「襲撃(カチコミ)だぁ!」
気付いて叫ぶと同時に、パンチパーマの男の首が宙に飛ぶ。
都内某所。とあるヤクザの事務所は、突如として銃弾飛び交う戦場と化した。
「どこの組だ! 極道(キワミ)の手のモンか!」
「い、いえ……それが……」
防戦一方のヤクザたちの間に、悲鳴と怒号が木霊する。
拳銃(チャカ)や短刀(ドス)を手にした極道たちが、次々に撃ち抜かれ、首が飛ぶ。
「ロシア人です!
迷彩服を着こんだロシア人どもが、サバゲーが如く襲撃(カチコミ)を!」
襲撃者たちの動きは一切の無駄がなかった。
的確に障害を利用し、統制が取れ、放つ弾丸は必発にして必殺。最速最短で事務所を血の海(ブラッドバス)に変えていく。
そして――不可解なのは。
防衛側も同じロシア製拳銃、同じ弾丸を使っているはずにも関わらず。
襲撃者の弾丸はヤクザたちが盾にする扉や机を易々と貫通し、死体に爆発したかのような損害を与えていく。
拳銃弾の一撃で、胸部がまとめて抉れとび、生首が宙を舞う。
「ほ……『ホテル・モスクワ』だ……!
奴ら、武器の代金代わりに渡した覚醒剤(シャブ)が、安物の粗悪品だったと気づいて……!」
「まあ、そんなところだ」
組長が気づいた時には、既に襲撃者たちは事務所の最奥にまで達していた。
ものの数分もかかっていない。
整った顔面に酷い火傷の後を残す、壮絶なる強者の風格を纏った、長身の女が拳銃をつきつける。
「だ、だとしてもだ……『バラライカ』! てめぇらだって俺らを騙してたんだろうが!」
「ん? なんのことだ?」
「お前らから買った銃にも弾にも、そんな威力はねェ! お前らも粗悪品を掴ませたんだろう!?」
「ああ『コレ』か。お前は勘違いをしている。
理由はふたつ。
一つは扱う者の腕の差。もうひとつは――」
そのまま女は引き金を引いた。
組長の頭部がはじけ飛ぶ。文字通り粉々になって消滅する。それはどう見ても拳銃弾の威力ではない。
「もうひとつは――我々には、『聖女』の加護がついている」
女の言葉を聞く相手は、もはやその部屋に残ってはいなかった。
☆
「撤収する。我々が売った武器だけ回収して、カネやヤクには一切手を付けるな。
この国の警察は優秀だし賄賂は効かないぞ。速度を最優先としろ」
「はっ、大尉(カピターン)」
火傷顔の女は部下に後の処理を命じると、事務所の前に停めておいた黒塗りのリムジンに乗り込む。
大使館ナンバーのついたリムジンは静かに走り出す。
広い車内には、先客がひとり。
純白のワンピースをまとった、どこかの貴族のお嬢様かという雰囲気の、十代の少女。
「終わりましたか?」
「ええ、『アーチャー』。全て計画通りです」
女は穏やかな声で少女に応える。
その声と視線には、紛れもない敬愛の情が滲む。
「貴女から提供して頂いた『弾丸』の試し撃ちもかねてやってみましたが……
試射で分かっていましたが、想像以上ですね。これなら英霊が相手であっても『戦争』ができる」
「それは良かった。でも油断してはダメよ? 私と違って、ヒトは弱いんだから」
「貴女ほどの強さをもつモノはそう居ないでしょう。比べられては困ります」
女は葉巻に火をつける。少女は嫌な顔ひとつせずニコニコと笑顔を浮かべている。
少女の姿をしたその英霊の名は、聖バルバラ。
正教会ではイリオポリの聖大致命女ワルワラ、の名で知られる聖人。
キリスト教が禁教とされた時代のローマ帝国に生きた、一人の女である。
裕福な家庭に生まれた彼女は、求婚者から遠ざけようとした父によって高い塔に幽閉されて過ごす。
幽閉生活の中で信仰に目覚めた彼女は、浴室の改装の折に二つの窓を三つにするように要請。
それが三位一体を意味する信仰の現れと知った父は、激高して彼女を殺そうとする。
その時、奇跡が起こり、彼女の身柄は遠くに運び去られる。
しかし羊飼いの密告によって捕まった彼女は、改宗を迫られ厳しい拷問を受けることになる。
だがここでも神の奇跡が起こる。
