「醜いものだな」
「美しいものですね」
立ち並ぶ高層ビル群。所狭しと走り回る自動車。数えるのもバカバカしいほど多くの人々。
それらを眼下に収め、マスターとサーヴァントは真逆の感想を吐き出した。
「ハハ。気が合わないだろうとは思っていたが、本当にな。ここまで感性が違うとは」
「お互い、一目見た時からわかっていたことです。残念なことでもないでしょう」
マスターの名は、常磐SOUGO。
キャスターの真名は、平成おじさん。
2012年に完成し、東京の新たなシンボルとなった東京スカイツリーの展望台にて。
二人、相容れないことを確認した。
「俺は平成を認めない」
「私は平成を愛している」
故に、これは始まりにして訣別の儀式だった。
常磐SOUGOは平成に生きた者。キャスターの顔は当時、写真で、動画で、何百……何千何万と見たものだ。
召喚した瞬間に、キャスターが口を開く前にその真名はわかった。
そして同時に思ったものだ。皮肉な、だが、ああ、俺が召喚できるサーヴァントとは平成を肯定するこの男をおいて他にはいないのだろうな、とも。
キャスターは平成を司る者。平成に生きた人間ならば、顔を見た瞬間に名前や経歴など一瞬で看破する。
召喚された瞬間に、マスターが口を開く前にその願いはわかった。
そして同時に思ったものだ。皮肉な、だが、ああ、私を召喚できるマスターとは平成を否定するこの男をおいて他にはいないのだろうな、とも。
そう。サーヴァントとしては本来成立し得ないキャスターを召喚せしめたのは、このマスターたる常磐SOUGOの並外れた平成力があったればこそ。
足りない零基を平成力で押し上げ、サーヴァントとして成立させ、現界を果たさせる。
それは歴史上のどんなに優秀な魔術師でも不可能なことだ。不可能を可能とするのはただ一人……いや二人。
同じ名を持つ魔王の器であれば。だがもう一人の器は決して平成を否定などしない。平成を否定しないのならば、キャスターなどよりよほど優れた英雄が彼の力となるだろう。
あらゆる英雄から拒否され、それ故にキャスターだけは無碍に拒絶はできない。常磐SOUGOはそんなマスターだった。
「私は君の戦いに賛同しません。同じ道は行けません。私の愛する時代を否定する者に付き従うことはできないのです」
だが、拒絶する。やはりキャスターも平成の否定だけは認められない。
常磐SOUGOの表情が険しくなるのも一顧だにせず、キャスターは左手首に巻いていた自らの腕時計を外し、握り締めた。
歴史の管理者。そう嘯く存在であるのなら、相応しいカタチは一つしかあるまい。
やがてキャスターの掌中に、一つのカタチが顕れる。
「それはライドウォッチ……か?」
「私は君を認めません。ですが否定もしません。君もまた、私が拓いた平成という時代に生きた一人の人間であるのですから」
キャスターはその時計を、常磐SOUGOの力の源となるライドウォッチを差し出した。
そのウォッチはSOUGOが携えている四つのウォッチ、バールクス、RX、ロボライダー、バイオライダーのどれとも違う、異質な気配を放っている。
SOUGOはウォッチを受け取り、それが果たして自身の持つウォッチたちと中身こそ違え規格は全く同一と見て取った。
歴史の管理者たるクォーツァーの手に拠らない、未知のライドウォッチ。
「俺には従えないがこいつを寄越す。どういう意味だ?」
「その時計があれば君は一時的に擬似的なサーヴァントへと変質し、古き英雄たちと渡り合うことも可能となるでしょう」
「ほう……つまり、俺がマスターとサーヴァントを兼ねるということか?」
「その時計には私の霊基のほぼ全てを込めました。『私』はこれから消滅しますが、時計を所持する限り君は私のマスターたる資格を失うことはないでしょう」
「フン、そこまでして俺とは共に戦いたくないか。嫌われたものだな」
皮肉げにSOUGOは笑う。かつての部下は裏切り、替え玉の王に寝返った。
ここでもそう、己のサーヴァントは自らの命を断ってまでして、SOUGOを拒絶する。王の力はSOUGOを孤独にするのか。
