男と生まれたからには、誰でも一生の内一度は夢見る「地上最強の男」
グラップラーとは「地上最強の男」を目指す格闘士のことである!
百を軽く越える人間が、寝転がってくつろげる程の広さの和室だった。
天井の高い広い空間に満ちるのは、変えたばかりの新しい畳の匂いだ。
これだけで、室内の調度品や、天井の装飾の価値を介せぬ者にも、この部屋の主─────この部屋の在る屋敷の主の途方も無い財力を、否が応でも認識させてくる。
この部屋が有る屋敷の主人は、さぞ名の通った名士であり、日本でも有数の財を持つ人物だろう。
誰しもにそう理解(わか)らせる。そこはそんな部屋だった。
今、その部屋で二人の人物が相対していた。
誰しもが思うだろう。何を話しているのだろうか。と。
日本の経済を左右する密議か。日本の政治の舵を決める談義か。
政界、財界、マスメディア、投資家、凡そありとあらゆる立場の人間が知りたがるであろう会談は、然し、誰にとっても拍子抜けのする話だった。
「いや、全く。愉快な出来事に招かれたものよ。長生きはしておくものじゃ。のう、バーサーカーよ」
そう言って呵呵大笑するのは、和服に身を包んだ禿頭の小柄な老爺。名は徳川光成という。
元いた世界では、金をキロで数える世界でも有数の財力の主であり、国際自然保護連合が発表している、絶滅の恐れがある生物を記したレッドリストでも絶滅危惧種に指定されている生物の、シベリアタイガーを密かに捕獲、日本に運び込むなどといった事は、ポケットから物を取り出すように簡単に行える人物である。
世界中に情報の網を張り巡らせ、日本国の総理大臣でさえも格下として扱える。それほどの大物である。
それ程の大人物が、二人きりで会談する相手は、さぞや大物であるのだろう。その地位と力は、指一本動かすだけで万の単位の人間の運命を左右する。その程度には収まらぬ、強大無比な力を有する人物なのだろう。
誰しもが、そう思うだろう。
そして、今現在、徳川光成と相対する男は、事実として強大な権力と財力の所有者『だった』
「愉快な出来事、か」
素肌に獣皮を纏っただけの男。バーサーカーと呼ばれたもう一人の男は、一言で言えば『巨(おお)きい』男だった。
身長は優に2m20cmを越え、体重は160kgは有るだろう。
大きく迫り出した胸はまるでケツの様であり、二の腕は腕というよりも、常人の太腿を思わせる。
うねる筋肉の束が身に纏った獣皮の上からでもはっきりと分かる巨木の如き両脚の逞しさよ。巨(おお)きな頭を支える頸の太さ勁さよ。手を用いずに頭と足だけでブリッジを行い、腹の上に象が足を踏み下ろしても、脚も頸もビクともせずに、象の重量を支えるのではなかろうか。
胡座をかいて座布団の上に座っているが、立ち上がれば天を支える柱をイメージさせる、それほどの偉丈夫であった。
「俺を喚ぶだけの事は有るな。肝が据わった翁(おきな)だ」
低く、太く、力強い声。聞いた者が、自分は飢えた虎と同じ檻に入れられていると錯覚させる程に、獰猛な気配を含んだ声だった。
ただ座っているだけであるというのに、身体中から熱気が放たれ、まるでフル稼働する蒸気機関が至近に在るかのような錯覚を覚える。
常人ならば竦むだろうが、範馬勇次郎という同種の存在を知る光成は平然としたものだった。
「ふふふふふ、此処に勇次郎が居れば、儂と同じことを言うじゃろうな」
光成は自分と同じ、否、それ以上にこの事態を喜びそうな男を思う。この事を範馬勇次郎が知れば、さぞかし光成を羨ましがるだろう。その事が嬉しくて堪らない様だった。
「ユウジロウとは翁の同類か?」
巨きな男は、左手で羆の頭でも殴り潰せそうなゴツい拳を作り、右手で供された皿上のめふんを、しきりに口に運んでいた。
「いいや。お主の同類じゃよ。バーサーカー」
範馬勇次郎は地上最強の生物だ。その強さで全てを手に入れただけで無く、自身ですら持て余す程の『強』の持ち主だ。
徳川光成のサーヴァントも又、比類の無い『強』を誇る最強者だった人物だ。自己の強さに依らずして、社会的な地位と権力を有していたが、裸一貫からでも、その比類なき『強』を以って、財も名声も恣にしたであろう強者だ。
「お主と同じく、並ぶものなき強さを誇る雄(おとこ)じゃよ」
範馬勇次郎と眼前のサーヴァント。二人は共に力で全てを手にできる比類なき強者。無比の強者という同類である二人が出逢い、対峙し、拳を交える。
その光景を考えただけで、徳川光成の頬は緩み、口元が笑みの形に釣り上がる。
