴方は手を差し伸べてくれたっ!!」

「俺達はアンタに救われた! だから教えてくれ、俺達はどうすればいい!!」


今まで通り、オレは応える。


「オレたちの『暴走(ユメ)』を邪魔するもの、全部ぶっ破壊(こわ)せ! 全部ぶっ殺害(ころ)せ!!
 オメーラが為す事、オレが赦そう! 暴走族神(ゾクガミ)の名の下、全殺しだ!!!」








『こちら大規模な住宅火災が発生している!』


『不良集団が鏖(みなごろし)だ。なんて酷い……』


『■■■ビルで大規模なテロ行為が!』


『糞ったれ! 銃が効かねえ!! 虚偽(ウッソ)だろ!』


『だ、誰か火炎放射器持って来てくれ! 蟲がっ、気味悪りぃ蟲が大量に湧いて――』


『助けてくれ……このままだと皆、死ぬ……』


『嗤ってやがる。有刺鉄線を頭に巻いた悪魔がッ………』


『都内で大量の暴走行為が確認! 死傷者多数!! 数で押されています! 誰か、至急応援を!!!』






でも………何でだろうな……何か引っかかるのは。なんでだ?
何か物足りなくて、何か忘れてて……スッキリしねえ。
オレはオレのやりてーように、やってるつもりなのによ。

だから、今日は遊びで女に声をかけた。
別の事してパーッとすりゃ気が紛れるかと思ったんだが……やっぱ駄目だ。


「………キ」


「どしたの~? おじさまぁ、楽しくない~~??」

「……いや。何かスッキリしねえなぁってよ。まだ時間ある? 飯奢ってやるよ」



「……ロ、キ……」



「真実(マジ)~! 行く行く~!! ねー友達も誘っていい~?」

「いいぜ! 沢山いりゃその分、盛り上がる!!」



「ヒ 、 ロ 、 キ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!」



げぇっ。
折角、盛り上がってた所でオレに激怒(マジギレ)した声が響き渡った。
振り返った先にいたのは案の定、フードのある長衣を着た銀髪の女。
一緒に居た女も「え、誰」って困惑してやがる。
オレがあれこれ弁解(いいわけ)する前に、銀髪の女がズカズカと接近しながら怒(キレ)る。


「夕飯までには帰ってこいと何度言ったら分かるのだ! 母はそのように育てた覚えはないぞ!!」

「おじさまの母(ママ)ぁ? チョー若~」

「いや、違っ。第一(そも)、まだ十時回ってないぜ?! 夜時間(ゴールデンタイム)はこっからだろ!」

「十時など普通の子供は寝る時間よ! さっさとこんかい!!」

「だから、子供(ガキ)は子供でもオレは悪童(ワルガキ)――……」

「知るか阿呆(アホ)!」






「はぁ~~~~~、やれやれよ……」


銀髪の女性、もとい召喚されしサーヴァント・アルターエゴは溜息をついていた。
合理的な手段だが、彼女が召喚され、即座に行ったのが――マスターの『洗脳』だった。
それが一番都合がいいからだ。当然だろう。


彼女の真名は『アイホート』。
イギリスの地下で巣創る『迷路の神』。
彼女は元来から、洗脳や催眠術を用いて人を操り、時には殺し、時には我が子である雛の苗床にし、時には――救った。
とくに彼女は子供を救った。
子への愛情というのが、彼女の中には唯一ある。

そして、彼女のマスターもまた……『子供』だった。
どう見ても図体や年齢は『子供』ではないのだが、それでも不思議と彼女は彼を『子供』だと判断できた。
彼自身も、子供(ガキ)は子供でも悪童(ワルガキ)だと答えた。

人間とはよく分からない種族だ。
個体差があれど、ここまで成長した個体でもなお『子供』のままでいる。

また、アイホートのマスターは複雑だった。厄介な記憶が多過ぎた。
その辺をアイホートは都合よく封じ、彼女の手下となれる人間を、愛すべき子供を集めるようにと命令する。
そう……彼は間違いなく命令に『応じた』のだが。


「妾も多く人間を利用してきたが、ここまでやる人間は初めてなんだな」


確かに、救われるべき子供が集った。手駒になる人間も集めた。
しかし――ここまで集まるとは想定外だった。

無論、アイホート自身が集め、洗脳し、雛の苗床として契約した人間もいるが、彼女のマスターが集めた数はそれを遥かに上回る。
何故ならば


彼は、かつて十万もの不良集団『暴走師団 聖華団』を束ねし神性。
初代総長『暴走族神』――殺島飛露鬼


彼は決して詐欺や手品を使ったわけではない。アイホートのような洗脳すら使っていない。
ただただ、絶大なカリスマで現実に打ちのめされた人々の心を動かした。
本当の意味で救済(すくっ)ただけなのだ。


