夜の闇夜を一つの影が駆ける!
鳥か? 飛行機か? いや、ヒーローだ!
最近、巷のゴシップサイトを賑わせているニュースだ。
東京中に蔓延る悪漢たちを、たった一人の女性がバッタバッタと薙ぎ払っていくというのだ。
しかもそれが、全身タイツにマントを羽織ったヒーローのコスプレをしているというのだから、噂にならないほうがおかしい。
だが、そのヒーローにも守るべき日常があるのだろう。彼女は夜にしかその姿を表さなかった。
皆は噂する。彼女はどんな人物なのだろうか。
夜はヒーロー、そして昼は――。
「ハイ、捻って! 上げて、下げて! 腹筋の筋を意識して!」
都内某所に存在するそのスポーツジムは、異様な熱気に包まれていた。
普段は仕事帰りのサラリーマンくらいしか立ち入らない場所だったが、今、一人の外国人女性がトレーニング器具を破壊せんばかりに有効活用しているのだ。
200キロをゆうに超えるレッグプレスマシンのバーベルが悲鳴を上げる。平然とパネルを踏みしめるその両手には、なんと総重量100キロのリストバンドが装着されていた。
しかも小一時間やそこらのトレーニングではない。彼女のトレーニングは、ジムのオープンと同時に開始され、既に四時間が経過していたのだ。
完全にオーバーワークともとれるトレーニングだったが、その女性にとってはウォーミングアップにすらならなかった。
彼女の名は、キャスリーン・ベイト。
いや、分かる人がいれば、こう呼ばれることのほうが多いはずだ。
アメリカ合衆国No.1ヒーロー「スターアンドストライプ」と。
だが、それもキャスリーンが死ぬまでの話だ。
彼女は死に、生き返った。キャスリーンが転生したこの世界は、慣れないことが多い。
街中を歩く人間全員が『個性』と呼ばれる超常能力を持っていないからだ。
それが良いことか悪いことかで言えば、良いことなのだろう。
なぜなら、個性を悪用して暴れる『敵(ヴィラン)』が存在しない。
それでも悪いやつというのはいるもので、キャスリーンはトレーニングを終え夜になると、その鍛えた肉体を手に夜の街を飛び回る。
しかし、キャスリーンがそう毎回都合よく悪者に出会うことができるのはなぜだろうか?
その答えは、彼女の傍で不機嫌そうに座って自身の持っている長剣を眺める太眉の少女にあった。
「おい、マスター。さっきから天秤が傾きっぱなしだ。本当にこの街は腐っとるな」
少女はジム内にいるキャスリーン以外には存在を認知されないのか、剣をゆらしてキャスリーンの目の前に突き出す。
「夜まで待ってな、セイバー。どうせ立ちションとかポイ捨てだろ? そういうのは警察に任しときゃいいさ」
キャスリーンは少女との間にだけ通じる念話を用いて会話を続けながら、トレーニングに励む。
少女は、テミス。ギリシア神話に登場する法や掟を司る女神にして、キャスリーンの「サーヴァント」だ。
クラスはセイバー。最優のサーヴァントクラスと言われるだけあってステータスは優秀だが、ルールにうるさいのが玉に瑕だ。
「いや、それらももちろんあるが、麻薬売買だ。クスリの売人が裏路地をウロチョロしとる。私はこういうのが許せんタチなのだ」
テミスは再び剣をずいっとキャスリーンに突き出した。
よく見ると、長剣には天秤が埋め込まれている。それが、右に左にせわしなく傾いていた。
テミスの天秤は罪を伝えるらしい。それがたとえ立ちションやポイ捨てなどでも、ルールが破られたのであれば、傾いて犯人と内容を即座に知らせるのだ。
「それは確かにダメだな。よし、セイバー! 私に場所を教えな!」
キャスリーンはトレーニングを中止し、ロッカールームでヒーローコスチュームに着替える。
そして、自身に触れ、いつものように『個性』を発動する。
「『スターアンドストライプは、オールマイト並みの身体能力を得る』」
そう呟くと、彼女はロッカールームの窓を開け、跳躍する。
身体が鳥のように宙に舞い上がった。
キャスリーン・ベイト、ヒーロー名「スターアンドストライプ」の個性は『新秩序(ニューオーダー)』。
彼女が触れ、名前を呼んだものは『新たなルールが設定される』。
それこそ、『レーザーを掴める』ようにしたり、『大気を固める』ことなどもお茶の子さいさいだ。
そして、今キャスリーンの肉体は彼女が敬愛する日本No.1ヒーローのオールマイトに近いレベルまで強化されている。
こうしてキャスリーンは、トレーニングジムから遠く離れた繁華街の路地裏まで五分ほどでやって来た。
「あ、そう言えば、マスター。さっきジムから出る時に利用料金を払わなかっただろう。そういうのって私、ダメだと思うぞ」
路地裏に踏み込んだキャスリーンにテミスが茶々を入れる。
