夜。
二十三区内にある営業をやめたパチンコ店に、一組の主従が足を踏み入れる。パチンコの筐体がそのまま放置され、瓦礫やゴミが床に散乱している。褐色の肌に鋭い眼差しの青年ーージャスワントは懐中電灯で足元を照らしながら奥に進む。彼が殺気を感じると同時に、粗末な囚人服を纏ったアヴェンジャーが実体化し、現れた使い魔達と戦闘を始める。
≪本丸まで一気に進もう、走るぞ≫
≪あぁ≫
アヴェンジャーは左足を踏み込むと、使い魔達へ突進。地獄の冷気を帯びて凶器と化している四肢を振るい、包囲する怪物達を蹴散らすと奥へ駆けていく。ジャスワントがその後ろに続く。俊敏な彼の脚力をもってしても、サーヴァントの速度には及ばない。見る見る距離が広がり、まもなくアヴェンジャーからジャスワントへ念話が飛んでくる。
≪サーヴァントを捕捉した、宝具を使うぞ≫
≪俺が死なない程度で頼む≫
念話を終えるや否や、虚脱感がジャスワントが襲う。辛うじて転倒はせずにすんだが、ジャスワントは足を止めてしまった。彼は素早く左右を見回し、何者の気配も無いと見て取ると先を急いだ。体術と剣術の心得はあるが、聖杯戦争が行われる会場において刀剣類の携帯はほとんど不可能。アヴェンジャーがいなくては、使い魔との戦闘すら覚束ない。
≪マヘーンドラ様…!俺を助けてください…≫
聖杯戦争に招かれる前に亡くなった養父に祈る。招かれる前、彼が暮らしていたシンドゥラ国では2人の王子が王位継承権を争っていた。彼の養父が味方した王子は敗れた末、乱心して謀反を起こすも瞬く間に鎮圧されてしまう。マヘーンドラは助命を周囲に嘆願したが、マヘーンドラ自身は味方した王子によって、ジャスワントの前で殺害された。
仕える主君も、婿選びも間違えたが育ててくれたのはマヘーンドラだ。育ての恩を返し切る前に、看取る羽目になってしまった。行くあては無い。聖杯が真に奇跡を施してくれるなら、ジャスワントは養父の蘇生を願うつもりだ。
「終わったぞ」
突如現れたアヴェンジャーに驚き、ジャスワントは肩を振るわせて立ち止まった。アヴェンジャーはジャスワントを抱えると、拠点である彼の自宅近くまで移動。ジャスワントが就寝すると、寝ずの番に就いた。
アヴェンジャーは自らのマスターの寝息が穏やかな事を認めて安堵する。軽くない負担ではあろうが、致命的な消耗には至っていないらしい。床に横たわるマスターを見て、アヴェンジャー…ウゴリーノは子供達を思い出した。
生前、自分と共に投獄された2人の息子と2人の孫。食糧の供給を絶たれ、飢えと渇きの中で落命したウゴリーノが強く思ったのは、自分と子供達を死に追いやった政敵ルッジェーリの破滅。そのような結末ゆえ、ウゴリーノには子や孫の肉を食ったという風評がついているが、それは後世の研究者が誤りであると示してくれた。
ーー復讐だ!
