知らなかった…知らなかったの…。人を守るため、身体を捧げて戦う。それが勇者…!?
私が樹を勇者部に入れたせいで…!


『私には大好きなお姉ちゃんが居ます。お姉ちゃんは強くてしっかり者で、いつも皆の前に立って歩いていける人です。
反対に私は臆病で弱くて、いつもお姉ちゃんの後ろを歩いてばかりでした。 でも本当は私、お姉ちゃんの隣を歩いていけるようになりたかった。
だから、お姉ちゃんの後ろを歩くんじゃなくて、自分の力で歩くために、私自身の夢を、私自身の生き方を持ちたい。
その為に今、歌手を目指しています!』


樹…。樹…っ!!
あぁぁ…うわああああああああぁぁぁッ!!


大赦を…潰してやるッ!!


なんでこんな目に遭わなきゃいけない!!
なんで樹が声を失わないといけない!夢を諦めないといけない!!
世界を救った代償が──これかぁぁぁぁぁッ!!



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 「ああ、そうだとも」

 漆黒の肌を持つ男の姿は、全てが朧で曖昧な薄暮れ時の森の中で、漆黒であるが故にかえってではっきりと認識できた。
 身長は凡そで180cm程か、肉のロクに付いていない痩せた体躯は、見るからに貧弱そうだ。
 頬が痩け、目つきの鋭い顔立ちは、神経質そうであり、近寄り難い。

 「全くもって不遜也。無償で神の力を振おうなどと、傲慢にも程がある。それに、お前の目も、お前の妹の声も、神への供物と成ったのだろう。
 何を嘆く、何を怒る。誉と思い、喜ぶべきだろう。下らぬ卑小な人の身から、神の一部となれたのだ。己が全てを捧げればやがては神となれるのだ。一体何の不満が有る?」

 嘲笑。侮蔑。玩弄。そういったものがたっぷりと含まれた声だった。
 遥か高みから、犬吠埼風を見下ろす黒い男は、マスターである風に対して、全くと言って良いほど良い感情を持っていないらしかった。

 「ふざ…けるなぁぁぁぁあッッッ!!!!」

  激情のまま、犬吠埼風は大剣を振るう。直撃すれば並のサーヴァントならば只では済まない剛刃は、虚空に不意に出現した獣の前肢に間単に受け止められていた。
 愕然とする暇も無く、獣の前肢がもう一つ、風の頭上に現れ、虫でも潰すかの様に床に捩じ伏せた。
 犬吠埼風の現状は、溶けたコールタールを思わせる色と性質の物体で出来た、巨大な獣の前肢で床に押し付けられている状態だ。

 「あまり暴れるな『勇者様』。今のお前には精霊の加護は無い。私の宝具は精霊の加護の無いお前など、秒とかからず肉塊にできるぞ。妹を置いて死ぬ気か」

「はな…せ!私を離せええええええええ!!!」

 「離してどうする。また私に襲いかかる気か?勝ち目以前に私をどうこうしても、お前やお前の仲間や、何より『お前の所為で夢を断たれたお前の妹』の状況は何も変わらんぞ」

 男は立ったまま、手にしたB4サイズの紙に筆を走らせている。書き記しているものは、果たして一体なんなのか。

 「自棄になるな。勇者部五箇条とやらはどうした。なるべく諦めないのではなかったのか」

 返ってくる言葉は無い。男の言葉に納得したのでは無い。限界を遥かに超える怒りで言葉を紡げなくなっただけだ。

 只々無言で男を睨み付ける。視線に物理的な影響力が有るならば、男の身体はバラバラに破砕されているだろう。それほどの怒気の籠った眼差しを男は平然と受け流していた。全く気に留めていない。平然と紙に筆を走らせている。