いかなる傷をつけても彼女の身体はすぐに癒され、その裸身には白き衣がかけられたというのだ。
最終的に彼女は斬首されて命を落とすことになるが、その後、処刑を求めた父親は雷に打たれて死んだという。
そんな彼女は、やがて発熱と即死から信者を守る守護聖人として信仰を受けることになる。
危険な職場で働く者の守護聖人。
石工や工夫、砲兵を守護する守護聖人。
国によっては弾薬庫に彼女の像が飾られ、弾薬庫そのものが「サンタ・バルバラ」の名で呼ばれる程である。
もちろん、東方教会の流れを受けたロシアにおいても親しまれている聖人だ。
ソ連成立前のロシア帝国では、彼女の名を冠した戦闘艇も存在したほどである。
「しかし意外ですね」
「あら、何が意外なの、大尉?」
「聖女と聞いたので、もっとこう、我々の『稼業』に眉を顰められるかと」
「そうねぇ……でも、私なんかに『守護』を求められるモノが何なのか、興味はあったし。
この時代、この国で『それ』を扱うのは、『あなたたち』のような人たちなのでしょう?」
「それは、確かに」
ある意味で弾薬庫そのものである聖女。
そんなものを実戦で必要とする者など、裏社会にしか残っていない。
彼女は聖女らしく、自らを必要とする者に、祝福を与える。
一般的な善悪など超越して、ヤクザや無法者の類であったとしても。
「何より、私は大尉、貴女に興味を抱いたのよ。
私と同じ、激しい拷問を経験した者。
使いづらい英霊である私を活用しきれる組織力。
英霊とか聖女とか呼ばれても、活躍できるのは嬉しいものなのよ。
貴女を応援しない理由がないわ」
「それは、恐縮です」
どことなくやりづらそうな態度で、バラライカは眉を寄せる。
実際、こういうタイプは彼女の身の回りにいない。扱い方が分からない。正直持てあましている。
だが、使える。
あまりにも使え過ぎる。
英霊としてのバルバラ自身は、アンバランスでチグハグな能力の持ち主だ。
高い耐久力と、驚異的な自己再生能力。数々の反則的な即死能力に対する強い耐性。
それだけだ。
倒すにはそれこそ首を一発で刎ねる必要があるが、彼女自身は他の英霊の脅威となる攻撃力を持たない。
せいぜいできることは手榴弾あたりをチマチマ投げるくらいだ。
とても聖杯戦争を勝ち抜けるような能力ではない。
しかし。
聖女の『祝福』にて威力を強化された弾丸を、無限に提供できる宝具『聖バルバラの塔(サンタ・バルバラ)』。
それはバラライカの率いるロシアンマフィア『ホテル・モスクワ』の精鋭たちを一気に強化する。
それは拳銃弾にすら対物ライフル並みの威力を与え、英霊すらも傷つけうる『神秘』の力を纏うという。
あまりにも。
噛み合い過ぎる。
バラライカの口元に、肉食獣のような笑みが浮かぶ。
これなら『戦争』が、できる。
とりあえずは――日本の、ヤクザたちを相手に大暴れして、社会の裏側を掌握させてもらうことにしよう。
【クラス】
アーチャー
【真名】
バルバラ@キリスト教(カトリックおよび東方正教会)
【属性】
中立・善
【パラメータ】
筋力:E 耐久:A 敏捷:D 魔力:B 幸運:C 宝具:B
【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以てしても傷つけるのは難しい。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならばマスターを失ってから一日間現界可能。
後述する宝具『聖バルバラの塔』で作り出した弾薬類もこのスキルの影響を受け、一日間は離れて存在できる。
【保有スキル】
自己回復(体力):A+
受けた傷が即座に回復する。
A+ランクの場合、何らかの回復阻害がなければ、即死級以外の損傷がほとんど即座に全快する。
また回復阻害の要素があったとしても、ある程度以上の自動回復は行われる。
彼女の場合『聖人』スキルの代わりに固定で持つ能力(『聖人』スキルの『HP自動回復』の上位互換)である。