然して、範馬勇次郎と徳川光成のサーヴァントが、全くの同類であるかと問えば『違う』。
両者の間には、明確な違いがあった。
「ユウジロウとやらは、産まれ落ちたその時から『強』をその手にし、その身に宿していたのだろう?」
「そうじゃな。生まれ落ちてこの方、己より強い者など、知る事はなかったじゃろうな」
範馬勇次郎は生まれたその時点で、全生物の強さのランクを自動的に一つ下げた。─────誕生(うまれ)た時点で最強。強さの極峰の遥か高みに君臨する、唯一絶対無二の最強者だ。
「ならば俺とは違う。俺は只々一人の雄(おとこ)の背を追って、その結果としてこの強さをこの身に宿したに過ぎぬ」
対してバーサーカーは、最強者では無い、それどころか生まれついての強者では無い。
バーサーカーを力で圧倒する者。バーサーカーを技巧で上回る者。生まれながらにバーサーカーの届かぬ『強』を誇る者。そんな者など幾らでもいた。
そんなバーサーカーが生前に於いて、比類なき『強』をその身に宿したのは至極単純。努力したからだ。
鍛え、学び、経験を積み上げ、身体を技巧(わざ)を、他者が遥か及ばぬ高みへと至らせた。
力で上回る者を技巧(わざ)で降し、技巧(わざ)で及ばぬ者を力で圧し、生まれながらの強者を自身の身に宿した『強』で打倒(たお)した。
バーサーカーにとって、敵は無数に存在し、その悉くに勝利してきた。
己以外を弱者と蔑み。餌と、敵ですらないと言い切る巨凶の暴強は、バーサーカーには無縁のものだ。
結果として、生きた時代に於いて最強者として君臨したものの、その在り方も、歩んだ人生も、範馬勇次郎とバーサーカーには、天地の違いが存在した。
「俺はあの雄(おとこ)と闘うために、聖杯を獲りに来た」
断固たる意志。必ず聖杯を獲るという気迫。必ず恋がれた雄(おとこ)と闘うという決意。
数多の強者を知る光成ですらが、これ程のものは見たことは無い。
バーサーカーの全身から、意志が熱となって噴き上がり、室内の温度を高めてゆく。
ゴクリ……と、光成が唾を飲んだ音が妙に大きく響いた。
「…お主ほどの雄(おとこ)が、そこまで恋がれる雄(おとこ)……。良ければ名を聞かせてくれんかのう」
バーサーカー右手を真っ直ぐ天へと向けた。人差し指を突き出して、天を指差す。
「俺が闘わねばならん雄(おとこ)の名はヘラクレス。十二の試練を超え、トロイアを降し、誉高きアルゴナウタイにその名を連ね、天すら支え、死後は神の一柱としてオリュンポスに迎えられ、夜天に輝く星となった英雄だ」
「な、なんと……。実在したのかッッ!?」
驚愕に目を開き、口角泡を飛ばす徳川光成を、バーサーカーは不快感を滲ませた目で見つめていた。
「信じられぬのも無理は有るまい。俺の生きた時代ですら御伽噺の存在だったからな。だが、確かに存在したぞ。俺が身に纏う毛皮も、持つ弓も、かつてヘラクレスが使用(つか)ったものだからな」
「ほう、しかしお主と、あのヘラクレスのう……」
ますますもって勇次郎が羨む事だろう。歴史上…どころか、神話の存在までもが闘う相手に成り得るとは。
あの範馬勇次郎ならば、聖杯を手にして、自らに手で聖杯戦争を引き起こしかねない。
「是非とも観たいものよのう」
感極まった声が出る。闘うために、それだけの為に、死者を現世に甦らせる。凡そ許される行為とは思えないが、徳川光成にとっては意識の端にもに登ることはない。
宮本武蔵の骸を墓から盗掘し、その骸を使って宮本武蔵のクローンを作成、イタコが降ろした宮本武蔵の霊をベロチューでクローンに吹き込んで、現代に宮本武蔵を復ッ活ッ!させた徳川光成である。
強い男を観たい。強い男が闘うところを観たい。その欲望に忠実に生きる光成は、とうの昔に人生から倫理のネジを外している。
「俺はヘラクレスと闘う。生前遂に相見える事叶わなかった、俺の知る最強者と闘い、勝利して、俺こそが最強であると、神と人理に知らしめねばならん。マスターよ、おれが聖杯獲得を獲得すれば、特等席で見ることができるぞ」
愛の告白にも似た言葉。言葉に込められた熱意。言葉に乗せられた想いは如何程のものか。真実ただ一人の相手に向けて放たれる、想いの全てを乗せた告白。
内容はアレだが。
「承知したッッッ!!!」
徳川光成は至極当然に、バーサーカーに協力する事を誓った。
かくして英霊の座でヘラクレスが頭抱えそうなコンビは活動を開始するのであった。
【CLASS】
バーサーカー
【真名】
コンモドゥス@二世紀ローマ帝国