「だというのに! 夕飯までに家に帰らないわ。帰って来たかと思えば飯は食って来たと言うわ。
 最悪、朝まで遊んどるわ……散々よ。母は悲しい」

「だったら、ちったぁ真面(マシ)な飯つくってくれよ。味覚死んでるぞ」

「莫迦なッ! 今回はレシピ通りに作ったぞ!?」

「今回はって……あと、ソレ勘弁してくれ。帰りが遅い的な言い方……」


不味そうに食事を取りながら、殺島が頭を押さえた。表情が明らかに苦痛を浮かべる。
まだ厄介な記憶が残っていたのかとアイホートが再び術をかける。


「良いか。今度から夕飯までに帰るのだぞ。母との約束だ」

「……ああ、わかってる。分かってるけどよ……なあ、アルターエゴ」

「母と呼ばぬか」

「母親(カミサマ)ってなら共感(わか)るだろ? オレはアイツらに応えねーと」

「ま~た夜中に遊ぶか!」

「いいや『暴走(ユメ)』だ。今宵も退屈を吹き飛ばす『暴走(ユメ)』を魅せる。
 心底(マジ)感謝してるぜ。アルターエゴのお陰でオレたちは『暴走(ユメ)』の中にいられる……!」

「最もらしい理由(イイワケ)をしおって」


結局、殺島は『暴走(ユメ)』の為に夜の東京へ向かう。

『暴走(ユメ)』はいい。
全てを吹き飛ばし、退屈も苦痛も全てを忘れさせる。
殺島自身が豪語する割に、彼自身は全く吹き飛んでいなかった。
『暴走(ユメ)』にいても忘れられない記憶に、苦しみ続けていた。


「全く、支離滅裂な種族よな」


アイホートが手で持て余しているのは、殺島を苦しめていた記憶の蓋を開く切っ掛けになりそうな
玩具(ガラクタ)のブレスレット。
こんなもの、神には何の価値もない。


だが、彼女もまた神なのだから、子供の為に応えるのだ。






【真名】
アイホート@クトゥルフ神話+民間伝承

【クラス】
アルターエゴ

【属性】
混沌・善

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:C- 魔力:B 幸運:C 宝具:C


【クラススキル】
対魔力:C
 Cランクでは、魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
 大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

陣地作成:A
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 即座に迷宮を展開させる事が可能。


【保有スキル】
女神の神核:B
 生まれながらにして完成した女神であることを現すスキル。
 精神と肉体の絶対性を維持する効果を有する。
 あらゆる精神系の干渉を弾き、肉体成長もなく、どれだけカロリー摂取しても体型が変化しない。

自己保存:B
 自身はまるで戦闘力がない代わりに、
 マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れることができる。

ハーメルンの笛:A++
 人間や小動物を意のままに洗脳する催眠術。記憶の改竄すら容易。
 サーヴァント相手には通用しないが、使い魔の支配は場合によって可能。

ブギーマンの加護:A
 愛する子供を守る為のスキル。
 他者や他者の持つ物に戦わせられる強化能力を付与する。
 大人には効力が低いもののEランク相当のサーヴァントに強化。
 子供には魔力を消費する事でそれ以上の強化ができる。


【宝具】
『我が愛しき雛』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:1
 小さな球体状の蜘蛛のような生き物。これらが群れをなして人間に化ける事が可能。
 また、アイホートが『契約』と称して人間に雛を埋め込む事もある。
 雛を埋め込まれた人間は徐々に狂気に侵され、最終的に体内から雛に裂かれ、絶命する。


『母なる神の大迷宮(グレート・マザー・ラビリンス)』
ランク:C 種別:迷宮宝具 レンジ:- 最大捕捉:1000
 アイホートが創造する大迷宮。固有結界ではなく、大魔術の一種。
 不安定な狂気の大洞窟であり、いるだけで精神に影響を及ぼす。
 迷宮内にワープする『門』を創造でき、この聖杯戦争においては東京二十三区内全土に通じる。
 この迷宮を打破するには、主であるアイホートを倒す他ない。


【人物背景】
イギリスのキャムサイドのある無人となった家の地下にある迷宮に棲む『迷路の神』。
イギリスを中心に教団が存在し、彼らはアイホートの雛に率いられた狂った人間ばかり。
一部、子供の信者によるギャングがいるとか。

本体のアイホートの一側面と子供に纏わる幻霊が合わせった複合サーヴァント。
子供に対する慈悲があり、自ら産み出した雛に手をかけられたら激情し、信者の子供にも同様の感情を注ぐ。
大人に対しては基本辛辣。
だが、今回のマスターが『子供』と判断できるように
人間の『子供』の基準に疑念を持ち、聖杯戦争を通して理解しようとしている。


【外見】
銀のロングヘアに赤の瞳を持つ女性。ペプロスに似た白の長衣を纏っている。


【サーヴァントとしての願い】
子供の救済





【マスター】
殺島飛露鬼@忍者と極道


【聖杯にかける願い】
現実に疲れた者達に『暴走(ユメ)』を魅せる


【能力・技能】
極道技巧『狂弾舞踏会(ピストルディスコ)』
 銃弾を跳弾させて複雑な銃撃を行う


【人物背景】
大人になりきれず、かつての『暴走(ユメ)』を追い求めた男。
最終更新:2022年04月03日 16:29