しかし常磐SOUGOの内に怒りなどない。王とは唯一無二であるがゆえに絶対なのだから。
「私は君を認めない。ですが、君が描いたその願いを否定することも、同じく私にはできないのです」
もはや味方ではないはずのキャスターのSOUGOを見る眼差しは、言葉とは裏腹に咎めるものはない。むしろ哀れみすら感じるほど。
怪訝に思うSOUGOだが、脳裏に閃きが過ぎる。
「私が見届けられなかった平成の果てに何があったのか。そこにどれだけの絶望を君が感じ取ったのか。私は知らないのだから」
SOUGOの願いは認められない。だが、願いを持つに至った絶望も否定出来ない。
キャスターが選んだのは、妥協、あるいは諦めの第三手。力だけを常磐SOUGOに譲渡し、自らはここで消えることだった。
「そうか……お前は確か、2000年の5月に……」
「私の時間が終わったとき、君の絶望が始まった。私が君を苦しめたとも言える。ならば私は、君の願いを否定してはならないのですよ」
2000年。20世紀最後の年。人類にとって記念すべきミレニアム。
だが常磐SOUGOにとって、2000年とは忌むべき苦悩の始まり以外の何物でもない。
平成ライダー第一作目、「仮面ライダークウガ」。
2000年1月30日放映開始。平成ライダーの歴史はここから始まった。
そして。
目の前のキャスターが生きた、最後の時間でもある。
「私の力は君に預けます。君は一人で戦いなさい。これ以降、私が君に語りかけることはない」
「構わんさ。平成を司る力だけ寄越すというなら、むしろやりやすいというものだ」
キャスターの輪郭が光の粒となって解け、宙へ消えていく。退去、いや消滅の兆候だった。
「マスターの敗北を願う。私はサーヴァント失格なのでしょうね」
「かもな。俺は平成を認めない。何としても、どんな障害が阻もうとも、必ずただ一つの真っ直ぐな道に整えてみせる。だが」
手にしたライドウォッチ。預けられた力は、しかし信頼ではない。
償いの、あるいは憐憫の。その程度の意味しか込められていないのだ。
「平成という時代を拓いたあんたのことは……尊敬しよう。これは偽りのない俺の本心だ」
「その時代が君を苦しめたのですね。ですが、本当は君にもわかっているはずです。平成は、平成という時代は、もう」
最後の言葉を紡ぐ前に、キャスターは消えた。
いや、あえて告げなかったのだろうと、SOUGOは思う。たとえ一時の、数分程度のマスターであった常磐SOUGOを傷つけてしまうと、わかっていたから。
それでもキャスターが最後に何とと言おうとしたか、常磐SOUGOには推察できた。
「終わってなどいない」
ただ一人となった常磐SOUGOは、キャスターの零基が変質したライドウォッチ――名付けるならば平成ライドウォッチ――を、硬く睨みつける。
キャスターにとって、常磐SOUGOが勝とうと負けようと、どうでも良かったのだろう。
勝つならば、それは平成という時代が常磐SOUGOという自滅因子を生み出したが故の、必然。平成は滅びるべくして滅ぶ。
負けるならば、それは常磐SOUGOの絶望が平成を覆せなかった故の、必然。常磐SOUGOは滅びるべくして滅ぶ。
どちらでも結果は変わらないのだ。
何故なら時代は今や令和……キャスターの拓いた平成という時代はもう、とうの昔に終わっているのだから。
だが、常磐SOUGOは認めはしない。
醜い平成も、平成からバトンを渡された令和という新時代も、どちらも消し去ることこそがSOUGOの悲願。
「平成はまだ終わっちゃいない。この俺が生きている限り、真っ直ぐに舗装された平成は永遠に続くのだ」
平成
常磐SOUGOは抗い続ける。時代に。世界に。運命に。
まるでデコボコで、石ころだらけの平成に。
そして気付かない。気付こうとも思わない。
一度負けたくらいで諦めはしない。何度でも立ち上がり、目標に向かって進み続けるそのがむしゃらな姿。
彼も、常磐SOUGOもまた、この瞬間瞬間を必死に生きている一人の平成ライダーであるという事実から、目を背け続けるのだ。