【性別】
【身長・体重】2m23cm 164kg
男
【属性】
混沌・狂
【ステータス】筋力:B耐久: A 敏捷: B魔力:C 幸運: C 宝具:A
【クラス別スキル】
狂化:EX
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。また、現界のための魔力を大量に消費するようになる。
……の筈が、バーサーカーは理性を保ち、会話も可能とする。
ただしその方向性が、ヘラクレスと戦い、勝利する。という事で固定されている。聖杯戦争に於いては勝利に向かってひたすら邁進する事になる。
【固有スキル】
スゴイね人体♡:EX
最高ランクの戦闘続行スキル効果の他、両手足の複雑骨折程度ならばサンドバッグ叩いてりゃ治る理不尽な回復能力を発揮する。末期癌だって戦ってりゃ治る。
スゴイね人体♡
ただしこの効果は精神状態により効果が左右される。
精神が高揚すればするほど効果は高くなる。逆に精神的に萎えている状態ならば効果は著しく鈍る。
最強を目指す格闘士(グラップラー)ならば、有fしていて当然のスキル。
勇猛:A
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
無窮の武練:A
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
いかなる肉体的状況下に於いても十全の武練を振るうことができる。
獣殺し:B
魔獣や野生生物に対する特効。闘技場で猛獣を百頭ほど射殺した逸話から。
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
【宝具】
射殺す百頭・羅馬式(ナインライブズ・ローマ)
ランク:A 種別:絶技宝具 レンジ:- 最大捕捉:自身
ギリシャ神話の大英雄ヘラクレスが編み出した戦闘方法。彼の伝承を調べ尽くしたコンモドゥスが再現してのけた絶技。
流派ヘラクレス・ローマ分派。
光の槍にも似た拳閃の乱打は命なき怪物であろうと鏖殺し、星空に煌めきを迸らせる。
【Weapon】
『神獣の皮』
ネメアの獅子の皮。身体に巻きつけている獣皮。
人類の文明そのものを拒絶する人理否定の化身たる魔獣の皮は、人が生み出すあらゆる道具を無効化する。
『弓矢』
ヘラクレスが生前使用(つか)っていたもの。
矢には当然の様に神すら殺すヒュドラ毒が塗ってある。
これらの品は、ギリシャの地で発掘させたもの。
『剣』
剣身だけで1mを越す大剣。
【解説】
ローマ帝国第17代皇帝。
初期は真っ当に統治をするものの、姉による暗殺未遂から、統治への意欲を失い、自らをヘラクレスに準えて、闘技場で猛獣を百頭ほど射殺したり、剣闘士と闘うといった奇行に走る。
最期は毒入りのワインを飲まされて、弱ったところをレスリングの師により絞殺されるが、この際に激しく抵抗したという。
実際には最初から統治に興味を示さず、日がな一日強くなる為に生きていた『最強』を目指す格闘士(グラップラー)である。
愛想を尽かした姉を始め、幾度となく暗殺を試みられるがその全てを返り討ちにしてのける。
此処までに至ったのは、全てはヘラクレスを超える為。
幼い頃に聞かされ、憧れた大英雄。その伝説を己の力で凌駕する為。
学び、鍛え、果てはヘラクレスの絶技すらも習得し、意気揚々とヘラクレスを現世に呼び出して戦おうとするが、召喚は失敗に終わる。
消沈したコンモドゥスは呆然と毒酒を飲んでしまい、弱ったところを殺害されてしまったのだった。
コンモドゥスが持つヘラクレスの遺品は、ヘラクレスを召喚する為の触媒として、わざわざギリシャの地から発掘させたものであり、武器として使用するのは本来の目的ではない。
外見はアンドレ・ザ・ジャイアントのリングコスチュームみたいな感じで、獣皮を上半身に巻きつけた金髪碧眼の巨漢。
【マスター】
徳川光成@刃牙シリーズ
【能力】
金をキロで数える程の財力を有し、東京スカイツリーの地下で宮本武蔵復ッ活ップロジェクトを行っていたりする。
その財力により範馬勇次郎さえも制圧した事がある。
なお人生から倫理のネジを取っ払っていて、死刑囚編以降の東京の治安悪化に間違いなく貢献している。
【ロール】
千代田区に大邸宅を構える大金持ち。元いた世界の財力人脈をそっくり保有している
つまりタチの悪さはこの地でも健在である
最終更新:2022年04月23日 13:24