「うるさいねえ、そういうセイバーだっていつもジムに入る時に利用料金払ってないし、何なら銃刀法違反じゃないかよ」
麻薬の売人をシメながら、キャスリーンが意趣返しとばかりに軽く糾弾した。
「い、いや、利用料金というのは、たしか正規の利用者が払うものだぞ……。銃刀法違反もたぶんサーヴァントには当てはまらないし……。うう……」
太眉を歪め、頭を抱えるテミスを他所に、キャスリーンは売人の置いていった薬物を調べる。
「ふん、『天国への回数券』か……。最近あちこちで見かけるようになったけど、何だかイヤな感じだね」
キャスリーンは苦虫を噛み潰したような顔をした。いつ、どこにでも『敵(ヴィラン)』というものはいるらしい。
だが、この『天国への回数券』というものは、それらとは種類の違う、何か底知れない怖気のようなものを感じて仕方がないのだった。
「マスター、緊急だ。今度は露出魔だ。助けてくれ。この天秤のやつ、犯人の陰茎のサイズまで知らせて来た」
どうやら気を取り直したらしいテミスが大声でキャスリーンを呼ぶ。
「ああ、もう! この調子じゃいつまでたってもトレーニングができないじゃないか」
キャスリーンは『天国への回数券』をポケットにしまうと、ヒーロー『スターアンドストライプ』となり、次の事件現場目掛けて急行するのだった。
【真名】
テミス@ギリシア神話
【クラス】
セイバー
【属性】
秩序・善
【パラメーター】
筋力:A 耐久:B 敏捷:B 魔力:C 幸運:D 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:D
騎乗の才能。
大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
【保有スキル】
千里眼:C
視力の良さ。
遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
セイバーはこのスキルによって罪を犯した者を探知する。
鋼鉄の決意:D
痛覚の全遮断や超高速移動に耐えうる心身を得る。
複合スキルであり、本来は「勇猛」と「冷静沈着」スキルの効果も含まれている。
セイバーはルールを破るものには厳しいが、逆にルールをきちんと守るものには非常に甘い。
【宝具】
『雁字搦めの天秤(ロック・オブ・リーガル)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~999 最大補足:∞
予めセイバーが定めたルール(犯罪、条例など)を破るものがいた場合、長剣に埋め込まれた天秤が傾いて犯人と犯行内容を知らせる。
それらの記録は履歴として長剣に蓄積されており、罪の重さと数に比例して対象を斬りつけた際の命中率と威力が増す。
重犯罪者にはたとえ戦闘に秀でたサーヴァントであっても一振りで必殺となるが、逆に一切罪を犯していない対象にはほとんどダメージを与えられない欠点がある。
【人物背景】
ギリシア神話に登場する、法や掟を司る女神。
ティタン神の一人で、ゼウスの妻となってプロメテウスやアストライアを産んだとされる。
託宣の女神としての性格も持ち、デルフォイの神託所をアポロンに譲り渡すまでの主であったともいわれる。
【外見】
純白のセーラー服を着て片手に長剣を携えた、いかにもキツそうな目つきをした少女。
外見通りキツい性格でルールを破るものに対して非常に厳しく、目の前でポイ捨てなどしようものなら即座に斬りかかる。
【サーヴァントとしての願い】
ルール違反者を粛清する。
【マスター】
スターアンドストライプ@僕のヒーローアカデミア
【聖杯にかける願い】
なし。
【能力・技能】
個性:新秩序(ニューオーダー)
対象に触れた後、名前を呼ぶことで、対象に新たなルールを設定できる。
ルールの例として、自身の前方100メートルの大気を無くす、触れた人間をすこしでも動けば心臓を止める状態にする等がある。
一度に2つまでルールを設定でき、基本的に1つは自身の肉体強化に設定している。
制約は『新秩序』を「強化」に使うには限界があること。逆に「弱体化」に関しては際限なく行うことができる。
また自我を確立している存在には、本人が自覚している名前と彼女が呼んだ名前が一致しなければ発動できない。
【人物背景】
アメリカ合衆国のNo.1ヒーロー。本名、キャスリーン・ベイト。
女性ながら、画風が違うとも言われる筋骨隆々な見た目をしており、日本のNo.1ヒーローであるオールマイトを師と仰ぐ。
コスチュームはアメリカ国旗をモチーフとした全身タイツで、肩には星条旗のストライプ柄のマントを羽織っている。
【捕捉】
参戦時期は死亡後。
最終更新:2022年04月23日 13:22