 「全く大赦という奴等は一体何を教育していたのだ。神にその身を捧げ、その身に神の力を宿す。奉神の神楽を舞うものにとっての至高の栄誉をこうまで厭うとはな」

 「うる…さい。黙れ!!」

 「そう猛るな、これでも貴様の境遇には同情しているのだぞ」

 「え……」

 男は唇の両端を釣り上げて笑顔を作った。その笑みを見た風は悍ましい笑いだと思った。

 「貴様は大赦の教えがなっていなかった為に、神への供物として、奉神の神楽の舞手としての気構えが出来ておらぬ。私も生前、神に贄を捧げたが、心構えのなっていない者共実に哀れで無様であったぞ。まるで今のお前の様にな。
 泣き叫び、糞尿を漏らし、命乞いをする姿を見る度に、神にその身を捧げる栄誉を知らぬ蒙昧どもは、何と哀れであろうかと、何度そう思ったことか」

 「アンタは……!」

 「怒るなよマスター。お前もお前の仲間も蒙昧だが、確かに私は同情しているのだ。『大赦を潰したい』。お前のその願い、叶えてやっても良い。だが…」

 神に走らせる筆を止めぬまま、言葉は切る。続く言葉を風は心底聞きたくなかったが、黒い男の言葉を止める術は無く、耳を塞ぐことも出来はしない。

 「大赦とやらを潰しても、『お前の所為で夢を断たれたお前の妹』の声は元には戻らぬ、それどころか、バーテックスとやらに抗う力を失い、無残に殺されてしまうと思うのだが。良いのか、『お前の所為で夢を断たれたお前の妹』の未来までをも断ち切っても」

 犬吠埼風は無言。猛り狂っていた激情に冷水を浴びせ掛けられ、思考の戻った頭に叩き込まれる冷厳な事実。齢15の少女には到底耐え切れるものではなく、そんな事実を淡々と語って聞かせる黒い男の精神性は、酷薄無惨極まりなかった。

 「嘆くな蒙昧。どの道貴様の妹はこうなる宿命(さだめ)だ」

 筆を走らせていた紙を見せられた風の瞳が限界まで見開かれる。大きく開いた口から絶叫が迸るより早く、更なる力が加えられ、風の肺腑から空気を吐き出させた。

 「お前の妹はこのままでは死ぬ。再来したバーテックスと戦って死ぬ。覆す方法は有るには有るが……。その為には聖杯が必要だ。だが、お前は単独では聖杯を取れん。聖杯を取れねば妹は死ぬ。
 お前は既に思慮の無さから妹の夢を絶った。更にこの上命まで断つ気か」

 返事は無い。犬吠埼風は言葉を紡げる精神状態では無い。只々僅かに呻くだけだ。

 「愚昧なお前にも理解(わか)る様に説明してやろう。お前が妹を、仲間を救う方法は聖杯を取るしかない。聖杯により失われた身体機能を回復させ、天神地祇の干渉を断ち切るより他に無い。
 つまりお前は、私と共に歩むしかない。嫌だと言うなら私抜きで聖杯が取れるかやってみせるが良い。一分の力も使っておらぬ私に押さえ込まれる程度で、聖杯が取れるというほど、お前が愚昧では無いと私は信じているがな」

 犬吠埼風は声無く涙を流すだけだった。

 黒い男は、そんな犬吠埼風を嘲笑い続けていた。





【CLASS】 
フォーリナー

【真名】
ネフレン=カ@クトゥルフ神話

【性別】

【属性】
混沌・悪

【身長・体重】
183cm・56kg

【ステータス】
筋力: D 耐久: D 敏捷: C 魔力:A 幸運: C 宝具:EX


宝具使用時
筋力: A 耐久: A 敏捷: A 魔力:A 幸運: C 


【クラス別スキル】

領域外の生命:EX
 外なる宇宙、虚空からの降臨者。
 邪神に魅入られ、権能の先触れを身に宿して揮うもの。

狂気:A
 不安と恐怖。調和と摂理からの逸脱。
 周囲精神の世界観にまで影響を及ぼす異質な思考。


神性:B
 外宇宙に潜む高次生命の"門"となり、強い神性を帯びる。
 世界像をも書き換える計り知れぬ驚異。その代償は、拭えぬ狂気。



【固有スキル】

黒いファラオ:EX
邪神を信仰し、歴史より抹消された忌まわしき王。
精神異常、邪智のカリスマ、信仰の加護の効果の他、誰も、フォーリナー自信さえも認識できないが、対人理スキルの効果も含み、人理の側に立つサーヴァントの攻撃に対し高い耐性を得る。