聖杯の力で生前のルッジェーリに、自分達が味わった苦痛を百万倍にして送りつけてやる。死後は叙事詩に描かれた通りに、地獄の底で脳髄の一欠片まで噛み砕いてやる。
【サーヴァント】
【CLASS】
アヴェンジャー
【真名】
ウゴリーノ・デッラ・ゲラルデスカ
【出典】
イタリア
【性別】
男
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力D 幸運C 宝具EX
【属性】
中立・悪
【クラス別能力】
復讐者:C
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
忘却補正:A
時がどれほど流れようとも、彼の憎悪は決して晴れない。忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。
自己回復(魔力):D
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を微量ながら毎ターン回復する。
【保有スキル】
無辜の怪物:E
常に空腹状態であり、長期間何も口にしていないと精神状態が悪化する。後世に流布した伝承により姿・性格が変容している。ウゴリーノとその子供たちと信じられている亡骸を調べた結果、何の肉も食べていなかったと結論づけられた為、ランクが落ちている。
反骨の相:C
一つの場所に留まらず、また、一つの主君を抱かぬ気性。王に仕えるのではなく、自らが王足らんとする野望の星である。同ランクの「カリスマ」を無効化する。
永劫の冷気:A
極寒地獄の冷気を帯び、冷え切った総身。
死後、地獄の底で怨敵に食らいついているとされた彼に高いステータスを付与し、ランク以下の氷雪系スキル、炎熱系スキルを無効化。さらにウゴリーノの格闘攻撃に凍結の追加効果をもたらす。
【宝具】
『引き落とす亡者の腕(マノ・コキュートス)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ: 1~30 最大捕捉:1人
裏切者が落ちる地獄、コキュートスへ引き摺り込もうとする亡者の腕を無数に呼び出す。サーヴァントの規格を逸脱している為、地獄に送ることはできず、あくまで対象をその場に拘束するだけの宝具だが、反逆者や裏切者の属性を持つ相手には効果が上昇。拘束を振り解く為のあらゆる判定の成功率が半分になる。
『狂気へ誘う我が墓標(アンゴーシャ・グアランディ)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ: 1~99 最大捕捉:50人
自身が幽閉され、遂に餓死したグアランディ塔の獄中を展開する固有結界。僅かな明りとりの窓を除くと完全な密室となっている結界内は閉じ込めることに特化しており、内側からの攻撃に限り、対界宝具すら無効化。その分、外側からの干渉に脆い。
内部に取り込んだ英霊の魔力を一気に枯渇させると同時に飢餓のバッドステータスを付与。精神抵抗に失敗した英霊は、自らの飢えを満たすべくマスターの魔力を絞れるだけ搾り取る。抵抗に成功しても、あらゆる行動判定に大幅なマイナス修正が加えられてしまう。
【weapon】
冷気を纏った身体。
【人物背景】
ピザ出身のロンゴバルト王国からの流れを汲む貴族。当時は神聖ローマ皇帝とローマ教皇が対立しており、ゲラルデスカ家はギベリン(皇帝派)であったが、姉がゲルフ(教皇派)の名家出身の判事ジョヴァンニと結婚、同盟関係となった事で仲間内から疑惑を持たれてしまう。
トスカーナのゲルフの支援を受けてピサの弱体化を企んだとして逮捕、追放された彼はナポリ王カルロ1世のピサ攻撃を助け、ウゴリーノ自身を含めた全ての追放者の赦免を条件とした和平を強いる。
帰国後、影響力を強めた彼はピサ共和国の行政長官にまで昇り詰め、実の甥ニーノ・ヴィスコンティと二頭政治を始めるがすぐに衝突。ニーノとの闘争を制し、自らがピサの領主であると宣言。
1288年、武装したギベリンの一団に襲われた彼が市庁舎に撤退してこれを撃退すると、ピサ大司教ルッジェーリは彼を裏切り者と吹聴して市民を扇動。市庁舎が火事になった事で投降したウゴリーノは逮捕。
2人の息子、2人の孫と共に投獄されて、監禁されたまま餓死する。死後、子や孫の肉を食ったという創作が広まり、ダンテの『神曲』地獄篇において、ルッジェーリの頭蓋を絶え間なく貪るウゴリーノが登場する。
外見は幽霊を思わせる痩身のイタリア人男性。粗末な囚人服に身を包んだアヴェンジャーとしての彼に、権謀術数に長けた在りし日の面影は見えない。
【サーヴァントとしての願い】
政敵ルッジェーリに自らが味わった百万倍の苦痛を与える。
【方針】
優勝狙い。
【マスター】
ジャスワント
【出典】
アルスラーン戦記
【性別】
男
【能力・技能】
剣術:
足技と剣を組み合わせて戦う、中々の使い手。不意の一太刀にも反応できる俊敏さを備える。
【weapon】
なし。
【人物背景】
シンドゥラ国出身の青年。王位継承権を争う二王子の片側、ラジェンドラ陣営にガーデーヴィ陣営より送り込まれた間者。ガーデーヴィの妻サリーマの父マヘーンドラに養育された彼はラジェンドラと同盟するパルス軍を奇襲する段取りを付けるも、裏切りを想定していたパルスの軍師ナルサスの策にはまり、捕らえられてしまう。
ガーデーヴィにパルスとの通謀を疑われたジャスワントは戦場にて王子の危機を退けるが、継承権争いに敗れたガーデーヴィ王子は国王である父に刃を向けて謀反人となり、王子の助命を求めたマヘーンドラは他ならぬ王子の手によって殺害されてしまった。
アルスラーン王子の意向によって、釈放される前から参戦。
【マスターとしての願い】
養父マヘーンドラとの再会。
【方針】
優勝狙い。
【把握媒体】
コミックス7、8巻。
最終更新:2022年04月26日 23:04