【CLASS】
キャスター
【真名】
平成おじさん@昭和~平成期
【性別】
男
【属性】
秩序・中立
【ステータス】
筋力:- 耐久:- 敏捷:- 魔力:- 幸運:A+ 宝具:EX
【クラス別スキル】
陣地作成:A+
日本国の最高権力者であったキャスターは、首都東京に限って無条件で構築済みの陣地を保有する。
東京都千代田区永田町及び霞が関の全域を支配下に置き、同地域内のあらゆる事象を把握し、都市機能を制御し、霊脈からの補給を得る。
【固有スキル】
日出ずる国の開拓者:EX
日本史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
このスキルそのものがキャスターの宝具である。詳細は宝具欄にて記載。
【宝具】
『日出ずる国の開拓者(オーバー・クォーツァー)』
ランク:EX 種別:対時代宝具 レンジ:- 最大捕捉:日本国内全域
キャスターは「昭和」という古き時代を終わらせ、「平成」という新しい時代を拓いた者。
本人にさしたる力はなくとも、彼が導いた平成という時代に日本で生まれた者・物全ての祖と言える存在である。
そのため、「平成」に僅かなりと縁があるあらゆる存在に関して万能の支配・強制力を持つ。
平成に生まれた人間、建築された建物、発展した技術、創り出された創作物、そのキャラクター……あらゆるものに対して。
星を砕いた。神を殺した。命を蘇らせた。平成に観測されたあらゆる事象は彼の手の内に顕れる。
「対平成」という点では全能の力であるが、その時代から少しでも外にあるものに対しては強制力は働かない。
逆に言えば、平成属性を帯びた存在に対して行使するならば、時代一つを圧縮して高められた平成力は神代の神秘にも届き得る刃となるだろう。
常磐SOUGOの扱うライドウォッチへ変化した現在、以下の性質を得ている。
・常磐SOUGOを擬似サーヴァントとし、彼の平成力を極限まで高める(他者から認識されるクラス位階はキャスターのまま)。
・平成の時代に生まれたマスターが対象の場合、本来その者もキャスターの庇護すべき存在であるため、絶対命令権は削除されている。
・平成の時代に生まれたサーヴァントが対象の場合、もう死んでるのでキャスターの庇護すべき対象ではなく、たとえ敵対していても令呪に次ぐほどの強制力を持った命令を発し従わせることが出来る。
【解説】
平成という元号を発表し、一躍有名になった政治家。
当時は官房長官であったが、元号発表の際に知名度が爆発的に広がり、後に内閣総理大臣へと至る。
【マスター】
常磐SOUGO
【weapon】
ジクウドライバー&ライドウォッチ
【能力】
ドライバーとバールクスライドウォッチを用いて仮面ライダーバールクスに変身する。
・RXライドウォッチ 長剣リボルケインを召喚し、光を纏わせ破壊力を向上させる。
・ロボライダーライドウォッチ 胸の部分を開き、多数のミサイルを撃ち放つ。
・バイオライダーライドウォッチ 体をゲル化させ、あらゆる攻撃を無力化したり敵の体内に飛び込んで内側から攻めたりする。
【技能】
卓越した戦闘技能を誇る。
彼が変身する仮面ライダーバールクスには(ウォッチを使用しない限り)目立った特殊能力はないが、その状態で並み居る最強フォームの平成ライダーたちを一人でなぎ倒した。
平成ライダー限定の特殊能力無効化能力という説もあるが、徒手空拳と剣一本で彼らを圧倒した事実は変わらない。
【解説】
歴史の管理者クォーツァーの首領。
一作ごとに設定や世界観が変化する平成ライダーの歴史を醜いと断じ、美しく舗装された歴史として再編成しようと企む男。
平成に生まれた全ての存在を否定しようとしたが、魔王の替え玉として選んだもう一人の常磐ソウゴに阻まれ、敗北した。
【聖杯にかける願い】
醜い平成の歴史を否定し、まとまりのある一つの美しい平成に舗装する。
【ロール】
第XX代内閣総理大臣
【把握媒体】
仮面ライダージオウ OverQuartzer
最終更新:2022年04月05日 21:05