千里眼:A
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
透視、未来視さえも可能とする。


情報抹消:A
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、能力、真名、外見特徴などの情報が消失する。例え戦闘が白昼堂々でも効果は変わらない。これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。
記憶に残るのは相手がサーヴァントだと言うことだけ。この効果は時代を越えて作用する。他者から指摘されると記憶の一部が急速に蘇る。
ネフレン=カは、その悍ましい所業により歴史より抹消された為にこのスキルを有する。


魔力放出(黒風):B(A++)
異界の瘴気を黒い風として放つ。物理的な破壊効果の他、触れたものに対し呪詛と病気の効果を齎す。
身体能力の向上には使用できないが、高速移動や飛行に用いる事が可能。


【宝具】

悠久なりし熱砂の史(ヒストリー・オブ・エジプト)
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1,000人

ネフレン=カが死の間際に得た未来視の能力で見た、エジプトの歴史を描いた壁画。
長大な壁画の一部を現出させ、其処に描かれた画像を実体化させる。
ネフレン=カの魔力で構成される実体は、コールタールで作成した像の様な姿で現れる。
エジプトの歴史にその名を刻んだ英雄も実体化させる事が可能であり、宝具すら再現するが、あくまでも姿形と威力のみを再現したものでしか無く、サーヴァントや彼等が持つ宝具とぶつかれば容易く粉砕される程度でしかない。

未来視は聖杯戦争の舞台でも使用可能であり、ネフレン=カが何もしなかった場合、聖杯戦争がどう推移し、誰が勝者となるか、までをも見通せるが、別段因果や運命をどうこうしているわけでは無く、単に高精度な未来予測に過ぎない為、未来を識ったネフレン=カが、聖杯獲得の為に動けば其処で破綻する。
この為ネフレン=カは聖杯戦争に於いてはこのスキルで先を見る事は好まない。
戦闘中に敵の次の行動を『視る』程度である。
なお見た光景をスケッチする事もある。写実主義の絵でとても巧い




月に吠える黒獅獣(イスウィド・スフィンクス)
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:300人

三重冠を身に付けた、ハイエナの体に禿鷲の翼を持つ無貌の黒いスフィンクス。
貌がなく、貌代わりの黒い穴の中には、星々や銀河が輝く。

ランクは“神獣”。竜種に次ぐ位階を持つ幻想種とされる。
溶けたコールタール状の物質で構成された大型トラック以上の巨体を持ち、作用・反作用・重力・慣性を無視したかのような速度と移動を行い、空中を疾走して全方位からの攻撃を行う。主な武器は強靭な前足の爪で、それらを衝撃波(ショックウェーブ)が発生する程のスピードとパワーで振るう
更に無貌の邪神の力を体現するとも称される咆哮は地水風火その他全ての属性を含みながら、そのどれにも属さない虚無の性質と全てを破砕する大気を伴い、漆黒の衝撃波を放ち、触れたものを物理的に撃ち砕き、魔術的に蝕み消滅させる。
この虚無の魔力に冒された者は傷の治りが著しく遅れる。この効果は受けた者の持つ対魔力や加護によって短縮される。
生命力も文字通り化け物じみており、頭部を斬り落とされても死なないばかりか、頭を失ったまま相手の動きを感知して何事もなかったかのように戦闘を続行する。
しかも30分経過で切断面から新たな頭が生えてくる。
このスフィンクスは、前肢や頭部のみといった、身体の一部だけを召喚する事も可能。


実態はスフィンクスなどでは無く、外宇宙に座す邪神の化身の一つ。



神の数式・証明されるは混沌無貌(クルースチャ方程式)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー最大捕捉:自分自身