即死耐性:A+
通常攻撃に寄らずして直接に死をもたらす種類の攻撃に対して、強い耐性をもつ。
それが因果律への干渉や死という概念そのものであっても防ぎきる。
彼女は「即死を防ぐ加護をもつ」守護聖人である。彼女自身がそんなものに犯される道理がない。
【宝具】
『聖バルバラの塔(サンタ・バルバラ)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1 最大捕捉:-
聖バルバラの象徴である、「3つの窓を備えた塔」をその場に具現化させる。
塔の一階にある扉を開くと中は弾薬庫となっており、古今東西のありとあらゆる銃器・大砲の弾丸・炸薬を無尽蔵に取り出せる。
これらの弾丸は威力の強化がされており、『神秘』も宿しており、命中すれば英霊であっても傷つけることが可能。
ライフル弾であれば英霊であっても無視できない損害を与え、対物ライフルの直撃であれば致命傷を与える可能性すらある。
ただし、弾を直接打ち出すことはできず、銃や大砲などの発射装置は用意できない。
弾丸を使うものが自前で別に用意しなければならない。
また、銃に込めて使う以外の応用的な使い方(火薬だけをブービートラップに使うなど)は不可能。
弾丸以外には手榴弾や地雷なども取り出すことができ、こちらはそのまま使用も可能で、トラップへの応用も可能。
取り出したモノは『単独行動』のランクに合わせて現界していられる時間が決まる(ランクCなので、一日間)
『雪の衣』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
聖バルバラの身を包む白い衣。彼女の裸身を覆った神の奇跡とされ、一節によれば雪のことだと言う。
炎熱に類するダメージを軽減する。
また、衣類が破損しても自動で再生する。彼女を裸にすることはできない。
白い服という縛りはあるが、TPOに応じて形態を変更することも可能。
【weapon】
手榴弾。『聖バルバラの塔』から取り出せる、数少ない発射装置を要しない兵器。
しかしとてもこれだけで百戦錬磨の英霊たちを仕留めきれるものではない。
【人物背景】
3世紀のローマ帝国支配下の、今のトルコに相当する地域の人物。
西欧の呼び方である「バルバラ」も、東欧の「ワルワラ」も、同じ文字に由来する。
キリスト教が禁教とされた時代において信仰に目覚め、拷問の果てに死んだ人物。
死後は聖人に列せられ、十四救難聖人の一柱として人々の信仰を集めた。
発熱と即死を防ぐとされた聖人であり、危険な環境で働く人々に信仰された。
また国によっては弾薬庫そのものを「サンタ・バルバラ」と呼ぶ。
なお、カトリックにおいては現在は実在が怪しいとして、聖人歴から外されている。
【外見】
長い髪の、お嬢様のような雰囲気の十代の少女。
服装は白であれば状況に合わせて可変可能。
【サーヴァントとしての願い】
自らを必要とする者たち(つまり弾丸を日常的に実戦使用する者たち)を見守り助ける。
現代日本においては、しかし、そんな者は裏社会の住民くらいしか存在しない。
【マスター】
バラライカ@BLACK LAGOON
【マスターとしての願い】
戦争を満喫する。
【能力・技能】
高い戦闘力と指揮能力。
【人物背景】
ロシアンマフィア『ホテル・モスクワ』の大幹部。
本来の担当区域はタイのロアナプラだが、日本には仲間の応援という形で訪れている。
元特殊部隊出身の、実戦経験豊富な精強な部下を多数引きつれており、鉄の規律を誇る。
表向き、ロシア大使館の関係者という立場を得ており、状況によっては警察関係者も干渉しづらい。
【備考】
東京の裏社会で、外来勢力であるロシアンマフィアが勢力を拡大しつつあります。
特に日本土着のヤクザたちとの間で、銃撃戦を伴う激しい抗争が起こっています。
最終更新:2022年04月03日 16:39