ネフレン=カの全身に彫られた量子数学の方程式。強壮なる神々の使者ニャルラトホテップを召喚する為の方程式。
普段は見ることはできないが、魔力を通すことで黒く光る文字として浮かび上がる。
優れた知性を持たない者にはそもそもこの方程式を読み解くことはできず、仮に公式を解く素養を持っている者ですら、 方程式を解くためには数百から数千時間をも費やさなければならない。
この数式を発動すると、ネフレン=カの全身を、コールタール状の魔力が覆い尽くし、燃える三眼を持つ漆黒の全身甲冑に身を包んだかの様な姿となる。
この姿となったネフレン=カは、ステータスが宝具使用時のものとなり、魔力放出のスキルが()内のものに変更。『黒い王』に含まれる対人理スキルのランクが上がり、人理の側に立つ英霊のステータスを1ランク下げる他、
ニャルラトホテップは地球の神々を守護する存在でもある為に、敵対者に神性の高さよって、この効果はさらに増す。なおこの効果は地球の神性にしか発揮されない。

更に高ランクの怪力スキルを獲得、頭や心臓を潰されても再生して戦闘続行する事が可能となる。全身に濃密な異界の瘴気を纏い、触れれば生身や何の加護も受けていない器物は蝕まれ腐り出す。
極めて強力な宝具だが、持続時間は短く、10分が限度。

勇者システムの『満開』に当たる宝具。

【Weapon】
悠久なりし熱砂の史(ヒストリー・オブ・エジプト)で実体化させた武具。

【聖杯への願い】
ニャルラトホテップの降臨。


【解説】

エジプト第三王朝時代最後の血塗られた暗黒のファラオ。旧来のエジプトの神々への信仰を廃し、異形の悍ましき邪神への信仰を強制した。
数多の忌まわしき所業により追放され、逃げ込んだ地下墳墓で死を前にして邪神から得た未来視の力で壁画を描き上げた。画風は一般的なエジプト画と異なり、写実主義である。
ニャルラトホテップへの信仰心は狂信の域に達しており、自分自身ですら贄として邪神に捧げることを厭わない。
人の善性や道徳を嘲笑い、邪智悪辣である事を誉とする人格であり、自身に向けられる人の憎悪を怨嗟を至上の悦びとする。
そのあり方から犬吠埼風をはじめとする勇者達には心底侮蔑と嫌悪を抱いている。
外見は痩せた貧弱そうな、掌まで黒い漆黒の肌の男。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ネフレン=カは現界の際、外なる神の一柱であるニャルラトホテップによりその霊基にニャルラトホテップの因子を埋め込まれている。
第二宝具月に吠える黒獅獣(イスウィド・スフィンクス)の存在やや、黒いファラオスキルに含まれる対人理、魔力放出(黒風)は、ネフレン=カの力では無く、ニャルラトホテップが貸し与えた神威である。
何故ニャルラトホテップがこんな事をしたのかは不明。単なる暇潰しか、永劫の刻をかけて準備され、永劫の刻をかけて遂行される大いなる計画のほんの一部分の歯車に過ぎないのかは不明である。
犬吠埼風に対しては、地祇の力を得て戦う巫女なれば、地球の神共を守護する自分が守る対象だろうという認識。
ネフレン=カが犬吠埼風の事を知っているのも、ゴミクズ扱いしながらも、共に戦おうとするのはニャルラトホテップの思考誘導の成果である。
なお犬吠埼風がネフレン=カと共に聖杯を獲得し、その願いを叶えた場合、どの様な未来が待ち受けるか……。
ロクなものでは無いことだけは確かである。




【マスター】
犬吠埼風@結城友奈は勇者である

【武器】
大きさが変わる大剣

【能力】
勇者システム
勇者としての姿に変身し、並のサーヴァントに匹敵する力を得る。この二十三区では精霊バリア及び満開は使用不可能。

【ロール】
練馬区にある中学に通う女子中学生

【聖杯への願い】
皆んなの身体を元に戻す。


【人物紹介】

香川県の讃州中学に通う中学三年生の女の子。 勇者部部長
勇者の素質が高い者たちを集めるという大赦からの使命で、勇者部を結成し、バーテックスの侵攻に立ち向かう。
強大な力を勇者に齎す満開については知らされていたが、代償として体機能の一部を永遠に失う散華については知らされておらず、結果として妹の夢を潰してしまった。

【参戦時期】

大赦を潰しに行こうとした直後。
最終更新:2022年04月28日 21:53